谷口碩志の「会社は人から」第49回
「素直な心」
谷口碩志氏 (クリエイトマネジメント協会代表取締役)
従前にも記しましたが私は今から40数年前に経営団体に社員として入社し、将来経営コンサルタントになるべく勉強をしていました。
その団体の理事長が日本の経営コンサルタント界の長老としてご活躍されておられ、当時まだ社長をされていた松下電器(現パナソニック)の松下幸之助様と大変懇意にされておられ 数十回、数年にわたり講師としてご出講を依頼されていました。
そして、1974年(昭和49年)のことです。当時は稀有な特筆すべき出来事ですが やっと何とかご調整いただいたことと聞き及んでいますが、お話いただくことになりました。
当時30歳手前の私がどこでどのようになったか不明ですが、日本の政財界を代表する経営者として、リーダーとして国内外でご活躍でした。そこで、講演のお世話役として、約半日程、秘書の方は1名おられましたが 松下幸之助翁と2名で講師控室等 ご一緒する千載一隅の機会に恵まれました。
そして、公私にわたりたった半日足らずですが 多くの薫陶を直接に受けました(第2回の清話会のブログにその折の様子を掲載)。
その衝撃的な出来事は その後の私の公私における人生のそして、経営の道に対しての基本的な根幹をなす人生訓の、そして経営姿勢となって今日に至っています。
その中で一番今日まで私の公私の道のバックボーンとなっています松下幸之助翁の基本理念であられます「素直」についての記事があり 研修中によく活用させていただいています。
資料を御参考までにご案内させていただきます。
私自身は 今もって全く億万の一にもその域には近づいていませんが、「素直」について今回はご紹介させて頂きます。
■松下幸之助翁の「素直な心」について
「経営を進めていく上での心構えとして、大切なことはいろいろあるが、一番根本になるものとして、私自身が考え、努めているのは、『素直な心』ということである。素直な心を欠いた経営は、決して長きにわたって発展していくことはできない。
素直な心とは、言い換えれば、とらわれない心である。利害や感情、知識や先入観などにとらわれず、物事をありのままに見ようとする心である。心にとらわれがあると、物事をありのままに見ることは出来ない。物事の実相、真実の姿を正しくとらえることが出来ない。だから、判断を間違い、行動を過つことになりやすい。素直な心は、真実の姿、物事の実相を知ることができる。
経営というものは、天地自然の理に従い、世間大衆の声を聞き、社内の衆知を集めて、為すべきことを行っていけば、必ず成功するものである。その意味では、経営は必ずしも難しいことではない。
しかし、そういうことができるためには、経営者に素直な心がなければならない。雨が降れば傘をさす、それが素直な心なのである。それを意地を張って傘をささないということは、心が何かにとらわれているからである。それでは雨に濡れてしまう、経営がうまくいかない。
世間大衆の声に、また部下の言葉に、謙虚に耳を傾ける。それができるのが、素直な心である。それを、自分は正しい、自分の方が偉いのだ、ということにとらわれると、人の言葉が耳に入らない。衆知が集まらない。いきおい、自分一人の小さな知恵だけで経営を行うようになり、これまた。失敗に結びつきやすい。
素直な心になれば、物事の実相が見え、為すべきことを行い、為すべからぎるを行わない真実の勇気もそこから生まれてくる。さらに、寛容の心、慈悲の心というものが生まれて、だから、人も物も、一切を生かす経営ができる。また、どんな情勢の変化に対しても、柔軟に、融通無碍に順応同化し、日に新たな経営も生み出しやすい。
一言で言えば、素直な心は、その人を正しく、強く、聡明にするのである。正しさ、強さ、聡明さの極致は、いわば神であるといえよう。だから、人間は神ではないけれども、素直な心が高まってくれば、それだけ、神に近づけることができるとも考えられる。
素直な心といえば、一般の通念として、単におとなしく、従順であり、何でも人の言うことをよく聞き、良かれ悪しかれ、言われる通りに動くことが素直であると考えられている。
しかし、これは一つの面であって、本当の意味での素直さではない。いわば、消極的な素直さである。
本当の素直さというものは、もっと力強いものであり、積極的な内容をもっている。
すなわち、素直な心とは、ものごとの真実に対して強く現れる心である。言い換えれば、ものごとの真実を受け入れよう、とする力の湧いてくる心である。
それは正しいこと、真実なるものに忠実であり、従順な心であると思う。つまり、間違っていることであるならば、これを排し、そのものごとの真実なるを見究めて、それに従う態度である。
素直な心を身につけて、その心が高まってくると、一つーつの正しい判断がはっきりと下せるのである。言い換えると、他人の言を聴くべきは聴き、排すべきは排し、私心にとらわれ、自我に固執し、感情に走ることもなくなる。さらに、本当の是非を判断する動きが自然に生じてくる。
ものごとの実相が、あるがままに人の心に映じ、瑠璃の鏡のごとく、正邪善悪を映し出し、その映じたままを見てとって、それに対処する態度も、みずから明らかとなり、間違いなく、正しい道を歩むことができると思うのである。
また、素直な心がますます高まってくると、ものの道理が明らかになるばかりでなく、その行うところ、考えるところが融通無碍となり、いかなる障害にも行き詰まることなく、ついには円満な人格を大成し、悟りの境地にも達すると思うのである」
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素直な心とは、寛容にして、私心なき心、広く人の教えを受ける心、分を楽しむ心であります。
「素直な心になろう」という心がけ、気持ちにならなければなりません。絶えず、素直な心になることを念じ、各人それぞれが、自分の昨日の行いが、果たして素直であったかどうか、今日は素直な心が働いたかどうかを、よく反省することが大切であります。
ちなみにその折の講演の終わった後、司会者が折角の機会でありますのでと断って、参加者に質問を促されました。全国から集まった超優秀企業の500名余の経営者の中の一人が質問をされました。
「経営者として経営していく中で、一言で一番大切な事は何ですか」
幸之助翁が暫く考えておられましたが、関西弁で
「そうでんな。素直でんな」
私の脳裏に焼き付いています。
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谷口碩志 (たにぐち みつゆき)
昭和18年5月大阪市生まれ。昭和42年関西学院大学卒業後、3年間の商社勤めから経営コンサルタント会社へ転身。約9年間在籍、その間海外の企業実態調査のため欧米・中南米・アフリカ・共産圏・東南 •アジア諸国など40数回の渡航歴を数える。昭和53年、経営コンサル会社を創設、代表取締役に就任。
・クリエイトマネジメント協会 http://www.cmajapan.co.jp/
・谷口社長のブログはこちら http://blog.livedoor.jp/senba206/