小池浩二氏の [継栄の軸足] シリーズ (65)
【経営基盤の視点 全4回】
第3回目「あなたの会社は一体、何屋なのか」
小池浩二氏(マイスター・コンサルタンツ(株)代表取締役)
■禅問答
1日の売上1万円のパン屋が年商3億を突破した話をご紹介します。
ある都市の小さな自家製パン屋の直ぐ近くに有名な全国ブランドのパン屋が突如オープンした。地元の大手パン屋も負けないと目と鼻の先に新店舗を作って対抗し、お決まりの価格競争が始まった。昔からそこで商売していた小さなパン屋の店頭からお客様はみるみる遠ざかった。ここで何もしなければ座して死を待つのみであり、この状況は中小企業には日常茶飯事である。
あなたなら、この状況を突破するために何をどのように変えますか?
悶々としている店主はある人(A氏)に相談にした。
店主「Aさん、私のような小さなパン屋はもう生きられませんよ」
A氏「死ぬ相談なら、寺に行けばよい。それよりパン屋のポイントは何だ」
店主「おいしいパンを売ることです」
A氏「それなら、簡単なことじゃないか」
店主「こんな価格競争では勝ち目がありません」
A氏「当たり前だ。小さな店1軒のお前さんが大手と同じことをしても勝つわけがないよ。ところで店は何時に開けている?」
店主「8時くらいですか」
A氏「この町は朝・昼・晩三食ともパンを食べる町なのか?」
店主「いいえ、朝が主です」
A氏「パンは朝食が勝負だというのに、お前さんは何を考えて商売しているのか」
店主「ハアー ・・・・・・」
A氏「お前さんはパン屋ではない。朝飯屋なんだ。朝飯屋が済む頃に店を開けてどうするんだ」
店主「家内が子供を学校に送り出して店を開けるもので仕方がないのです」
A氏「生きられなくなっているのに、呑気なことを言うな! パンのおいしさとは何だ?」
店主「何よりも焼き立てです」
A氏「それなら注文を受けて焼き立てを配達したら、どうだ」
店主「経費がかかります」
A氏「死ぬの生きるかという時に何を言っている。大体、食パンを一袋にどうして6枚も入れるのだ?」
店主「なぜって、昔からそうなんです」
A氏「昔通りにしていて、生きられなくなって何を言っているのだ。大将、このあたりに一人住まいの所帯がどのくらいあるか調べたことがあるか?」
店主「? ・・・・・・・」
A氏「一人で朝に6枚も食べるのか?」
店主「食べないでしょう」
A氏「それなら2枚で一袋の分も作ればよい。6枚入りの食べ残しは焼き立てより確実にまずくなっていく。まずくなっていくパンまで抱き合わせで売るな!」
店主「なるほど」
A氏「それにパン屋という看板を外せ。朝めしのお役に立つ店と替えるべき。文句を言わずに予約を受けたら、焼き立てのパンを毎朝、配達するとお客様に宣言しなさい」
店主「わかりました」
■第二の創業
そして店主は、焼き立てのパンを少量でも必要な分だけ朝早くから、雨が、雪が降ろうが配達した。「おいしい焼き立てのパンを食べてもらう」ために、笑顔と元気な挨拶を添えて配達する「朝食のお役に立つ店」が第二の創業を迎えた。
ところが、「いいジャムやバターはないか、コーヒーもついでに」というお客様が現われ、次第にサンドイッチやスープ、なんと味噌汁までメニューは広がった。
老人にはクロワッサンを勧めて喜ばれ、噂は噂を呼び、続々とお客様は増え続けた。このパン屋は「パンという物体を通して朝食のお役に立つこと」を売っている。これがこのパン屋の主張であり、この主張に共鳴する人をお客様にすれば後から売上は付いて来る。
そのためにはこの主張を「サービスの形にする」ための専門知識・技術が必要であり、これを磨くからプロになる。物体だけを売ろうとするからアマチュアになる。創業の精神は企業の年月が経ったり、企業規模が拡大するとその主張を忘れたり・主張の中身が薄くなったりする。「お客様のことだけを考える」創業の精神はいつも正しい。
我が社の原点は何であるのか? 創業者の人生観・企業観・人間観・死生観等を知ることは創業者の生き様を知ることであり、我が社の原点を知ることであり、そして正しい創業の精神を知ることになる。創業の精神を紡いでいる企業は、大きな魅力がある。
■ 小池浩二氏 (マイスター・コンサルタンツ(株)代表取締役)
実践に基づいた「中小企業の基礎打ち屋」として、中小企業成長戦略のシステムづくりを研究。これまで500社以上の中小企業経営に関わり、経営診断、経営顧問、研修等を実践。多くの経営者から「中小企業の特性と痛みをよく理解した内容」と熱烈な支持を得ている。
http://www.m-a-n.biz/
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