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「新たな実現はその気で学ぶ力で決める」(澤田良雄)

鬚講師の研修日誌(49)
「新たな実現はその気で学ぶ力で決める」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役) 

 

 ◆新たな自分づくりは、想像と現実のギャップを受け入れることから
 
10日間の連休が明け、令和元年入社の新人も配属先職場で新たな自分づくりが始まる。

入社時の新人の魅力としての学ぶ力を本気に発揮し、想い描く一人前の社員の早期実現を念じN社の新人研修を連休前日に終了した。N社は工具類の国内トップメーカーであり、グローバル時代に対応した諸処の戦略展開している企業である。

最終項として受講生がまとめ上げた社員像の一例としては
・誰よりも先に挨拶するなど凡事徹底できる人
・5年先、10年先を見据える人
・指示こと項を確実に実行する人
・どんなことにも人を想う心で仕事する人
・当社ブランドを意識してどの企業からも信頼される人
・素直さ、誠実さを魅せる人
・日々エネルギッシュに主体的に活躍する人
・斬新な発想力のアイデアマン
・質問を出せる新人としての発言者
・対人関係は自らコミュニケーションを仕掛ける人
・不平不満を言わない協調性を持った人
・幅広い視野を持つ向上心を生かす人
……とまとめ上げられた。

担当者と共に小生等が指導したキーワードが多く組み込まれている現実に充実感がつのる。さーこれからが、この想い描く社員像を実像化する学びの本番である。

終講の挨拶に立ったN執行役員は、激励の言葉として、「情報を正しく得ること、そのためには、現地、現物、現実に直に触れることだと示唆し、社会性に富んだ人として新聞を読むことを奨める、そこには学ぶべき本の紹介もある」と述べられた。それだけグローバル化時代に対応できる広い視野と、どこでも通用する社員になり得る経験を積むことへの導きである。
 
そこで、配属先で社員像どう実現していくかに着目してすれば、まず覚悟すべきことはことは何か、それは想い描きの状況と直面する実態は必ずしも同様状態ではないことの受け入れが第一に上げられる。

「思っていたことと違う、こんなはずではなかった」との「まさか」の現実に出会うことは多い。この現実の受け入れの軟弱さが、世間言葉の「5月病」に逃げ込む要因の一つである。

ならばどうする。それは、直面する苦難は与えられた試練であり、本気で学ぶ絶好のチャンスとし、ピンチはチャンスと捉えれば良い。

掲げた社員像にあるように、学ぶ力のそれは、学生時代のように自ら選びの学びやアルバイトの経験則による考えとは異なる。それは成すことは選べないのが企業の活躍であることは承知しているからだ。

だからこそ、直面する場面に適応した本気に学びに取り組む楽しみとすれば良い。必ずや、目指す自己像の完成にその気が沸き上がり一歩の踏み出しを誘発してくれる。

◆学ぶ力の基は「その気になること」である
 
学ぶ力の基は「その気になること」である。このことは新人に限ったことではない。プロとは、さすがの能力を生かし成果を上げ、金を取る人と単純明快に意味づけているが、その能力を高めることは自分の時間と金で勉強することにほかならない。

即ち、プロになるその気は学びを欲することである。それは、自ら水を飲みたい馬が、池の水を飲むと言われる例話と共通することだ。だからこそ指導に感謝し、ものにする実践には自己啓発を惜しまない自然なる学びへの取り組むのである。
 
令和の新時代、新陛下のお言葉に「自己の研鑽に励み」、そして新皇后陛下のお言葉に「自己研鑽を積んで」とあった。新たな時代、新たな自分づくりだからこそ新たな学びの重ねによる新たな智恵を産みだし、その実践を成すことが時代と共に活躍を楽しむ術ということになる。

それには、次のような「気のストーリー」があることを確認しておこう。

まず、何事も「その気」になる思い入れが→学び心の「うずき」を誘発し、→「本気」となる、そして「根気」を助長し→やがて達成の「歓喜」を迎える。この「やったーできた」の成就は→「人気」を得ると言う論法だ。

まさに、信用、信頼をうるプロとしての実績形成の道筋であり、新人のみだけでなく、どのような社員にも当てはまる成長や、実績の過程である。成果を上げ金を取るプロの実力がここにある。
 
実はその気になって学ぶマインドの確立は各種研修現場で最も重視する条件でもある。それは、「その気にならず」の受講は、心ここにあらざれば見れども観えず、聞けども聴こえず、食らえどもその味知らずの状況になるからだ。

これでは研修履歴は上書きできても実効は得られない。とりわけ、自信がある人ほど自意識過剰、おごり、自惚れ感情がその気によるうずきの迫力は乏しいのが現状でもある。

学ぶことは変わること。従って「最近変わってきたね」といわれる周囲の評価がその証である。その事実を生む支援なくして、指導者の役立ちはないとの覚悟がそこにある。だからこそ、自信ある自画像を部分的にでも壊し、修正し、進化した自分づくりをその気になって楽しむきっかけ作りとしての研修の価値づくりの尽力である。
 
現状維持は退歩を意味する。それは、学ぶ側と育む側双方の向上を促していることでもある。体験例から2点記してみよう。

◆教えることは教わること、学びの力はここにもある

① 双方の学び合いは共に成長する

筆者が主宰する話力向上スクールは30年重ねて来た。会員の会費で講師料・室料などを賄い、実に熱心に学びに取り組む。その姿勢は自ら高めて行く緊張感と、演習を終えた後の笑顔に象徴されている。この実感が長年成長を楽しむ学ぶ場としての価値である。

勿論、学ぶ力は、指導者の施す指導力と場の環境と仲間相互の影響力によることも多い。だからこそ指導者としての責任を重く受け止め、たゆまぬ学びを実践し、回を重ねる上での新鮮さの施しに工夫を凝らす。不思議なことにこの努力は受講者に移り、学んだ内容を即実生活に生かし、その成果を報告スピーチとする受講者も多い。お陰で指導力の是々非々を自己診断し、より向上する一策としての貴重な場である。
 
双方に学び合い、共に成長できる機会は新人を迎え、育む職場、指導者の関係も共通である。教えることは教わることである。

② 学びの迫力に学びに感謝

刑務所内で服役中の受刑者が話し方教室で勉強していたと知ったらどう感じるだろうか。

かつての某刑務所の指導体験である。スピーチ実習が近づくと、緊張の余り、小用を催す人がいる。申し出ると、歩いて10メートルくらいのトイレに行くのに刑務官がさっと近寄り同行する。教室内では刑務官が常時、挙動を監視しているが、受講者からは、仲間の話を聞いて笑いも出る。実に、いい顔である。皆の目が驚くほど澄んでいる。こんな人がなぜ犯罪を起こしたのか。それとなぜ話し方を学ぶのか……その心意気は実習でのスピーチ内容に診ることができる。共通事項は「あのとき話ができれば」との悔いから来る学びへの姿勢が伺える。

例えば、
「大学を卒業し、希望の大企業に入社し、エリート街道にのった。しかし、思わぬ事態が発生し関与の疑いをもたれた。結局、疑いを晴らすことができず詰め腹を切らされて退社した。人生のエリートが一転、職を求めるがその件がからんで就職もできない。ついに飲食業界に身を投じた。そして……愛した女性に男がからんで罪を……もっと私に話力があったら……」
「冷静に話せる自分だったら暴力事件にはならなかった。将来、出所できることがあれば、二度と話すことで悔し涙を流したくない」
また、
「冬の寒さは、老齢の私には身に泌みます。罪を犯す少し前に、息子が結婚した。そのとき、親父としての務めであいさつすることになったが、自信がなく、先方さんにお願いした。来てくれた方々に、その後、お礼をいうこともできず、いまだに心に引掛かっている。一人ひとりを訪ね、お礼を言いたい。それが親のつとめでしょう・・・・」と。

……心の叫びを感じる話は胸を打つ。特に、親や子を語るときには、絶句もある。社会復帰して話す機会があれば、そのときのために・・・・・・と学ぶ力は強い。
 
会場までに数カ所の鉄扉を“ガチャッ”“ギー”と通過し、監視つきの教室に入り、坊主頭の受刑者を前にし、話す言葉、内容に、いつもピーンと張りつめた緊張感が今も蘇る。

思い起こせば、不自由な環境の中でも、その気になって学ぶ姿勢に強い刺激を受けつつも、ひるまず全8回コースを数年重ねたことは貴重な体験であった。お陰でより逞しさのある指導力を体得できたことに感謝である。教えることは教える相手に磨かれる。

◆新たな舞台での活躍に向けた学ぶ力
 
この時期、新人だけでなく、転籍で新たな活躍の環境変化で、新たな職務に携わる人もいる。また、昇進に伴う新たな職責への新たな学びにより、新たな活躍の術を見いだし、さすがの人気を獲得する楽しみを得る人もいる。その実現に向けては可能性を引き出し、鍛える学びを期していることであろう。それは誰しも、「あなたが来てくれてよかった。」「なってくれて良かった」との承認の欲求を持っているからである。まさにできてない自分からできた自分に成長させていく新たな舞台、キャストとしての学ぶ楽しみである。
 
先般、T福祉法人会のこども園でのマネジメント研修を支援した。T福祉法人会は本部制を構成し、4つの園を経営する「そだねー」で知られる都市でも評価の高い組織である。

当日、園を訪ねたとき、園庭で元気に活動する園児の姿に、微笑み心で見守る保育士の姿が目についた。それは育む人として納得できる活躍ぶりの姿である。実は受講者はその上に立つ育成現場のトップであり、運営本部による今後の活躍ステージを一段上に置く管理職候補として選ばれた人である。

開講で、本部H理事長からの新たな女性力活用の意向が示され、その最初の人としての活躍を期待された。従って、受講者のさすがのキャリアに基づく現場対応能力に経営センスと組織力をいかした園の運営統括者への脱皮の学びに熱が入る。

そこには新たな要請を正しく理解しつつも「不安・迷い」があることも事実だが、それを超えて自分の可能性を引き出しにもがいているようだ。研修会場では研修提案者のT役員と随時連携をとり、新たな人材活用策の実現に向けての新たな能力向上に尽力した。以後、受講者が自ら啓発目標を設定し、ものにしていく学びの継続策を支援した。
 
現在、社内で重きをなし、活躍している人はいずれも「迷い、不安」からのスタートであるが、学びの機会を生かし、以後、自らの学ぶ力により克服してきた人である。たとえ苦労知らずにみえても、その実は、水鳥の足のごとく、水面下での自己研磨を積んで蓄電し、且つ自己発電をする努力の達人と言える。

時には「まさか」の発生する課題に対しても、必ず問題から学ぶ力による解決策を見いだし逞しさを育んでいるのである。選ばれるからにはその秘めた可能性を信じてのことである。「今はできない。でも明日はできる可能性はある」――それは学ぶことにより可能になるからである。

◆人生100年時代、一生勉強。二つ目の名刺づくりも楽しい
 
学ぶ力は継続され、しかも右肩上がりに累積し、つきることのない成長する楽しみを与えてくれる。「一生勉強です」と発する言葉がここに生きていると言えよう。昨今叫ばれる人生100年時代であるから「一生勉強です」の言葉はより重みを持つ。

ならば、そのための学ぶ力はどう楽しむかを中高年層に焦点を当て提案してみよう。それは、決め手を持った存在感を持ち続けることにある。決め手とは専門力・特技・そして人間力である。

●専門力に関しては、現在の業務を新たな学びにより進化させることにある。熟練者研修で、紹介される具体的取り組みには、技能を理論づける幅広く、深耕させるために技術者、専門機関に訊ねる実践がある。そこには単にカンコツの熟練度を高めるだけではなく論理的理解をからませる能力づくりがある。

また、新規設備への好意心も高く新技術をいち早く身につけ若手に指導する意気込み持つ人もいる。それはIT・AI化への対応でもある。加えて国家資格への取得、再挑戦もある。

その方法としては通信教育、放送大学の受講に取り組む人もいる。そこには、将来を見据えて活躍の舞台が変わっても高度人材として、また指導者として理と技の持ちうる強味づくりへの学びである。併せて多様化時代に対応した専門分野の応用力の構築でもある。
 
まさに、生涯現役を目指すその気による自己研鑽力は見事である。「働き方改革」それは自らの能力をどう生かすか、その生かし方を主体的に決定する楽しさの実現である。売れる能力なくしてはその可能性は薄いことは明白である。

●また2つ目の名刺づくりを楽しむ学びもある。それは特技を生かした存在感づくりだ。紹介される実例でも、陶芸、特殊石を収集しての美術品創作、絵画、書の創作、茶道の指導、また作家、写真家、落語家としての名刺を持つ人もいる。あるいはスポーツ選手の経験からコーチ、監督、団体の組織運営に関する役員の肩書の人もいる。

ここには企業名刺でない2つめの名刺を持ちうる楽しみがある。現実に「教えてください」「創って下さい」との依頼される存在感は充実感でもある。しかし一朝一夕にこのレベルにはいかないのは当然の理である。

ならば、いつどのように体得する? その前提は、自己投資できる経済力の裏付けがなければ不可能である。現在の企業勤務だからこそ、この経済的保証は少なからずあろう。ならばこの条件を生かし、先に向けての学び、究める投資を課すことだ。自己投資だから学びのパワーは最高であるはずだ。

●人間力とは、専門力、特技を生かす前提条件である。誰しも依頼することの自由選択の時に「いやな人」を選ぶことはあるまい。現在の業務、家庭、仲間との親交、地域活動、奉仕活動の場は人から学ぶ絶好の機会である。「ありがとうございます」「おかげさまで」との交わす言葉は相手に映る人間力であり、自ら磨く人間力の証である。
 
令和の時代、一人ひとりが花を咲かせる心豊かな人生とは自ら描く絵であり、どんな絵に仕上げるかが学びの構成である。その気になって一筆一筆の工夫と最高の能力を根気よく重ねていくこのプロセスは想いの実現に近づく楽しみである。

たとえ思い通りにいかない辛さは新たな学びによる逞しさを得て、筆の強さとなろう。人に学び、現実に学び、喜怒哀楽の体験に学び、情報に学び仕上げた絵は世界にたった一つの絵である。
 
新人、新任役職者として学びを生かした製作過程、力作を微笑みを持って鑑賞する楽しみを指導した立場で期すことは嬉しい。

 

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◇澤田良雄氏

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/