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「良き人としての出会いの提供」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(88)

「良き人としての出会いの提供」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆上司から 良い人に出会えて良かったとの一言

「良き人に出会うと良いことがある」「その時の出逢いが その人の人生を 根底から変えることがある(相田みつを)」等々人の出会いの素晴らしさを示唆する言葉は多い。

実際に、昨今の対面型研修機会だからこそ、その実感を得ることがある。それは、諸処の研修機会で新たな人との出会いや、再会を得ての機会があることに他ならない。

例えば、出会いでの喜びは、研修後に「良き機会を頂きましてありがとうございました」と、終項での感想発表であったり、終了後寄ってきて「また、お会いしましょう」の一言や、メール、葉書を頂くことにもある。

それは、相手から頂く出会いの良さであり、こちらが多少なりとも与えた相手の喜びである。こんな相互に喜び合える出会いを重ねて行くことは大変嬉しいことであり、その瞬間が実現するよう指導支援をするのも小生のお役立てである。

今回は、昨今の研修現場での事例を踏まえて記してみる。

●先日、35年間主宰して来た都内区社会教育生涯学習「話し方教室」で受講者Nさんのスピーチで次の実例が紹介された。

Nさんは、前勤務企業で、リーダ-的活躍してきたがコロナ禍での厳しい企業業績から、敢えて若手社員の雇用継続を願い、自ら退職し、就活を得て現職についた。59才。前職と全く異なる自身の好きな「料理が好き、食ベていただく仕事をする」と大手企業の寮生に提供する食事作りの業務に就いた。

新たな学びをものにし現場での技も体得し、若き寮生からの「美味しかった」との言葉がけに思わず頬の緩む日々を重ねて来ている。しかし、気になることが一点あった。それは、本社定年後着任してきた新任責任者が寮生、職員同僚から敬遠されていることである。従って、俗に言う職場の空気が良くない現況。

要因は何か。それは「挨拶がないこと」「返さないこと」だと判断。ならばと、Nさん自ら「おはようございます」と声がけを実践。しかし、反応なし。めげずに翌日も、また翌日も…。やがて、小さい声ながら「おはよう」返ってきた。翌日、翌日には「おはよう」目を添えての返答である。そして現在は、「Nさん、おはよう」と先に声がけを頂いている。当然、職場の雰囲気が良好になってきたことは言うまでもない。

責任者曰く「Nさんのおかげです。自分なりに、なんとかしようと思いつつも、女性職場であり、寮生への職務は初体験であり、ついつい…。Nさんのような良い人にこの職場で出会えて助かりました」と感謝されたと話された。

◆自分が変わると人への関わりも変わる

Nさんは続けて「これは、この教室での学びの結果です」とお礼の言葉。Nさんとの学び合いは5年。当初は、強さ、逞しさの目立つ人柄だった。当然、スピーチ実習には、きちんと準備し、話しぶりもきちっ、きちっと進め、目線の強さ、語尾の強さ、表情の堅さが自意識の高さとなり、気になる話し手であった。従って、指導ポイントは、聴いて頂ける感謝の心を大事に、言って聞かせる論でなく、体験から掴んだ主張内容に着目することとした。

継続の学び合いでは、年齢的条件もあり、急に変わることは難解なこと。「他の人に劣ることを恥じるより、昨日の自分に劣ることを恥よ」。歩のたとえのごとく止まることを少なくしていくことを共有した。

成長ぶりは当然実感の伴う内容であるから喜怒哀楽の心の表現が自然に醸し出され、語調の柔らかさ、表情の優しさ、言葉の丁寧さ、自然に出るゼスチャー、併せて聴き手への語りなど聴き手を巻き込む話しぶりとなった。まさに「話の味は人の味」である。

このNさんの人物影響が、新任責任者へのお役立ての施しとなったのであろう。

◆出逢いの挨拶に全人柄が映る

確認してみよう。
良き人との出会いは、一言の交わしにある。それは、分かっている、できる挨拶である。
その効用は、
①挨拶は出会いの相手の心に、良い人と出会えて良かったとの心の灯火をともせる
②挨拶は心と心を繋ぐ金の鎖のごとし、縁づくりに発展する
③挨拶の「挨」は心を開くと解し、「拶」は迫る、近づくと解し、相手に関心を示す心と言動なり
④一言の挨拶はその人の内外を魅せる品格の表現なり。それは、表情、語調、振る舞いに表れている
⑤挨拶は、言葉がすべてでない。例えば、振る舞いで伝えることもある

●先日、大手製鉄所のO地区での55才社員研修を担当した。
10数年継続してきた研修である。毎回の受講者とは初の出会いであるがベテラン層だからこそ持つ魅力にお会いする楽しみである。

その実感は、会場に入室する際に一礼することにあり、多分にその心は「よろしくお願いいたします」との人間味の豊かさの自然な言動なのだ。

すかさず、小生に対して「おはようございます」と先手の挨拶をかける。開始時の挨拶では「ご安全に!!」と声の響きと、きっちとしたお辞儀が小生の指導の楽しみマインドを駆り立てて頂く。

実は、当研修では、事前に現状の活躍ぶりのレポート提出を頂くが、その一項のキャリアを生かした活躍に関しては「模範として活躍している…」との記載内容が目につく。それは、積み重ねてきた専門力の施しと人物的影響力を提供している活躍ぶりが人となりの豊かさになっているのである。

従って、後輩管理職にとっても身近に頼れる人であり、入社してきた新人にとっては、「目指す憧れの人」である。それは、良き人に出会えた喜びの実感といえる。

◆起業時の出会いの有り様が想いを実現する

出会いを生かし、想いを実現していく覚悟を決めている人に起業する人がいる。職業人生の現役時代に高めてきた「決め手」を、広くお役立てする一策である。そこには、自ら創るステージで活躍する「熱い心」がみなぎる自身がいる。

●筆者は地元の「創業塾」の講師団として、長年携わってきた。創業塾では、起業にあたって、提供する商品・サービスをどうするか、売上げ・利益の見込みを見据えたビジネスモデルをどうするか、事業を行う場所、設備をどうするか、資金繰りはどうするのか、マーケティングや販売戦略など、起業にあたって必要となる研修を行い、修了時には自ら作成した事業プランを熱い心でプレゼンテーションする。

さて、これらの学びを得て、実際に想いを実現する上での必須スキルは何か、それは、出会いを生かし得るビジネコミュニケーションである。この支援・指導は筆者の担当である。そのコミュニケーションの柱は次の2つ。

1)開業までの協力者の確保=資金繰り・場所・取引関係者の構築、パートナー、広報活動での親身な人脈形成のコミュニケーション
2)商い場面の対応=顧客候補者の確保、採用、購入への提案

ならばこの実現の第一歩は何か、それは出会いを得て、この機会を生かし、縁づくりしていく人脈形成である。そこには、良い人と出会えたと興味を抱いて頂ける人であるかが問われる。その良い人として好感度、それは立ち位置の変化の自覚の芽生え、即ち、自身が起業前の顧客、上司としての権限、企業ブランドの優位力から、お願いする立ち位置に脱皮することにある。

従って、出会いの機会には、謝念の持てる人として、お会いできた感謝、そこには機会をつくってくれた人がいて、信用してお会いしてくれた出会いであるとの自覚である。従って、「お会いできましてありがとうございます」「どうぞよろしくお願いいたします」この言葉に謝念が最高に生きた言動がなくして、次の機会はない。

そして、紹介者には、「おかげ様で…」と成せた感謝の心をどれだけ届けることができるかが肝腎である。「井戸を掘ってくれた人の恩は忘れない」将来の繁栄はこの出会いの施しのお陰があるからなのだ。

だからこそ、次の3点の良き人としての魅力が相手に伝わるのである。

①自身の持っている専門力で、人・社会にお役に立てることを楽しみにしている人
②いざという場面でも、きちんと謝念に基づくお願いができる人
③感謝、謙虚、素直、思いやりを人柄が自然にかもし出せる人

この出会いの点が、「この人のやる事は何だろう」と起業内容に興味を抱き、聞いてみたいとの関係を育み、縁の線となる。そこには良き人の人柄として
①誠実な人 ②熱意のある人 ③信念のある人の3つの人間の魅力がある。

従って、起業の想いは、「多くの人にお役に立ちたい」「喜んで頂く」「幸福感を得て頂く」、それは、今お使いになっているお品、方法などでの不安、不満、不信、不快などの心配事の解決をお図りする」事業であり、単に売って儲ければ良いと言うことではない。この想いが伝わっているからである。 

縁づくりに関して知られた言葉として、剣の達人、柳生家の家訓がある。

「小才」は、縁に出会いて、縁に気づかず
「中才」は、縁を作りて、縁を生かせず
「大才」は、袖すりおうた縁でも生かす

いかに、縁をつくると言っても一方的ではない。相手が、どう受け入れ、どう興味を抱き、どう継続をなしていただけるかである。その起点が出会いである。

◆出会いの会話は学ばせて頂く機会
 
出会いからご縁につなげていく働きかけは親和感を得る会話、それは、学びを得る楽しみである。その実践法は、訊く(質問)、聴く、相づち、そして話させていただく機会で自身ヘの理解を得て、「またお会いしましょう」との再会へのつなげである。

その極意は
●何を話すかを考えるより、何を学ばせて貰うか問いかける。
●相手は問いかけに話す楽しさを謳歌、好感度を高める。従ってまた、話す機会を欲する

そこで、訊くためのキーワードは、「私の問いは衣食住」と覚えておくとどんな相手にでも困ることはない。説明を加えてみよう。

ワ 私ごと、出身地、友人、家族の話、ただし他人に話せる可能な範囲で
タ 旅の話、旅先の思い出、出来事
ク 工夫、アイデア、苦心談
シ 仕事に関すること
ノ 能力アップに関する話、自己啓発
ト 得意なこと、趣味、習い事、特技、楽しみ
イ 生きざま、人生に関すること、座右の銘
ハ 流行、ニュース、出来事
衣 ファッション、着るもの、装飾
食 食べ物、うまい、安い、珍味、こだわり、おすすめのお店
住 住宅、住所、住みたい都市、地域、
 
これらの話題は、年代に関係なく活用でき、臆することない問いかけにより、学びの機会を大きく広げてくれる。
 
また、起業時の尋ねは「不」のキーワードである。それは「不安」「不快」「不満」「不信」「不利」「不便」…等現在の利用品、システム、店に関しての問いかけである。ここでの学びは、ビジネスチャンスを産み出す基である。
 
「話し上手は話させ上手の訊き・聴き上手」それは、相手が話すことを楽しめる分だけ学びが多くなる原則である。その為には、相手に目を向け、うなずきながら相づちの行為を伴うことは言うまでもない。従って、「話してみて、さらに良い人だった」と親しみがわき、不安感はなくなり、この親和感が縁づくりに発展していく。

◆言いにくいことでも「お役に立てること」は臆せず伝える

良い人とは、言いにくいことでもきちんと伝えていくことも大事である。単に、合わせるだけの迎合なる対応は遺憾である。「現在の自分があるのは、あのときのひと言のおかげです」という感謝の言葉は、当初の言葉例にあるように、自身の有り様を変える転機になることもある。これは「よき人に出会うと、良いことがある」とのお役立てのもたらす価値の大きさといえる。

●先日 後継者塾の話し方教室を担当した。年ごとの24回目、筆者は当初からの関わりである。

塾生は若手トップ・幹部クラスであり、約1年、2泊3日の合宿研修を数回重ねていく。時には、倫理観を持った人間力向上の鍛錬に富士山を仰いで石ころを裸足で歩き、正座をなし、また伊勢神宮の地で川への入水体験も織り込まれている。話し方教室では、各自のプレゼンテーションをビデオ撮影し、再生による、自己診断、仲間からのコメント、そして筆者の指導である。

各自の話力は、立場、職種により得手、不得手は当然のことであり、ビデオ研修は初体験者も多い。多少興奮と緊張感での演習は素の話しぶりが観え指導の実効が上がる。従って是々非々での指導に全力を集中して取り組む。この時の、指導が「あのときお会いでき、ズバリ言っていただき、話すことへの取り組みも変わりました。現在企業を後継し、トップとして活躍する上でにホントに役立っています」と後年に渉って「おかげ様で」の言葉を頂くことはことのほか嬉しい。

勿論塾指導陣の指導も厳しく、塾生同士の相互の鍛え合いも真摯な取り組みであるからこそ、卒塾時には歓喜のハグとなる。そこには「良き仲間に出会えた」喜びであり、終生にわたるパートナーとしての強い絆が生かし合えることは言うまでもない。「いい人と出会えたからいい人になり得た」こんなフレーズがぴったりである。

「良き人との出会いで、自己の磨きの機会を得る。さらに相手のお役に立てる良き人」と考察してみた。そこには、「良き人と出会える自分か、自分は良き人と出会ったと少しでも言われる人物か」と問いつつ、それは、自身を磨くことでもある。 その実践は、学び、成長することに他ならない。かつ、その支援のお役立てパワーの精進も怠るなと確認した。

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/