真田幸光の経済、東アジア情報
「造船業について」
真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)
造船業という産業は、
「雇用機会たくさん作り、また一気に収入を拡大するand/or外貨を獲得する産業」
として大いに注目される産業であると思います。
大航海時代以降、
「船」
の役割が注目され、建造技術が徐々に高まっていきましたが、近世になると、先ずは、
「英国や米国」
が造船大国となりました。
輸送機械として船が当初は注目されていましたが、戦争に突入すると、軍艦としての船が注目されるようになりました。
そして、その戦争中は、沈没されると被害が大きいので、単に大きい船だけでなく、比較的小さな、しかし、機動力があり、速く長距離就航が出来る船が重宝されました。
そして、平時は大きな商業輸送を意識した輸送艦が注目されるようになりました。
そうした中、第二次世界大戦後は、国の有望成長産業として、国家が国策産業として造船業を育成するという動きが見られ、こうした過程を経て、日本や韓国、そして最近では中国本土の造船業は発展していきました。
各国は、補助金支給や税優遇を行いながら、造船業を育てていきました。
雇用機会造成力が高く、外貨獲得力が高い造船業が、日本や韓国、中国本土の国家経済発展に大きなメリットをもたらしたことは間違いないと思います。
但し、造船業は大規模な投資が必要な産業である一方、景気変動に弱く、ボランティリティの高い産業でもあり、例えば、日本は今、量を追わずに質を追う高度技術を必要とする船の建造に力を入れていることから、
「建造量」
では韓国、中国本土にトップの座を譲っています。
ところで、世界の中でグラスゴー代表される英国や、米国の造船業がかつて発展していたのは理解が出来ますが、
「ドイツ」
も造船・海運大国であることは忘れてはなりません。
即ち、世界3位の商船保有隻数を誇っていた海運大国・ドイツは、船舶投資ファンド「KG」スキームにより、発展していたと言われています。
リーマン・ショックにより、当該ファンドは苦戦をし、淘汰の時代を迎えたとされていますが、中世のハンザ同盟の流れを汲み、海に面していなくとも、海運都市として栄えたハンブルクを中心にドイツの海運は発展しました。
このドイツの「KG」というファンドはドイツの船舶投資を支えたと言われており、第二次世界大戦の敗戦によって、ドイツ国内の産業は壊滅的に破壊され、設備投資資金の調達が困難な中、ドイツ政府は大幅な特別償却や税負担軽減を認め、企業の自己資本が活用されるよう投資促進を図り、戦争でほとんどの商船を喪失した海運業界でも、起業家たちが共同で出資して船を建造する方法で復興しようとしていました。
そして、
「資金を出す余力はあるが、造船海運の専門家ではない資本家は、造船・開運の経営には関与したくない。
そして基本的に投資効果だけを追い求めたい」
という投資家も出てきており、こうした投資家にとって、船舶投資から発生する無限リスクから身を守る為投資組合を作りましたが、これがKGであります。
まず「1隻の船の所有と運航」だけを事業目的とする有限責任会社を設立して事業の営業者とし、営業者が掲げる事業内容(投資案件)に納得した投資家は投資組合の組合員として出資するというスキームを構築しました。
この場合、営業者は事業の遂行者として無限責任を負う一方、出資するだけの組合員は有限責任となり、これによってはじめて投資家は安心して船舶投資に投資することが出来るようになりました。
また、このスキームはいわゆる「クローズド・エンド型ファンド」であり、事業開始後に新たな投資家を募ることはありません。
投資家は必要な資金の30%~50%程度を出資して、Debt Equity比率を良くしておいて、残りの資金である50%~70%は基本的には銀行融資によって調達され、運営していくスキームを上手に構築しました。
銀行も、万一、当該事業が失敗して営業者が返済不能なった場合でも、船を売却(競売にかけて)して融資の回収することを前提とした、いわゆるアセットファイナンス(ノン・リコース案件)としてリスクを回避しています。
このように、KGは大変に良くできたスキームと金融界では注目され、投資家は船舶投資のリスクは有限責任によって守られる一方で、財務損益の損失は無限に取り込むことが出来ました。
ドイツでは船舶の償却は基本的には12年とされていますが、政府による投資促進政策によって、新造船を発注した場合は更に40%の特別減価償却を最初の5年で計上することが認められており、つまり、通常の償却費と合わせると実に新造船価の82%もの減価償却費が経費として計上できたのです。
こうしたことから、会計上の損失を出す船舶投資は弁護士や歯医者といったドイツ国内の裕福層を引きつける投資商品になり、たくさんのSilent Investor(モノ申さぬ投資家)をしっかりと集めることが出来るようになり、こうしたこともあって、ドイツの造船・海運業は発展していったと私たち国際金融界では理解されています。
実体経済の発展を金融経済がしっかりと支えた事例として、こうした歴史があることも覚えておきたいと思います。
真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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