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「一筆の交心が生きる人脈作りの実践」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(31)   
「一筆の交心が生きる人脈作りの実践」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)
 
◆手書き葉書の100日実践

「100日続けて妻に感謝の葉書を書きました。当初はどんなことを書こうか迷いました。投函して、受取人が自分ということもありました。自宅の郵便受けボックスから取り出す自分がいたからです。それだけなんか恥ずかしさがあったんです。でも、書き続けていく内に、妻のおかげで働きもでき、学びもでき、子供も成長していること気づきました。
素直にその事実を受け止め、素直に言葉に表すことが苦にならなくなり、書く、投函する自分がなんか浮き浮きしてきました。妻の接し方の変化が起こってきたのも自然の成り行きです。今日はこの会場で葉書を読み、直接渡します」
「○○さん(奥様の名)支えてくれてありがとう。これからもよろしくお願いいたします」

花束を贈り思わずハグする。会場から拍手・拍手。なぜか感動の瞬間だ。

両親に送り続けた人もいる。子供と交換日記的にやり取りした人もいる。一様に葉書に著し、送ることの実践により、これまでのしていただくことは当たり前のこととし、感謝の返心(心を返す)の希薄さに気づいた懺悔の体験発表である。
 
会場は小生も出講した(青年経営者・幹部の話力)後継者塾修了式である。

約1年間、倫理経営後継者として学び、熟生同志の徹底討論、時には真冬の川での水行体験等などを重ねての学びである。運営スタッフは、卒塾生である塾長のN氏を中心に先輩塾生が当たる。

終講が実践目標を宣言しての体験で有り、発表である。小生が担当してから9ヶ月、その成長は逞しさに溢れ、自己表現としての振る舞いはオーラさえ感じる。実践を通して育んだ見識と言動力、そして身近な人の施しに「おかげさま」と気づいた謝念の芽生えた人間力だ。

それは書き記す(しるす)。この秘めた効用の示しでもある。

◆持ち味の生きた一筆の送心

実は小生の継続実践に葉書道がある。40年になる。お会いした喜び、交わしあった考え方、人物イメージ、機会を創ってくれた謝念、研修運営へのご協力など感謝を葉書に一筆手書きし、お送りする。受講者には良いところは褒め、更なる生かし方に関しては率直に助言もする。下手な文字であるが手書きで、その人の心情に近いキャッチポイントだからこそ、受け止めも印象深い。

次回お会いしたとき寄ってきて、御礼をいただくこともある。時には、病魔と戦う知友に、出講先から絵葉書を送る。頑張れでなく、「今度は一緒したい」旨の楽しみを望むメッセージである。

同様な意図で、美容室を営むK社長は、得意の短歌に心をのせ50通近くの短歌便りを送られたという。また、手書きでも、筆で書く人、絵手紙、ちょっと挿絵を描く人もいる。写真を組み入れる人もいる。その人の持ち味を生かした送心である。
 
一筆記す。この実践は、葉書に限らず、例えば資料を送る、案内チラシを送る際の各自に一言書き添えることに繋がる。単にもの・知識・情報を送るのでなく日頃の感謝とお役に立てるご縁に対する喜びの送心である。

周知の通り「小才は縁に出会いて、縁に気づかず、中才は縁に気づいて縁を生かさず、大才は袖すり合った縁をも生かす」という言葉もある。

人は出会い、関わり合い、支え合いの連続だ。そこでどれだけの施し(専門的、人間的)を提供できるか、そして縁を、生涯の相互支援のパートナー的お付合いとして楽しめるかが大切。手書き一筆の施しでも、受ける楽しみをいただく事例も多い。

●K県黒酢醸造社F社の納品書には必ず手書きでの短文が添えられる。時候の状況伺い、お取引の経過に伴う謝辞等……時には絵が描かれることもある。読むのが楽しみ。

●都内旅行社A社では、訪れると名刺大のメッセージカードを立ててある。小生の名と暑い中、雨の中のそのときの天候を越えての訪問への御礼、前回の利用御礼といかがでしたか、のフォローの心情までを短文で記してある。

●T県温泉地Mホテルでは、お出でいただく少人数のお客様のお名前の歓迎板を用意してある。ご一行様大歓迎はどこでも有るが、少人数様への配慮は稀である。

●F県イタリアンレストランAでは会食メニューが手づくりで、〇〇様いらっしゃいませと名を記してある。

●都内工具トップメーカーN社研修担当者は、新人の研修レポートを丁寧に添削し、内容に関する所見を毎日記す。

ほんの一筆だが思わず受けた人の頬が緩むのは現実である。大事にしてくれている。おもてなしの心に通ずる施しであり喜びの提供である。そこには、自分が最もして欲しいことを施すことである。

そのためには心を汲み取る感受性の豊かさである。難しいことではない。相手に対して素直におかげさまの感謝のお届けである。それは一方的であり、相手があからさまに求めを口にすることはない。一方的送心である。

◆お役に立てる施しの継続
 
おかげさまでの感謝の念は、一筆をきっかけに以後「何かお役に立つことはないかと」お役に立てる喜びを自然に施したくなる。

拙文の送信や、情報のご提供の随時実践も一例だ。勿論 パソコンでの送信もあるが、一斉配信することをせず、各自に準じたメッセージをお書きする。一筆の送心、それは点対応でなく線対応である。従って相手の活躍、関わりの累積などインプットしておくこともいとわない。気になる人だから、それが大変だと思わない。

当方からのお願いも時にはある。先般も小生の抱える課題にご意見、情報を頂くことを依頼した。早速返信いただけたことがありがたい。まさに心の通うお互い様の人脈は、仕事の質を高め、スピード化ができる。

「頑張っています」といっても自能力では限界がある。独りよがりのがんばりの美化ではなく、素直に力を借りられるその対人関係は現代にはどうしても必要である。

◆相互支援のパートナーとしての交心 

縁を深めるお互い様の人脈作りには、一筆の返心が肝心である。返心は殊の外、嬉しい。返事を求めない一方的送信であっても、生身の人間だ。「ありがとうございました」の一筆でもほっとする。受けていただいた嬉しさだ。

返心は様々。時には拙文の所感や、自身の考えを披露いただく人もいる。学んだことからの今後への実践を誓う人もいる。いずれにしても当方からの施し(仕事も含め)に反応を寄せてくれることは感謝である。それは更に仕事の精度を高めると共に施しのヒントを産み出す糧となるからだ。

小生の出会いの喜びは、今後相互に支援し合う人生のパートナーとしての交流である。良き人に出会うと良いことがある。人との出会い、縁は、その後の人生に影響を与えることも事実。「人は縁の中で生きている。人は縁の中でしか生きられない」という言葉もある。

その縁で生きていくことに一編の詩がある。紹介してみよう。

生きているということは、誰かに借りをつくること
生きているということは、その借りを返していくこと
誰かに借りたら、誰かに返そう
誰かにそうしてもらったように、誰かにそうしてあげよう
誰かと手を繋ぐことは、その温もりを忘れないでいること
巡り会い、愛し合い、やがて別れのその時、
悔いのないように今日も明日を生きよう
人は一人では生きていけないから
誰でも一人では歩いて行けないから

読者諸氏も知り得て、自己を省みる糧としている人もあろう。

一筆の送心(送信)そして返心(返信)。単なる一筆の交心(交信)は「喜びごっこ」かもしれない。がこのほんの小さな交心は、縁をいただき心豊かに生きていく種であり、花であり、実りである。それは公私問わず、直接的でもあり間接的でも喜びである。そしていざというときの仕事力を高める人脈でもある。
  
●今、目にしているのはO油槽所鹿児島のKさんからのメールだ。

「執筆文を読み、中堅社員研修受講時と同様、先生が目の前にいるような学びの気分になります。挨拶と笑顔、褒め言葉、子供に学んだことも含め、いつも身近な人を特に大切にと心がけています。
自宅では、子供を風呂に入れるのが私の役目です。
まず子供達の頭、体を洗いバスタオルで体を拭いてあげます。
元気よくリビングに走り、妻が用意したパジャマを着ると、私が体を洗っている風呂場に見せに来ます。
「ホラ見て」と笑顔です。
以前は中々パジャマを着ずに困っていたこともありましたが、一度上がって直ぐに着替えたときに「凄い! さすが!」と言ったことがきっかけです。
気持ちが良かったようです。その後風呂上がりの「さっすが」を毎日聞きたくてすることのようです。他の褒め言葉では駄目なようで「ねえねえ。さっすが?」と訊いてくるときもあります。
子供でも、芯ににつく言葉、掛けて欲しい言葉、好きな言葉があるんですね……」

と研修での気づきを、家族生活での実践で得た微笑ましさのお知らせだ。

「また、仕事から帰ると、『パパお帰り~!』と3才になる娘が玄関まで駆け寄ってきてくれます。純粋な気持ちだから恥ずかしがることもなく飛び込んできます」「できうる力を粗末にした無情は純粋さをなくしたためでしょうか?」との自省の言葉も添えてある。

自身に問いかけてみる。
「関わる人に成してくれることに対して『おかげさま』『ありがとうの感謝心』を素直に感受し素直に表現できているか」と。
特に家族に対しては? 小生にとっても自省の機会である。

●文頭の後継者塾で奥さんへの葉書を書いた発表者Iさんとの喜びごっこも目にとまった。

「卒塾おめでとう。奥様への感謝の心をいつまでも大切に……。声がかれていましたね。皆を元気づけたのでしょう。皆の見事な発表にも感動しました……」
辺信:「おかげさまで、(塾の)多くの経験と気づきを得て修了することができました。……先生からの一言本当に嬉しいです。ありがとうございます」
多分毎日ハグしていることであろう。
 
塾生同期の学び合った絆は、各々の活躍での異質(異業種、異職種、異見……)の強みを交わし合い、支援の施し交換へと生きていく。塾生各自と握手を交わし、「すばらしかった」と発表への賛辞と「今後も塾生互いに助けあってね」と声がけし会場を後にした。感動の余韻が残心として今もある。

企業は人なり。社員の人脈の豊かさは、新たな独自性を生み出し、その実現に向けての異見の融合による発想の多面性は、質とスピードを高める。自分と異なった特性を有する人との交流・融合化が企業の新たな強みづくりとして生きる現在だ。

現実には、部分最適でなく全体最適・個社でなく関係企業のコラボ・親と子と孫の総合力・産学協同・農政産学協同・アイデア、設計、資金、製造、販売と各分野の高度人材の集積による新製品の創出、他国との提携……今や経営戦略も変化している。

だからこそ異との縁を生かした情報のネットワーク・人脈インデックスの充実化は不可欠である。広め、深め、生かしあう人脈形成について再確認し、まず、身近にできる実践策を提言とした。

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◇澤田良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
  http://www.hope-s.com/
 


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