髭講師の研修日誌(97)
「中堅・・このパワーを生かし育てる」
澤田良雄氏 ( (株)HOPE代表取締役)
◆中堅社員の活躍期待は「頼られる存在感」
「人材こそ我が社の財産・会社の成長は、社員一人一人の成長、社員の成長は会社の成長」と提唱するのは大手製油所関連企業T社のS社長である。既に10数年間関わってきた企業であるが、先般、コロナ禍からの企業対応条件により、延期されていた中堅社員研修を創り上げ、実施した。敢えて創り上げたとの表現は、毎回、人事部門との打ち合わせを含め、トップ講話内容を確認し、2日間の研修を組み立てる。実施時にはトップ・幹部も参画し、適宜支援をいただく。まさに、パートナーシップを生かした共に創り上げていく研修実施である。これは、小生の各社の企業内教育の外部講師スタンスとしての基本であり、小生がかつては、企業での人材育成部門で研修担当として活躍していたことに起因している。従って単なる商品化された研修でなく、企業ごとの凄さを生かし、育成ニーズ(不易(変えてはいけないこと、流行(変えていくべき事)との総合化)にどう対応した独自性を創出するかを支援・指導の基本としてきている。それには、対面型コミュニケ-ションによる打ち合わせが最適であり、現在の環境はありがたい。さて、中堅社員への活躍期待事項はどうなのか、T社での研修では、次の三点を軸とした。
①実務の中心→日常業務を取り仕切る→責任ある当事者
②業務のプロ→担当する業務に詳しい→責任ある専門家
③役職者候補→業務のリーダー・若手の良き指導者
である。もちろん、中堅社員の定義づけや、活躍期待事項は、各社によって、また一般的意味づけなど様々であることは周知の通りであるが、いずれにしても「第一線現場のコア(核)人財」である。
それだけ、上からも、下からも、他部門からも一目置かれ、発信する言動の影響力があり、それは、上長の掲げる方針を具体的に実現する現場力の凄さである。なぜなら、その基点は現場の事実に基づく言動であるからだ。それには、現地・現物・現人(実際に関係した人の意見)) の三原主義による現場主義に基づくことにある。しかしながら、そこには、単なる実務者でなく論理(冷静な分析、思考に基づく考え抜かれたストーリー)構成能力が伴っている。だからこそ「このことは、○○さんに聞け」、と頼られるまさにコア人財(いなくては困る人)として存在感がある。従って、その活躍成果は、「任され・責任持って・関わる人の協力を得て、実績を創り、部署に貢献できる」ことであり、実力担当者・仕事の改善者・上司の補佐役・ 協力関係構築者・指導支援者・そしてムードメーカーである。
◆大谷選手に学ぶ
ふと時の人、大谷翔平選手が目に浮かぶ。それは、「大谷選手の素晴らしさは、打つ、投げる能力の凄さは勿論ですが、人間的魅力も素晴らしい。そこには真摯に人との関わり合いもあるし、冗談混じりの温かみもあります。そして、親、監督、先輩に対するわきまえを持った(敬意)接し方も素晴らしい。従って、大谷フアンもにわかに増えたのでしょう。今や、総じて、人気選手は誰?と問えば、「大谷さん」という人の多いことも周知の通りです。
この大谷選手のWBCの決勝戦に向けての、全員に向けたスピーチも話題のひとつです。それは、「僕から一個だけお願いしたことは、憧れることはやめましょう。米国代表には野球をやっていれば誰しも聞いたことがある選手達がいると思うんですけど、今日だけは、やっぱり憧れてしまったら超えられないので、僕らは今日超えるために、トップになる為に、ここに来たので、今日一日だけは、彼らへのあこがれを捨てて、勝つことだけを考えましょう」という内容だと各報道で紹介されました。」
このことばは多くの反響を呼んだ。その前提は、みなもそのレベルの力を持っているという誇りを確認する事であり、力なき大差のある人には通用しない投げかけの言葉だと理解し、「大谷選手が、各自を認めているからこその言葉がけなのです。だからこそ、仲間の活躍場面では皆一丸となって、勝つために今、自分はどうすべきかの、全体最適の判断に基づく最高プレーに徹していました。そこには、大谷選手のセカンドベースでの雄叫びやバントなど、自分の際立てよりも「繋ぐ」に徹するチーム貢献もありました。だからこそ、皆が固唾をのむ・・・。そして劇的場面にチームのみならず、最大の人々が歓喜をもたらしました。いかがでしょうか、
実は、研修現場では、この内容についての所感交換を実施し、中堅社員として第一線のリーダー的立場での活躍の有り様を確認した。その集約は次の三点であった
①この人のためなら、素直に受け入れていこうとの信頼を得る専門力と人間性
②「なるほど」言うことはもっともだと理解納得させる専門力と伝える力
③この人の一生懸命さが伝わってくる、熱意ある実践力
そして、第一線の仕事集団を任されて活躍する確認事項としては、自身のみでの頑張りの結果ではなく、一緒に仕事した関係者が「この人についていけば、確実に実績を残せる」との思いを持つことができ、一丸となって難関と思われるときこそ、成果を導き出し、その結果、「皆さんの心からの協力のおかげです。本当にありがとうございました」と感謝の言葉を述べる楽しみを持つことであるとした。
◆自身の潜在力を大きく生かす3点
ならば、今後の活躍での心する取り組み事項はどんなことであろうか、次の三点を確認し、たくましさと、新たな足跡作りへのさらなる楽しみ作りとした。それは、
①専門力も今や、多能、マルチ型能力が求められる
I型(専門一つ)→T型(専門力の広角)→Π(ぱい)型(専門力の複合→、O型(多能化)→屋台型(一環した遂行)=マルチ型と称され、要はどのような仕事でもこなせる人。それは単に器用と言うだけでなく、それぞれの専門家に近い力量があるとのことが望ましい。ですから基本をしっかりと身につけ、求められる品質、能率に十分に応えられるレベルの習得が必要しされる。この能力は、今後、社外、国外などで活躍する場合あるいは、リーダー、監督者・管理者・幹部立場になったときにも大きな力として役立つ。
②多面的思考がよい
自信は思考枠創ることもある。それは、「井の中の蛙」「蛸壺思考」「世間知らず」「頑固者」・・になりかねない。異見に学ぶ、新たな試みに抽選することがよい。それは自らの可能性を粗末にせず「ポジテイブ思考・「多面的思考」で愉しんでいく方が良い。からである。それには、4つの目を生かすことである。
●鳥の目(大局的視点)
●魚の目(流れ、トレンドでの理解とよみ)
●虫の目(現場・現実・現場の足下を見る)
●コウモリの目(反対・相手からの視点)
③考働することの変える楽しみの習慣化
「あなたの知恵を生かして更に良い方法を産み出して欲しい」。若いセンス、思考の柔らかさで、持ち味を生かした仕事を是非楽しめるこの時だからこそ、改善の言葉に反応していく。それには、考働力を生かした活躍である。
考働力とは自分の持ち味(個性)を生かした仕事ぶりである。人間は考える事が出来る。決まったことを決められたとおりやるだけならロボットに変えればよい。ロボットにするまでにも,人がする労力(手足の動き・知識の整理など)を部分的に機械化し、エレクトロニクス化を加え、そして組み合わせてハイテク・ロボット化となっていく。また、情報を分析し、そこから考え方を創造するAI化もある。そこには身近な改善のデーターの重ねがある。自分を生かす、人の素晴らしさを生かすそれが変える力であり、改革である。身につけた専門力にさらなる、「新た」「深め」「広め」の学びを施し、自らの工夫を施す。こんな楽しみを十二分に楽しんでいこう。それは新たな学びによる自分磨きがある。
◆生かし育てる中堅社員の人財育成
さて、今、研修先での課題に次期リーダーに関する不安感がある。企業の好不況での採用計画での影響により、勢い役職者としては若手起用もやむなしの状況で来た。従って、次期リーダーへの上司からの育成が十分であるとはいえない。だからこそ、中堅社員をどう、先を描いて(役職者)、上司始め、関わる人への補佐役として、現場力を生かした活躍力を育成すべき時である。 今や、中堅社員は役職前の気楽なときではない。育成なしでは「扱いにくい」「小生意気(こなまいき)」との声がだされかねない。
企業は人なり。社員個々のパワー(潜在、顕在)を認め、上司にとってどう業務のパートナー関係を築き、組織力として新たなパワーを創出できるかである。部下力を生かす、漲る活性化集団の鍵も上司自身の分をわきまえての、関わる人の凄さを認め、生かし育てる手腕が不可欠であり、とりわけ、分身・継承者としての中堅社員クラスの育成に取り組むことである。
確認してみよう中堅社員11(いい人「人財」条件とは
①誠意・努力・責任感の溢れるねばり強さで、目標達成できる人
②当社の理念、社長・部門長・上司の考え方を熟知している人
③メンバーからの信頼を得て、協力関係をスムースに構築できる人
④常に建設的な意見を述べ、業務改善力に冨む人
⑤計画性に富み、安心、信用の太鼓判を押せる仕事遂行の出来る人
⑥不測の事態に先々を読んで仕事の出来る人
⑦ネアカ、前向き、素直等の人間性の良さを太鼓判の押せる人
⑧報連相を、言わなくてもきちんと実践する人
⑨社則、規律、倫理観など絶対に守る人
⑩上司を信頼し、協力依頼に素直に対応、建設的意見を提供する人
⑪自ら、学習熱が高く、自己啓発に取り組む人
そして、当社の商品・内容を広く知らせる事のできるセールス力を持った人である。
是非、職場での育成する上でのキーワードとして活用にお役立ていただくとよい。
中堅の文字の意味は全軍の精鋭が集まるから「堅」と記してある。「堅い」こととはしっかりしていることで、よろい、かぶとと例が引かれてもいる。大谷選手の所属チームではホームランを打つとかぶとで祝福される。新たなチームの売りの儀式である。ここにも大谷選手の貢献があるのであろうか。
いずれにしても「核になる社員がいる」この安心は企業の強みである。また、行政での先日のC市の研修では中堅技能員研修を担当した。住民満足を生み出す第一線の要の職員である。調理士の喜びは、園児、生徒から「美味しかった」と声がけされること、学校関係校務員からは、「いつも校庭、植え込みがきれいになっていてありがとうございます」と笑顔で声がけいただくことなどの事実例が紹介された。まさに、キャリアが生きた市と住民の橋渡しの見事な活躍ぶりである。
中堅クラスの活躍は、企業・行政問わず、あるいはスポーツチームでももたらす影響力は大きい。今一度、このクラスの働きがい作り、先に向けたキャリアアップを踏まえた育成への取り組みが肝心であると念じる昨今である。
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◇澤田 良雄
東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/