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「一段高い舞台に上がる楽しみ」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(39)
「一段高い舞台に上がる楽しみ」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆託された11(いい人)の活躍指針
 
農業団体の管理職候補職員の研修を担当した。全国から選ばれた中堅職員の受講であり、業界の変化のスピードが速く、厳しい環境と新たな取り組みに対応するときだからこそ、選ばれた誇りを軸に置いての支援指導である。

従って、託される管理職としての活躍条件を確認し、その実践力の軸をリーダーシップと部下力を喚起するモチベーションをコアとした。小生からの引き出す施しへの応答や、相互の活躍状況の情報交流、更には今後に向けた課題解決的討議など学ぶ合うパワーは見事であった。

研修の最終講で当研修で気づいたことを基に発表された活躍指針をまず紹介しよう。
それは次の11項目である。11をいい人と意味づけ、以後の活躍指針11箇条とした。

1.挨拶等ABC(A=当たり前のこと、B=馬鹿にしないで、C=ちゃんとやる)の実践は部下・組合員様に心を込めて、かつ胸を張り実践する
2.引き出すコミュニケーション(時には飲み二ケーション)の実践で、部下の心情を汲み取り、それに応えた施しを実践し、信頼関係を構築する
3.単なる良い人でなく、相手のことを思い、褒め・叱りを心がけ組織目標の結果を出す
4.上長・部下に歩み寄り、プライベートも含めた仕事上手・心の通わせ上手の管理職となる
5.ミーテイングを活かし、多様な意見の取り入れや、コウモリの目(逆、相手の目線)を活かして、固定観念にとらわれない切り口を違えた発想を広げる
6.上司への働きかけに加えて、下からの報連組を積極的に受け取り、下からの要望事項の適切な繋ぎ役もする
7.諸制度の内容を自身が十分理解し、伝える相手の目線で話し、理解・納得を得る伝え方をしていく
8.マニュアルを利用し、一度は実践して教え(やってみせ、言って聞かせて、させてみて)て以後各自の能力に対応し「君なるどうする」と導く
9.部下のSOSサインをいち早く気が付き、声がけ、モチベーションを高める
10.制度改正、新たな活躍要請等には、経験則にはまらず、新たな気づきを大切にした発想を活かす
11.目標となるリーダー像を決め、具体的に行動し信頼関係を築こう!
                            
各自が自信と誇りを持った活躍を認められ、次のステージに引き上げてくれたことへの感謝(謙虚)と、持ち合わせている覚悟(勇気)と活躍の想像を今研修での講義、演習で確認したうえでのワークショップ形式で産み出したまとめである。

◆「管理職になりたくない症候群」これ本心ですか
 
昨今耳にする「管理職にはなりたくない症候群」があることも事実。その大方の理由は、苦労多くして実が薄くなるということだ。

これは、上からは「ああしろ、こうしろと言われ、下からは突き上げられるサンドイッチみたいなもんだ。その上、残業代は対象にならず月収は減る」というネガティブに捉えた論法である。

だが、視点を変えてみよう。サンドイッチの美味しさは具によって決まる。具の美味しさは上のパンにも染み通り、下のパンにも美味しさを引き出していく。

具とは管理職である。さらに自身の権限の裁量の創意工夫と育成で業務の効率、品質(クレーム含め)は向上する。生産性はやり方により決まる。能力なき一生懸命さの起こす思わぬ品質異常は後追いの処理に追われる、付加価値の生まない時間である。

働き方改革が話題になるとき「方」とは「方法=やり方」である。その改革を成すことである。託された新たな管理職の活躍の楽しみはそこにある。

そして、新たな具を創り出すことによって組織集団は「美味しいサンドイッチ」として新たな評判を得る。決して挟まれた窮屈さでなく上下に美味しさを醸し出していく発信基地である。当然管理職の活躍評価は待遇へのプラス条件となるのである。管理職は決して悲観的な舞台ではないのである。
 
こんなこともある。
「子供が名刺をみて、父さん偉いんだね。とニコニコして話しかけてきた」と新任管理職から言葉をかけられました、とは先日出講先K社トップからの報告であった。

「管理職になりたくない症候群」の本意はどこにあるのだろうか。
管理職になれない人の言い訳に過ぎない等という見解には真っ向から反論する小生である。

なぜか? 
過日、「管理職になって欲しい層が、いまいちその気になり得てない現況ですのでぜひ研修をお願いします」との相談に対応して実施したB社の研修があった。

候補者研修とせず、上司力を楽しむ活躍向上アップと称しての支援指導である。「なりたい」でも不安、期待に応えられない能力不足の自分」等「かもしれない」のネガテイブに自身をみているだけである。

何事も、
「今はできない、しかし明日できないことはない。それは新たな学びをすることだ。新たな学びは新たな智恵を生む。その智恵は既に持ち合わせている潜在能力の新たな生かし方もある」
と説く。
 
それは、本心はここまでの活躍に自意識の高さがあることも事実。だからこそ不安の段階で「やります」の決断をしてうまくいかなったときのプライドの崩しが怖いとの心中がある。

だからこそ、「できそう」←「君ならできる」「私がいつでも支援する」との然るべき学びの機会と、働きかけが肝腎なのである。

B社の当研修後、管理職を数人に発令した。もがきながらも元気に活躍している現在でもある。
 
管理職は悲観的活躍の舞台では決してない。やればできる人であるから選ばれるのである。推薦・選ぶ方にも、それだけの責任を背負う覚悟があることも現実にある。

◆高次元の欲求は自己実現、その大きさは職責が条件
 
かつて、知人の小学校教諭から「管理職試験を受けるか迷いがある」との相談を受けた。既に資格を得て、3年になるがということであった。

「ぜひ受けるべき、生徒の更なる学ぶ条件、成長に貢献できる事は管理職(教頭・校長)だからこそできることがある」と示唆をした。教頭・校長試験を受け、現在は定年後2年経ったが、校長職として継続活躍している。

先日、奥様とご一緒したときに「あのときにお薦めいただいてありがとうございました」と謝意をいただいた。迷い時の一矢の施しであったが、企業、諸団体での共通事項であろう。
 
また、若手社員には上昇志向が薄いという。だが全ての人ではない。
「組織を通じて何かしたいという条件は、権限を持つこと。権限とは決定権もその一つ。そのためには職責を高めること、それは上に立つことである」
と説く。
入社の初心はそんな活躍ぶりを描いているのだから、本心は「思い切ってやりたい、好きなようにやりたい、個性を出したい」、こんな潜在的実現欲求を持ち合わせていることを新人若手研修現場で掴むことが多い。
 
高次元の欲求は自己実現の欲求である。周知の通りその実現には、自らの発想を多くの方の協力を得て成就し認められることである。その欲求実現の大きさは、得ている権限によって決められているのが組織活動であるからだ。
 
自己が選び続けている舞台(企業、官公庁、団体、集団)でのこのような自己実現の働きがいは、プラス思考に基づく活躍で楽しみとして見出す。楽しみは更なる成長を促進し、活躍パワーとして関わる人の協働温度を高めて行く。実際の現象である。

◆上に立つ人(管理職)の楽しみ方と18のパワー
 
それでは改めて管理職の楽しみ方について確認してみよう。上に立つ人の18の楽しみ方と醸し出すパワーとして提起してみる。

① 相手の心にプラス波動で灯火をともす楽しみ方       =元気力のオーラ
② 上に立つ人としての実践力で感化教育ができる楽しみ    =示範力
③ 当たり前のことを徹底して、安心・信用の強さを育成する楽しみ  =活力風土力
④ ノリのある好感集団で営業力を高める楽しみ =顧客啓蒙力
⑤ 一期一会の心で、いまできることの最高実践する楽しみ =即行力
⑥ 打つ手無限の智恵で新、初、独自のことを創造する楽しみ =智恵力
⑦ 常に一番、一流のオンリーワンで関わる相手満足を創造する楽しみ=競争力
⑧ 自他の力を活かし、組織力を最大に活かす活躍を楽しむ =リーダーシップ
⑨ 部下がハリのある主人公意識でやりがいを生む楽しみ =部下目標達成支援力
⑩ 報連相をタテ・ヨコ・ナナメに相互に交わす風通しを良くする楽しみ=意思創通力
⑪ 異質人間が互いに心を通わす楽しみ =対人関係力
⑫ スピード対応に向けて協力を得るための折衝を楽しむ =折衝力
⑬ IT時代を組織全体で活用する楽しみ =IT機器活用力
⑭ 部下個人、職場集団の能力を向上させる楽しみ =教育力
⑮ うづき→気づきの感度の良さで事前トラブル(人・事)解決を楽しむ=課題未然解決力
⑯ カプセル人間(自分の経験則枠の固まり)から脱皮して器を大きくする楽しみ=改革力
⑰ 逆境こそ前向きに個人、集団が成長できる機会として楽しむ =成長力
⑱ たった1回の人生、活躍を通じてより心豊かに生きる楽しみ =生きがい創造力
                
18のこだわりは、1は人(自分の潜在能力)・8(八)末広がりに顕在化できる楽しみの拡張である。

◆プラス発想を磨く実践
 
一方、ネガテイブな思考は、経験則に固まった思考枠にとらわれることが多い。前書の研修でもパズル遊びを組み入れてみた。簡単に紹介すると
「正方形を36マスに分け、36のひらがな文字をあらかじめ埋めておく。右上角から初めて左下角まで一文字ずつ選び、繋げて、意味の通る文を作る」
という課題だ。

例題を「よんたすさんはななです」とし、以後五問必ず1から5まで順序よく進めることを条件とする。

回答は1.「にかけるさんはろくです」2.は「ろくひくさんはさんです」3.は「にとごをたすとしちです」4.は「にのじゅうばいはにじゅうである」と解き進む。

だが、5.ができない。なぜ? 正解は算数でないからだ。

4問までの回答の導き出しでこれは算数の数式だとの思考枠ができてしまう。目的は「意味の通る文を作る」ことなので、算式とは限定されていないのだが…。

よく、行き詰まる、壁に当たるということがある。経験を重ねた経験則が俗にいう壁である。壁は自身で造るものであり最初からある訳でない。自身の思考枠に絶対間違いないとはまればはまるほど壁となりかわせない。

「視点を変える、切り口を変える、発想を転換せよ」と普段口にしていても案外思考枠に固守する傾向があることも実態。ネガテイブ思考は失敗例の経験則であり更に厄介だ。失敗経験や自己否定による「でも」「だって」とのいらぬ心配性の先読みによることが多い。
 
ならば、この克服にはどうするか。
「視点を広げる」
「できない理由を考えるよりも、どうしたらできるか考える」
いくつか実践策を記してみよう。

① 自分と異なる考え方(異見)を歓迎し、新たな視点で物事をみる
②「もう一つ、もう一歩」のワンモア精神を生かしてこだわりの探究心を持つ
③ 子供心の遊びの余裕と「なぜ?」の好奇心を持ち、面白さを追求する
④ 他からの忠告、アドバイスは素直に取り入れる
⑤ 物事の核心を掴むこと。それは目的に対応して多面的思考を試みる
⑥ 鳥の目、(全体)魚の目(流れ)虫の目(現実・現場・足下)コウモリの目(逆)を生かすこと
⑦ 時には異なった条件に身を置いてみる(場所・人の集まり・立場・仕事・学習など)。いつもと違った目線での新発見を生かす
⑧ 早起き、早歩き、早読み、を試みて積極的言動を自分に課してみる。自然に攻めの思考になる。
 
いかがであろうか。
加えて 先般のF県経営者協会主催での新任管理者研修で「視点を広げる事への実践」を紹介し合った。 補足を加え次に紹介してみる。

● 会社以外の趣味仲間、学友などと話す機会を持つ
● 自分の得意とする趣味、特技を持っている
● 映画・音楽鑑賞を時に楽しむ
● 時にはタウンウオッチング(街の散策)を楽しむ
● 初めての街、初めての店に行ってみる
● 子供、外国人、若者など異質の人との関わりを楽しむ
● 時には、通勤経路、駅から自宅までの道順、散歩コースを変える
● テレビ、新聞など見る内容(各紙、チャンネル)を変えてみる
 
読者諸氏はどのような実践を重ね生かしているであろうか。いずれにしても「井の中の蛙」「蛸壺思考」「世間知らず」「頑固者」…の類では、新たな考えを生み出すことは難しい。自らの可能性を粗末にせず「ポジテイブ思考・「多面的思考」で愉しんでいくほうが良い。経験則は現在の最高の方法、だからこそ経験則+改革(変える)が必要。そこにキャリが生きる。新たな具を造る貴方だからこその持ち味が生きる。

「よこすかしはかながわけんのなかにあります」が5.の正解でした。
 
転籍・就任・新任のご連絡、ご挨拶をいただく昨今である。ここまでの活躍実績(経験則)に誇りを持ちつつも、破る勇気で脱皮し、新たな活躍の年輪をお造りくださいとエールを送る。「貴方が○○だから」「貴方が○○になってくれたから」任を受命した時に心した自分の活躍像だ。

それは人生100年時代、当社(所)で今だからこそ残せる活躍の足跡である。それは自分史であり、企業の歴史の一コマである。そして、部下の活躍の楽しみ、働きがいを創造する働きかけである。それは生涯にわたって「あの時の○○さんのお陰です」と感謝される財産でもある。変化のときだからこそ絶好の機会として成せる楽しみである。
 
FIFAワールドカップでの日本チームの活躍ぶりに興奮し、その采配ぶりに学ぶ事も多い。受けた責任の成すべき目標に最善の戦術を施す事の決断、腹の座りには凄みすら感じざるを得ない。企業、行政、諸団体でも上に立つ人の見識の豊かさと、最善策の発想と、執着した目的達成で多くの人に喜びを提供することについては変わりはない。
 
今回、その一段高い管理職の舞台に上がる、そして楽しみ方について記してきた。決断と今後の活躍のヒント、あるいは日常の実践ぶりの確認の一助になれば幸いである。

 

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澤田良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
  http://www.hope-s.com/
  


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