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『上機嫌に振る舞う 70歳のたしなみ』(坂東眞理子著: 書評 小島正憲)

【小島正憲の「読後雑感」】
『上機嫌に振る舞う 70歳のたしなみ』  
 坂東眞理子著  小学館  2019年4月8日
 副題:「人は人、自分は自分」  帯の言葉:「“終わった人”にならない後半生の新生き方論」

私とほぼ同い年の坂東氏は、
「かつて私は女性に“品格”を持ってほしいとの思いで“女性の品格”という本を書きましたが、翻って今、高齢者に必要なのは“たしなみ”ではないかと考えています。自分の利益だけ、自分の健康だけを追い求めるのではなく、これからの世代を応援する節度や慎みを持って一日一日を積極的に生きる。そうしたたしなみのある高齢者には、おのずと品格が備わります」
と書き、
「せっかく健康で豊かで、判断力もいろんなスキルも持っている高齢者が、これからの社会はどうあるべきかを考えて政策提言をし、発言し、行動するのは必要なことである」
と、高齢者に奮起を促している。

さらに、
「70代というのは新しいゴールデンエイジ―人生の黄金時代である。最も人生で幸福なのはいつごろか-と問われたら現代では70代ではなかろうか。人生100年時代が現実となり、まだ多くの人は健康である。運悪く病気やケガで介護を必要とする人もいるが、大多数の人は、自分で動き回ることができる。まだ家族を支え、友人を助ける力もある」
「自分の人生を少し高い視点から俯瞰し、総括する境地に立って、続く80代や90代に備える心の用意ができる時代である。かつては60歳が還暦として人生の節目とされたが、今は70歳が人生の節目であり、次のステージへの出発点になるのではないか」
と書き、
「体力があり経験に富む高齢者が働かなくてどうする。超高齢社会日本は、“高齢者が社会を支えるモデル社会”として、世界の手本になりたいものである」
と、檄を飛ばしている。

その上で坂東氏は、
「70歳で行うべきは終活ではなく、しいて言えば老前準備というか、高齢期という新しいステージを生きるための準備の老活である」
「70代は死を思うよりまだまだ生を生きる時期である。終活より老活である。70歳でもう晩年、“今から始めるにはもう遅い”といろんなことをあきらめてしまうのはもったいない。おそらく10年後、20年後には“あの時に始めておけばよかった”と思うこと確実である。10年間一つのことに打ち込めば一人前になれると言われる」
「“ちんまりまとまろう”とする自分に挑戦して、まだやったことのないこと、自分の限界に挑戦する。この心意気があれば長生きは人生を豊かにする」
と書いている。
私も同感であり、70代から、まったく新しいことに挑戦している。

坂東氏は高齢女性の立場から、高齢男性に対して、
「一人暮らしをする能力があり、元気で身ぎれいにして女性に礼儀正しければガールフレンドがたくさんできて第2の“モテ期”間違いなしである。先にも述べたように高齢になるほど男性の数は減る。ハンサムでもなく、お金持ちでなくても、話題が乏しくても、希少価値はある。健康で身ぎれいにして、女性に親切を心がけ、女性の話をまじめに興味を持って聞けば同年代の独身女性、既婚女性から好意を持たれることは間違いなしである。“ばあさんにモテたってうれしくない”などと罰当たりなことさえ言わなければ、話し相手や遊び相手には不自由しない。サークルでも旅行でも、周りに女性が寄ってくる。それぞれの女性の人生に対する敬意を忘れなければ、本当の友情が成立する可能性も大きい。まかり間違うと恋愛さえ成立するかもしれない
とエールを送っている。

ただし、
高齢期の恋愛におけるたしなみはただ一つ。人様の恋路は妨げない。自己責任で楽しんで(苦しんで)もらおう
と警告することも忘れてはいない。

私は、人間の80代は、男女比1:4といういびつな社会であり、そこは人類の根本原則が通用しない異次元の社会なのであり、まさに、新哲学、新思想の世界ではないかと思う。そのような社会に生きられることに、そしてその新思想・新哲学の誕生に当事者として立ち会うことができることに、無上の喜びを感じる。ただし、そこまで長生きできればという話だが。

坂東氏は子育てに関して、
「私は団塊の世代が子育てに失敗した(ケースが多い)のは、史上初めて大多数の親が子どものほしがるものを買い与えることができる経済力を持ち、子どものために使う時間を十分持つようになったからではないかと考えている」
「そもそも親の責任とは何か。私は子どもを自立した人間に育てることだと思っている。自立できない子どもを支えるのが親の責任ではない。自立するまで甘やかさないという責任を果たすのが親である」
「自立した子どもを育てるのが老後への最大の備えである」
と書いている。

さらに坂東氏は、
「古代ローマの詩人ホラティウスも“多くを求める人は多くのものが足りず、つねに貧しい。少しで足れりとする人こそ豊かなのだ”(カルミナ第3巻)と言っている」
「他人の過去にも自分の過去にもこだわらないのが高齢者のたしなみである。気にすべきは過去ではなく、これからの日々で有言実行し約束を守ることである」
とも書いている。
つまり、道教や仏教でいうところの、「知足の精神」や、「諦観」のことを指すのだろう。

 

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清話会 評者: 小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化 市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を経ながら現職。中国政府 外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。