小島正憲氏のアジア論考
「新型コロナウイルスと死の三択」(前編)
—-感染死を正しく恐れよ、孤独死を甘受せよ
小島正憲氏((株)小島衣料オーナー)
1月下旬から、世界中を武漢発コロナウイルス(新型コロナウイルス:COVID-19)が席巻している。この新型コロナウイルスは、科学万能の現代社会でも、わからないことが多く、世界中がこの感染症の前に立ち往生している。
そして今、世界人民の前には、感染死・孤独死・餓死の三択が提示されている。しかも、この未知の感染症に立ち向かう世界各国の対応や結果も一様ではなく、アフターコロナの思想や政治、経済、社会体制などの世界地図がまったく新しく書き換えられる様相を帯びてきている。
かつて、ペストがルネッサンスを、結核が共産主義を産んだ。100年前のスペイン風邪の大流行はまさに第一次大戦のさなかで起こり、この時期を境に世界の覇権国は英国から米国にシフトし、もう一つの覇権国のソ連が誕生した。
もっとも、「ビフォーコロナが異常な社会であり、正常な社会に戻るだけ」と言う識者もいる。
1.感染死を正しく恐れよ
この新型コロナウイルスが流行り始めたころ、メディアでは、よく「正しく恐れよ」という言葉を耳にした。その根拠は、「インフルエンザなどと比べても死亡率が高くはない。死ぬのは主に、高齢者で既往症や喫煙経験のある人」などというものであった。あれから数か月を過ぎた現在、その言葉が間違いではなかったことが立証されてきた。
刈谷真爾氏は、近著『ウイルスに負けない生き方』(フローラル出版 2020年4月30日)で、
「COVID-19で亡くなるかどうかが、年齢や健康状態に大きく左右されることはいうまでもありません。亡くなる方の平均年齢が80歳以上であり(世界の平均寿命は72.6歳)、その年齢層における死亡率は7.8%、10歳未満の子供の死亡率は0.00161%になっており、天文学的に低い数字です(2020年3月31日現在)。
そして、COVID-19で亡くなる方の80%以上に心臓病・癌・糖尿病・高血圧などの持病があり、また喫煙者がかなり高い割合を占めています。
高齢者における、この7.8%の死亡率を聞き、極めて高いと思われるかもしれませんが、老人ホームなどで普通の風邪が流行ると、8%までの死亡率が報告されていることから、これも少し慎重に考えなければなりません」
「新型コロナウイルスは、高齢の方や重い生活習慣病を患っている患者にとっては深刻な問題であるが、それ以外の方にとっては、まず死に至らない病気だということである」
と、断言している。
小原雅博氏も、『コロナの衝撃』(ディスカヴァー携書 2020年5月25日)で、
「ヨーロッパの統計では、死亡者の99%が50歳以上であり、CDCによれば、10人のうち8人が65歳以上である」
と紹介し、その上で、
「感染症と経済の関係は二者択一で捉えるべきではない。新型コロナウイルスによる重症化のリスクが高いのは高齢者であり、経済の停止による雇用不安や収入減に直面するのは貧困層や弱者である」
と、明言している。
ここで私たちが冷静になって考えなくてはならないのは、「高齢者で既往症や喫煙経験のある人が、重症化し死に至りやすい」ということは、特別に新型コロナウイルスに限ったことではなく、他の病気でもそれが当てはまるということである。
同時に私を含めて、自堕落で飽食な生活を送ってきて糖尿病などに罹っている高齢者や、「百害あって一利なし」のタバコを吸い続けてきた愛煙家にとっては、それはいわば自業自得とも言える人生の帰結だということである。
炎上を覚悟の上で言うならば、
「新型コロナウイルスは、超高齢社会で悩む日本に、天が与えてくれた恵み」
なのである。
なぜなら、高齢者を一掃してくれるからである。
だから、人生を品行方正で貫き、清貧な生活を続けてきた高齢者は、新型コロナウイルスを過度に恐れることはなく、「正しく恐れればよい」のである。
それでもまだ、この新型コロナウイルスには未知の部分が多い。
たとえば、なぜ、東南アジアに比べて、欧米・南米・中東(バングラ以西)などに死者が多いのか(6月8日現在で、韓国や台湾は撲滅優等生だし、ベトナムは死者ゼロ、シンガポールは死者25人、ミャンマーでさえ死者はまだ一桁台である。なぜかミャンマーと低い山や狭い川を国境としているバングラデシュでは死者は846人超である)、民度・医療施設・人種・年齢構成・ウイルス変異・BCG・統計不備説など、いろいろな解説がなされているが、どれも納得できるものではない。
また、感染していても無症状者が多いこと、その無症状者が他人に感染させる可能性の有無、重症化の真因、第2・3波の有無、ロックダウンでの根絶の真偽などにも、正解は出ていない。スウェーデンの実験もまだ先が見えていない。
ダイヤモンド・プリンセス号の一件で名を馳せた岩田健太郎氏は、近著『新型コロナウイルスの真実』(ベスト新書2020年4月20日)で、
「たしかに従来の医学の世界においては、病気は早期診断、早期治療、正しく診断してただしく治療することが我々の持っていたスキームでした。しかし、こと今回の新型コロナウイルスの対応としては、このスキームは間違いです。我々の持っている従来の価値観や世界観を捨てないと、このコロナウイルスには正しく立ち向かえない」
と書いている。
つまり、ビフォーコロナの時代の科学万能思想からの脱却を説いている。
しからば、我々は、新型コロナウイルスに、どのように立ち向かえばよいのか。
原田泰氏は『コロナ危機の経済学』(週刊エコノミスト 6/2号)で、
「経済ダメージは小さくできる。感染症対策に1兆円使えば結果は違う」
「感染者を早く見つけて隔離できれば、感染者以外の人の経済活動は再開できる」
と言い、PCR検査費用や集中治療室不足、重症者ベッド不足、軽症者ベッド不足、医師不足などは解決可能で、
「私の費用の試算は、概算という恥ずかしいものだが、合計して1兆円をはるかに下回る。一方でコロナ対策の補正予算ではマスクの全戸配布に233億円、終息後のV字回復観光振興事業に1.7兆円を使っている」
と主張している。
私は、この原田氏の主張に、コロナの第2波から日本を守り、日本経済を救うヒントが隠されていると思う。
つまり、コロナの第2波が来たら、
「①多くの病院に発熱外来を設け、
②医者の判断でPCR検査を受けさせ、
③コロナ陽性の場合、軽症者は指定のホテルへ、重症者はコロナ専門病棟へ隔離し、
④重篤な状態に陥った患者は集中治療室へ運び、人工呼吸器やエクモで手当てする、
⑤集中治療室が満杯になった場合は若者優先とし高齢者は一般治療室へ戻す、
⑥75歳以上は自宅へ帰す」
という手順を取れば医療崩壊はしないと、私は考える。
だから、ロックダウンなどはしないで、感染者以外の人は、通常の経済活動を行えばよいのである。
もちろん、ビフォーコロナでは、⑤や⑥のような行為は非常識で非道徳とみなされる。したがって、アフターコロナでは、岩田健太郎氏の言うように、「我々の持っている従来の価値観や世界観を捨てなければならない」し、また高齢者もそれを甘受しなければならない。結局、ワクチンや治療薬などが開発されていない現状では、原始的とも言える隔離政策で乗り切ることが最善策のようである。しかしこれには、多くの問題がある。
2.孤独をこよなく愛せ=孤独死を甘受せよ
この2か月間、通勤時や社内での三密を避けるために、自宅でのテレワークが推奨された。それに応えて多くの人が、自主隔離状態に入り、自宅で慣れないテレワークに勤しんだ。その結果、今では、「やってみればできるもんだ」などという声も上がっているが、いろいろな問題も起きているようだ。
自宅で、一人で勤務するということは、会社のように他人の目を気にすることもないので気楽でよいが、反面、すべての行動を自主管理するということであり、規律を保って働くためには強い意志が必要である。とにかく人間は、放っておけば自堕落な生活に陥りやすいものである。若い女性の中には、ノーメーク・パジャマで終日過ごしてしまうということもあるようだ。
また、そのような生活に慣れてしまい、出社OKということになっても、元のスタイルに戻すことに心と体が抵抗し、出社拒否・引きこもり・うつ病という状態になる例も起きてきているという。つまり人間は、長く集団生活を営んで生きてきたので、突然、孤独な状態に押し込まれると、心身に異常を来すのである。
しかし、今後、テレワークが社会に定着し、再びコロナのような感染症が起きるということを想定すれば、このような孤独という状態に慣れなければならない。ビフォーコロナでは、孤独は否定的に捉えられがちだったが、アフターコロナでは、孤独を肯定的に捉え、「孤独をこよなく愛す」ことが不可欠となってくる。
また、新型コロナウイルスはデイサービスなどの高齢者施設で、集団感染を引き起こした。その結果、高齢者施設は一時閉鎖という事態に追い込まれ、そこに居た高齢者たちは自宅に戻された。高齢者も自宅での自主隔離と相成ったわけである。
そもそも高齢者施設に入っていた高齢者たちは、自宅でのお世話が限界となったから、そこに来ていたわけであり、若者たちのテレワーク型自主隔離とはわけが違い、自宅に戻されても、家族も本人も困惑するだけである。おそらく自宅に戻った高齢者は、そこで家族からも隔離され、寂しく孤独死していくのだろう。
高齢者施設で感染者が出ることは自明の理であり、この時点で高齢者は、自宅で孤独死を選ぶか、高齢者施設という姥捨て山に身を預け、そこで死ぬかの、二者択一を迫られることになる。
いずれにせよ、コロナで死ぬのは、贅沢病に罹っており、かつ愛煙家の高齢者であり、それは自業自得であると割り切るべきである。
そもそも団塊の世代以上の高齢者は、史上稀にみる幸せな時代を過ごしてきた。戦争に駆り出されなかったし、飢えも経験しなかった。その上、今まで、感染症の恐怖を知らなかった。だが、それらの幸せのすべては、次世代への借金の上に成り立っている。それをほっぽり出して死んでいくのだから、高齢者はどの結果でも甘受しなければならない。
若者たちは、高齢者がどうなろうと、気を使う必要はない。どうせツケを払わされるのだから。今こそ、岩田氏のいうように、「我々の持っている従来の価値観や世界観を捨てなければならない」のである。
(後編に続く)
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小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中 国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。