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「現代五輪開催を」(小島正憲)

小島正憲氏のアジア論考
「現代五輪開催を」 

小島正憲氏((株)小島衣料オーナー)

1.近代五輪は、すでに時代遅れの代物となり果てた

言うまでもなく近代五輪は、19世紀末、フランスのピエール・ド・クーベルタン男爵が古代ギリシャのオリンピアの祭典をもとにして、開催を提唱した世界的なスポーツ大会である。

当初、近代五輪はその目標を、「スポーツを人間の調和のとれた発達に役立てることにある。その目的は、人間の尊厳保持に重きを置く、平和な社会を推進することにある」として高く掲げ、その実現に邁進した。1964年に日本で開催された東京五輪は、敗戦後、急速な復活を遂げた新日本が、再び国際社会の中心に復帰する大きな契機となり、日本人に自信を持たせ、その後の高度成長を可能にした。

しかし、その後、国際政治の影響を色濃く受け、近代五輪は当初の目的から大きくかけ離れていった。ことに、1984年のロサンゼルス大会は、近代五輪が大きく拝金主義の方向へ舵を切った大会であった。大会組織委員長に就任したピーター・ユベロスは、五輪をショービジネス化し、結果として2億ドルを超える黒字を計上した。

その後「オリンピックは儲かる」との認識が広まり、立候補都市が激増し、誘致のために巨額の賄賂が飛び交う始末となった。やがて五輪開催に莫大な費用がかかるようになり、次第に立候補国が少なくなっていった。クーベルタン男爵の崇高な理想のもとに始まった近代五輪は、単なる金儲けの祭典に成り下がってしまったのである。

それでも、バブル経済崩壊後、経済の低迷にあえぎ続けてきた日本政府は、時代の変化を見抜けず、成功体験の再現を狙って、2020年の五輪誘致を画策し、開催に漕ぎ着けた。だが、そのとき、まさか世界と日本をコロナウイルスが襲来するとは思わなかった。

2.現代五輪の開催を主導すべし

第1回大会から120年余を経過し、この間で世界は大きく変化した。とくに日本の高度成長は日本人の平均寿命を大きく伸ばし、日本を人生100年時代という超高齢社会に突入させた。だがそれは、大量生産・大量消費という仕組みの上に成り立ったものであり、地球環境破壊という大きな代償を伴ったものであった。

日本だけでなく世界各国もその道を競って突き進んでおり、それらの経済活動は世界各地に激しい気候変動などを巻き起こす結果となっている。また開発途上国の人口爆発と先進国の長寿化は、世界に食糧危機を生じさせかねない状況となってきている。世界各国はその危険を察知し、2015年9月の国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)を設定して、そこに向かって努力することに同意した。今、世界は大きな思想転換期に差し掛かっているのである。

世界が高齢化社会に突入し、持続可能な社会を目指すことを至上命題とし、食糧危機を怖れているときに、「たらふく食って強さを競う」近代五輪の開催などは、時代錯誤以外の何物でもない。大量生産・大量消費の思想を引きずった拝金主義の塊のような、また若者の中心の祭典としての近代五輪は、このあたりでやめた方がよいのではないか。これからは、「たらふく食って強さを競う」のではなく、「少なく食べてエネルギー効率を競う」、あるいは「健康寿命を競う」高齢者の祭典を催すべきである。高齢化社会、持続可能な社会に対応した祭典を具体的に考案し、SDGsを目標にした祭典にするべきである。

今、IOCは、コロナ禍で非常事態宣言下でも、日本国民の命を犠牲にして、時代錯誤の近代五輪開催を強行しようとしている。

この際、日本は思い切って近代五輪を返上すべきである。そして、コロナ撲滅後に、現代五輪を主唱し開催すればよい。それが、世界の先頭で超高齢社会を走っている日本の果たすべき役割でもある。

 

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清話会  小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中 国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。