【新型コロナ時代を生き抜く人事評価】
第13回「定期昇給時の能力評価の仕方」
蒔田照幸氏((株)賃金人事コンサルティングオフィス代表取締役)
多くの会社で、4月になると定期昇給が行われ新基本給になる。ここでは4月に定期昇給が実施されるのは3月決算の会社だけではないことに留意して頂きたい。確かに、決算月が9月だと10月、あるいは社会保険の標準報酬月額に反映させないために7月に定期昇給をしている会社もある。だが、昇給時期は、世間の多くの会社で昇給が行われる4月が、社員のモチベーションアップという面からも最も効果的である。
ところで、この定期昇給も、これまでは年功型で全員同じように昇給してきた訳であるが、能力主義の定期昇給を実施しようという昨今、そんな訳にはいかない。能力別に昇給をする必要があるのだ。
今回のテーマは、この昇給時の能力評価の仕方だ。今でも、大手企業も含めて行われているのが、2月あるいは3月に、被評価者その人を見て、能力評価を直接実施するという方法だ。「能力を直接評価する」というのは一体何を見て評価するのだろう。これで正しく評価できれば、それに越したことはない。だが、直接評価というのは、あまりにも評価者の主観が入り過ぎていて、その評価結果は使い物にならない。
少し話がよそ道にそれるかもしれないが、こんなことがあった。採用に活用できるAI技術を開発したという話があったので、コンタクトをとり、会って話を聞いてみることになった。当社が、人事コンサルファームだと知って先方も大いに関心を示され、当オフィスにもデータサイエンティストの方たちが二人で来られた。
人材教育、評価に絞って開発したAIを販売するという話であり、立派なベンチャー企業であったが、採用の場面で応募者を評価できるというAIのイメージがどうしても湧かなかった。ある超一流企業も採用したというので社名を聞いてみると、偶然にもその会社の人事担当部長を知っていたので、採用責任者に合わせてもらい話を聞きにいった。丁寧に説明してくれたが、正直なところ、やはり内容ははっきりとは分からなかった。その頃は自分のAIに関する知識不足と思っていたが、AIの勉強を進めるうち、やはり直接、人の能力を判断できるようなものは、この世には存在しないと確信した。直接、人の能力を評価することは、人では不可能だが、ひょっとしたらAIなら可能ではないかという淡い期待を持つのは分からなくはないが、能力の直接評価は不可能だという結論に達した。
やはり能力は成績を通してしか評価できない。また評価できると言っても、そんなに細かく評価できるわけでなく、ポストや給与に紐づけできる五段階(非常に優秀、優秀、普通、劣等、非常に劣等)程度だろう。
成績から能力評価ができるという原理はこうだ。会社で社員の配置が適正になされ、上司が部下に仕事を割振り、部下が仕事に取り組む。進捗度合いを見ながら上司は必要に応じ指導、助言などをする。所謂マネジメントである。その結果、部下が良い仕事をしたなら、マネジメントが良かったとしても、やはり部下の能力が相応に優れていたからとみるのが妥当だろう。上司が手取り足取りしたかもしれないし、反対に、ほったらかしだったのかもしれない。むろん適正な指導、助言だったかもしれない。そんなことを取り上げても話がややこしくなるだけだ。だから上司の指導、助言は適正だったと見做し、それなら、良い成績を残したのだから、部下の能力が優れていたと言ってよいのではないかという理屈だ。
だから、夏季・年末賞与の成績が良かったなら能力も優秀と言ってよいだろうという訳だ。これを展開して、成績が悪ければ能力は劣等と結論付けたのである。
ところで、実務的に問題となるのは、夏季と年末で成績評語が異なる場合の能力評語の決め方だ。例えば、夏季・年末がAとCだったり、あるいはCとAだったりした場合はどうだろう。
能力だから傾向を見るという考え方もあるだろう。だから、年末評語を重視して、前者の場合はC、後者の場合はAとしてしまうやり方だ。だが、納得性という点でどうだろうか。納得性が高いのは、AとCの間をとってBとするやり方だ。各社で議論して頂きたいが、ここではBとしておきたい。
次は夏季・年末の成績評語がAとB、あるいはCとBと言った場合だ。こんなときは、人事責任者と調整者(部長)が議論して能力評語の原案作りをしなければならない。そして、その評語を評価会議で経営者層と議論して決めるのだ。夏季・年末で「なぜ」評語が異なるのか、また「なぜ」Bのまま、あるいはCのままなのか、逆にAは何をし続けたからAなのか、これらを議論して、社員の今後の育成にも活かすことが重要である。
年間で、成績評語で2回、能力評語で1回の評価会議を開催し、処遇のためのみでなく育成という観点から徹底的に議論して頂きたい。
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◆蒔田照幸((株)賃金人事コンサルティングオフィス代表取締役)
ミルボン、ユニクロ、九州共立大学、(医)金森和心会病院など約700社、人事コンサル歴35年、懇切丁寧な指導で定評がある。人事評価分野では、2018年に大学と提携しAI投影法を開発。京都府立大学卒。1949年三重県出身。
◎賃金人事コンサルティングオフィス
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