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「気配りのコミュニケーションが生きる」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(65)
「気配りのコミュニケーションが生きる」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

■0.5歳の成長は今年だからこその気配りコミュニケーションが生きた
 
今春入社の新入社員が半年余過ぎた。コロナ禍での半年ゆえ、入社時から思わぬ事態との遭遇であり、迷いと必死さの対応であった。それは、オンラインでの入社式、在宅勤務での新人研修など様々な想定外のスタートである。0.5歳の各社社員としての活躍ぶり、定着状況はいかがであろうか。
 
先日、建設部品・機器のトップメーカS社の新入社員フォローアップ研修に出講した。二日間の対面研修である。

会場に入室して直感できた空気に弾みがある。それは同期の仲間全員が参加できている、久方ぶりの対面に共に感じ合う安心と嬉しさである。

従って、終講時の受講感想でも、同期の仲間全員と会えたこと、活躍状況を交換できたこと、新たな学びの演習を通じて仲間との真剣な意見交換と協力ができたこと、更なる活躍に向けて互いに率直なる自己課題を出し合い、仲間のために真剣に対策を考え合わせたことなど、研修経過から得た率直な実感の声が多い。

そして、「この時期(コロナ禍)に、このような研修を実施してくれた会社、担当者、講師に感謝しています」との謝念が多い。多分に例年にないこの時期の研修実施に対する評価、価値感の高さであろう。

勿論 担当者の内定からここまでの期間、きめ細かな働きかけがあったことも事実。それは、事前打ち合わせ時に情報提供として頂く。具体的な施しは、内定時には、担当者と内定者、そして内定者と会社ぐるみで安心感を醸成し、入社後の受け入れの環境作りには、担当者と配属予定職場、配属後は担当者と職場指導者、新入社員と担当者間のきめ細かいコミュニケーションの施しである。

■コロナ禍だからこその一言のコミュニケーションが生きる

その方法は、メール、オンライン、電話、そして対面方式を最適ミックスしての実践がうかがえる。その元は、新人が不安感を抱かない気配りにある。

具体的には、
「レポートよく書かれてますね」
「調べを大分なされていますね」
「元気に学習していますか」
「わかりにくいことありませんか」
「先輩が褒めてましたよ」
「仕事に慣れてきたようですね」
「一人住まいはどう?」
「焦らなくても良いですよ、あなたなら必ずできます」
そして、
「先日、連絡頂いた、問い合わせされた……についてはこうします」
……各自、各様への気に掛けた一言のコミュニケーションなど、まさに、意思と心情とを汲み取る親近性と成長を共に確認し合える関係づくりがそこにある。

共に確認とは、新人自身が自信を重ねることであり、受け入れ側の成長支援と定着への安心感である。打ち合わせ時にはこの事実情報を必要範囲で紹介いただく。それは担当者と共に創り上げる研修の源である。

開講時のトップ講話でH社長は、
「当社は人のためにお役に立つ事を理念とした会社である。社員の立場によって具体的な取り組みは違う。コロナ禍だからこそ新人として『なんのために』『何をどうする』と考え、活躍してください。それだけ期待に応えることのできる皆さんである」
と話す。

そして、新人の不安感を察して、
「自分は今朝の朝起きに、ぐずつきがあった。まだ未熟さのある自分である。どうぞ、新たなことに挑戦し、もし失敗したら素直に認めて『巻き返す』、この気概での活躍を望みます」
と結ぶ。

自己のたまたまの不甲斐なさをあえて吐露し、激励する。新人の心持ちに気配りしての人間力豊かな見事な話の添えである。

■気配りのコミュニケーションが新人の成長の心の糧となる
 
このような環境下での新人の成長ぶりは見事である。一例を紹介しよう。それは、自身の人物像の表現に見ることができる。

まず、入社前に自分の人物像を一文字に表すと、
「笑」・「真」(真面目)・「助」(助け合いの精神)・「静」(静かな性格)・「新」(新たな挑戦)・「楽」(楽観的)・「聴」・「賭」(ここぞと言うときに勝負)
……と社内報で紹介している。

それでは、現在のあなたの「キャッチフレーズ」は、と問うと、その発表は、
「明るい心で実践する〇〇」「いつでも前向きに受け止める〇〇」「努力の〇〇」「一つ一つ楽しく取り組む〇〇」「確認第一の〇〇」「今日より明日の〇〇」「素直に訊く〇〇」
……との発表だ。

そこには、入社前の一文字を継続した活躍ぶりや、企業人に脱皮し、半年間の活躍で成長した誇りある自己像でもある。

勿論、独りよがりでなく周囲の評価を素直に受け止めての自己表現である。周囲の評価とは褒められた、認められた一言である。また、失敗時の「あなたならできる」と励まされた気配りある一言コミュニケーションに他ならない。

その一言は、新人の小さな自信の重ねを助長する士気高揚への肥料であり、一滴の水である。(〇〇は氏名が入る)

■経過を気に掛けた気配りのコミュニケーション
 
さて、気配りのコミュニケーションとは? ここでは、「不都合・不安がないよう経過に気を掛け、心情を察し、自然に湧き上がる欲求を受け止めての一言のプレゼント」と意味づけてみた。

これは新人に限らない。例えば、工具トップメーカーT社でのリーダー研修で紹介された実践例では、「部下の出勤時間、朝礼の対応状況」を可能な限りみる。
そして、
「いつも一番前で姿勢がきちんとしていて気持ちいいね」「お辞儀のしかたが最近丁寧になってきたね」「元気な挨拶OK」……。
時には、いつも早い出勤の部下が遅めになってくる、表情が暗い、下向き加減……その変化を「おやっ」と感じたときは、機会をみて「体調どうかな?」と問いかける。

この働きかけは、出勤時に限らず、仕事ぶり、対人関係等々の変化への、認め、称賛、あるいは問いかけの実践である。メンバーは「気に掛けてくれている」この受け止めに胸襟を開き、もしやの課題も早期解決の運びとなる。

小生の気配りも同様である。それは、研修過程での受講者各自の変化に着目し、
「Sさん、自然に敬語が生かされて来たことは素晴らしいですね」
「Tさん、アドバイスを素直に受け入れ、姿勢が改善されて私は嬉しくなります」
「Nさん、挨拶の号令のかけ方がきちんとした姿勢で活力ある声が良いですね」
「Iさん、リーダー体験での反省点がこの場面では、しっかりと改善してますね」
と経過をみながらタイミング良く一言かけていく。

その反応は、目を合わせ、良き表情で「ありがとうございます」の返しの言葉は嬉しい限りだ。この一言のプレゼントが信頼の絆を創り上げ、研修終了後感謝の挨拶はお役に立った研修の実感である。お役に立つ研修とは「変わる」ことへの支援だからである。

■欲求に応えた気配りの一言
 
「人の心持ちを察する感性の豊かさが我が社の宝です」と語るのは特養ホーム経営者のS氏である。経営者の学びの場でその経営観をお聞きした。

「ご利用者各人には各様の人生の軌跡(物語)があります。そのことをしっかりと受け止め、何を求めているかを知り、そのことに沿った知恵を生かしての介護の施しをします。それは、利用者様との触れ合いを通じて成していくことで、決して生産性を追うことではなく、感性で捉えての施しです。例えば、どんな年配の方でも認められたいとの承認欲求があります。この点を大事にします。ですから、良いところ、それは過去の話からでも、現在の行動でも、良いと思ったことは『素晴らしいですね』と笑顔で一言かけます。このときの利用者様の表情は美しいです」
と話された。

まさに包容力豊かで、愛情豊かなS氏の人間力である。「愛」この文字を分解すれば真ん中に心があり、上下の部分を繋げると受けるとなる。関わる人の心をどう受け止めるか。ここに気配りのコミュニケーションの元がある。

なぜなら、人は4タイの欲求がある。それは「認められタイ」「お役に立ちタイ」「成長しタイ」「好かれタイ」である。

従って「よくできているね」と一言かけられると、「認められた・役割を果たせた・失敗からうまくできる自分になった」との喜びに転換できる。「体調どうかね」と一言問い掛けられると「気に掛けていただいている、好かれている」との安心感が沸く。

いかがであろうか? コロナ禍で、対人による密なるコミュニケーションが難しいからこそ、この一言のコミュニケーションが重要である。それは、メールでもよし、電話でもオンラインの機会でも、少々のフリー時間や終了時に一言を掛けることは可能である。

「ありがとう」「頑張ったね」「さすがあなただ」「おかげさまで助かった」「良い考え」「あなたに任せて良かった」「よくできている」「連絡ありがとう」「大分よくなってきました「先方様(お客様)が喜んでいました」「どう、心配事、不安なことないかな……など、どれだけ気配りシャワーの一言を掛けているだろうか。

現在の業務遂行の場が物理的に一人であっても心が繋がっている、上司が見守ってくれている、きちんと活躍を評価してくれている、この実感が今だから欲しい、との声は周知の通りである。

■報連相時に一言必ず反応を示す
 
その機会の一つが「報連相」時である。「報連相」は受けるだけではない。そのプロセスでの努力に目をかけ、取り組み方、努力の認め、仕上がり状態、求めた指示事項の整合性等に着目し、褒め、更にこうすると良くなる等の示唆を加えることである。
 
この時期だからこそ、「報連相」、この対応の是々非々が以後の活躍の有り様をどうにでも決める。ここでの肝心なスキルは、心情の汲み取りである。

察しの通り、努力過程と結果に対して、褒められたい、認められたいとの欲求に応えた反応を示すことに他ならない。気をつけよう、きちんと聴いてくれない、単なる受け作業、いきなりのだめだし、もっと考えろ、との押しつけでは、せっかくの努力を分かってくれないとの寂しさに追い込む。

対面コミュニケーション機会が少ないならこそ、メールでの報告・問いかけ、相談にも、簡潔明瞭なる短文での反応から、オンラインの活用など無精せず気配りのコミュニケーションの実践に尽力することである。

■ 起業準備者への講師力の見事さ
 
新人同様スタートに立つ。それは起業を目指す人にも通ずる。

現在、地元の創業塾の講師団の一員としての活躍は、受講者各自が起業・ビジネスにミッションを掲げ、その成功のスタートに向けての研修である。

講師団は経営計画、マーケテイング、財務、税、労務の専門分野で活躍の士業者での編成である。必ず成功へと導く講師各位の指導は厳しいながらも温かみを要している。従って、その過程での演習では、是々非々での言葉を効果的に生かし、良き点は認めの言葉、不備事項については「あなただからできる。ここをこうすると良い」と起業業種の特性、本人のキャリアと想いを最適に生かした指導は見事である。

小生は対人関係、ビジネスコミュニケーションの担当だが、回を重ねる過程で掴んだ各自の良さに気を掛け、必ず一言の施しの実践を怠らない。それは「Kさん、前回この点での良さがあり、今回は更にこの点での加点がありますね」と、演習状況、一日の受講生活での行動状態、受講者間での気配り交流等々、創業後の活躍(想定)とリンクさせて声がけをする。

だからこそ、講師、受講者、受講者間、主催団体トップとの連携が見事に構築され、4ヶ月にわたる一日×6回の連続研修は成功裡に進む。そこにあるのは互いに生かし合う気配りの施しの強さである。

■良さの発見と施しの11ポイント
 
ここまで、気配りのコミュニケーションの実践は、「良さの発見にもあり」と記してきた。

その良さの発見は褒め上手の極意にも通じる。改めて褒め上手の「いい人11ポイント」を確認してみよう。

① 本人の日常の仕事ぶりや成果を客観的に感じ取る。
② 事実にもとづいてほめること。ありもしないことを気を引くためのほめネタにしない。
③ 口先だけではなく、心からほめること。言葉は心の表現、言霊がそこにある。
④ 早い時期にほめること、本人が忘れた頃になってほめても、受ける喜びは薄い。
⑤ 地味なことでも、続ける行動にも目を掛けていく
⑥ 失敗の克服に取り組み、小さいながらも改善点が見えたことに着目する
⑦ 目標、指示事項への取り組み経過で良き条件が見えたときにはすかさず声がけする
⑧ 他人との相互比較でなく、本人の重ねて来た良さを絶対評価とする
⑨ あれこれ一度に並び立てない。何を認められたのか理解しがたい。
⑩ その努力をさらに続け、長所を伸ばすように励まし、必要ならば今後、より成果を上げるのに参考になる手がかりを与えること。
⑪ 非常に努力したにもかかわらず、成果が期待通りに上がらなかった場合は、本人の努力や工夫した点について着目し、その認めの一言と、今後の成長の期待感を述べ激励する。

S社の研修終講は、受講者間でエール交換とした。その方法はプレゼントカードの活用である。プレゼントポイントは「良いと思われる点は」「今後の活躍に向け一言」の2点の記入。同期の仲間だからこその真摯な一言の記述である。そして、共に交換し、共に読み込み、互いに感謝の言葉を交わしての結びである。多分、このカードは生涯の宝物になろう。
 
コロナ禍だからこその心の通わせ、仲間の素晴らしさ、上下の人間味の豊かさを感受し合うことが重要。気配りの一言のコミュニケ-ションはその実践である。

 

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/