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「風雲急⁈ 対中包囲網」(真田幸光)

真田幸光の経済、東アジア情報
「風雲急⁈  対中包囲網」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

筆者は、ロシアのウクライナ侵攻が始まった頃より、
「英米の究極の覇権争いをする相手国はロシアではない。
中国本土である。
従って、ウクライナ情勢に一旦の収束の光が見えてくると、間髪入れずに、英米は中国本土に襲い掛かってくるはずである」
と申し上げてきた。

一部からは、こうした筆者の見方は、
「陰謀論であり、とんでもない」
と厳しく批判されたが、筆者は今もこの見方を基本的には曲げてはいない。
実際に、米国のブリンケン国務長官は、
「国際秩序に対する最も深刻な長期的挑戦は中国本土によってなされている」
と述べている。

ブリンケン国務長官は、5月26日にワシントンで行われたスピーチで、バイデン政権の中国本土に対する戦略を説明する中で、このようにコメント、更に米国政府当局としては、中国本土の国際秩序に対する挑戦姿勢を是正し、自由でオープン、そして包括的な国際システムに中国本土が応じるようにする為、戦略的に様々な環境を整えていきたいとしている。

中国本土に対して、
「秩序を守れ、価値観の共有が出来る国となれ!!」
と要求しているとも見られる。
これに対して、中国本土外交部は27日の記者会見で、米国のブリンケン国務長官の対中国本土政策に関する上述の演説を、
「?の情報を散布し、中国本土の脅威を誇張し、中国本土の内政に干渉した。
中国本土の発展を抑圧し、米国の覇権と強権を守ることが目的である。
中国本土政府は、強烈な不満と断固とした反対を米国に対して示す」
と表明している。

こうした中国本土に比較して、ロシアは、旧ソ連崩壊以降、否、正確に言えば、1998年に発生した、
「ロシア金融危機」
以降の、プーチン体制が確立してきた後、
「英米の秩序である、英語、米ドル、英米法、ISOに見られる英米のモノづくり基準、企業の成績評価基準である会計基準の英米会計基準の採用」
などを推進、また、こうした中でプーチン大統領もオリガルヒも「米ドル建て」で稼ぎ、宇宙開発も文字通り、米露連携の下、「国際宇宙ステーション」作りを推進してくるなどの英米との協調をしてきたことから、
「プーチン・ロシアは、英米の秩序に敵対するどころか、むしろ、それに従ってきた」
とも言えるが、ロシアの強大な軍事力が万一、中国本土と連携するようなことになると脅威となると警戒した英米がまずはロシアの軍事的封じ込めを図ってきていると考えられる。
(尚、こうした英米の動きに怒りを露わにしたプーチン・ロシアはこれまで従ってきた米ドル基軸体制を放棄、ルーブル建て、ルーブル決済を関係国に求め始め、また、米国と共に推進してきた共同宇宙開発も放棄してくるものと見られている。プーチン大統領は怒り心頭である。)

これに対して、中国本土は、
「人口の多さからの中国語の世界浸透を進めつつ、一帯一路を軸に人民元、しかもデジタル人民元体制を進めようとし、こうした中でGoverning Lawは中国法、Jurisdictionは中国本土裁判所でという中国法秩序の進展を画策、更に、世界の工場・中国本土を背景とした中国本土のモノづくり基準の世界への浸透」
を図り始め、現行の世界秩序たる、
「英米の秩序」
に果敢に挑戦し始めた、少なくとも、英米は挑戦してきているとの認識を持っていると思う。
そして、英米はこうした中国本土を強く警戒し始めていると見られる。

こうした警戒に対して、中国本土は今、
「中国本土は現行の国際情勢には関心がないとの姿勢を示すように、ゼロコロナ政策を推進、国内情勢一辺倒で政策を推進する姿勢を内外に示し、世界の秩序を変えるつもりはない。」
ということを示しつつ、更に、中国本土に向けられる、
「人権問題に対する批判」
にも対応すべく、国連とのコンタクトも開始した。

しかし、こうした状況にあっても、現行の世界秩序たる「英米の秩序」に対抗してくる可能性が見られる中国本土に対して、英米は、
「世界との価値観の共有が出来ない国」
との見方をし、こうした見方を世界に定着させて、中国本土に対する包囲網を強化してきているようである。

こうした中、韓国、そして日本を訪問した米国・バイデン政権は、
「クアッド(日米豪印の軍事面も含めた連携)と米国がTPPに代わって新たに主導するインド太平洋経済枠組み( IPEFアイペフ)」
を立て続けに発表した。

ロシア・ウクライナ情勢が三カ月にも及び、本当にこれが収束してくるかどうかには疑問が残るが、
「いよいよ、英米の本格的な中国本土封じ込め作戦が始まった」
と筆者は見る。
特に、米国としては、自らが立ち上げたものの、国内情勢から、復帰がほぼ困難な状況にある環太平洋経済連携協定(TPP)の代替策を打ち出し、中国本土に対抗するIPEFに注力しているようである。

米国内の世論に配慮し、関税引き下げによる市場開放には踏み込まず、実効性のある経済連携を構築しようとするものであり、通信標準やサプライチェーンにまで踏み込んだ新たな概念の国際経済連携のシステムを提案してきたと言えよう。

そして、米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)によると、IPEFには、先ずインド太平洋地域の13カ国が参加すると発表している。

即ち、参加国は米国、韓国、日本、オーストラリア、ニュージーランド、インドのほか、東南アジア諸国連合(アセアン)加盟10カ国のうち、中国本土に近いと見られる、カンボジア、ラオス、そして英米から厳しい目を向けられているミャンマーを除く、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの7カ国となっている。

当初、アセアン加盟国は中国本土との関係を意識して、参加を見合わせる国が多いのではないかと見られていたが、先般、ワシントンで行われたバイデン大統領とアセアン首脳会談の効果もあり、予想を超える7カ国が参加し、米国としては、一旦、胸をなでおろしているようである。

そして、こうしたサリバン大統領補佐官の発表の後、バイデン政権は5月26日、米国が主導するこのIPEFに、太平洋の島嶼国である「フィジー」も参加すると発表、既に参加を表明している上述の13カ国に加えて計14カ国となると発表している。

太平洋の島嶼国の参加は初めてであり、中国本土の南太平洋への影響力拡大の動きを牽制するカウンターパンチを示している。

また、筆者の聞いていたところでは、当初、日本を訪問してから韓国に行くと言っていたはずのバイデン大統領がその順番を変えて、米国との距離を置いてきた文大統領に代わり新大統領となったユン・ソクヨル大統領に先に会い、
「IPEF参加の基本承諾」
を取った上で、来日してきたようでもある。

こうしてIPEFの発足に関連した会合で、ユン大統領は、
「自由民主主義と市場経済体制を基盤に短期間で成長と発展を成し遂げ、IPEFが包括するあらゆる分野でこれらの経験を分かち合いながら協力したい」
と述べた。

就任から13日で米国主導のインド・太平洋経済枠組みに参加表明したのである。
文前政権では、韓国は米国と中国本土の間で、
「戦略的あいまい戦略」
を取り続けてきたと言われていたが、IPEF参加という動きをユン大統領が示したことから、ユン政権は、
「米国主導のアジア・太平洋秩序に加わる意向を明確にした」
と韓国国内では評されている。

一方、米国のバイデン大統領は就任後、初めて韓国と日本を訪問し、台湾など中国本土が神経を尖らせる問題でもためらうことなく自らの考えを表明した為、これに中国本土が連日強く批判を続けている。
当然の反応であろう。

こうしたことから、今後、当分は米中関係の冷却が避けられないとの見方まで出てきた。
中国本土の王毅外相は、米国のインド・太平洋戦略については、
「結局は失敗する戦略である」
と強く批判、その批判を続けながら、南太平洋諸国などの歴訪を開始した。

また、中国本土・外交部によると、王毅外相は、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の年次総会でオンライン演説し、
「アジア・太平洋地域は歴史の分岐点にある。

アジア・太平洋地域に如何なる軍事集団や陣営対決を引き込む試みも明確に拒否する。」とも述べている。
日本で開催された米国、日本、インド、オーストラリアによる4カ国安保協議体「クアッド」の首脳会議を念頭に置いた発言を、その開催前にしたということであろう。

中国本土はこれまでクアッドについて、
「米国がアジア・太平洋にまた新たな北大西洋条約機構(NATO)を立ち上げようとしている。」
とも批判してきたが、いよいよ、それが本格化する様相であり、中国本土が懸念するように、NATO同様、クアッドにも常備軍が創設されると中国本土には大いなる脅威となることは間違いない。

そして、中国本土政府は、在中国日本大使館の志水史雄特命全権公使と面会し、日米首脳会談や日米豪印クアッド首脳会合に関して、中国本土に対する否定的で誤った言動があったとして、日本に対して、
「強烈な不満と深刻な懸念」
を申し入れてきてもいる。

(尚、クアッドに関しては、参加国の中でインドは唯一、ウクライナに侵攻したロシアを名指しする批判を避けていることはご高尚の通りであり、インドとしては、食糧や武器の輸入を行っているロシアと潜在的な戦争対峙国である中国本土では対応が違うとしており、クアッド参加はインドとしては、あくまでも対中政策姿勢の表れと見ておく必要があると思う。)

また、中国本土は、国際社会から、
「人権問題」
で真綿で首を絞められるように圧力を受けることを警戒しているようで、王毅外相は5月23日、中国本土を訪問している国連人権部門トップのバチェレ人権高等弁務官と広東省広州市で会談し、
「人権問題の政治化」
に反対する立場を伝えた上で、少数民族への人権侵害が指摘される新疆ウイグル自治区を訪問予定のバチェレ氏に対して、中国本土政府の基本的立場を伝えると共に、中国本土の少数民族政策を尊重するよう牽制してきている。

対中包囲網は、正に風雲急である。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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