小池浩二氏の [継栄の軸足] シリーズ (50)
【戦うための武器を創る固有技術 全4回】
第4回目「業界になくてはならない価値ある会社を目指す」
小池浩二氏(マイスター・コンサルタンツ(株)代表取締役)
■経営の原理原則
経営の原理原則で、負債は売上高の30%以内が目安とされる。
目安があれば勿論、例外も時に生まれる。例えば、確約されている強い商品展開のための設備投資はこのケースに該当する。
私もコンサルタント歴29年の中で忘れられない会社がある。
売上高20億の企業規模で新規設備に22億を銀行から設備資金を融資してもらい、設備投資した会社があった。しかしこれは、ある大手コンビニから強い製品製造依頼に裏付けされた設備投資だった。
結果、この会社は売上高300億を超える、特定分野では日本一のメーカーに成長された(これは例外パターン)。
本日ご紹介する事例は、 売上高7億で負債9億の会社が一点突破戦略で業界シェア40%を確保する話である。
■ただ生き抜くことで精一杯
この会社は、建築業界で使用される防水系の建築資材を製造販売しており、全国の販売代理店を通して建築施工店に製品を販売している。
創業者からバトンを受けたばかりの後継経営者が孤軍奮闘していたが、リーマンショック(2008年)時は、先代が単独で行っていた不動産こと業の不良資産と負債を減らし、B/Sを圧縮しようとするが同時に先代との確執勃発。東日本大震災(2011年)時は、創業時からあった建築資材こと業部だが不採算こと業部であるため閉鎖した。
そして、一点突破をもくろみ、防水資材こと業部に集中し業績向上を狙うが、震災にて一部製品が作れなくなり、またこれから東北エリアの拡販準備をしていた最中であったが、この年は出鼻をくじかれ失速。さらには投資信託(東電株)が一気に暴落し大きな評価損を出すことになり、赤字計上は計画していたが見込み以上の赤字拡大になっていた。
この会社の認知度は業界内では高く、売れる商品を開発すると他業者に類似品やコピー品を低価格で作られ困窮していた。商品そのものだけに力を注いでいたため、それ以外の差別的要素はなく、類似品やコピー品が出ると価格を合わせるか、訴えるしか対処がなかった。
また、サ-ビス面では西日本エリアでのデリバリーの対応が改善できず商品は評価されても販売面では関西拠点の競合にシェアを取られていた。技術面に関してはニッチなカテゴリー分野のために浅くて広い知識を必要とするが、対応できる人材を自社で育てるには限界があり、これら問題を解決できる資金力もなかった。
とにかく、単年度の取り組みを描くのが精一杯で、来年、再来年どうなるか想像もつかない。もちろん、革新的なものに取り組むこともできず、毎年、関連商品を発売し既存の衰退部分の穴埋めが精一杯であった。場当たり的な行動と気合いだけでやってきたが、だんだん会社の価値が衰退していく未来だけは感じていた。
■業界の革命児になる!
そこで、場当たり的な発想を捨て、中長期的なビジョンを本格的に描いた。
それが、「業界の革命児となり、業界になくてはならない価値ある会社を目指す」という内容である。
そのために重点的に下記の内容を取り組んだ。
〇業界の標準化を狙う
ワーキンググループ(国交省の下部組織であり、官・学・建築防水の各主材メーカーの技術者が籍を置いている)を活用し各技術者の意見を踏襲し理想の製品作りを行う。尚、このグループには自社の競合先は一社もいない。
〇低価格粗悪品の排除
業界標準を設けることで粗悪な低価格品を排除していく。
〇問屋・販売店にファンを作る
販売先へ出向き製品勉強会の実施。そして各販売先に販促キャンペーンを実施。
〇施工店にファンを作る
クレームに対して逃げずに、全ての者が納得のいくクレームの対処していく。この姿勢を貫くことで販売先が自社の製品を安心して施工店に奨めてくれるようにする。
〇徹底的にライバルを突き放す商品力をつける
品質管理体制の向上、性能試験データの充実、生産方法や量産体制による価格力を活かす、施工者の作業性向上を図る。
〇誠心(社員力)……社員に対して理念やビジョンを共有、グループディスカッションによるコミュニケーションの向上を図る。
これら取り組みの中で最も大きく変革したことは、業界の中核に入るために各メーカーの技術者・ゼネコン技術者の研究会員団体に入り、情報収集活動を行ったことである。その成果として、業界標準値として自社の製品が確立されることになり、これに伴い製品設計をどこよりも早く着手できるようになった。おかげで競合が発生しにくい自社が基準になる市場を作り上げることができた。
その結果として、業界シェア40%を確保する企業に成長。
業界シェア率の参考例だが、
コンビニ業界 —セブンイレブン56%、
自動車業界 —トヨタ 42%、
アパレル業界 —ユニクロ 32%
なので、この企業のマーケットシェア率の高さがご理解いただけると思う。
■経営者としてのまとめ
これは、当時を振り返り述べられている経営者の言葉。
結論としては、自社の価値創造は業界における、オンリーワン・ナンバーワンを意識してきたことが大きいと思う。
よい成果を出すためには、良い戦略を作成することも当然だ。しかしそれ以上に、経営者が社員としっかりコミュニケーションを取り、一丸となって取り組むことも大切だと思う。
そのためにも、利益追求のイメージでだけではなく、そこに関わる社員の皆さんに関心を持ってもらえるように、その先の達成感を共有し,互いに喜び合う姿をイメージできるビジョンを作ること。そして、さらにその戦略とビジョンの整合性を理解してもらえることに努力するべきだと思う。
ご参考にしていただきたい。
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筆者 小池浩二氏が【中小企業に必要な経営の技術】の概論を動画で説明しています。
こちらからどうぞ → http://bit.ly/2NFrWHm
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