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「台湾、中国、日中関係について」(真田幸光)

【真田幸光の経済、東アジア情報】

台湾、中国、日中関係について

真田幸光(愛知淑徳大学教授)

1. 台湾、賃上げについて
台湾政府・労働部は、来年度の基本給調整を検討する為、9月上旬にも基本給検討会議を開催する予定であるとしている。
こうした中、台湾財界では、
「黒字企業は従業員の給与を上げるべきである。
賃上げは必要であり、回避すべきではない」
との声が主流となっているとも見られている。
但し、今年の台湾の国内総生産(GDP)成長率見通しは1.72%に留まっており、基本給の引き上げが2%を超えるのは、これもまた、不合理であるとの声も強まっている。

2. 台湾、統一企業について
統一企業グループが100%出資する統流開発公司は、台南市新市区周谷公園に新たな都市物流パークの建設を準備中であり、土地を含む建設設備投資金額は100億ニュー台湾ドル相当と見られている。
統一グループはこれまでにも台湾北部、中部、南部各地で、高層地区に複合大規模物流パークの建設を計画しており、この新市物流パークはその最初のプロジェクトとして推進、稼働を目指すことになる。

3. 香港の不動産市場に対する台湾の見方について
香港一の富豪と言われる李嘉誠氏率いる長江ホールディングスが計画、推進している不動産開発プロジェクトである、
「新海ステーション2」
が、市場価格より30%も割引されて販売される見通しであると発表したことから、香港人がその購入に殺到したと台湾では報じられており、台湾では、今後の香港の不動産市場動向と香港の中国本土統治に対する香港人の意識などを合わせて分析しようとする動きが出ている。
尚、この新海不動産開発プロジェクトのシンクタンク・コンサルタントは、
「李嘉誠氏は破格の価格で不動産を売却した。
香港の不動産は絶望的だと考える人もいる。
そして、李嘉誠氏は既に多くの主要不動産を売却しているものと見られる」
との見方を示し、また、李嘉誠氏は香港の不動産住宅価格の底がどこにあるのか、そしてどれだけの価格が市場を刺激するのかをよく知っているともコメントしている。

4. 中台貿易について
ポリカーボネートは所謂ポリエステルの総称であり、対衝撃性、機械的強度が大きく、レンズや紺パリと・ディスク、機械部品、電気部品としても用いられている素材である。
こうした中、中国本土政府・商務部は、台湾から輸入されるポリカーボネートに対して8月15日から最高税率22.4%の暫定反ダンピング税を課すと発表している。
台湾税関のデータによると、昨年、中国本土に輸出されたポリカーボネートは約8億3,000万米ドル相当であり、台湾にとっては中国本土がポリカーボネートの最大市場であり、約78.5%を占めている。

5. 中国本土経済について
中国本土経済はゼロコロナ政策をやめたことによって、内需を中心に、ゆっくりとではあろうが着実に回復してくるかと見られていたが、若年失業者の問題などもあって、その期待の内需が思ったほど回復せず、景気回復には至っていない。
こうした中、新たなリスクも顕在化してきそうである。
即ち、中国本土最大の民間不動産開発会社と言われてきた恒大グループに続いて、大手企業の碧桂園と萬達の「ドミノデフォルト(債務不履行)」の危機により、中国本土経済がバブル崩壊する、それと共に日本経済型の長期低迷に陥るという懸念も出てきているのである。
こうした大型不動産デベロッパーの債務不履行懸念は、中国本土の債券市場のパニックに繋がる危険性があり、中国本土政府は既に市場を落ち着かせる為の緊急措置を取ってはきているが、事態は不安定となっている。
また、恒大集団などの外国人債権者は一気に債務履行を求めて動き、債権者としての新たな権利を得る、例えば、中国本土資産を一旦減価させて、その混乱の中で債権を買収して、本格的に中国本土市場にじっくりと入り込むと言った動きを取るかもしれない。
もちろん、その仕掛けの中で中国本土経済が痛み、中国本土の発展の背景となっている経済力の弱体化を進めることも仕掛けてくる可能性がある。
いずれにしても、様々な角度から、今後の動向をフォローしたい。

6. 中国本土、政策金利について
中国本土の中央銀行である中国人民銀行は8月15日、中期貸出制度(MLF)の1年物金利を予想に反して2.5%に引き下げると発表した。
従来は2.65%であったものの利下げである。
中国本土経済は不動産市況の悪化や個人消費の伸び悩みによる新たなリスクに直面していると見られており、景気のてこ入れを図る為の利下げと見られている。
利下げの発表を受け、人民元は下落した。
また、10年債利回りは低下し、2020年以来の低水準となった。
 利下げは6月以来で、0.15ポイントの引き下げ幅は2020年以来の大きさとなる。
 中国人民銀行は短期金融市場の公開市場操作(オペ)金利である7日物リバースレポ金利も0.1%引き下げ、1.8%としている。
 金融面からの景気テコ入れに入ったと見ておきたい。

7. 日中関係について
中国本土は日本に対して、
「様々な困難や障壁を取り除きながら、日中二国間の関係の改善に向けて頑張ろう」
と協力を求めている。
中国本土政府・外交部は、ウェブサイトへの投稿によって、日中平和友好条約締結45周年に合わせてこのようにコメントしている。
日中平和友好条約は、1978年8月12日に北京で署名されたものである。
そして、その声明では、
「過去45年間、日中関係は両国国民に目に見える利益をもたらし、地域内外の繁栄と安定に貢献し、大きな進歩を遂げた」
と条約の意義を強調するものとなっている。
 中国本土の日本に対する「飴と鞭」戦略は続いている。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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