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「こんなときだからこそ」新たな強さを生み出す好機なり(澤田良雄)

鬚講師の研修日誌(59)
「こんなときだからこそ」新たな強さを生み出す好機なり

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆厳しいときなら思い切って転換、今は人手不足にびくともしない

〇「全ては笑顔のために」の企業文化

「いつもピカピカ」=磨け磨け自分を磨け、仕事を砥石に自分を磨け、を経営理念とし、「すべては笑顔のために」のビジョンを掲げているのは、総合ビルメンテナス業務・ビル管理業を営む株式会社A社である。創業から50年社員数240人の中堅企業として、いかような企業環境でもびくともしない企業の強さを持続している。

その源は企業文化の素晴らしさにある。先日、ここまで牽引してきたO会長から直話をいただいた。O会長によると、
「社員が満足して笑顔で仕事すれば、お客様にも満足していただけます。それは社会や地域に貢献する事となり、この流れが円を描くように循環していきます」
と聲高に熱くかたる。

〇本気で取り組む継続のすごさがそこにある

具体的実践に向けては、「顧客満足と従業員満足で日本一にの会社」を目指し、そのための社員研修を惜しまず実践し、お客様に「そこまでやってくれるの。ありがとう」との言葉をいただく会社、気遣い・気配りのできる会社の実現を構築している。

その取り組みについては「徹底した継続する凄さ」と称するにふさわしい。取り組み例を何点か紹介してみよう。

まず社員満足の取り組みは、社員意識調査の継続がある。この調査の特徴は、はじめの段階では大方不平不満、批判、勝手な要望の回答が多い。従って、「こんなに会社として皆のために頑張っているのに何でそんなこという、勝手なことをいうなとの」憤りの局地に陥ることが多い。

だからもう二度としない。O会長はここを超えて3回、4回と重ねる内に、社員から自ら何をどうしたいとの建設的回答が増えてくるという。「ここに本気で取り組む覚悟が試されています」と笑顔で語る。

併せて従業員と語らう社長塾では「夢の実現」を語り、各自の夢の発表と実践報告の機会も作っている。従業員の声に対しては「できることはすぐ実行」、今すぐできないことは「なぜできないか」の説明と「いつ頃までにするか」の約束をすることだという。

〇掃除はきれいな自分で、仕事に取り組む自分磨きなり
 
「いつもピカピカ」の実践は凄い。それは掃除の徹底である。毎日男性社員は1時間前に出社、社外の清掃、女子社員は30分前に出社、社内の清掃を行う。

「えっ、苦情はないの」、思わず声が出る。この意義を
「掃除は、自分をきれいにしてして仕事に向かう、自分磨きにも通じる。この価値の認識が大事」
と説く。従ってみな感謝の心で掃除を楽しんでいるそうだ。

O会長が付け加えて「採用面接の最後の質問はこの実践を紹介し、よろしいでしょうかとお聞きする。了承した人を採用しています」とユーモアを交えて話す。人手が欲しいから採用募集する事があっても、社の考え方の実現を徹底していく姿勢に揺るぎはない。

〇3定活動、これは凄い
 
次の実践例は、3定活動の徹底である。きっかけは、事務所内をお客様目線で改めて眺めたときに大きな書棚が7つ、各自の机上に置かれたコの字型(座席を起点に机上左手側、前方、そして右手側に書類、資料、筆記道具・事務用具など置かれた状態)に目を見張り、改善を決断したという。

実践は整理・整頓の徹底による無駄排除による探す時間ゼロ、各自持ちによる必要以上の保有数削減、個別情報保有の弊害等などに着目し、断捨離、物の個人保有から全体管理に、紙ベースからデータ化への移行に取り組んでいる。その方策の具体的実践が3定活動である。それは

①定位置に置く
これは決められた場所に置く事であり、場所、用具の置き場は絵図し必ず合わせる。そのためには物に矢印を記し、置き場所にも矢印を記し一致させる徹底ぶりだ。

引き出し内の実践は不要となった発泡スチールの板版を再利用し、ここに、鉛筆、ペン、はさみ定規の形をくりぬき填め込む方式である。終了時には点検し、収まっていないときには直ちにさがす。なぜなら日が過ぎては思い出すだけでも時間のロスが発生するからである。

この実践により机上の利用できるスペースが格段に広くなる利点にもなる。大凡の机上には、3/2がコの字型に用具箱、書類、書籍など積まれ、3/1だけが利用スペースになっている現状が多い。その上、どこにあるかと、探す時間に費やされているいることが現状だと指摘する。これでは生産性も上がらない。

「人も物も働きのある物は生きている ならば物も働きに出たら人と同じように元に戻る」、これがO会長の定位置の徹底の思想である。

②定品
これは全社で利用する機材、機器、材料等は購買メーカーを一社に限る施策である。それは、利用者が共有化できることから、個別での利用しないときの無駄もなく,全社で余分に持つ必要がない。また取り替え品など統一できることにより各自保有の必要がなく、勿論、購買時の価格交渉での有利性もあり、様々な優位なるサービス、便宜もお計りいただける。

③定数
これは決まった数だけを保有し、不足分だけ適宜埋め合わせ数だけ購入する方策である。従って在庫保管場所は不要である。各自はボールペン黒、赤一本づつ、ドライバー一本……と決め、余分に持たない、無くなったら新規に揃えることで良い、しかもボールペンでもペンでなく芯を取り替えるこのレベルでの補充である。
 
それに、紙ベースからPCデータ化の移行には各自がするのでなく、担当者を決め、社内一括しての推進を図った。それは分類、タイトルの統一を計り、共有化することにより確認事項時の利便性、担当者交代や退職者の後任時にも困まらないですむことを目的としてのことである。

人も物も働きのあることは生きている。利用されないときは死んでいる。

〇順調→低価格競争→思い切って舵を切る
 
実はA社は、創業後時代の良き波もあり順調に発展してきた。しかし、官公庁相手の取引方法のへの変革により低価格競争を迎えた。まさに窮地である。

「こんなときだからどうする?」……ならば、ここまでの官公庁主体取引から、民間向けに新たに舵を切ることを勇断する。それは、価格が高くてもお客様が選び続けていただける「理想とする環境を創造する」企業を目指しての企業経営である。
 
以後、徹底的に人、仕事の質の向上に尽力し、業界での「経営品質賞」の最高ランクを受賞など見事な発展経歴を重ねて来た。そこには「窮地、危機だからこそ新たな企業活動に変え」て来たともいえる。 

まさに「先を見据え、従来を素直に見直し、そこでの気づきに思い切った舵を切り、変える実践の継続の賜」といえる。そこには、「ものの働きに感謝し、良き働きの導きをする」ことにある。

◆改めの気づき、3つの生命の働きを生かす

〇新C型コロナ感染対応に、生命の大事さにきづく

勝浦市を先日訪問した。新コロナ騒動による武漢からの第一次帰還便での119人の滞在地として貢献した市である。例年ならビッグひな祭りで大きな賑わいの街だが、今年は中止となり静かなる街の風情である。

「今回の体験を通して生命の大事さを改めて認識しました」とは市長の開口一番のことばである。そこで、日常生活における生命とはと改めて問い、考察してみた。それは、人の命、物の命、自然の命ということになる。

見渡せば、勝浦市には自然には海があり、鰹の漁獲量は日本一であり、海中公園、海水浴場、サーフインもでき、農地、山林、魚、鳥類……もある。勿論風雨、空気,陽光……だ。物はひな祭りでの全国から提供されたものすごい数のおひな様、海産物の料理、佃煮、干物、神社仏閣、家屋、車両、武道大学、それにB級グルメで名をはせた勝浦タンタンメン……まだまだある。

そして、人の命(能力・心・感性)は実に多様であり無尽蔵である。この3つの命の働きが融合され、作り上げられているのが三大朝市であり、祭り、各種イベント、商店街、観光地などなどである。

これらは、市が所有する新たな対応策に向けてのパワーの元である。この力を魅せた一例が、今回の受け入れへの対応であった。国、県の要請に対して「人命を最優先します」と決断し、住民からの不安を超えて、寄せられた住民パワーによる滞在者への元気づけの行動は見事であった。この対応には多くの賛辞を贈られ、苦難解決の貢献ともいえる。
 
ならば、今後に向けての活力はこの地元が持ちうる自然の恵みと、ここまでに作り上げた誇るべき物と、秘めたる住民パワーの強みを一層引き出し、その強みを融合化した総力が新たな活力を成すであろう。それは、厳しさの克服を考えるとき「強みに着目する」姿勢が肝心であるということだ。

案外、良さを認めない、潜在するパワー、可能性を信じずの言い訳論の類いも多い。それではそれぞれの生命を無駄にすることであり、そこからは,新たな強みは創造できない。「こんなときだからこそ事実の良さに感謝」し、さらなる働きの生かし方を是非、心したいときである。「皆で」「一丸となって」とはこの切り口が前提である。

〇見えない人・物・自然の働きに感謝
 
こんなときだからあえて、人、物、自然を深めて見ることに心してみると、現実には見える人の働き、物の働き、自然の恵みには価値を見いだすが、見えない働きには案外無知であり、無関心であることに気づく。

ふと、小生が時計メーカーに入社した際、指導者から最初に言われた言葉が、
「この時計一個ができるまでには3,000人の人の心と、技と、知恵が詰まっています。その一人となるのが君なんです」
ということだった。3,000人の人の関わり……凄いことだと驚き、これから成す仕事の責任の厳しさを直感し、思わず「はい、かしこまりました」と直立不動で答えたことが脳裏に浮かぶ。

筆を止め、おもわず、かつて一躍をになったメーカーの愛用する腕時計に目をやり、「ありがとうございます」とつぶやいた。この指導者から施された経験談は、昨今注目される「全体最適」の言葉と同意味であり、新人研修時に引用する話題でもある。それは、自分ファースト、利己主義、マイペース等々の考え方と組織活動の一躍を担う社員としての覚悟への説きである。
 
このように、見える現物はここまでの人の技 、設備、環境、自然の恵みなどの見えない最高なる働きによる結実である。この価値を踏まえて経営者の学びでの朝食時には、
「雨土の恵みと、多くの人々の働きに感謝して、命の元を慎んでいただきます(いただきました)」
と言葉を唱和することである。姿勢を正して、丁寧にお辞儀を添える。この実践は特別なことではない。家庭、学校で重ねてきた習慣であるはずだ。

しかし、いかがであろうか……「こういうとき」だからこそ、じっくり見えない価値を見い出し、謝念を持って次なる最適条件の創造の機会に生かしたい。

◆被災地で掴んだ人生の転機

〇ミンミの笑顔が見守るこだわりの施設
 
厳しい状況、こんなときだからこそ人生の転機と熱く語るY社長とお会いした。Y氏は
「冬の白い雪が全ての汚れを消し去り、やがて春と共に新しい生命を生み出すという自然の営みがリサイクル=再生=ふさわしい」、この概念を元に環境・教育施設として開設した新庄市の「ヨコタ東北アメニテイセンター」の社長である。

建物にも命のぬくもりを与えたというこだわりの表現が建物の中央にデザインされたキャラクター「ミンミちゃん」(兎の顔立ちをモチーフ)の大きな顔である。遠方からも目に止まり、「あれ、ほんとにリサイクルの会社なの」と「不思議な気がする」と思う訪問者も多いとのこと。

「実は、このことがリサイクルに共感する優しい心を象徴していますので、センターとしては訪れる人たちを笑顔で見守っているのです」と語る。
 
そこには、Y社長の想いの強さがある。それは、
「美しい地球環境とかぎりある資源を守りたい。そのためには子供のときから”環境を大切にする心”育むための教育が重要であると考え、子供でも見学できる工場として楽しくリサイクルを学ぶための演出と芸術性を融合させた」
との想いの強さである。
 
この考えに共鳴し、演出と芸術性を存分に生かし切って実現したパートナーが、創作家のみのわむねひろ氏(育児ノートの表紙・本文、母子手帳イラスト、TV系キャラクターデザイン、レコードジャケット、企業CIデザイン,大手生保・乳業メーカー契約、京都府ランドマークのデザイン……を広く手懸けた。その実績の評価は燦然と輝く)である。

氏はY社長の考えの実現に向けて、キャラクターとしてウサギをモチーフにした「ミンミちゃん」を考案・デザインはじめ「ヨコタ東北リサイクルアメニテイセンター」建設の総合プロデユース、また商品・包装開発の広範にわたって献身的に取り組まれ、その姿勢にY社長も驚嘆、芸術家のすさまじい集中心に驚嘆したと語る。

ここに、Y社長の私財を投入しても完成させる信念と、みのわ氏の芸術家としてのこだわりと、集中心の凄さが最高に融合されて結実された偉業と小生はみた。ちなみにみのわ氏とは小生は30年来の交友である。

〇トップの信念と芸術家の夢の融合
 
訪問するとエントランスホールでみのわ氏が手懸けたミンミちゃんの大きな人形に迎えられ、次いでタテ3m×ヨコ9mの巨大なイタリアの伝統技法ガラスモザイクで仕上げられたミンミの絵に圧倒される。そして、みのわし氏の様々な分野での活動歴を紹介するギャラリーはじめ、各所にミンミの詩情豊かな絵が飾られ、清潔感あふれるトレーの再生工場を見学する心持ちは工場の冷たさは全く無く、むしろ温かみを感じる。そこに、案内者の親見に満ちたおもてなしの言動が加わり、これなら子供たちが来ても楽しく学べる教育環境であることが確信できる。

〇避難所で閃いた剥がせるトレー
 
起点に戻ろう。リサイクル商品はY社長が発明した「剥がせるトレー」である。それは「リ・パック」(食品を保管するプラスチック製品)にフイルムを貼り、利用後は洗う手間無く、剥がして回収、100パーセント再生し、フイルムを貼り再利用できる製品である。

この考案はどうして生まれたか、
「それは、阪神大震災時、避難所の出来事です。パック入り食べ物をありがたくいただきました。でもパックは洗えない。だから次に使えない。なぜなら水がないからです。そこで、ラップをかけて利用した。窮余の策です。しかし、食器を洗うことなくラップを剥がせばすぐ使える。これが多くの人に喜ばれ窮地を救う一端になりました」。
これを商品化したとのことだ。「辛苦は新たな幸せを生み出す機会」ということである。窮すれば通ずということでもあろう。

〇リサイクル・福祉・教育の合体
 
この新商品の開発を起点として循環に配慮した理想的なシステムは、利用→回収→リサイクル工場→とし、そこに福祉(障害者の雇用)そして、障害者の福祉に関わる携わる指導支援者の育成機関(大学学部新設など)→さらには子供への環境教育を踏まえた→アメニティセンターの建設、開設→地域の発展への貢献と全国展開の働きかけへと進展してきた。

環境と福祉、そこに教育をドッキングし子供への環境教育にとどまらず障害者の自立生活(勤労、納税営める)への支援としての指導者養成までも組み入れた。
 
このサイクルでのもう一つの注目点は、仕事の循環に公共事業企業とのマッチングである。即ち、商品の利用、回収にも大口顧客としての取引が成り立つことであり、障害者雇用の担い手としての期待でもある。

納得である。小生が研修で関わる企業でも障害者雇用による法的条件への対応は課題であるし、障害者雇用を主体と民間、施設でも仕事を作る、販売先を継続的に確保することはたやすいことでない。受注,販売先切れれば雇用継続はできない、ならば新たな職場を……といってもたやすいことではない。実に見事な経営手腕でもある。
 
Y社のこの取組みに対する評価は高く、循環型社会形成推進功労経産省大臣賞、資源環技術システム大臣賞、それに米国環境気候保護賞……多くの表彰を得ている企業でもある。
 
「あのときが私の人生を大きく変えた」とY社長は語り、「あのとき、人・社会に尽くす50代で迎えた転機、出逢いです」と意義づけたのはみのわ氏である。

◆「あのときこんなことがあったから」と未来で語ろう
 
現在は新コロナ感染による国難的状況である。事業経営にとっての影響は大きい。だからといって悲観的に陥っているだけでは未来はあるまい。

「禍転じて福となる」「苦難福門」との言葉がある。それは厳しい状況を超えて反転攻勢をどう仕掛けるかである。それは「こんなときだから」とそれまでの当たり前のありがたさと、当たり前となっている3ムにメスを入れ、思い切った打つ手を揺るぎない継続により習慣替えを実現することだ。

現状の辛さ苦難が、その解決、改善策を生み出す機会を提供してくれている。そしてその種を育て、根を肥やし、芽を吹き,茎、幹,枝を張るまでの育成を施し、花実の実りを得ることである。その過程では、他力を最適に取り込ことも厭わない度量が生きる。それはスピード、質を高めるうえでの得策だからである。
 
現在、地元経済団体でも,現況打破に向けての相談窓口を開設している。持ち込まれる当面の案件としての資金繰り、雇用継続、休校対応……に対して施される補助、助成策の活用支援に加えて反転攻勢に向けての支援施策もある。

小生も一躍を担いつつ、一人で悩まず「こんなときだからこそ、力を借りる,こんなときだから相互に支援し合う、こんなときだからこそ総力を結集して」の文言を現実化し活用する好機である。 

時を経て「あのことがあったから今がある」と誇れることはこの上なき幸せである。その起点は「こんなときだからこそ」の覚悟と新たな発想の生み出しに他ならない。こんなとき幸い得られた機会に感謝し、学びからの掴んだお役立ての提起である。

 

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
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