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「米ドル基軸体制の変化の可能性について」(真田幸光)

真田幸光の経済、東アジア情報
「米ドル基軸体制の変化の可能性について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

現行の世界の通貨の基軸は、
「米ドル」
であり、
「モノやサービスの経済的な価値判断は米ドルでなされる。
 こうした中、世界のモノやサービスの決済は米ドルでなされている」
と言えます。
 
そして、その米ドル決済は、米国内にある米銀でなされていくことから、
「米国は米国に居ながらにして世界のモノやサービスの動きをモニタリングできるようになっている」
と言え、これが、米国の覇権国家としての力を更に強めていると言えます。
 
また、今回のウクライナ紛争により、米英は、この米ドル基軸を使い、ロシアに対する制裁を強化していることはご高尚の通りであります。
 
ところが、そのロシアは、
「世界が必要なモノを輸出している国であり、ロシアからそうしたモノを輸入せざるを得ない国、ベラルーシのように喜んで輸入する国など、ロシアと交易する国は、国際金融筋の推計では約50カ国、即ち、世界の約四分の一の国々がロシアと交易することになるであろうと見られ、これまで、米ドル基軸に従い、米ドル決済をしてきたロシアは、英米の制裁に反発するかのように、ロシアからモノを買う国は、ロシアの通貨・ルーブルで支払うように強制し始めている」
と言え、こうしたことから、
「これまでの米ドル決済の比率は下がる一方、ルーブル決済の比率が上がるであろう」
との見方は強まり、
「短期的にはルーブル買いの動きが顕在化する可能性があり、長期的には、ルーブルの決済通貨が進展するとも見られている。
 そして、もし、そうした状況となれば、中国本土は、一帯一路の国々などを対象にして、人民元決済を要求していくことになろう。
 もし、そうなれば、米ドル基軸体制はむしろ衰退するのではないか」
との見方まで出てきています。
 
こうした意味で、米ドル基軸で儲ける仕組みを今のところ確立している国際金融筋は、これ以上、ロシアを攻め立て、ルーブル決済が広がることを懸念し始め、従って、英米に対して、ロシアとの停戦に向けた動きを示すよう、水面下では要請し始めているとも見られているのであります。
 
このように、米英が中露、特にロシアに対して金融制裁を強化する中、
「中国本土の人民元とロシアのルーブルの取引が爆発的に増加、特に人民元の成長が著しい」
と米国の大手メディアであるブルームバーグが報じました。
 
その内容を抜粋、列挙すると以下のようになります。
(1) 米英の制裁が人民元・ルーブル取引を1,067%引き上げた。
(2) ロシアと中国本土の通貨間の取引高は40億米ドル近くになった。各国は米国の制裁から経済を守ろうとしている。
(3) 米国の覇権に対する最大の挑戦者である中国本土とロシアは、自国通貨間の直接取引を強化している。
(4) 「ルーブル・人民元」ペアの月間取引高は、ウクライナでの戦争開始以来、1,067%急増して約40億米ドルに達しており、中露両国は米ドルへの依存を減らし、現在及び潜在的な米国の制裁を克服する為に二国間貿易を強化しようとしている。
(5) こうした急上昇は、人民元に対するルーブルの5年ぶりの高値への上昇と一致している。これはロシア人が、ますます中国本土製品に目を向けている兆候とも言える。中国本土にとっては、人民元の国際化の為の後押しをむしろ受けているとも解釈できる。
(6) これは、制裁の懸念と、二国間貿易における国内通貨の使用を奨励するロシアと中国本土の意図によるものである。
といったコメントをしています。
 
英米の制裁がむしろ中露にメリットを与えているとの見方であり、冒頭に私が示した懸念が顕在化していることの表れであるとも言えます。
 
制裁にも更に深い知恵が必要な情勢のようであります。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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