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話力が生涯現役を育む基本スキル(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(113)

話力が生涯現役を育む基本スキル

澤田良雄((株)HOPE代表取締役)  

◎自身の未来地図づくりも大事です。
「2時間でできるあなたの会社の未来地図」–このテーマは、先日地元会議所で実施したセミナータイトルです。

公認会計士のK氏の説く学び合いは、「持続的経営を為す術には、中期計画的な未来地図を作成することです。それには、ビジョン設定に向けて、現状分析に基づく、戦略、戦術(目標・計画)立て、実践にとり組む、そして適宜そのフォローで達成の可能性を診断し、改善策など適宜施す事です。

その最も大事な現状分析の手法はSWOT分析です。これは、企業内部の分析をS(強み)W(弱み)とし、外部要因としてのO(機会)T(脅威)について書き出し、この分析内容を生かしてクロスSWOTして、(例えば強み×機会では何をどうする、弱み×脅威にはどう手を打つと…)戦略を導き出すことです」「ならば、演習してみましょう」と各自演習に取り組みました。

そして、受講者皆で考えを交換しましょうとオープンミーテイングに持ち込み、各自の演習内容を紹介し、他受講者からの「ならばこうしてみたら…」との戦術的異見が寄せられたりしました。正に、受講者と共に学び合いのある好評なるセミナーでした。
 
ふと想いました。未来地図は企業に限らず、社員が画く将来地図を作成することも良しと直感しました。それは人生100年時代、その人生設計に心して、想いとしてのビジョン設定し、その取り組みに向けて、SWOT分析し、現在の職業人生の過程で何をどうするか計画を立て実践することです。

その際、何をどうするかの一端として、筆者のお役だての決め手である話力磨きに着目し記すことにしました。

◎生涯現役、稼げる人財とは
 
働き方が大きく変わってくる今後、それぞれの職業人生の定年は、自らが決める時代になっています。ただし、職業人生を延長して現役であり続けるには、周囲が認めるだけの決め手を持たなければなりません。それは、職業人生の中で、新人時代、リーダー、ベテラン社員と活躍条件が変遷する中で、自ら稼げる決め手人財としての無形の財産を蓄えていくことです。

それはプロとして稼げるパフォーマンスです。筆者は、プロとは、「さすがと言われる能力を生かし、成果を挙げ、お金を稼げる人」と意味づけしています。成果とは、具体的に成し遂げた実績数字です。従ってプロ条件には、高い志に基づく、明確な専門力の修得、そのゆるぎない信念、そして、関わる人への心に火をつける見事な言葉、強い責任感、潔さ、勇気、決断力、その実践に不可欠な高いコミュニケーション能力、そして、魅力ある人間味を形成する品格・人徳…などが挙げられます。
 
筆者は、専門力の錬磨には直接的にお役立てすることはできませんが、専門力を高める人間力を磨き、決め手を生かす上での伝わる話力を効果的実践する具体策を指導しております。 それは、話力とは、自身の持ちうる財産(専門力・知識・情報、知恵、人間味、権力…)を最適に生かして関わる人に貢献するための繋げる能力だからです。つまり、
◎生涯現役で活躍できる決め手は、職業人生の活躍舞台で磨かれます。
◎入社時から定年までの活躍舞台は、決め手を育み、生かしうるその基本スキルの話力を磨きうる実践の場です。

さて、自分の決め手を持ち、存在感を表わすには、一朝一夕にはできることではありません。職業人生に就いた新人の時代から将来を見据えて、自分の託された部署において、そこで得られるキャリアを意識的に実践し続け、さらなる向上、強みに育くみ、新たな実績を産み出すことです。そこで今回は、現在の活躍の場で、決め手を醸成する話力の必要性と、具体的なその磨きポイントを提案してみましょう。

◎新人の時は、決め手づくりの基本を学ぶ話し方
仕事は趣味や遊びではありません。夢や希望をもってスタートした職業人生。生涯現役を目指す決め手を持った存在感のある人となる土台づくりのスタートです。

① 仕事の守を徹底し信用を得る実績を創る
 新入社員が第一に心がけることは、早く一人前になることです。ちなみに一人前とは、専門力(知識・技術)と企業人としての人格形成です。まず、プロと呼べる専門力のレベルへの成長段階は、守・破・離という3つの段階を進んでいきます。
まずは、守(基本)の段階、先輩やリーダーの指示・指導にしたがって、一日も早く信用を得て、現場の戦力となる新人としての期待に応えて、認められ、存在感を示すことです。これが、将来に向けた決め手の目標、希望、夢の自己想像図に向けて、土台をしっかりとしたものにします。ならばそのときの対応はどうする。指導は、やって見せ、言って聞かせて、させてみて、その修得はどうかを診断する手順で施されます。ですから、この段階で学び上手な話し方を身につけることです。

② 上司・先輩に対する訊き方・聴き方
 訊くことによる学ぶ力は指導を求める働きかけです。「この点教えて頂けませんか」と話しかけます。それは、質問であったり、自身の考え方の確認です。そして、指導を受ける「聴き方」です。新人として、先輩・指導者の育む話を感謝して心から受け止める聴き方であり、正しく理解する必須条件です。勿論、指示を正しく受けるスキルにも通じます。

③叱られ上手は一人前への早道
 「プロも元はアマだった」という言葉があります。誰も最初からできる人などいません。大事なことは、その時いかなる心を持つかで未来は大きく変わってきます。その心得は、成長の最も早道は、失敗して叱られること、なぜなら、叱られることは、「将来の見込みがある」と太鼓判を押されている証だからです。
 
現在、憧れの存在となっている先輩、上司は、過去に叱られた機会を感謝の心で受け止め、素直に自己改革をはかり、本物の力を蓄えてきた人たちです。未熟な自身をさておいて、感情的受け止めでのパワハラなどと自身を甘やかすことは真の力を根にすることはできません。100点満点の仕事で信用を得る実績は、将来の有望人材として承認されます。叱れ上手の実践はどうする…・。

③ 対人関係を構築する話し方
 新人時代の不安は何か、「対人関係」との回答が多い傾向があります。仕事で関わる人は選べません。初対面から気が合うというのはなかなかないものです。従って、ひと言の挨拶力を体得する、相手を知る、自分を知っていただく会話力を育むことです。

④ 品格を生かした話し方
これには、言葉遣い、話しぶり、自己紹介、名刺交換、顧客対応、電話会話の体得が不可欠です。

⑤ ビジネススピーチ力の基本
新人としての考えを発信することも存在感を創ります。また、顧客への商品を説明することもあります。その話力は、新人らしさを生かしたスピーチ力、それは、筋道を立てて、感じよく話すスキルを身につけることです。
            
◎リーダー時は、人を生かした実績づくりの話力です
昨今の管理職を対象とした早期退職希望制度があります。仮に早くその職務から離れようとも、この舞台で築き上げた実績は、自身のなかに身に付いた宝物であり、将来の強み、決め手、売り物となるものです。

① 集団力をコーデネートする話力が不可決
その決め手づくりは、集団力を生かした実績の形成です。将来、「あなたの売り物は何ですか」と問われて、「部長をしていました」としか答えられなかったら、決め手なしの人と判断されます。プロのリーダーであれば、具体的にどれだけ実績を上げてきたか、それが売り物だからです。その力は関わる人の力をコーデネートし、実績をリーダーシップの発揮で結実する力です。

確認してみましょう。実績を挙げるためのリーダーシップとは、「自らの想いを発信し、関わる人から積極的な協力を得て、目標を達成すること」と意味づけます。

従って、リーダーが孤軍奮闘することでなく話力を駆使して、協力関係を得て実績形成することです。その話し方は、「何のために」「なぜ」の説明を丁寧にすることです。 特に依頼相手には、「なぜ、あなたなのか」の説明は必須です。それには、従来の協力の具体的事実に感謝し、今回もどうしてもその能力が頼りになる、という点を明確にします。この事実に基づく本気さが伝わる話力が相手の心を動かします。
 
現実には、全ての人が当初からOKを得られないことも現実です。ここで必要な話し方は、最初は協力に難色示されても、その後の折衝力による折り合いをつけて協力頂くことです。折衝力を磨く、ここに話力向上の必要性もあります

② 育成する話力
各自の能力を最高に生かし得ると同時に、不足能力の育成は欠かせません。従って、教え、褒め、叱り、更に新たな力を生かしうる実践では、説明力、褒め方、叱り方、更にモチベーションを高める話し方が生きるのです。

③ モチベーションを高める感謝話法
協力者には、常に感謝し、気配りし、各自の業務が円滑に遂行するように支援します。具体的には、相談事への対応、また、感謝のひと言の声がけです。決して任せっぱなしにはせず、協力者がかかわった業務により成果を挙げて喜びを分かち合うことです。そのための働きかけは、気配りによるひと言のプレゼントです。「進んでますね、さすがです。ありがとうございます。何か不安が生じましたら声がけください。」…・。この一言が協力者の承認欲求に応えた話し方です。

④会議における提案
 会議においても自身の成果に向けたプロセスをきちんと発信すること、そして、新たな協力を得る発信が肝心です。たとえば、「私の意見を述べさせていただきます。私はこのように思います。(主張の提示)なぜならば(理由・根拠を示し、理解を得る)だからこう思うのです。(主張の強調で印象づける)」 というように明快に話すことです。この話力は、日常、問われたときに単純明快に応答する話力になります。

◎べテラン時代は、頼りがいの存在感による実績づくりの話し方
このベテラン時代は、自ら持つ決め手を生かして、その後の職業人生をどのように選択していくのか、どのように組み立てていくのか、大変重要な期間であり、それを楽しむ時代です。なぜなら、関わる人から「ベテラン社員としての「おかげさま作り」の実績が生涯現役で稼ぎうる条件を創るからです。それには、寄ってこられる話し方上手が要です。

① 専門力生かした提案が新たに残しうる決め手
 ベテランの決め手は、卓越した専門力と人間性の豊かさです。だからこそ、この能力の施しを活かすことです。それは、「このことはあの人ならではのものだ」と評価として感謝される事実づくりです。
例えば、求められる課題解決策へのは発信です。そこには、キャリアを生かした技能の指導であり、アイデアや具体的解決策の伝えです。いわば、属人的にならず、広くお役だてすることです。だから、話すスキルがどうしても必要です。話が苦手と頑なにそのお役立てを成さねば人は寄ってきません。それでは、将来、稼ぎ場の機会は難しい。「あの人がいてくれて良かった。是非、聴いてみよう、教えて頂こう、来ていただこう、頼んでみよう」と「あのときにお世話になりました」と貸しを作れるのです。

② 決め手をより強める学びの極意
 人には限りない可能性が秘められています。現在の最高の強みも、更なる進化させていかなければ、人生100年時代の変化に対応した選ばれる強みにはなりません。従って学び直し、専門力の理論、新たな技術、考え方、そして、国家資格、技能検定の取得を楽しむことです。その話力は「素直に訊く」ことです。例え、若者からでも「ありがとう」の謝念を持って教えを請う話し方、それは、実れば実るほど、頭を垂れる稲穂かな」この人格の学びが、将来、お声がけをいただく人脈づくりなのです。

③ 技術承継の感謝の心で施す指導の極意
自分が現場において磨き、蓄積してきた決め手の技術を後輩に託し、継承してもらうことで、脈々と技術が生き続けることは、大変うれしいことです。自分が去った後の現場において、目に見えない形で自分が活躍し続けることに他ならないからです。 だからこそ、工夫を凝らして指導するには、正しく伝授する分かりやすく話すという説明話法が必要です。特に技能継承では、正しく伝え、それを正しく理解し、正しく実践する伝授です。

④ 相談を受ける傾聴、示唆の話し方
 頼られるベテランとして大切なコミュニケーションは、相談を受けることです。だからこそ、その対応には、「相談に来てくれて、ありがとう」という感謝の心による包容力のあるカウンセリング的な聴き方に心します。

◎ここからの活躍舞台は、自由に選択。そこには、決め手が生きる
 それは、起業であり、活躍する舞台の選択、その条件、働き方を自分で決定していきます。そこでものを言う決め手は、それまでの職業人生で蓄えた専門力であり、個人的に培った特技、趣味であり、そこに人間力を加味した総合力です。この決め手が、生涯現役で稼げる力なのです。その力を蓄え、磨き、高めていく過程では、話す力がどうしても不可決なのです。 

◎西田敏行さんのお別れの会・Kさんに学ぶ今回のむすび
今、西田敏行さんを送る会の様子を伝える番組が耳に入ります。参列者各位からは「おかげさまです…・」との感謝と、教えていただいたことを糧にして、より多くの人に楽しさをお伝えして参ります…に類した言葉が心に響きます。

 実は、筆者が主宰する話し方教室で20数年学び合ったKさんが昨年末、癌と戦いつつも76才(西田さんと同年齢)で旅立ちました。お送りの場で奥様から「主人から預かりました」と一様の葉書をいただいた。記された文は、「よく、この方なくして自分がいないとかテレビ、雑誌で等で見かけますが、正に私がこれまで頑張ってこれたのは先生なくして他を見ません。御世話になりました。心よりお礼申し上げます。ご自愛ください。息切れが強く…・さようなら(原文)」と結ばれていました。

読み込み、長い癌との闘病でも、杖での歩行を超えて、バイクを運転して可能な限り学びの場に参加してくれたKさん、この体でもお役に立てるならと介護施設での雑務に時間給で働いてもいました。そのKさんが旅立ち近し、そのときに、葉書を書いている様子を想い、…・しばし沈黙の筆者でした。

 「大往生」を著した故永六輔氏の残した言葉に「本当の死は語られなくなったとき」とあります。西田さんの送る会で参列者の言葉にはまさにその感があります。西田さんの想いは、「楽しんでいただくことを提供することが私の役割」との理念、ビジョンを持ち、精進を重ねて、できる決め手を最高に生かし、お役立てを楽しまれた生き方でした。そこには、西田節の見事な話力がありました。
 多分に語り継がれることでしょう。筆者にとってはKさんも同様です。

 いかがでしょうか。「語り継がれることで、生きている」こんな人生を創り上げたいものです。あなたの未来地図、その想いに近づく育みの一端として話す力の向上に着目しました。「話す事はあなたの強み又弱み…ですか。」  

今回、その確認と、現在の活躍舞台で、その職責でどう話力向上を実践するか、その学び込みのヒントを記してきました。是非、新年度の話力向上の研修機会づくにお役だていただければ幸いです。

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/