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「“何のために”この確認・問いかけを生かす」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(71)
「“何のために”この確認・問いかけを生かす」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆新入社員への第一の問いかけ 
 
O県法人会の本年度の新人研修に出講した。15年間継続してのお役立てであるが昨年はやむなく中止であり2年ぶりである。受講者は68人、県内中小企業の新人であり、製造、諸サービス、IT関連、自動車関連整備、営業など業種、職種は多種多様である。

会場は感染防止対策を完璧に成すことから一机一人がけの整えであり広大である。従って、1日研修をいかに楽しく学びあえるか、「何のために」の実施目的に向けて、その実効に向けて細心の気配りと研修スキルを駆使して取り組んだ。

まず、受講者への最初の問いかけは「あなたは、良い職業に就きました」「あなたは良い会社に入社しました」<いかがですか>と2点を問いかける。しばしの沈黙をおき再度「いかがですか」と確認する。無言の反応は様々である。

コロナ禍での就活であり、内定に安心し、そして晴れて入社式を迎え、「良し! 頑張ります」と覚悟を決めての企業人としてスタートした。以後3~4週間過ぎたが各社の感染防止対策の対応により、出社あり、在宅勤務あり、施される研修もオンライン方式も実施されてきたこともあり、多分に理想と現実のギャップに戸惑いもあろう。

だからこそ、原点、初心を再確認するサポートとしての質問である。ここでの原点・初心とは、「この仕事に就きたい」との志である。そこにはこの仕事をするのが「好きだから」とのワクワク感あふれるみなぎりの活力を秘めていただろう。それは、真意の程度の差があろうが、面接時でも履歴書に記した内容に結びつけ、強調し、思わぬ質問にもどうにか答えていた。そして、入社時の自己紹介でも、「その志(夢、目標)の実現のために頑張ります。どうぞご指導お願いします」と挨拶もしたであろう。この回帰を促すことにある。

受講者に目配りをする。すかさず、「あなたとあなたは、小さく頷きました。会社名とお名前を紹介して下さい」と依頼する。戸惑いながらも「Pホテルの◎◎です」「Dガス(株)〇〇です」ありがとうございました。皆さんお二人に拍手をお願いします」とお願いする。「さて、この二つの問いかけを“何のために”したかと言いますと……」と話を進める。

●ふっと「こんなではなかったな」と思ったら初心を確認せよ
 
「それは、入社後の現在、『こんなはずでなかった』『つまらない』『辛い』などに類した心持ちがふっと沸いたとき、この自己対話を生かし、心機一転することを望むからです。でなければ、迎えてくれた先輩、関係者は寂しくなろう。それは、先輩自身の入社時を思い起こし、後輩へ期待し、早く一人前になるようサポートしようとの楽しみがなくなるからです。
お二人のうなずきには、先輩が思い起こす新人の魅力としての素直さ、誠実、一所懸命さ、イキイキさそして学ぶ力が見えていたからに他ならない。もし都合良く、面接、挨拶時、その場での作り上げたストーリーであっても、受け止める側はそうではない。口にしたこと、文字で記したことは約束であり、その実践する責任でもあります」
と確認する。

そして、もう一方の切り口から「お二人は、会社への貢献をしました。なぜなら、会社のために頑張りますと発言したことの実践だからです。先ほど会社名を紹介しました。このことは、会社名を知っていただく、しかも評判を高める貢献だからです」と説く。
 
従って「今日一日、単に学ぶことでなく、会社への貢献を楽しみ、明日、研修報告するときには、宣言した初心を、このように実践し、会社にお役立ちしました、と話してみよう。学校は授業料を払って学ぶ機会、企業は給料を保証されて学べる機会である。だからこそ『学ぶ』とは新たな実践を加えて貢献することを楽しむことです」と受講の動機付けをする。

◆新人だからこその貢献が楽しめる10条件
 
そこで、初心を元に活躍する次の10条件を提示し、すでに各社で指導されているであろう内容のフォローヘと進める。

①注目の中で新人としての華となる
(華とはイキイキ、挨拶、笑顔、熱心さ、一生懸命、学ぶ意欲そして素直な人柄)
②今できることの最高実践を重ねること
(あのときにやっておけば良かったとの悔いは絶対につくらない、それは自分を粗末にすること)
③基本能力は徹底的にモノにする、それは100点満点なり
 (プロも元はアマだった。それは基本の完全マスターの専念から……。)
④プロとは、さすがの能力→を生かして成果を上げ→金を獲る人
(能力は人材〔履歴内容・今後の指導〕、成果は実績、その評価によって賃金は決まる)
⑤仕事は選べない、ならば適性はつくるモノ
(向いているかいないかではなく、モノにする挑みが、やがて適性をつくり、好きになる)
⑥人は選べない、ならば苦手な人こそ、こちらから心を開く
(単なる印象での好き嫌いは御法度。異なった持ち味の人だからこそ学べる)
⑦解らなかった訊く、困ったら相談する、その素直さが「不安なし」「ミスなし」の極意なり 
(見栄を張る、未熟なことの自覚なしは、ミスを生む、ストレスを抱える基)
⑧叱ってくれる人に感謝、本気で育成してくれる師匠である
(指導者の鉄則は指導した事ができれば褒め、駄目なら更なる期待でびしっと叱る。)
⑨マナー知らずは嫌われる、ビジネスにはネックである
(先輩、上役、お客様を敬う心が、言葉、振舞い、表情の品格をつくる)
⑩早く一人前になるとは、専門力と人間性の両立
(自分だけで成長できない好感度高い新人、だから育てがいがある、当然専門力も高まる)
 
以後の研修経過では、この具体的内容を講義、全体演習で確認し、目に止まる事実について取り上げ、10条件と結びつけていく。

例えば、メモする受講者に着目し、企業名と名前を紹介いただき、他にメモしていた人はどなたか挙手願い「この人たちに拍手していただく」。

なぜ拍手をいただいたのだろうか。それは、メモすることは解っている、できる、でも実践しなかったら自分を粗末にすることである。それは「今、できることの最高実践を重ねる」ことである。また、演習ヘの協力依頼をして、舞台に上がっていただいた受講者には「一分間の自己紹介をどうぞ」といきなりお願いする。戸惑いもあるが、一所懸命スピーチする。終えた瞬間「〇〇会社の◎◎さんに拍手を」と皆に声がけし拍手をいただく。すかさず
「このことは、『仕事は選べない、ならば適性をつくり、好きになる』との実践です。入社後好きなことだけできるわけではない。『なんでそんなことしなきゃならないんですか』と反論し、未熟な自分に甘えたら愚痴、不平不満で相手を責め、自分を正当化することになる。
「先ほどの〇〇さんの「解りました。頑張ってみます」この向かい様が今後生きてきます。それは、
『やってみたら案外できそうだ、なんか面白そうだ、そうして続けていく内に好きなってしまいました」
と話す先輩は多いからです。
『皆、自分がやればできる可能性を持っているのにそれを生かすことをしないことも自分を粗末にすることです。プロも元はアマだった。本当は、好きなことができる楽しさでの就職でないならば、今、与えられた業務に、よし、やってみよう、私もできるかもしれない。ここから出発するとよい』
と小生も、演習依頼した心持ちを「何のために」と関連させての話を施す。受講者の徐々に強まる目線が楽しい。

●入社動機あれこれ入社後あれこれの話題はあるが……

承知の通り、最近の入社動機は、安定志向、勤務条件が楽である、福利厚生が充実している、無理しないこと……が大方であり、この仕事をしたいからとの職業観はない人が多いとの世評があることも確かである。

しかし、本当にそうなのだろうか。それは、学生の学びの範囲、ネット情報による推論での学生の学生説であろう。入社して現実にそのような事実がどれだけあるのだろうか。三日で退社、一週間で退社、3年で3割退社などの面白さの情報に、大事に育てよ、パワハラはするなとの指導環境の課題が、アルバイト学生から企業人ヘの脱皮できずの新人の輩を生み出す要因になっていないだろうか。

もし、ミスマッチな新人ならば、制度化されている試用期間中にお引き取りいただくことが得策である。なぜなら、新人が退社したからと言って企業活動は止まることない。厳しいですというならそれは、職場を強くする絶好の機会である。例えば、業務方法をIT化の活用、一人多種作業の多能化、真に必要・不必要な作業の再仕分けなど現陣容での打つ手はあるだろう。働き方改革のコロナ禍対応と併せて考えるのもよい機会でもあろう。

◆育てられ上手・叱られ上手の具体的実践を伝授

研修中で、居眠りが出る受講者が出ることも事実である。小生の手腕不足もあろうが本人に悪気はない。入社して1ヶ月、慌ただしく動き回っている日々、久しぶりに座っての時間が続く。体の疲労も重なり、日々の生活のリズムが学生時代の夜型から、入社後朝起きし、緊張した日常型に慣れてきた時期。多少の緩みも出てくるのは当然。従って、本人の意思なしでのこっくりである。

すかさず、舞台からその席に行き、じっと見つめる。隣の同社受講者に合図を送る。同僚がトントンと肩叩き、声がけする。「会社の評判を落とすのではない!!」と小生の大声が響く。「すみません」と素直に頭を下げる受講者。目と目を合わせて「良いね。自分と戦ってみよう」と声がけする。

なぜ、このように大声を上げたのだろうか。10カ条の「叱ってくれる人に感謝、本気で叱ってくれる人に感謝」と関連させ、一瞬の気の緩みが仕事のミス、事故を起こすこともあり、ましてや、コックリの一秒をみた社外の人からは会社の信用を損なうことにもなりかけない。新人も企業の看板を背負っていると説く。企業名は問わない。その後の彼の受講態度ヘの頑張る取組みに目をかけ褒めることを施すからである。そして、早く一人前になるための、育てられ上手としての講義を施す。

① 必ずメモを取る→自分のテキスト→生涯の財産
② 反応を示す聞き方で(返事、うなずき)最後まで聞く
③ わかった意思表示と、わからない(理解できない、不明、不安など)ときには訊ねる
④ 技能の指導は、指導者が「やってみせる」「言って聞かせる」「させてみる」「後を確認する」とのステップで進む。従ってよく観察する。でなければ、いざやってみてもできない。
⑤ やってみたその評価は素直に聴き、OKポイントは自信に繋げ、100点満点まで究める
⑥ 任され、一人実施時でも、不安、おかしいと感じたらすぐ、連絡し、指導を受ける
⑦ 復習、練習を自ら繰り返す。プロは自分の金と時間で勉強する
⑧ 教えていた直後は「ありがとうございました」、1日終わったら帰り際「ありがとうございました」、誉められたら「ありがとうございます。ご指導のお陰です」と謙虚にお礼の言葉を返す

そして、落ち込まない、叱られ上手として次の7条件をテキスト活用で講義する。
① 叱ってくれる指導者は本気で期待してくれている証なり、感謝の心で受け止めよう
② 叱りとは、自分なりに一生懸命やっていることは事実、しかしどうして失敗するのかを知り、正していく機会、だからこそ、成長のステップとして活かす
③ 指導者は、新人ができないことはさせない。できていない自分を素直に認め、ふくれたり、反抗的にならずに、まずは詫びることから受け止める
④ 終わりまで良く聞き、途中で弁解はしない。釈明したいときには、話がすんでからする。ただし、都合の良い言い訳や、責任転嫁の言い訳はタブーである
⑤ 相手が誤解しているようであれば、その点は明確に解いておく。穏やかに説明し事実を理解していただき、誤解されたことへのしこりを残さない
⑥「わかりました」とはわかる→変わるとの意味。二度と同様な事態が起こらないよう、行動改革(仕事の仕方、言動の実践、向かい様)を必ずすること
⑦ 安易にパワハラなどと決めつけない。その言葉に逃げることは未熟さの表れである

◆指導時にはそのことが「何のため」「なぜ」重要かを丁寧に説く

受講への取組み態度は素直、一所懸命、学び取る意気込みが派手さは目立たないまでも秘めている受講者が大方である。貴社に入社社員も同様であろう。
 
そこで、指導時にも「何のため」「なぜ」そうするかを施していただきたい。
まず鉄鋼所N社協力企業での研修現場で若手指導での実践例として次の9項を紹介してみよう。

① 自分が習う立場で教育する。そこには「なぜ」「どうして」の説明を丁寧にする。
② 概念や仕組みが、どうして決められているかきちんと教える
③ きちんと説明し、実際にやらせて、ほめて、自信を持たせる
④ 何を意識して行うか、何のための方法や装置なのかを説明、十分な話合いをする
⑤ 自分の知りうる体験から、その必要性と理由に基づく対処方法を施す
⑥「決まりは守らせる」そのためにも、その必要性を教育すると同時に自分が模範となる
⑦ 聞いてこられやすい雰囲気を日頃からつくっている
⑧ 若い人は、ほめると自信がつく、教えたことがきちんとできればほめている
⑨ ただこうしろといっても不服なようだ。論理(仕組み、理由など)を説明している

共通しているのは、ただやり方だけの指導でなく「なぜか、どうしてか」の説明をしっかり指導していることである。正しい仕事のできる育成には、ハウツーでなく「なぜ・どうして」のハウ・ホワイの指導実践であり、「なぜできない」「そんなことは言わずとも分かるはずだ」と攻める前に、それは「何のため・なぜ」の指導無精にありはしないかの確認にある。

◆「何のために」この真意追求を怠らないこと

「何のために」の追求は、新人指導だけに限らず日常の業務推進でも不可欠である。

建築機材国内トップメーカーのS社H社長は、経営者の学びの場で「コロナ禍だからこそ、改めて業務の現況を再点検し、今後のよりよい企業活動を構築するよき機会である。そのキーワードは『何のためにそれはするのか、なぜしているのかの真理の追求にある』と提起した。

その真理とは、経営理念であり、それに基づく戦略との整合性の追求である。とのことだ。案外、そうしてきたからとの既成概念での取組みでの多忙を極めはなかろうか? との課題提起である。

周知のとおり、昨今の企業の取組み事例にコロナ禍でのオンライン、テレワーク、ZOOM、リモート推進での利点にこの類いの取上げが多い。H社長は「なぜの5段階」で変えることの企業活動を推進し進展の業績を重ねてきた手腕は高い。だからこそなぜの原因追求型から「何のためにそうする」との原点回帰に基づく一段と次ぎの高めに向けた活動への取組みである。

そのためには、更なる人財育成が不可欠とし、一層の「人だから持ちうる力」の最高活用とDXとの融合に力を注いでいる。「何のためにそれをする」まさに、この企業環境だからこそ問いかけたいことである。 その支援策としてアフターコロナに関する国、自治体の支援活動も多い。

◆「何のために申請する」それはアフターコロナの企業進展の実現だから

この活用に向けて、地元商工会議所主催で「企業再構築補助金申請対応セミナー」を開催した。小生役どころの部会での実施であり、時節柄多数の受講者が熱心に聴き入った。講師は中小企業診断士K氏が担当した。K氏は家具メーカー企業経営者であり、受講者の立ち位置に即した指導に定評がある。

そこでの強調は「なんのための申請か」それは、「現在の強みを近未来に向けて生かす絶好の機会として再構築し、より発展を期すためである」と軸付けした。そのためには、SWOT分析で強み、機会をきちんと掴みだし、この実現に向けての再構築の着目ポイントを明確にする。そして、実践策として、新たな製品(商品・サービス等)の開発、新たな販路開拓、新たな顧客創造するストリーを明確にし、利益創出の数字を示しての経営計画書の作成を説いた。制度説明、構築への取組み方法、申請方法など十分な準備を整えての講義は理解を高め、修了後K講師への質問、相談が多く寄せられた。

「何のために」。何事も、目的をきちんと踏まえての最適な論理構成による説得力を持つストーリーがどうしても必要な昨今である。コロナ禍での「学びの現場」で掴んだ「何のために」との言葉に着目して記してみた。コロナ禍だからこそ、個々に、また大勢が方向性を共有化して実を産み出す源は、この「何のために」を本心、本気で探り、現場、現実から掴み出した論理的データーを元に、成すべきことを提案し「なるほど」との理解・納得を得ることが肝心だと確認できた。そこから、アフターコロナに向けた新たな活力が湧き出すのであろう。

 

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/