真田幸光の経済、東アジア情報
「米国・バイデン政権の経済政策について」
真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)
米国のバイデン政権誕生前から誕生直後には、
「バイデン政権の新たな経済政策は何か?」
と言う点では、明確なメッセージは出ていませんでした。
しかし、トランプ前大統領が、特に米国の底辺層からの支持を受け続ける中、その底辺層に配慮する形で、
「日本円にすれば200兆円規模となんと日本の国家予算の倍弱の財政出動を伴う景気対策」
をまずは実施してきました。
これに対して、当初は、
「財政赤字の大きい中、財政を更に悪化させるポプュリズム的政策である」
との見方が強まり、また、それに伴い、
「米国政府の資金調達コストは上がるであろう」
として、
「米国補長期金利が上がる」
と言う悪い金利の上昇が顕在化しました。
しかし、米中対立が深まる中、米国経済が悪化すると、
「むしろ国際金融市場は悪化するのではないか」
と言う懸念を背景として、バイデン政権に近いと見られるマーケットプレーヤー達は、
「バイデン政権の財政出動を伴う景気対策は少なくとも短期的には米国景気を下支え、底上げする」
と論理をすり替えて、
「米国株の下落を阻止しつつ、米国債の堅調さを誘引、更に米ドル為替の強め安定を背景にして、結果、米国株は更に上昇トレンドにある」
と言う、素晴らしいシナリオ展開を示しています。
そして、国際格付け機関であるムーディーズインベスターズは、今年第1四半期あたり全世界家計の余剰貯蓄が5兆4,000億米ドル規模と推定され、これは、世界の国内総生産(GDP)の約6%の規模に相当するが、消費者がこの余剰貯蓄の3分の1だけ消費しても、世界のGDPの2%ポイント引き上げることができると予想し、米国経済を軸とした先進国の消費拡大が、今後、新型コロナウイルスの収束状況によっては、見られる可能性があるとの相対的には良い見方を示し始めています。
こうした中、更にバイデン政権は拡大する中国本土を想定して、米国経済の体力強化、いざとなれば、鎖国できる国作りを意識して、約1兆3,000億米ドル規模の米国のインフラ整備政策を打ち出し、
*運輸(道路、橋、鉄道など)
*製造業(半導体サプライチェーン強化など)
*研究開発(AI、バイオなど)
*デジタル(高速通信網構築など)
*電力(グリーンエネルギーなど)
などを軸とした景気刺激策も打ち出しました。
更に、その財源として、
*法人税の21%から28%引き上げ
*海外収益に対して2倍の21%課税の実施
*大企業の会計上利益に対する最低15%の課税実施
と言う政策まで示し、更に更に、
「米国だけ法人税増税をすると、米国から企業が逃避してしまい、元も子もなくなる」
として、
「世界全体に法人税増税を呼びかける」
ことまで行っており、その政策遂行に隙がありません。
もちろん、こうした計画が野党に反対され、減額される可能性もあり、そもそも議会を通らない可能性も否定できませんが、しかし、バイデン政権の経済政策は本格的に動き始めていているのではないでしょうか?
尚、こうした流れの中、日本政府も米国の同盟国として、
「法人税の引き上げ」
に動いてくる可能性があると見ておく必要がありそうです。
真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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