産婆に聞け――。
警視庁捜査一課に伝わる格言だ。
「落としの〇〇」と称えられる名刑事に取り調べの極意を尋ねた時、彼は即答した。そんなものはない、と。自分の足で過去をたどり、相手の人生を頭に叩き込む。そのうえで、ホシ(被疑者)に向き合い、勝負時を見定めて、本人も覚えていない出来事をぶつける。「そこまで……」とホシは観念し、完落ちするという。
実家の柱に幼い頃の背比べの傷跡を見つけた時は、「落ちる」と確信したそうだ。この世に生を受けた日まで遡り、相手を知る。それが先輩から教えられたすべてなのだという。