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「不信感、不安感の連鎖」を断ち切るために(真田幸光)

真田幸光氏の経済、東アジア情報
「不信感、不安感の連鎖」を断ち切るために

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

新型コロナウイルスの悪影響は甚大です。
そして、私はその根源として、
「不信感というウイルスが世界の人々の心に伝染、蝕んでいる」
と見ています。

言うまでもなく、私たち、人間社会は、
「信用」
によって成り立っています。
しかし、疑心暗鬼が続く社会にあっては不安、不信感が先行します。

平時には、
「信用創造」
と言う手段によって経済社会は拡大します。
ところが、この10数年は、
「人々に借金をさせて消費や投資をさせる」
という「行き過ぎた信用創造」によって、実体経済を上回る資金が市中に放出され、文字通り、
「バブル経済」
となっています。

特にこうしたバブル経済下では、実体経済に対して余剰となっている資金が投機性資金となり、これが先進国株式市場に大量に流れ込んでいる中、実体経済を背景とした、
「ファンダメンタルズ」
を基本としつつも、景気先行きに対する期待感などを中心とした、
「Market Perception」
が良いと更に、株価は押し上げられるのであります。

そしてまた、金融市場が安定的に推移する中、先行き期待が高まる状況にあると、投機家は借金をして、投機元本を更に膨らませて、投機をしていくという、
「キャリートレード」
を推進していきますから、株価はぐいぐいと引き上げられていくことになります。
 
ところが一点、今回のような、
「不信感、不安感」
がひとたび発生すると、先ずは、借り入れをして投機をしていた株式投資に実損が出る可能性が高まりますから、投機をしていた株が売られ、この結果、株価を下げながら、借金は返済されていくのであります。

このように、不信感、不安感は、株売りを誘導し、負の循環は拡大してしまいます。
上述した、Market Perceptionの悪化が、こうした事態を引き起こすのであります。

こうした中、米国の中央銀行に当たるFRBは、金融市場に、
「安心感」
を齎そうとして、更なる利下げをせざるを得ないと見られています。
しかし、多分、それでもこの不信感は止まらない可能性が高いとも見られています。

米国の基準金利はマイナス金利まで、後、約1%の余裕があり、こうした予防的オペレーションは可能でありますが、この「のりしろ」を使い果たすと、先進国株市場の負の連鎖はいよいよ止まらず、
「急激な信用収縮」
に入ると見られ始めているのであります。

そして、そうなると、先進国株式市場に流入していた、上述した「投機性資金」は一旦、市場からほとんど全て逃げ出す、即ち、少なくとも、リーマンショック時の水準までの株価水準に落ちる可能性が大となります。

これを、数値で示すと、
「日経平均株価は7,000円前後
米国ダウは8,000米ドル前後」
を覚悟せざるを得ない状況になります。

これはもう金融危機といっても良い状況です。

ところで、リーマンショックは、
「民間セクターの負債過多」
が引きお越した事態と言えます。
そして、リーマンショックと言う金融危機を改善しようと、各国政府が財政出動を伴う景気対策を打ち、日本を含む先進国の財政は更に痛みましたが、何とか、世界経済は回復しました。

こうして考えると、今は、
「公的セクターの負債過多」
の状況となっていると考えられます。
この間の一時期、ギリシャ財政危機や欧州財政危機などのピンチもありましたが、何とかその危機を乗り越えて今日に至りました。

しかし、今回、新型コロナウイルによって、これが弾けると、
「公的セクター」
が本格的に、世界的に痛む訳ですから、リーマンショック以上の悪影響、例えば、回復に時間がかかる、と言った事態となることは必至であります。

更に、そうなれば、国家に対する不信感が強まり、それが日本に来れば、
「比較的安心安全通貨神話」
を持つ、円までもが暴落してしまい、日本経済は、いよいよ、
「株安、国債暴落、急激な円安」
となり、日本の国家経済運営が滞る危険性が出てきてしまいます。
本当に一大事です。

しかし、上述したシナリオは全て、
「不信感、不安感の連鎖」
から発生するものであります。
従って、不信感、不安感の連鎖が起こらなければ、上述したような悪い事態は、
「顕在化」
しません。

更に、突き詰めて考えれば、今回の不信感、不安感の根源となる、
「新型コロナウイルス」
の封じ込めさえ出来れば、今回の危険は回避されるはずです!

だからこそ、私はその根源的対策となる、
「新型コロナウイルスの何たるかの科学的検証」
を行いつつ、
「ワクチンの早期開発」
と、
「その大量生産」
に一定の目途さえついてくれば、
「国際金融市場の不安も払しょくされる」
と考えています。
 
しかし、これに手間取ると、最悪の金融危機まで落ちる、また、金融危機まで至らなくとも、不安の期間が長引けば、
「国際金融市場の回復には相応の時間がかかる危険性も高まる」
と考えています。

一方、実体経済について、考えると、上述したような新型コロナウイルスの封じ込めに成功しさえすれば、マスクもトイレットペーパーなども心配しなくてよくなります。
まして、検査キットの開発はいらなくなる、そして、金融の問題が長引いていなければ、不安が払しょくされ、
「ひと、もの、かね」
が動き出し、実体経済の回復は思ったよりも早くなる可能性は十分にあると私は見ています。

だからこそ、今、すべきは、
「世界が力を合わせてワクチンを開発すること」
これに尽きます。
そして一言、新型コロナウイルスの問題を政治利用することは言語道断!です。

尚、私が認識しているところでは、中国本土は今、
「ワクチンの早期開発」
に全力投入しているはずです。
 
そして、一部には、
「中国本土政府は、新型コロナウイルスの根源は中国本土ではないと世界に訴えつつ、一方で、ワクチンを世界に先立って開発すれば、中国本土が、新型コロナウイルスから世界を救った、との論理展開を行い、中国本土にとって、災い転じて福となす、作戦に出るのではないか」
との見方も出てきているのであります。

日本は、世界は、今、瀬戸際に来ています。

混沌は深まるばかりです。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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