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第3回【清話会会員企業インタビュー】アースサポート株式会社(増田辰弘) [ 第3回 ]

人に優しい長寿社会を先取りした総合介護ビジネスモデルを構築―アースサポート(株)

~人生の最後を迎える1人の人間の立場で創意、工夫して事業展開

【会社紹介】

 アースサポート株式会社

  • 設    立:1992年 7月
  • 代 表 者 :代表取締役社長 森山 典明
  • 事業内容:訪問入浴、訪問介護、デイサービス等
  • 従 業 員 : 7,500名
  • 資 本 金 : 5,200万円

 

  • 介護関連事業を25事業手がける

介護ビジネスをしている企業は多くの事業を手がけ多角化していることは多いがアースサポート㈱(本社東京都渋谷区、森山典明社長)ほどの例はあまり見たことがない。それほどの膨大な事業の多さである。

 少し長くなるが同社の事業内容を上げて見ると、介護予防支援サービス、介護予防サービス、一般介護予防サービス、介護予防・生活支援サービス、障害福祉サービス、在宅介護支援サービス、ケアプラン作成サービス、訪問入浴サービス、訪問介護サービス、デイサービス、ショートステイ、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホーム、小規模多機能型居宅介護サービス、福祉用具販売レンタルサービス、特定福祉用具販売サービス、住宅改修サービス、訪問理髪美容サービス、寝具水洗い乾燥消毒サービス、寝具類販売及びリース、クリーニング及び防炎加工、研修の企画・運営、イベントの企画・運営、家事代行サービスと実に25ほどある。

 これは同社がお金になるからと次々に介護関連の事業を増やして来たというわけではない。利用者の要請に応じて時には収益に関わらず手掛けて来たと言うのが正しい。それだけ介護事業というのは複雑であり結果として利用者からいろいろな要望が出て来る。そういう要望に一つひとつ応えようとすると単に訪問介護や訪問入浴サービスをやっているだけでは済まなくなる。

 高齢化社会の日本ではまさにいろいろな家庭があり、日々色々な問題が発生している。そのことに見て見ない振りをすることは簡単だが同社はこの多くの課題に逃げず、それを愚直に一つひとつ手掛けて来たと言って良い。

  • アメーバ型組織で全国に469の拠点を配置

 今の日本では全国どこでも街を歩けば老人ホーム、グループホーム、訪問介護などの看板が目につく。大変失礼な言い方だがほかの事業に行き詰まったから介護事業を始めるという会社も少なくない。

 そんななかで同社は介護に関連する25にも及ぶ多くの事業を手がけ、会社全体で介護の事業を多面的、複層的に見る視点を持つ体制を創り上げた意味は図り知れず大きい。

 アースサポート㈱は、現在職員数7500人、全国を北、中、東、西、の4地区に分け、訪問入浴サービスなどを行う地域拠点が全国に347ヶ所、デイが82ヶ所、ショートステイが1ヶ所、有料老人ホームが4ヶ所、サービス付き高齢者向け住宅1ヶ所、グループホーム5ヶ所、小規模多機能型居宅介護1ヶ所、クリーニング工場1ヶ所と壮大な体制で運営されている。その上に中国と台湾にも訪問介護の子会社がある。日本でも有数な規模の介護事業者である。

 特に、訪問入浴事業は沖縄県以外の全国で展開をしており、もちろん業界トップの規模である。普通は介護事業者も大手企業になると有料老人ホームなどの施設型の事業が中心となり、訪問介護サービスや訪問入浴サービスなどの手間のかかる事業は縮小するものだが、同社は異例の事業展開をしていると言える。なにしろ、同社の事業比率で訪問入浴サービスが40%、訪問介護サービスが20%と訪問事業が合わせて60%という異例な事業内容なのだ。

 さて、この450ヶ所以上の拠点をどう運営しているのか。普通の場合は訪問介護サービスや訪問入浴サービスなどの手間のかかる事業は地域にある小さな介護事業者が行っている。

 同社では基本的にこのやり方と同じやり方を取っている。介護の現場はその地域で暮らし、地域に精通している人材に任せる。地域、地域が自立するアメーバ型の組織としているからだ。だから、毎月拠点が増えても運営が可能なのだ。

  • 最大の課題は人材の確保

 現在、介護産業の現場の最大の課題は人出不足である。これは大手であるアースサポート㈱と言えども例外ではない。同社では年間予算でこの人材確保のための求人費に1億8千万円かけている。そして採用が大変なだけでなく、入社後の定着や活用への対策も喫緊の課題となっている。

 一般的な事業者の場合、3分の1は長期にいる社員、3分の1は短期で入れ替わる社員、その中間が3分の1という具合である。この理由は訪問介護の現場に行くとすぐに分かる。多くの若者はお年寄りの方々に役立ちたいという思いで会社に入るが現場は思った以上に大変な仕事であることに気が付く。

 ここで、こんな筈ではなかったと辞めて行く社員と大変だけどやりがいがあって面白いとがんばり抜く社員に分かれる。なにしろ訪問入浴サービスの利用者の多くは要介護4か5の方が多く1年のうちに半分の人は亡くなる。

 昨日会った方が今日は亡くなっているという現実は若い新入社員にはなかなか受け入れられないかも知れない。これはもう介護の大変さと仕事の奥深さを理解していただくしかないのである。

 そのために同社は、この訪問介護事業の脇を固める事業をいくつも組んでいる。そのひとつが研修事業である。人事部を中心として、全国の4エリアの研修担当者と役割分担を行いつつ、サービスの知識や技術の向上を図る実務研修、責任者の早期育成やスタッフ一人ひとりの能力を引き出す能力開発研修など、多種多様な研修を行っている。研修以外でも、毎朝の拠点内清掃では、掃除の仕方や雑巾の搾り方など実務での細かな指導を行っている。 

 コンプライアンス事業担当の役割も重要な仕事である。訪問介護事業は利用者の自宅を訪問する訳であるから知らず知らずのうちにその家の秘密を知ることになる。かつて「家政婦は見た」という人気のテレビドラマがあったが、「介護士は見た」とならないための指導をしている。

 M&A戦略担当もそうである。これだけ多くの介護事業が増えて来ると始めたもののうまく行かない事業者も出て来る。ある
いは後継者がいなく誰かに引き継ぎたいという事業者も出て来る。同社ではM&A戦略担当を置き、こういう声があると審査をしてなるべく可能なら多くの事業者を引き受けることにしている。

 

  • 人生の終焉を伴走する事業の条件

 介護事業というのは極めて難しい事業である。以前にある老人ホームを取材した時認知症の入居者が夜ホームを抜け出し徘徊してしまった。普通の介護士は鍵の確認忘れ、入居者の点呼など管理面の不備を反省点とするが、フィリピンから来た技能実習生は、すぐに徘徊した入居者の足に手を置き冷えていないかを確認し、「昨夜の食事は温かいものが少なかったので温かいものが食べたかったのかも知れない」とまったく別の発想と行動をする。

 その老人ホームの経営者が、「介護事業というのはこのフィリピンから来た技能実習生の視点と行動こそが必要なのだ。アジアからの人材は戦力なるということもあるが、とかく真面目に考え、処理したがる日本人介護士に比較し、全く別の視点と行動する彼女達の役割は図り知れず大きい」と話していたのが印象的であった。

 介護事業も民間企業の営利企業のひとつには違いないが、製造業やITビジネスとは大きく異なる。設備投資や合理化を行い、経費を節減し売上高を増やして利益を出すという思考法では間違えてしまう。なぜなら介護事業の付加価値とは利用者への気使い、思いやりであるからだ。そして介護事業がこの原点を忘れた瞬間に企業自体がおかしくなる。

 アースサポート㈱の経営理念は、「すべての人々が、住み慣れた街で、自分らしく生きがいをもって暮らし続けることができる社会を創造します」であるが、誰でも歳を取り、やがて身体が次第に衰え、動きが悪くなる。これはどんな人間でも避けがたい現実である。

 そんな時にどんな暮らしがしたいかと言えば、多くの人はまさに住み慣れた街で、親しい人に囲まれて穏やかな老後を送りたい。人付き合いが苦手な95歳になる私の母などは年老いてからは実家にへばり付くようにして暮らしている。

  • 株式の公開、上場は未定

 しかし、これは母だけではなく年を取った人間の自然の流れである。いくら優れた介護士がいて、おいしい食事、イベントの開催などのどんなに優れた有料老人ホームでも身内の人間に囲まれた実家にはかなわない。介護事業を収益的視点だけではなく、利用者の立場に立って事業運営することがいかに大切かと言うことを今回のアースサポート㈱の取材を通じてつくづく感じた。

 森山社長に、「今後株式の公開、上場は考えておりますか」とお聞きすると、「株式の公開、上場は目下のところ予定はありませんが、ゆくゆくは事業規模の拡大に伴い、せざるを得ないでしょう。株式の公開、上場をすると必ず株主から利益と配当を求められます。訪問入浴サービスや布団丸洗いクリーニングサービスなど収益率の低い在宅サービスから手を引き、収益率の高い有料老人ホームなどの施設サービスをやれということになります。
 そうすると、何のために私はこの介護事業を始めたのかと言う原点に立ち返ります。確かに株式の公開、上場をすると資金調達は楽になります。しかし、介護事業はITビジネスと同じに考えるわけにはいかない。ここにこの事業の難しさとやりがいがあるのです」と、介護事業を50年手掛けて来た方ならではの発言が返って来た。

 また、多くの福祉事業で発生しているいじめや虐待などの事故対策についても、同様に「まず第1段階として、入社時面接でその人間を厳しく審査します。第2段階は、「セクハラ・パワハラ・いじめ相談窓口」といった内部通報の仕組みを設けると共に、各拠点に配置された責任者を通じて、絶えずこれをチェックしています。
 第3段階は利用者に毎年アンケート(顧客満足度調査)を行っています。このアンケートは直接本社で開封され、現場の状況を把握し、必要に応じて早期に事実確認と対応を行っています」と語る。

 まさに水も漏らさぬ体制で社員のいじめや虐待などの事故対策をしていることがよく分かる。

  • 介護現場の最前線

アースサポート横浜――訪問入浴サービス

 横浜駅から徒歩15分のところにアースサポート横浜がある。この拠点が普通の拠点と少し異なるのは、神奈川県に加え、東海・甲信越・北陸地区を束ねる中日本統括本部を兼ねていることである。従って拠点の所属は、この中日本統括本部を担当するスタッフが20名、介護士、看護師が30名いて、介護業務は訪問入浴、訪問介護、ケアプラン、家事代行などの仕事をこなしている。

 ここの石原祥行取締役中日本統括本部長の案内のもと同社が一番得意とする訪問入浴サービスの現場に立ち会わせていただいた。当日の利用者は横浜市西区に住む97歳の女性、要介護5の方である。日頃の生活はほぼ寝たきりに近い状況である。歳を取っても普通は自分でお風呂に入る。これが難しくなってもデイサービス対応となる。このデイサービスが難しくなって始めて同社の訪問入浴サービスの出番となる。言わば「最後の晩餐」ならぬ「最後の入浴」を受け持っている。これを家族でやるのはどう考えても相当難しく、森山社長が50年、信念をもって取り組んでいる意味がこの時にやっと理解できた。

 訪問入浴サービスは、介護士2人、看護師1人の3人一組が専用の訪問入浴車で訪問する。この車が良くできていて水と電気さえあればどこでも入浴サービスができる便利な代物で、先の東日本大震災にも熊本地震にも登板している。

 訪問すると、まず看護師が利用者に入浴前の健康チェックを行い、この間2人の介護士は入浴機材セッティングを行う。このお風呂はベッドの隣で畳1畳半ほどの場所さえあれば設営できる。その後、利用者を浴槽に移動させ、洗顔、洗髪、洗体(上半身)、洗体(下半身)を順に行い、最後に看護師が入浴後の健康チェックを行う。これが実にスムーズに行われる。

 そしてこのチームの訪問入浴サービスの手際、段取りが素晴らしい。お湯の湯かげんは負担がかからないよう、ぬる目の温度で始め、本人の希望を伺いながら次第に温かくしていく。湯温は0・5℃単位で調整でき、きめ細やかに対応している。身体を洗っている時間にほかの介護士によりシーツの取換えや新しいパジャマや下着も用意される。40分の時間中1分の無駄な時間も見えなかった。同社の布団丸洗いクリーニング事業が出てきた理由も良く分かった。

 この訪問入浴サービスではタオルを大小7枚使っている。利用者の家族は、以前はこのタオルの洗濯だけでも大変であったと話す。家族は本当に助かっているようで何度も何度も何度も同社のスタッフにお礼をしていた。  

         

増田辰弘(ますだ・たつひろ)

『先見経済』特別編集委員

1947年島根県出身。法政大学法学部卒業後、神奈川県庁で中小企業のアジア進出の支援業務を行う。産能大学経営学部教授、法政大学大学院客員教授、法政大学経営革新フォーラム事務局長、東海学園大学大学院非常勤講師等を経てアジアビジネス探索者として活躍。第1次アジア投資ブーム以降、現在までの30年間で取材企業数は1,600社超。都内で経営者向け「アジアビジネス探索セミナー」を開催。著書多数。