「高田拓の中国内部レポート」
第6回「愛国主義教育が続く限り、日中友好は実現しない」
高田 拓(山東外国語職業学院終身名誉教授)
■中国の新浪に、「日中の恨みが何故何世代も続くのか」という一人の日本人の見解を紹介するブログが掲載された。
“中日为何世代为仇!一个日本人竟说出惊人真相-日本人在中国”2017-10-09 新浪博客
http://blog.sina.com.cn/s/blog_1643774200102x69t.html
●概要:日本人は謝ったのか? 償ったのか? 中国人と日本人の間に大きな認識のズレがある。多くの中国人は事実を知って欲しい。
過去に対する謝罪の有無について、多くの中国人は「日本は過去の侵略について謝罪したこともない、償ったこともない」と認識している。
実際は1972年の日中国交正常化の際、日本は日中共同声明で「日本は、過去において戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」としたと紹介している。
さらに「償い」の点でも、日中共同声明で中国は中日両国国民の友好のため、日本に対する戦争賠償の請求を放棄した。それに対し日本は政府開発援助(ODA)の形で中国に援助を行い、空港や高速道路などの整備を行ってきた。
■中国に住んでいると、中国人には3種類の人間がいることがわかる
(1)平和を愛する世話好きな多くの一般市民。
彼らは80年代の日中蜜月時代を知っている。また都市に住む多くの人が日本旅行で実際の日本・日本人を知るようになってきた。政府の言うことや反日ドラマを全て100%、信じることはない。
2012年尖閣諸島の問題が発生した時、中国の友人が電話で「その街が危険なら、私のところに来てください、私があなたを守ります。暴漢に会ったら、私はあなたがどのような人か相手にきちんと説明してあげます。」こんな友好的でおせっかいともいえる親切な多くの一般人民です。
(2)中国政府、マスコミ関係者、反日基調の政府方針そのままの人物。
もし、日本に友好的な発言をすれば自分の身に災難が降りかかることを知っている。彼らは「漢奸(売国奴)」の謗りを恐れている。習近平政権でますます言論統制が強化されている。「マスコミは党の方針を代弁せよ」マスコミは共産党宣伝部の傘下なのである。
日本のTV局がインタビューしても、建前しか言えません。政治闘争で胡耀邦をはじめ日中友好を唱えた者が葬られたことを知っている。
(3)こうしたマスコミの報道、抗日ドラマを見て育ち、愛国主義教育を受け洗脳された者。
何を言っても、議論しても平行線。反日馬鹿です。
中国語で「蠢貨」=(愛国・排日)を叫ぶ一部の愚か者。
大学構内で、ある中国人教師が「安倍首相はけしからん、琉球は独立だ……」と議論を吹っ掛けてきた。私が、「1954年、周恩来首相とネール首相の平和5原則を知っていますか? その中に相互内政不干渉があるでしょう。琉球独立なら、新疆、チベット、内蒙古なども独立ですね。安倍さんの問題も靖国神社も日本の国内問題です。」と言うと、私を睨みつけて離れていった。
●愛国主義教育:
背景:1989年、中国で天安門事件が発生、民主化を求める学生に対し軍が発砲、戦車でひき殺した。またこの年は世界中で共産党政権が次々と崩壊:東欧民主化革命、ソ連崩壊、ベルリンの壁破壊……こうした嵐が世界中に吹き荒れていた。こうした情勢の中での天安門事件は中国共産党政権に強烈な危機意識を生じさせた。
江沢民政権は共産党の正統性を「愛国主義・抗日戦争勝利」に置き、1994年愛国主義教育運動を開始した。これは国民の愛国心の教育、共産党の正統性(反面、日本侵略の残虐性を強調)、共産主義史観に基づく歴史の歪曲を行った。
ex.「中国人と犬は入るべからず」これは西欧の租界で掲げられた立札だが、日本人が立てたと宣伝、ブルースリーの映画でも日本人の行為として映画が作られた、実際は日本人がこれを撤廃させたのだが、多くの中国人は日本人がやったと思っている。反日デモでレストランや喫茶店が「日本人と犬は入るべからず」と掲示するのはこのためである。
●1995年5月ロシアで世界反ファッシズム戦争勝利50周年行事が行われた。当初、江沢民は発言の機会が与えられなかった(抗日戦を戦ったのは国民党)。江沢民は独ソ戦の犠牲者が2,600万人と聞き、発言の機会を求め共産党が抗日戦争を推し進めた。
対日戦争犠牲者は3,500万人と何の根拠もなく言いだした。
*参考:日中戦争犠牲者数
東京裁判:軍人320万人、民間人不明
1960年代:軍民併せ570万人
その後どんどん数字が膨らみ、2,168万人、江沢民により3,500万人
*1957年大躍進政策: 人民公社政策の失敗で1959-1961年(三年困難な時期)で餓死者2,200万人。1966-1976文化大革命の死者2,000万人ともいわれている。(内政の混乱による犠牲者の数が日中戦争犠牲者より多いのは政治上よろしくない)国共内戦の死者は5,000万人説まである。
江沢民は帰国後の6月、共産党政権の正統性を抗日戦争勝利に置き、徹底した日本糾弾と洗脳教育ともいえる思想教育を開始した。各地に抗日記念館が続々と建設され、学校教育での参観・学習を義務付けた。
人民が抱いている共産党に対する様々な不安や怒りを、日本人に対する怨みと反感に転化し、共産党が日本の侵略から中国を救ったとした。
■教科書の内容変遷(80年代から2000年代)
1、国共対立から日中対立へ
2、共産党の抗日から民族の抗日へ
3、勇敢な抵抗者から悲惨な被害者へ
4、植民地の勝利から民族の勝利へ
5、最近では道徳教育の要素も入ってきた。
*中華民族の衰退から復権復興・民族の勝利が前面に打ち出された
ウイグル人、チベット族・・多民族の矛盾の隠すため、中華民族と言いだした。
*シンガポールの教科書では第二次世界大戦中の日本軍の残虐行為と共に、戦後日本の平和への貢献、経済援助などもきちんと併記している。
メディアの日常繰返される反日報道と、こうした教育の影響を受け多くの若者の間に狭隘なナショナリズムが抬頭し「愛国無罪」が叫ばれるようになった。
■歴史に対する日中両国民の考え方の違い
日本人は事実の基づくのが歴史だと多くの国民が思っている。しかし近・現代史は政治が歴史そのものなのだ。各国の政治情勢で歴史は歪曲されるのが一般常識だ。
中国では勝利した王朝が歴史書を編纂、自分の王朝に都合よく書き換えるのが一般的だ。
■何故、日本人は中国共産党に対し、好感を持てないのか
1.常に歴史問題を持ち出してくる。日本は何度も繰り返し謝罪している。日本人の贖罪意識を「政治カード」として利用する気だから、そもそも謝罪を認める気がない。こうした中国共産党に対し、謝罪を繰り返すことに、ほとほと嫌気がさしてきた。
*参考:2015年フランス国際放送(REI)
日本が戦争行為を反省し、永遠の不戦の誓いをしていることは「だれでも知っている」と指摘。謝罪については、田中角栄元首相が国交正常化のために訪中し「深々と頭を下げた」と指摘。日本は「贖罪のための賠償もした」として、ODAなどによる巨額の対中経済援助を挙げた。
*参考:中国では「ドイツは戦争についてきちんと謝罪した」が“常識”になっている。しかし、中国でよく例となるワルシャワにおけるブラント首相(1970年当時)の謝罪も、ユダヤ人迫害に対するもので、ポーランド侵攻を含む戦争発動に対するものではない。
2.靖国神社参拝の目的は、二度と戦争を起こさない不戦の誓いと、国のために戦って死んだ方の慰霊。そもそも国内問題なのに世界の中で中国と韓国だけが抗議をしている。
3.ODAについて多くの人民は知らない。戦後の日本の貢献を意図的に報道していない。
4.戦死者数を政治的道具にしている。(前述の日中戦争犠牲者数の変遷)
南京事件の死者数を30万人と主張。当時の南京市の人口は20万人、その後急速に25万人に人口が増えている。(虐殺の行われている都市に中国人が戻ってくるはずがないでしょう)
また南京市は国民党の本拠地、国民党はこの地で共産党と革命戦士を20万人処刑している。その死体はどこへ……
世界記憶遺産登録を当時のユネスコ事務局長との政治的取引で実現させた。いまだに具体的に何点の資料が登録されているのか明確でない。
5.愛国主義教育で歴史的事実を歪めている
前述の「中国人と犬は入るべからず」を日本人が掲げた、としている。
6.魚釣島、尖閣諸島領有権問題
中国政府発行の60年代の中国の地図はすべて「魚釣島」(日本領土)と表記していた。1969年、国際連合の海底資源調査でこの海域に資源が見つかると、1971年から一転して自国領土と主張し始めた。
*こうしたことを日本国民は知っており、このような反日報道、愛国主義教育を続けている中国共産党を好きになれと言われても、日本人が好きになれないのは当たり前である。
日本人が嫌いなのは中国共産党のこうした姿勢であり、情報を制限され偏った情報しか持てない一般の中国人ではない。
*訪日、民間交流の活発化に伴い、自分の目で見た日本の姿を信じる中国人も増えてきた。彼らの感想は「不一様的日本」:今まで教えられマスコミが流している情報とは違っていた日本。訪日客の85%は日本を好きになって帰国している。
2017年3月消費者権益の日で起こった日本食品の放射能汚染問題で、日本を擁護する声がネットで上がった。「あの真面目な日本人がそんなことをするはずがない」、中国メディアからも中央TVの報道に異例ともいえる反論が起こった。
(中国有識者の参考文献)~言論統制が厳しくなっており削除されているものも多い
1、对日关系新思维 马立诚 2002
http://www.china.com.cn/zhuanti2005/txt/2002-12/26/content_5252667.htm
2、没有日本,改革开放将会出现不同 王锦思 青年报2008.12.23
http://www.ce.cn/xwzx/gnsz/gdxw/200812/23/t20081223_17752650.shtml
3、如果日本战胜了中国 赵无眠 2001
4、林凡微语:钓鱼岛必然应属于日本…(2012-01-07)
http://blog.sina.com.cn/eviqueen http://blog.sina.com.cn/s/blog_9cc86d3e01011b0l.html
5、战后日本政府已25次道歉 07年温总理肯定 马立诚 2013.09
http://news.ifeng.com/history/shixueyuan/detail_2013_09/18/29725261_0.shtml
6、日本已不可能重走军国主义老路 2014-10-09 环球时报 王占阳
http://opinion.huanqiu.com/opinion_world/2014-10/5160295.html
7、仇日是病,药不能停 冯学荣 2015.05
http://blog.ifeng.com/article/35750660.html
8、2天日本体检为何让他放弃坚持了4年的抵制日货 2015-06-29
http://health.huanqiu.com/health_news/2015-06/6793422.html
9、曾经30年,日本竟默默援助中国2000亿 2016-06-23
http://bbs.zg163.net/thread-4750736-1-1.html
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■高田 拓氏(曲阜師範大学、斉魯工業大学客員教授、山東外国語職業学院終身名誉教授)
1967年福島大学経済学部卒業、同年4月松下電器産業(株)入社。1997年松下電器(中国)有限公司に北方地区総代表として北京勤務、
2001年華東華中地区総代表として上海勤務。2002年松下電器産業(株)退社、同年、リロ・パナソニック エクセルインターナショナル(株)顧問
2009年中国各地の大学で教鞭、2012年山東省政府より外国人専門家に対する「斉魯友誼奨」受賞。
曲阜師範大学、斉魯工業大学の客員教授、山東外国語職業学院終身名誉教授。
現在、現場での実例を中心に各団体、大学、企業のセミナー講師を務める。