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第20回 新しい街を創る壮大な実験に 挑戦した  中目黒GT (増田辰弘)

増田辰弘が訪ねる【清話会会員企業インタビュー】第20回

  新しい街を創る壮大な実験に挑戦した    中目黒GT

 ~近代的だがなぜかなつかしい下町のにおいのする街づくり~

【会社紹介】
株式会社 中目黒ジーティー
代  表  者:本多達也
設     立:2000 年 8 月 1 日
従業員数: 3名
株  主:35名(※令和5年3 月31 日現在)

資  本  金: 1,020万円
事業内容: マンション管理組合の運営委託・不動産の売買、賃貸借、仲介及び管理業務、不動産の賃貸借における契約締結の代理業務、並びに不動産の賃貸借における賃貸料集金、修繕、苦情処理等の不動産の賃貸借契約に伴う一切の権利の行使及び業務の履行の代理業務・経理・広報事務の代行業務・ビルのメンテナンス業務・損害保険代理業・広告代理業 

 


                             本多達也社長

オープン後20年とは思わせない若々しい街
 東急東横線中目黒駅を降りると、すぐにあるのが街のランドマークタワーとも言える中目黒GT(上目黒二丁目地区第一種市街地再開発事業)。また、山手通りを挟んで向かいに中目黒アトラスタワー(上目黒一丁目地区第一種市街地再開発事業)がある。2つを比べるとコンセプトやデザインの違いが見て取れる。
 そして、今回の取材はこの中目黒GTの管理組合の運営を一手に担っている会社㈱中目黒ジーティー(本社:東京都目黒区、本夛達也社長)のまちづくりの物語である。
 正確には、この中目黒GTは、25階建ての主にテナント企業の入居するGTタワー、住宅が入るある15階建てのGTハイツ、6階建てのGTテラスがある。そして、この企業棟、住宅棟(このほかに16店の商業施設と中目黒駅前図書館、中目黒GTプラザホールの公共施設、大型の駐車場がある)ごとに管理組合があり、この上に全体を統括する全体管理組合がある。正確には中目黒GT全体管理組合、オフィス棟が中目黒GT A棟管理組合、住宅・商業錬が中目黒GT BC棟管理組合である。㈱中目黒ジーティーは、この3つの管理組合から運営委託を受けて仕事をする。

 業務の内容は街の雑貨店のごとく多彩であるが、最も大事な仕事は中目黒GTの建物資産を維持していくための運営業務である。そして建物を所有する法人、個人の区分所有者から管理費等を徴収して建物、施設の修繕などの保守、管理を健全に行うことである。中目黒GTの資産価値を守り、更に付加価値を付けて行く重要な仕事である。
 中目黒GTは、昭和の終わりとなる1988年の目黒区における「中目黒駅周辺地区整備構想」の策定から始まる。1997年に上目黒二丁目地区市街地再開発組合の発足、1999年に工事開始、2002年のオープンである。東京都、目黒区、民間企業、地主が参画し構想が14年をかけた壮大なプロジェクトである。
 ㈱中目黒ジーティーはオープン2年前に㈱ラビュートとしてスタートし、オープンの時に現在の社名に変更している。

街づくり総合請負業
 中目黒GTがオープン後20を経てもまったく色あせず若い近代的な街に出来ているのは、この中目黒GTの事業コンサルティングを行った㈱澤田計画事務所のまちづくりデザイン力の役割がかなり大きいものと思われる。要所に緑を配置し、工夫して路地をつくり、住まい、店舗、オフィスを複雑に組み合わせる独特の味付けは、近隣の街との連続性を創り出し、味わい深いものとなっている。これだけうまく作られた街を運営していくことはやりがいのある仕事である。
 ㈱中目黒ジーティーの業務は、大きく一般の日常業務と長期的業務の二つに分けられる。中目黒GTには、GTハイツ、GTテラスには91室の住宅と60室のURの賃貸住宅と16の店舗がある。GTタワーには21社が入居している。中目黒駅前図書館、中目黒GTプラザホールの公共施設は区分所有である。

 先に述べたように、ここには3つの管理組合がある。この管理組合から運営委託を受けて、㈱中目黒ジーティーの日常業務は、月1回の理事会、年1回の総会の開催、管理費や修繕積立金の徴収、各種の修理、改善、施設の警備、管理などを行う三井不動産ビルメンテナンスと各入居者との連絡調整、各種行事の連絡、調整、中目黒GTプラザ商店会など関連組織の事務局補助事務、地域団体の中目黒を更に良くする連絡会などへの参加など、多くの雑多な事務をこなしている。
 日常業務で難しいのはそれぞれの立場で意向が異なることだ。外国人の入居が増え、ゴミ出しのマナーや夜に騒ぐのをやめさせてくれと言う声が出る。オフィスビルのほうからは最近不信な人物の出入りが目立つ、警備のセクションは充分気をつけて欲しいという入居企業からの声が出る。中目黒GTプラザ商店会については、特に春の桜の時期などは地域外からの来店客が多く地元の方が入れないなど苦言もある。

   
( 一・社) 中目黒をさらによくする会が発行した200 ページに及ぶガイドブック

立場により異なる意見を調整する難しさ
 一方、長期的業務とは中目黒GTの建物と施設を長期的な運営の視点から計画を立て、入居者に理解を得つつ施設を維持管理、整備をして行くことである。中目黒GTはオープン後20年を経て、現在この問題が正念場を迎えつつあると言って良い。
 人生で言えば、健康ではあるものの40歳を超えてそろそろ体の節々に悪いところも出だした。メンテナンスをしなければいけない時期である。この時期にメンテナンスするか放って置くかでは人生そのものが大きく変わって来る。
 中目黒GTにおけるこの問題の難しさは入居する立場によって考え方が大きく異なることである。GTタワーのように事務所区分を所有する大規模法人などは比較的合理的である。企業の持つルールに基づき対応していただける。これはURにおいても同様である。良くも悪くも組織的対応でできていることである。
 しかし、31戸の自宅として住んでいる住民の方々は少し事情が異なる。まず、昔から中目黒に住んでいる住民が多いだけに中目黒GTとともに年を重ね相当な年齢となっていることである。
 どういう訳か、親子で同居する、親から子に代替わりをする事例はあまり多くないそうである。当初からそのまま住んでいる事例が多い。相続したら住宅を売却して行くなども散見される。例えば、外壁の修繕などは膨大な経費がかかる。もちろん補修、修理の積立金はあるものの当初はそんな問題も少なかったためあまり本格的には議論されてこなかった。

 法人区分所有者は企業的に大型工事の一時金拠出が難しい現状である、一定額を定期的に出して行くやり方が普通である。ところが入居者の住民は多くがもう現役をリタイアしているため個人の所得の差が大きいことと、一度管理組合で外部から借り入れて工事を行うことには否定的な方も少なからず居る。こちらの気持ちも良く分かる。㈱中目黒ジーティーはこれらをうまく調整しながらベストな状況に持っていくことになるが、これがなかなか難しい。


        
 中目黒 GT 商店会が開催している「くすの木まつり」の案内  

     
     敷地内の至るところにアート作品が並ぶ

全国トップレベルのにぎわい創り
 中目黒GTのにぎわい創りはおそらく全国でもトップレベルのものである。街というのは立派な建物と緑があれば良いというものではない。そこで住む住民や立地する企業がお互いに交流し、街の外からも多くの市民や企業が入り込み地域が活性化して行くことが重要である。
 そしてこれがうまく運んでいるからテナントの入居企業はオープン以来一度も空き室が出たことがなく、住宅も入れ替えの期間を除けばほとんど空き室はない。売りに出しても驚くような高額ですぐに売れている。

 このにぎわい創りの中核をなすものが中目黒GTの地下1Fにある公設の中目黒駅前図書館と中目黒GTプラザホールである。
 中目黒駅前図書館は、約300㎡の小さな図書館である。閲覧席が少ないため、貸出や予約資料の受取りが中心の図書館であり、長時間滞在して調べものをするタイプの図書館ではない。
 また、さまざまな情報収集に利用できるインターネット閲覧用のパソコンが置いてある。利用日は火曜日から土曜日までの午前10時から午後9時45分までと比較的遅くまで開館しており、通勤・通学の帰りに便利に活用されている。
 中目黒GTプラザホールは、映像・音響設備を備えた多目的ホールで、平土間で、さまざまなかたちで利用できる。利用料金は比較的安価であるが、目黒区芸術文化活動団体として登録している団体は、さらに安く半額で施設を使用することができる。そのためホールがほぼ毎日埋まるような盛況ぶりである。内容は、ジョイントコンサート、親子で一緒にみんなのコンサートなどの有料のものと、地域デビュー講演会など無料のものがある。

 中目黒GTプラザ商店会の主催するGTタワ―前広場で開催される「くすの木まつり」「オータムフェスティバル」は年間を通じての目玉イベントである。ビンゴゲームや抽選会が行われるなど多彩な内容で開催されている。
 しかし、一番有名なのは中目黒GT主催の「中目黒あかりまつり」である。これは期間がかなり長い。昨年の開催は、1114日から今年の1月9日までの長期間、冬の七夕と称して、光のゲート、イルミネーションを活用した様々なイベントが開催されている。
 このにぎわい創りにおける㈱中目黒ジーティーの役回りは徹底した裏方である。例えば中目黒GTプラザ商店会の主催と言っても商店街がそう機動的に動けるわけではない。事前準備から当日の進行計画、ビンゴなどアトラクションの準備など様々な支援を行っている。表舞台の目の届かない裏方は同社が受け持つ、そんな貴重な役回りである。


    中目黒GT の建物内にある中目黒駅前図書館

*街づくりは環境配慮で長期持続性がカギ
 大変私事で恐縮だが、職場が大学に変わった時、作業をする適当な場所がなくて自宅からほんの1分のところに3LDKの1戸建て中古住宅を購入した。前の所有者が独身でかつ掃除が趣味なほど綺麗好きな方であったので、購入した20年前は新築同然であった。その後も私も大事に使ったので建築後30年程経つがまだどこも傷んでおらず新築同然である。
 私もそろそろこの事務所用の住宅を売却しようと当たるもののどこの不動産屋さんも判で押したように壊して新築の住宅を建てるやり方の販売方法を考える。この家は大事に使われて来たからまだ30年は楽に使える。そうすると土地値で家が買えるからそれ程所得の多くない方には助かる。そう発言するが、不動産屋さんはそういうことにはあまり興味を示さない。
 SDGs が言われる時代に日本風の建てては壊し、壊しては建てるやり方はもう考え直したほうが良いのではないか。ヨーロッパの街を見ると人々が何代にも渡り住み続ける洗練された街の良さがある。統一されたオレンジ色や白い家のアーバンデザインがすばらしい。いわゆる良い街を創っている。日本は個人の趣味、志向でバラバラに家を建てるから、ひとつひとつの家は美しいのかも知れないが、街全体としては何ともまとまりにくいものとなる。
 これが、集合住宅になるともっと危なくなる。例えば、東横線の武蔵小杉駅周辺のあの林立する50 階建てや60階建てのタワーマンションは、30年後はどうするのであろうか。開発者はそんな先のことなど何も考えてはいない。
 行政も当面、固定資産税が入るからブロックはしない。入居者も何となく住みたい街ランキングベスト5に入る街だからと目を輝かせて入居する。銀行は高額なローンが組めるからとビジネスチャンスの拡大とほくそ笑む。タワーマンションは災害時の一時の対策はされてはいても長期的な対策はほとんどなされていない。最もそんな慎重な考えをする人はこんなタワーマンションは作らない。
 20年後の外壁の張替えや電気設備などの更新などはどうするのか。その膨大な修理費を入居者が払い切れないとどうなるのか。関東大震災クラスの大地震が起きたらどこに避難をするのか、その時の食料はどうするのか。タワーマンションはひとつひとつが問題点だらけなのである。
 こんな実験が数年前の多摩川の水害で発生した。あるタワーマンションの地下室に水が入り込み電気設備が壊されエレベータが動かなくなった。電気や水道も使えなくなった。途方に暮れた住民の姿は20年、30年後のタワーマンションの姿そのものでもある。
 今回、㈱中目黒ジーティーの本多社長から学んだ最大のものは先を読む創造力である。街づくりというのはこうなればどうする、この後はこうする、と絶えず考え続けているから住みやすい街になるのである。政治家も、国も、自治体も、民間企業も、せめて長期的には同社が考えている程度のことは考えて行動してもらいたい