真田幸光の経済、東アジア情報
「“疑心暗鬼”の世界情勢」
真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)
新型コロナウイルスの発生源を追求することに関して、中国本土・中国共産党機関紙傘下にある環球時報は、国際機関である世界保健機関(WHO)に対して、
「米国での調査実施を求める署名」
をネットで募りはじめている。
WHOが武漢での追加調査を提案したことへの反発とも見られているが、中国本土国外からウイルスが持ちこまれたとする中国本土政府の主張を改めて強調することを意識しているとも言える。
そして、新型コロナウイルスの初期研究には米国人研究者も関与していたとの見方まで以前から囁かれていたことを蒸し返すような動きとも言える。
新型コロナウイルスを巡る疑心暗鬼は更に深まる。
こうした一方、米国政府は7月19日、中国本土が世界各国でサイバー攻撃を仕掛けているとの見方を示して、日本や欧州連合(EU)などと連携して非難する声明を出している。
中国本土当局が関与したとするサイバー被害の具体的な事例も挙げて対抗措置も示唆する内容であり、米国・バイデン政権は問題視してきた中国本土のサイバー問題に対し、一歩進んだ強い姿勢を示してきている。
中露、更に北朝鮮まで絡んだサイバー攻撃が国際金融市場に及ぶとそれだけで世界は大混乱になる危険性がある。
そうした点から見ても注視したいが、この問題は、サイバー攻撃は、攻撃を仕掛けた下手人のエビデンスを明確に示しにくい、即ち、その罪を立証しにくいところにもある。
この問題についても、疑心暗鬼の拡大と言う大きなポイントが隠れている。
尚、米国のバイデン大統領は7月19日、中国本土発のサイバー攻撃について、記者団に対して、
「まだ詳細を巡る調査は続いている。
中国本土政府は実行犯を保護し、便宜を図っている可能性すらある」
と指摘し、中国本土に対する制裁発動も示唆している点も付記しておきたい。
そして更に、米国のバイデン政権は、日米豪印4か国の協力枠組みとなる「Quad(クアッド)」首脳による初めての対面での会議を9月にも、米国のワシントンで開く方向で調整に入った模様である。
ニューヨークで9月に開かれる国連総会前後での開催を検討し、対中包囲網を強める姿勢を示し、中国本土・習近平国家主席の背後にいると見られる人民解放軍と公安に対する圧力を強めようとしているものと見られている。
平和の祭典・五輪開幕の中にあって、世界の実情は混沌としている。
そして、世界の株式市場も揺れた。
東京の株式市場のベンチマークとなる日経平均株価もこの2カ月で最低レベルにまで下落した。
急速に蔓延するデルタ変異型コロナウイルスによる世界経済の減速への懸念が、日経平均を下落させたと言えよう。
日経平均指数は7月19日には350ポイント(1.25%)下落し、5月13日以来の最低水準となる27,652で1日を終えた。
もとより、方向感を見失っている株式市場であるだけに、また急上昇してくる可能性もあるが、当面は先行き不安定な相場展開が続くと見ておきたい。
真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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