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映画『すべてうまくいきますように』:鑑賞記(小島正憲)

【小島正憲の「読後雑感」】
映画『すべてうまくいきますように』:鑑賞記
 
小島正憲氏((株)小島衣料オーナー)

https://ewf-movie.jp/

テレビを見ていたら、『すべてうまくいきますように』という変な題名の映画のCMが目に入ってきた。どうも、安楽死をテーマにしたフランス映画のようである。数年前に、女性の高齢者の安楽死を扱ったフランス映画を観たことがあるが、どうも今回のものは、男性高齢者を対象にしているようだった。私は、同性の高齢者の安楽死への対応を見て、自分の参考にしてみたいと思ったので、早速、観に行った。

映画館の看板には題名とともに、「誰にでも訪れる家族との別れ-それが安楽死だとしたら。名匠フランソワ・オゾンが集大成として描く涙とユーモアあふれる感動の物語」と大書され、手渡されたリーフレットには、下記のようなストーリーが書かれていた。

「小説家のエマニュエルは、85歳の父アンドレが脳卒中で倒れたという報せを受け病院へと駆けつける。意識を取り戻した父は、身体の自由がきかないという現実が受け入れられず、人生を終わらせるのを手伝ってほしいとエマニュエルに頼む。一方で、リハビリが功を奏し日に日に回復する父は、孫の発表会やお気に入りのレストランへ出かけ、生きる喜びを取り戻したかのように見えた。だが、父はまるで楽しい旅行の日を決めるかのように、娘たちにその日を告げる-。」

上記は、この映画の前半で、後半は安楽死遂行のため、フランスからスイスへ脱出をしようとする父や家族を含めて、警察や弁護士などが絡むユーモアあふれるスリラー展開となっていく。結局、父一人がフランスの救急車でスイスに行き、安楽死を約束していた病院に運び込まれる。そしてそこで、父の希望通りの安楽死が遂行される。この映画の最後は、そこの病院長から娘たちへ、父が立派な安楽死を遂げたという報告の場面で終わる。

この映画を観て、私がもっとも大事だと思ったのは、スイスといえども安楽死には、それの自己決定と自分自身の手でそれを遂行することが不可欠だということである。この映画では、多くの書類に自分でサインし、死に至る薬を自分で飲むことが求められていた。つまり、安楽死の遂行のためには、自己決定できる脳力と、それを実行できる体力が必要不可欠だということである。

ところで、私の行おうとしている安楽死は断食である。私は、自分の手で食べられなくなり、食欲もなくなったら、口を閉じて、食べることを拒否する。また足腰が不自由になり、下の始末が自分でできなくなったら、坐禅を組んで断食を敢行する。数年前、私はすでにリビングウイルで点滴や胃瘻での延命措置拒否しておいた。だから、断食で、安楽死ができる。けれども、そのためには、自己決定脳力とそれを実行できる意志力が不可欠である。

当たり前のことだが、この映画は、安楽死をテーマにしたものだから、決して明るく、楽しく、愉快な映画ではない。しかし、主人公の男性は、85歳で、資産家であり、「充実した人生を生き切った。すべてをやり切った。思い残すことはない。これ以上、老いさらばえて迷惑をかけて生きたくない」と言い切っており、そこに悲惨さはない。そこが、今までの安楽死をテーマにした映画とは、少し違う。おそらく、今後、死そのものが明るく、楽しく、愉快に語られるような宗教や哲学、芸術が生み出されていくのではないだろうか。

私も、この映画の主人公のように、「すべてをやり切った」と言って死にたい。ありがたいことに、85歳までには、まだ10年の時間がある。やっとコロナも終わった。これからまた、世界にはばたき、若きころ抱いた志を遂げてから、明るく、楽しく、愉快に、断食で死にたいと、私は今、考えている。

 

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清話会  小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中 国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。