[ 特集カテゴリー ] ,

第18回 「地域の産業拠点の歴史と伝統 に革新を加える」 青梅商工会議所 (増田辰弘)

増田辰弘が訪ねる【清話会会員企業インタビュー】第18回

  地域の産業拠点の歴史と伝統に革新を加える     青梅商工会議所

 ~シルクロードの時代からの起業家精神を引き継ぐ~

【会社紹介】
青梅商工会議所
会  頭: 中村洋介(青梅ガス㈱ 代表取締役社長)
副  会  頭: 菊池一夫(㈱クレアンスメアード 代表取締役社長)、
                 清水 大(清水燃料㈱ 代表取締役社長)

                  林 英夫(武州工業㈱ 相談役)、岩浪岳史(岩浪建設㈱ 代表取締役社長)
専務理事:  池田政教
設     立: 1952 年(昭和27 年)11 月26 日


                          池田政教専務理事 

 

事業部が年間5億4千万円を稼ぐ収益部門
 青梅商工会議所でまず最初にびっくりしたのが、所内に事業部があり、ここに職員が29人、パート職員・協力会社ほか55がいて年間5億4千万円を稼いでいることである。商工会議所
全体の職員が46人、総予算が約9億円であるから、これは大変な規模である。
 この事業部は立ち遅れていた中小企業に対するコンピューター、情報処理の推進を図るため経済産業省(当時の通商産業省)の補助事業で1976年にスタートした。今の若い人は知らな
いであろうが、大変懐かしいCOBOL 言語の時代である。当初はこの事業を多くの商工会議所で行っていたが、今では青梅のほか松本と北大阪のみである。この3ヶ所は商才に長けた商工
会議所と言って良い。
 今では商品内容も学校給食収納管理システム、墓地公園管理システム、選挙開票録システム、給与実態調査システムなど幅広く手掛けている。大手企業の入り込まないすき間の分野にたく
みに入り込んで、商品企画からシステム設計、プログラム作成、商品販売にいたるまでトータルのサービスを行っている。
 販売先も「今度ついに沖縄にも営業いたします」と述べていたから、全国で行っている。話をお聞きすると、「正直、近隣より遠くのほうがやりやすい」と驚きの答えが返って来る。ど
うしても近隣だと民業圧迫という見えないプレッシャ―を感じる。確かに沖縄にまで出向くと商売の厳しさはあるものの、そんなことはまったく考えなくて良い。
 仕事柄、全国の商工会議所を訪問しているが、最近公務員のような若い職員を時々見かけることがある。これは極めて危険な傾向で、もっと企業の側に近づかないと企業の実態は掴めな
い。
 青梅商工会議所はその点、この事業をやっているので自然と企業感覚が身についている。私は、商工会議所はどこの会議所も1事業は民間の事業を手がけたほうが良いと思っている。

民間企業的商工会議所
 と言うのも、かつて栃木県商工会連合会に講演に行った時、ここは居酒屋を経営していることが分かった。それはある企業の指導をしているとその経営者から「会社を経営もしてもいな
いのに我々の本当のつらさ、苦しみが分かるのか」と言われた。「ようしそれならやってやろうじゃないか」と始めたのがこの直営の居酒屋であった。私が行った時は大変繁盛していた。
 私も大学の時に「社長業の進め方」という授業を教えていた。ある時、学生に「先生は会社を経営していたことがあるのですか」と質問され言葉が詰まったことがある。やはり、言ってみ
て(指導をして)、やって見せて、褒めてあげねば人(企業)は動かず、なのである。その意味では青梅商工会議所は事業部を持ち、民間と同じような事業をやっていることの意味は計り知れず大きい。
 青梅商工会議所の池田政教専務理事はその事業部のプログラマーがスタートである。全国515ヶ所の商工会議所のなかでプログラマー出身の専務理事はおそらく彼ぐらいしかいないのではないか。それぐらい民間企業風の味付けが特徴である。
 池田専務理事は、「専務理事になって商工会議所の各事業の内容を聞いていて、時々そうなのかなと感じる時がある。それはおそらく民間企業的視点から見ているのだと思います。なに
しろ30年間、事業部にいましたのでこんな見方が自然にできている。しかし、これはある意味では大事なことですね。商工会議所は行政ではないのですから」と語る。
 青梅は良い意味で民間企業的商工会議所、これがひとつの特徴である。
 この事業部の運営で若干問題も残るのは、職員の人事異動で事業部から普通の商工会議所の部門への異動はあるが、逆はほとんどないことである。これは事業部の仕事が専門的な仕事な
のでそうなのかも知れないが、これは見方によっては贅沢な悩みに聞こえる。

  
        合同企業説明会チラシ_1c

会員ニーズの高い事業から取り組む
 だから、青梅商工会議所の事業の目線は常に2400社の会員のニーズがどこにあるかに注がれる。今企業が一番困っているのが人手不足である。特に中小企業では新卒の社員が採れない。そこで、毎年合同企業説明会を開催している。1社では学生を呼べないが集団でやろうという大作戦である。2022年度は参加企業が18社、参加学生42人、採用学生は6社6人で
あった。確かに集まった学生は決して多いとは言えないが、採用率は驚くほど高い。
 学生の数だけ集めるなら都心で開催したほうが集まる。開催場所を市内の青梅市文化交流センター(S&Dたまぐーセンター)にしているのは青梅と奥多摩で働きたい学生に絞り集める
ことに注力したからである。これも実利主義の青梅商工会議所らしいやり方である。  
 その次に力を入れているのが創業者支援事業である。JR青梅線河辺駅北口の近くに「おうめ創業支援センター」を設置し、創業に特化した支援を行っている。もはや東京圏や関西圏の大
都市部では創業者支援、スタートアップ支援はもう立派な民間企業の事業となっており、近隣の商工会議所で創業支援センターを設置しているのは青梅ぐらいである。
 内容は、まず創業者セミナーの開催である。基礎講座の一般向けが年間80人、女性向けが10人、シニア向けが14人であり、次の段階となる実践講座は80人が受講している。
 創業者支援相談は年間600件ほどであり、そのほかにチャレンジショップの運営をしている。これは3店舗ほどだが、お店の経営のチャレンジをさせている。前年度に創業支援した事
業者は50社、うち女性が40%、シニアは15%であり、同センターの創業支援は女性とシニアを重点にしていると言える。
 第3は言わずもがなだが、新型コロナウイルス対策事業である。各種の感染症対策事業はもちろん引き続き行うが、課題はこのコロナで傷んだ会員企業の経営状況をどう改善するかに移っている。この状況はかなり深刻なことであり、想像以上の難問となっている。
 特に課題なのが、多くのケースで今後、会社をどのような方向に持って行くのか、と言う絵を描く作業が必要なことである。これはこれまで培ってきた支援の実績が本当に役立っている。制度融資や各種補助金、助成金の活用方法の支援も行っているが、それだけではない。コロナで中小企業の経営環境はがらりと変わった。この変化に合わせて商工会議所もがらりと変わっ
た経営指導方式、運営方式が求められる。これを愚直に実践している。

  
    おうめ創業支援センター「Begin!」パンフレット

青梅線沿線地域の産業拠点として活動
 地域の産業拠点としての青梅商工会議所の役割は限りなく大きい。会議所の発足は1952年11月で昨年70周年を迎えている。東京都では、東京、八王子、武蔵野に続く4番目の設立であ
った。
 当初は、青梅市だけでなく福生市、羽村市、あきる野市、瑞穂町、日の出町、奥多摩町を含んだ広域的な商工会議所であった。その後これらは1960年の商工会法の制定に伴い分離さ
れている。その流れのなかで今でも奥多摩町は含まれている。
 特に青梅商工会議所は、当時八王子に続く織物の一大産地であった。繊維試験場、織物組合、買継商組合、糸商組合、染色組合などを繋ぐ重要な仕事をこなして来た。その意味では歴史的
に地域の産業拠点としての役割を担ってきたと言える。
 この流れをくむ活動が現在の「青梅線沿線地域産業クラスター協議会(会長:青梅商工会議所会頭・中村洋介氏)」である。
 JR青梅線、五日市線、八高線沿線地域には約2000社の製造業があり、年間2兆円の出荷額を叩き出す一大産業エリアとなっていた。
 これらの地域は青梅市のほか昭島市、福生市、羽村市、あきる野市、瑞穂町、日の出町、奥多摩町の8市町と多くの自治体に分かれていて、自治体間や企業間の広域的な交流に乏しく、
せっかくのビジネスチャンスを有効に活用しきれていない状況であった。
 そこで、この協議会を青梅商工会議所が事務局となり、JR青梅線、五日市線、八高線の沿線地域の自治体、商工会及び企業支援機関が、組織や管轄区域を越えて連携し、総合的で実質
的な産業支援体制を構築することにより、地域産業の活性化を図り、国内はもとより国際的にも競争力のある工業集積地としての充実と発展を図ることを目的に2006年に設立した。
 青梅商工会議所は、これまで一貫してこの事務局を担い、多くの商工会議所、商工会、企業支援機関、自治体、大学、研究機関などと強固な連携を図り、事業所などからの多くの要請に
応じて、ビジネスマッチングや販路開拓、産学連携、人材育成などの経営課題を解決する事業を行っている。
 東京都内の23区と異なり多摩地域は小さな市や町が混在している。しかもそこに存在する多くが新しい企業であり、市民であり、大学などの関連機関である。とかくまとまりなくバラバ
ラになりそうな地域をまとめる役割を担う青梅商工会議所の役割は限りなく大きい。

  
           青梅商工会館外観

 

*眼鏡を売るぞ…産地振興型商工会議所の見本を示した鯖江商工会議所
 全国にある商工会議所もひとつの型がある訳ではなく、地域によりその役割は微妙に異なる。東京や大阪のような大都市型、今回の青梅のような地域産業拠点型、金沢のような観光・商業
振興拠点型そして鯖江(福井県)のような産地振興型に分けられる。
 そして、今回の青梅商工会議所が地域産業拠点型として極めているのに対し、産地振興型として極めているのが鯖江商工会議所である。まず、驚かされるのが六本木か原宿を思わせるど派手なエントランスと1F にあるSCC(SabaeC r e a t i v eCommunity)である。
 このSCCには同市の地場製品である約30社の眼鏡、繊維、漆器が並ぶ「テストマーケティングスペース」、越前塗拭きで仕上げた豪華なテーブルのある
「商談スペース」、メインエントランスにある商品の「展示販売スペース」、カメラ、音響機器、照明を配置した「プレゼンスペース」、最大50人が入る「イベントスペース」そして商品の企画・設計からプロトタイプの製作できる「試作・製作スペース」で構成される超近代的な施設である。
 ポイントなるのは日替わりで経営者が変わるチャレンジショップ「SCCカフェ」の存在である。地方都市は喫茶店、カフェが少ない。ちょっと休む場所、商談する場所が不足する。私が
取材した日もこのカフェは満席であった。
 もちろんこれだけではない。東京などでの展示会への出店のほか仮想商店街を運営し、フランスのパリにはデモストレーションの店も運営している。これがわずか市内の人口7万人弱、会員企業1700社の会議所の布陣である。
 さて、それではなぜ鯖江商工会議所はここまで大きく変われたのか。まず、キーパーソンの先端職員である田中英臣事務局長(当時は経営支援課長)の存在である。次にそれを理解し支援する会頭などの会議所の経営トップである。そして、これは一番大事なことであるが、スケジュール作戦である。
 話題の少ない地方では何か新しいことをやろうとすると評論家がいっぱい出てくる。ある程度煮詰まるまでは少数の人間で秘密裏に進めた。確かに、これだけのプロジェクトを一から表
に出して議論していたのではとても実現は難しい。それは地方に行くほど評論家のレベルが上がって来るからだ。
 地域経済の活性化はある意味では商工会議所間の競争と言っても過言ではない。商工会議所や市役所が工夫をし、知恵を絞ったところの地域は活性化し、昨日までやってきたことを明日
もまたやって行けば良いという穏健的な考えのところはどうしても衰退する。現在の地域経済はそういう穏健的な考えが通用するほど甘い時代ではなくなっているからだ。