日沖 健(ひおき たけし)
日沖コンサルティング事務所代表
1965年愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、日本石油(現・ENEOS)に入社。98年 Arthur D. Little School of Management修了、MBA。2002年 日沖コンサルティング事務所を開業。産業能率大学総合研究所兼任講師、中小企業診断士、中小企業基盤整備機構アドバイザー。
- 幕末の漢学者の例から
荘田平五郎という人の話をまず致します。大分県出身の方か三菱グループの方でなければご存じないと思います。慶応義塾で教えていましたが、岩崎弥太郎に引っ張られて三菱に入り、三菱グループの基礎を築き、「三菱の大番頭」と言われました。
江戸時代の話ですが、江戸に蘭学の修行に行きます。そこで鉛筆、ペンシルというものを手にします。そして、郷里である大分の臼杵に帰ったとき、漢学者の集まりがあり、その中で「これはペンシルというもので、なかなか便利にできておる」と見せるわけです。それを聞いた漢学者の人たちは、2通りの反応をしました。
一つのグループは、これはなかなか面白い、とペンシルを採り入れてやがて洋学に転向しました。大半の人はあまり興味を示さず、毛筆で漢学にとどまった。その後どうなったか。漢学から洋学に転向した人たちは明治時代になってからとても成功した。一方、ペンシルを拒否した人たちは、あまり成功しなかったという話です。
荘田平五郎も大成功するのですが、成功しなかった人の1人が、後に言葉を残しており、荘田平五郎が成功したのは、『要するに、誰よりも早くペンシルを取って活用したからだ』と言っているのです。
荘田平五郎、幕末のペンシルと今のDX、これは非常に似てると思います。世の中には新しいものがどんどんできます。その新しいものを見たとき、新しいものだからと拒否するのと、取りあえず興味を持って試してみる、その違いはけっこう大きいのかなと思います。