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韓国ユン大統領の「非常戒厳」宣布をめぐって(12/7)真田幸光

【真田幸光の経済、東アジア情報】
韓国ユン大統領の「非常戒厳」宣布をめぐって(12/7)

真田幸光(嘉悦大学副学長・教授)

 韓国では、
「自由憲政秩序を守る為」
として、突然、ユン・ソクヨル大統領が12月3日夜、
「非常戒厳」
を宣布した。
その後、4日未明に国会に解除要求決議を突きつけられて、宣布から約6時間後に解除に追い込まれた。

今のところ情報が少なくまた錯綜しており、ユン大統領が非常戒厳を発令した真の背景が読みにくいが、ユン大統領が非常戒厳を発令した明確な背景を説明出来ないと、ユン大統領の政治的求心力の低下は不可避ではないかと見られている。

 ユン大統領は、非常戒厳を宣布する際、野党が過半数を握る国会について、政府の官僚や検事らへの弾劾訴追の発議が相次いでいるとして、
「司法業務や行政府まで麻痺させている」
と主張し、最大野党の「共に民主党」が予算までも政争の手段に利用しているとも批判、国家機関を乱すことで内乱を画策する、
「明白な反国家行為である」
と述べていた。

一方、韓国の軍高官らは、ユン大統領の戒厳令発令計画が公表されるまで知らなかったと述べ、ある当局者は、5日に辞任したキム前国防相が国会への軍派遣を命じた責任者であったと述べている。
ユン大統領は、正にその側近のキム国防相と秘かに今回の計画を進めたとの見方も出ているが真偽は不明である。

更に、韓国の中央選挙管理委員会は12月6日、ユン大統領が戒厳令を宣布した3日夜、軍部隊の戒厳兵約300人がソウル郊外 京畿道果川市の選管庁舎など関連施設に進入したとし、ソウルの国会に投入された戒厳兵約280人を上回り、選管が重要な対象であったことを示唆する証言が出ているがこれも真相は不詳である。

 こうした中、米国・戦略国際問題研究所(CSIS)は3日に出した「非常戒厳」宣布関連の緊急懸案質疑で、
「北朝鮮の声明はまだ出ていないが、ユン政権批判の宣伝目的に今回の混乱を悪用することはほぼ確実である」
と分析、今後、ユン大統領の電撃的な「非常戒厳」宣布による影響が予想される中、北朝鮮が今回の件を利用してユン大統領の今後の退陣に繋げていく可能性があるとの見方も示唆している。
 日米韓連携は大丈夫であろうか。

尚、韓国の労働組合の全国組織である全国民主労働組合総連盟(民主労総)は4日、記者会見を開き、ユン政権が退陣するまで無期限のゼネラルストライキを実施すると発表している。
国民と共に国民の先頭に立ってユン政権の即刻退陣に向け闘争する構えを示したものである。

 ゼネストについては、
「不平等と二極化の時代を清算し、労働尊重の新時代を開く出発点になるだろう。
ゼネストを通じて労働基本権と民衆の福祉が保障される新しい社会に向かって進もう」
と国民に訴える形で強調している。

一方、米国のキャンベル国務副長官は12月4日、韓国ユン大統領による「非常戒厳」の宣布について、
「ユン大統領はひどく判断を誤った」
との見方を示し、米国政府はユン大統領が非常戒厳を撤回したことで、ひとまず安心した模様ではあるが、不信感も残っている模様である。

そして、韓国与党の「国民の力」ハン・ドンフン代表が、ユン大統領の早期職務停止を求めるなど「大統領弾劾」が現実味を帯びたとの見方が出た6日の韓国株式市場で総合株価指数(KOSPI)は急落した。
 新興企業向け株式市場コスダッも取引時間中では2020年5月4日(635.16)以来4年7カ月ぶりの安値となった。
 ハン代表はユン大統領について、非常戒厳の宣言当日に主要政治家などを逮捕するよう指示したとして職務停止を要求しており、ユン大統領の弾劾訴追案に賛成する意向を示唆したとの見方が出たとし、政局が急展開する中で、個人投資家を中心に投資心理が動揺しているものと見られている。
 金融市場にも揺れが起こり始めている。

韓国は産官学、金融力を合わせて、積極的に国際化とデジタル化を推進している国の一つである。
こうした中、国策銀行である韓国輸出入銀行は、情報通信産業振興院と、
「国際開発協力事業デジタル分野相互協力業務協約書」
を締結した。

国際開発協力事業とは、国家・地方自治体または公共機関が開発途上国の発展と福祉増進の為に開発途上国に提供する無償または有償の開発協力事業を意味するものである。
韓国のこうした動きを注目しておきたい。

政局に目を向けると、先日、ソウル都心で開催された野党・共に民主党の集会では、
「6カ月以内に決着をつけよう。」
という発言が飛び出し、同党のキム・ミンソク最高委員が、
「キム・ゴンヒを刑務所に行かせよう。
50日後に米国でトランプ氏が大統領に就任する前に現状を変えよう。」
などと訴えていた。
来年上半期にはキム・ゴンヒ夫人への特別検事による捜査やユン・ソクヨル大統領弾劾などで情勢をひっくり返すとの動きを示している。
 共に民主党が、
「6カ月」
という期限を設定したのは、同党のイ・ジェミョン代表に対する選挙法違反の二審、三審裁判が関係していると見られ、イ・ジェミョン代表は11月15日に選挙法違反の一審裁判で懲役1年、執行猶予2年の判決を受け、韓国の選挙法の裁判は一審は6カ月以内、二審と三審は3カ月以内に終わらせると法律で定められていることに関連していると見られているからである。

 今後の動向をフォローしたい。

 

真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。84年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支店等を経て、1998年から愛知淑徳大学学部にて教鞭を執った。2024年10月より現職。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メンバー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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