真田幸光氏の経済、東アジア情報
「中国本土の『一帯一路』と『AIIB』のセット戦略化について」
真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)
中国本土では、
「習近平体制」
の基盤の更なる盤石化、そして長期化の可能性が高まったと見られています。
即ち、既に、
「核心」
の称号を受けて、中国共産党内部での地位確立に向けてしっかりと動いている習近平総書記・国家主席・中央軍事委員会委員長は、今般、北京で開催されていた中国共産党の第19回大会に於いて、自らの政策指導理念をその名も冠して織り込まれたことにより、更に盤石なものとし、また人事の動きから見て、
「習体制の長期化」
を予測する動きも出てきているのであります。
こうした中、
「習体制の秀逸した政策」
の一つとして私が意識しているのは、
「一帯一路構想とアジアインフラ投資銀行(AIIB)のセット戦略化」
であると私は認識しています。
中国本土の強味を、私は、
「人口が多く、更に貧富の格差があることをむしろ、上手に利用していることにある」
と見ており、即ち、
「消費層の幅が広く人口の多い国内市場を利用して先進国から開発途上国まで、幅広く多くの国々との交易ができるようにしていること」
を背景に、先ずは、特に開発途上国を中心に様々なものを輸入します。
この際に、中国本土は対価として、
「人民元」
を支払っていくようにするのです。
先進国では通常、現状では、国際金融社会での流動性の低い人民元決済、人民元で対価を受け取ることを嫌いますが、開発途上国では、人民元を受け取ることを受け入れるケースが出てきています。
その背景は、
「中国本土の生産する消費財の輸入が多いこと、中国本土企業に自国のインフラ開発を依頼することが増えていること」
があり、その結果として、中国本土に対して資金を支払うケースが増えており、従って、その中国本土に対する支払い通貨として人民元が有効になっているからであります。
そして、こうした中国本土の交易拡大ルートとして、理論武装され、ターゲット化されたものが、
「一帯一路構想」
であります。
その範囲はご高承の通り、中国本土から、中央アジア、中東、トルコを経て、バルカン半島、そして、大陸欧州を経て英国、次に中国本土から一旦南に下り、東南アジアから、バングラデシュ、インドパキスタンを経て、中東から大陸欧州、英国まで、そして、海のルート、中国本土沿岸からベンガル湾、インド洋、ペルシャ湾を経て中東、大陸欧州、英国までとなっており、中国本土が、輸入して輸出するには最適の国々がそのルートに横たわります。
しかし、このままでは、
「一旦、中国本土が資金を払い、その資金を取り戻してくるだけですから、中国本土は付加価値分程度しかメリットが無い」
という状態となります。
そこで、中国本土は、
「世界から資金を集め、その資金も合わせて、これら開発途上国に資金供与し、その資金を中国本土の輸出や中国本土企業によるインフラ開発によって取り戻してくることによって、結果的には、世界から集めた資金を中国本土に取り戻す」
という戦略を取り始めています。
そして、世界から資金を集め、開発途上国にその資金を分配する機関として設立したのが、AIIBとなります。
今年、AIIBは、S&Pなどの世界三大格付け機関から国際機関に認定され、トリプルAの格付けを取得したことから、今後はじわじわと世界から資金を調達、その資金を一帯一路構想を念頭に置きながら、開発途上国に資金分配、その上で中国本土からの輸出、中国本土企業によるインフラ開発を更に進めてくることが予想されます。
こうした結果として、中国本土の経済的繁栄は外需によって維持される、よって、国内経済の安定成長化をカバーする先を海外の開発途上国に求めつつ、これらの国々との経済的連携を強めつつ、外交、軍事的連携も深めて行くという見事な国家戦略を策定、推進し始めていると私は見ています。
日本にとっては、ある意味では、
「恐るべし、中国本土」
であります。
今後の動向をフォローしたいと思います。
真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
——————————————————