髭講師の研修日誌(87)
「会社ぐるみの研修実践」
澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)
◆三階層一日研修の実施
「人に優しく、全社員が奉仕の自動ドアー」をモットーに業界上位企業として発展しているC社の研修を担当した。C社は58年の歴史を重ね、後継の新社長から4年目に入った。研修実施に向けてのトップ・幹部・担当者との打ち合わせで確認したことは、新たな製品開発に尽力し、新たな受注も入れ込む隙がないほど日々多忙である。従って現況の強みを生かしつつ、さらなる組織活動の充実感を高める事への取り組み中である。
その実現には今年度方針も7月に発表され、業界環境は,より厳しいが、高度技術集団としての存在をより確かなものにしていく。この新たな方向性を社員各位が共有化し、立ち位置に応じた役割認識と責任ある実践力をより向上させる必要性がある。とりわけ若手社員には「当社で働く楽しみをどう享受させるか」この働き掛けが不可欠である。さらに、コロナ禍での対面コミュニケーションの機会が減少したことから、この点での改善の施しも急務としている。
と確認し、現況で社員が自己能力を最高に生かした活躍の底上げを計ることを研修のミッションとした。すなわち、個々の立ち位置に準じた活躍ぶりの向上を楽しむ力量を育て、生かし合い企業のより強さを高める人財育成の実践である。そこで、C社社員100人での組織活動を階層別に3クラスに分け実施に取り組んだ。それは、
①管理職(部・課長クラス)
年度方針の部門推進者として、事業家マインドを持った活躍すべき事項の確認、組織力を高める部下力向上、関係部署の連携強化の実践スキル向上を目的とする。
②監督者(係長・主任クラス)
企業活動の第一線の要の監督者クラスは、部門目標をチームに落とし込み、企業の強みを具体的につくる活躍。この活躍のありようとスキル向上、併せて、将来設計に向けた専門力の向上にも着目する。従って、2コース編成とした。
③一般社員(新人、若手社員クラス)
コース名を「活躍の楽しみを創る実力型社員のパワーアップ研修」と名付け、持ち得るキャリア(中途採用者も含め)を生かして誇りと自信を持った活躍ぶりを楽しむ。そこには、当社での働きがいとさすがの実績形成に挑み、楽しむ事である。その気概とスキルアップの向上を楽しむ。としての研修実施である。各研修に際しては、実施に向けての再度の打ち合わせを重ねて、受講者の現況、講師とC社の当日の協働体制への取り組み事項などを確認した。
◆昨今の研修実施の取り組みと育成着目
以上の人材育成のニーズポイントは,C社に限定されていることではない事は周知の事である。それは、新型コロナ感染対策による企業活動の制限等へ環境変化に対応を余儀なくされてきた時期から、ウイズコロナとしての活躍が必須条件である。
従って、生活様式の一変や、新たなビジネスの発展、反面、市場の急激な変化により業績が著しく悪化するなど様々な現況を踏まえ、社員一丸となってこの環境を乗り越えた企業活動がなされている。しかしながら、持続可能企業として更なる企業活動の進化を成して行かねばならない。
それにはトップの示す新たな戦略展開である方針・目標を達成していく企業活動として、組織に新たな躍動を喚起し、社員力を高めた強い組織活動を推進していかねばならないからである。そこで昨今の各層の育成着目ポイントを実施例を踏まえ提案してみよう。
- 管理者層
「当社の持続的発展企業の貢献をこう楽しもう」このキャッチフレーズが活躍の軸。従って事業家マインドを持って魅力ある組織運営をけん引する。そのためには、更なる社内外の関わる人を巻き込むマネジメントの駆使、リーダーシップの発揮であり、とりわけ、部下力を高める育成手腕であり、コロナ禍で課題とされた対人関係の質の低下に基づく果然としての、コミュニケーション、動機づけ・対人関係等の実践スキルを磨く事である。
この事を踏まえ、活躍状況を確認し、持続的経営を実現していくさらなる管理職として貢献力のパワーアップを目指す学び合いの機会である。研修項目例は、
<1>持続経営を実現する企業のあり方を確認
<2>当社の強みと戦略を考察
<3>第一線経営者として管理職を楽しむ活躍のあり方
<3>協働力を生かしたリーダーシップの実践法
<4>部下の活躍の喜びを助長するひと言の実践
<5>対人関係の質を高める「寄ってくるコミュニケーション」スキル
<6>>部下力を最適に生かす育成手腕
<7>社内外で一目おかれる人間力
- リーダークラス
厳しく、スピードの早い企業を取り巻く環境の変化に、企業活動もスピーデイに対応していかねばならない。その実現に重要な立場にあるのが第一線の監督者・リーダークラスの活躍である。従って、管理職から示される新たな方向性や目標をいかに早く取り込み、その実の形成を楽しむ。今や強い企業はこのクラスの活躍如何にかかっていると言っても過言でない。なぜなら顧客要望に対したものづくり・サービスの開発、品質・コスト・納期を実現していくのは第一線集団の現場力だからである。その強さが他社に勝る強さを生みだしているのである。
勿論 現実、現場、現物の事実に基づく改革への建設的提案を成す事も期待される。従って、高い役割認識に基づく、仕事の構築、そのためのチーム作り、リーダーシップの発揮、そして実践するためのコミュニケーション等の具体的なスキルアップを計らねばならない。そこから創造する貢献力は、次の舞台へ向けての助走期間でもある。一方、専門力のキャリアアップによるスペシャリストしての活躍も強い企業体質づくりヘの貢献である。研修項目例は
<1>第一線の仕事集団が造る,企業の評判
<2>監督者・リーダーの活躍のあり方と管理職へ向けて
<3>目標達成に向けた活躍の楽しみ方
<4>活力ある仕事集団のリーダーシップ
<5>チームメンバーの意欲を高めるモチベーションスキル
<6>寄ってこられるコミュニケーションスキルを磨く
<7>部下力を高める育成の実践策と指導スキル
<8>問題解決・建設的提案の楽しみ方
<9>当社をより強くする専門力の向上と継承指導
・ 一般社員層
任され責任もって活躍する担当者。だからこそ、誇りと自信を持って活躍し、さすがの実績形成を楽しむ事が当社で働く喜びである。それは、「当社の評判は、わが手で高める」
貢献力に他ならない。そこには真の実力型社員としての存在があり、当社だからこそ得る活躍の楽しみを、ランクアップさせた活躍を通じて自ら享受する。こんな楽しいことはない。
そしてその活躍ぶりがネクストステージの基となる。研修項目例としては、
<1>当社の評判は自らの創る本物社員の活躍ぶり
<2>入社時の想い(自身の売り込み)を実現するキャリアを生かした活躍の楽しみ方
<3>活躍状況を自慢できる事・日頃の気概の持ちよう・・
<4>実績を魅せるマネジメントサイクルと改革の楽しみ
<5>活躍ぶりをアピールするコミュニケーションの実践
<6>学ぶ楽しみを創る 訊く、聴く、相談する
<7>稼げる力を付け、高める自己啓発
などがある。
◆実効を得る実施に向けての具体的取り組み策
C社実施例からここでは提起してみよう。研修の実施は、各コースを1日研修とし、3ヶ月間内での期間とした。まさに、小企業だからこその思い切った全社ぐるみの育成策である。
具体的得策は
①必ずトップを交えた打ち合わせが基点。研修内容、実施方法はこの打ち合わせ時の内容(要望含め)を基に構成する。そこには、他社にない独自の実施内容であり、実感が沸く良さは、受講者各自の実践への落とし込みが容易い。研修の実効は、理解し、納得し、実践での態度変容なる活躍ぶりを促すことにある。
②開講時にはトップ・幹部の講話を必ずお願いし、上記に掲げた当社の想いの共有を直に成し、受講動機の高揚を図る。勿論 ここで示されたキーワードは、研修の軸として位置づけ、以後の研修内容と適宜リンクさせる。
③研修内での受講者によるワークショップでの発表に対して、必ず、トップ・幹部からの講評とその実践に向けた助言を施す。よく見られる発表のための作品作りでなく、地についた活躍へのリンク付けが肝腎なのだ。それには、現状、先に向けての現実の是々非々を踏まえた発表内容への働きかけが重要。それは、トップ・幹部からのコメントが最適である。
④下層の研修で浮き彫りにされた考え方、現況実態、今後への意向などから、上層へのリンク(情報把握、上層としての今後の活躍ヒント)を可能な限り取り込む。例えば、一般層がまとめ上げた「当社をより強くするためにわれわれの成すべき事」を監督者層に紹介し「このような部下をどう生かすか」につなげていく。また、一般層の活躍条件の提議事項、監督者層から提案された「当社の強み」を管理職の「より強みを高めるための成すべき戦略」のワークショップに生かすなどである。
- 理論の施し後には、適宜演習を楽しむ工夫の施し。これは、相互に診断ができるからである。例えばスピーチ実習では仲間のスピーチぶりから自身の改善ポイントを見出す機会。グループワークでは、異見のやりとりの過程で、多面的視点、他署の理解、異見の集約と表現(書く、画く、話す)等の相互啓発となる。とりわけ、日常接することの少ない社員同士では以後の連携づくりの機会となる。
- 終了後は必ず、各位が実践目標を3項目設定し、以後半年間PDCAサイクルの自主管理を実践する。目標は上司に紹介し、実施に向けての助言を頂く。ここにOFF-JTとOJTの部分連結が成される。
⑥フオローアップ研修を実施する。各自の半年間の実践状況を報告し合い、研修受講で心した意欲がどれほど実を生んだかを確認し合うことは意議がある。それは、研修が研修で終わることなく、変わることの実践であり、研修の実効はここにあるからである。忙しい日々だからこそ、掲げた目標への実践は自身の変わる挑みである。この挑みの程度により、活躍ぶりによる実績形成は相応になろう。加えて、追加すべき研修項目の施しの機会とする。
以上の6点である。いかがであろうか。全社ぐるみとは、トップ・幹部が参画し、組織の縦系での連携を育み、そして、受講者間の横系で他部門との交流、異見交換の機会があることに他ならない。
◆小企業だからこその実施策が良い
理解頂くとおり、小企業での人材育成、とりわけ研修の実施はトップの思い入れ如何である。それは、トップが直接指導するにも限界があることだろうし、管理・リーダー層の部下指導力も十分といえない事情もあろう。だからこそ外部講師の力を活用し、トップの想いを浸透し、上役職の部下育成への支援を取り込む事である。
ここに小生の持論である企業と、外部講師のパートナーシップが生きた研修の実施がある。勿論 各社による条件は様々である。それは、社員規模であり、活躍地による集合条件、時間確保、予算などであろう。しかしながら「教育は必要だと解っていますが・・・」との訳知り程度での育成への取り組では実施の決断は難しい。
一歩の踏み出しは「全社員一度に短時間で・・」これでも良い。このような実施は小生が支援する企業も多い。勿論可能な限り、一堂に会する機会が前提である。
「元気ですか!! 元気があれば何でもできる!!」とは故アントニオ猪木氏の有名な言葉である。さらに、残された言葉に「道」がある。内容は 「この道をゆけばどうなるものか、危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし、踏み出せばその一足が道となり、その足が道となる。迷わず行けよ 行けばわかるさ」 である。この2つの言葉を噛みしめながら、元気の「元」は創業心であり、理念である。
「気」は気概であり、一歩踏み出す勇気であろう。それは、企業の歴史の新たな一歩と解し、思わず「いーち、にー、さーん!! ダー!!」と拳をあげた今である。なぜなら、新たな学びの第一歩が、新たな智恵を産み、活躍を変えるからである。そこに新たな道ができる。それは社員による企業歴史の足跡である。
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◇澤田 良雄
東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/