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【講演録】石田 和靖氏「世界で今、実際に 起こっていること」 (SJC2月例会)

【講演録】清話会SJC2023.2月例会    東京◆2023年02月16日(木)

「世界で今、実際に起こっていること」
     ~日本の報道では流れない現実と実態を把握せよ!~

 

 講師:石田 和靖 氏  (㈱石田和靖インスティテュート代表取締役、国際情勢YouTuber(越境3.0 チャンネル))

都内の会計事務所勤務を経て2003年独立。
世界の投資・経済・ビジネスの動画
メディア「ワールドインベスターズTV 」や、
全国会員2,000名以上を擁する海外
志向経営者のコミュニティ「越境会」、海外でのジャパンエキスポなどを主催。
本初のC to Gオンラインサロン「越境3.0」を主宰・運営。YouTuber「越境3.0チャンネル」は登録者数18 万人。

 

「越境3.0」はスマホによるCtoGの時代
 今、テレビや新聞などのオールドメディアから流れてくる情報は、ほぼアメリカ等のバイアスがかかっているのではないかと思います。そこで、正しい情報を流そうと、YouTube で色々な国の色々な情報を中立的に流す人が増えています。僕もそのうちの一人で、「越3.0チャンネル」というチャンネルを運営しており、YouTube の分類の中では「国際情勢ユーチューバー」と言われています。
 「越境1.0」は1990年代、まだインターネットが黎明期だった頃です。企業は使うところが増えたけれども、個人ユーザーとしてインターネットを使うことはまだハードルが高かった時代です。
 「越境2.0」は2000年代です。インターネットの常時接続をできるようになり、個人ユーザーが高速の通信回線を固定の金額で繋ぎ放題になった時代です。
 そして「越境3.0」は2010年代、スマートフォンが出てきた時代です。これは皆いつも肌身離さず身に着けているデバイスなので、個人と個人が世界中、網の目のように繋がって、お互い情報をやり取りして、場合によってはモノの売買までできるという時代です。

 僕は海外あちこちに人に会いに行きます。そして何らかのチャンスをつかむ。色々な国に行って偉い人を紹介してもらえると、「越2.0」の時代までは、名刺交換をして、持ち帰った名刺のメールアドレス宛に日本から英語でメールを打つわけです。でも、ほとんど返事が来ない。そういう人たちは、1秒刻みで仕事をしている方々も結構いて、外国人のメールにそうそう返事を送ってくれません。

 これが「3.0」の時代になって、僕たちはスマートフォンとSNSを持っているので、現地に行ったら、名刺交換の前にSNSのアカウント交換から始まるケースが多い。僕がどこの会社に所属している何者なのかは気にせず、現地の人は石田和靖という人間のパーソナリティを買ってくれて、何か面白い話をすれば「面白いやつだな」と覚えてもらえる。それで繋がってもらえるわけです。
 メールだとほとんど返事が来なかった相手がFacebook だといとも簡単に「石田さん、最近元気ですか」と、一言二言のメッセージがやってきて、それに対して「この間はありがとうございました、元気ですよ」と、例えば回転ずしの写真とか花火大会の写真など、向こうの人が目にすることがないような日本の写真とかを添付してメッセージを返すと、すごく喜ぶのです。
 そんなやり取りの中から、ちょっと石田さんに相談がある、今度こういうプロジェクトをやるんだけどどう思う? というようなやり取りなんかも増えてくる。
 それが「越境3.0」です。スマートフォンとSNSを使って、僕たち一般の市民が海外の政府(Government)に対してアプローチをすることができるようになった。ですから「1.0」はB to B、「2.0」がBtoC、そして「3.0」は、CtoGと僕は呼んでいます。

中東・アラブの正しい情報が日本でほとんど流れない
 「3.0」の時代になって僕も色々とやらせていただきました。例えばアゼルバイジャンという国で経済産業省のビルの1階のホールを全部貸し切って、そこで「ジャパン・エキスポ」を主催しました。普通だったら大手の広告代理店がやる仕事です。1万2000人のアゼルバイジャン人がやってきて、日本から230名の経営者が行って、首都バクーで3日間のエキスポを開催しました。
 このCtoG、「3.0」の新しい時代がやってきたことはもちろんありますが、アゼルバイジャンという国がとても親日で、同国への入国ビザは、世界で唯一、国連加盟国が190ヶ国以上ある中で、日本人だけが無料なのです。しかも、和食が2013年にユネスコの無形文化遺産に登録されたのは、アゼルバイジャンの首都バクーで世界遺産委員会会議が開催された時でした。
 僕ら以上に日本のことを知っていたり、日本の何かちょっとしたことにすごく喜んでくれたりする人たちがたくさんいるのが、アゼルバイジャンだけじゃなく、中東アラブ圏全域がそうなのです。
 僕はもう30年前から、ドバイやサウジアラビア、カタール、バーレーン、エジプト、スーダン、アゼルバイジャン、トルコなど、色々な国に行きました。例えばスーダンの元大統領、アゼルバイジャンの大統領の局長とか経済開発大臣とか国営石油の会長とか、そういう方々にお会いして、ビジネスをやる、やらないに関わらず、何か自分の一生の財産となり得る強固な地面を作りたいという思いがずっと強かったのです。

 中東・アラブ圏に何度も足を運んでいる中で、よく「石田さん、怖い目に遭ったことないのですか」と聞かれます。はっきり言って、ないです。日本人の中東、アラブ、イスラムのイメージは、どうしてもテロリスト、内戦とか、そういうイメージが強いと思うのです。
 先ほども述べましたが、日本のメディアはものすごくバイアスがかかっています。中東、アラブの情報というと、テロ・紛争の情報しかほとんど出てこない。あとは石油についてとかばかりです。サウジアラビアで未来都市の開発が進んでいるとか、UAEで石油を一滴も使わない街づくりが押し進められているとか、そういう話題が日本のメディアでは全く出てこない。
 UAE(アラブ首長国連邦)は世界有数の産油国です。そこがもう石油のピークアウトをにらんで2009年からそんな街づくりをやっているのです。

 中東、アラブは、先ほど述べたように親日家が多く、日本もエネルギー安全保障の上では、あの地域にとても依存しています。しかも日本人は尊敬されています。けれども、ほとんどの日本人は、テロ紛争が怖いみたいな印象しかありません。中東・アラブ圏を一人でも多くの日本人に伝えたい、そのためには光と影の影の部分だけではなくて、光の部分の情報を出していきたいと思っています。
 例えば、エジプトには日本のアニメのコミュニティがたくさんあって、2、3000人のメンバーがいます。サウジアラビアの皇太子が日本の漫画、ゲーム、アニメが大好きで、アニメとゲームの経済特区を作ってしまいました。そこにアーティスト、ゲーム開発会社、イラストレーターとか世界最先端の人たちや企業をサウジアラビアに集めて、サウジアラビアを中東随一のアニメとゲームと漫画の発信基地にしよう、という考えが今の皇太子にはあります。その皇太子も親日なわけです。

 

湾岸諸国の、潤沢な政府系ファンド資金
 中東とはどのあたりのことを言うか。東はイランまで。アフガニスタンは違う。西側はエジプトまで。リビアは中東じゃありません。北はトルコまで。南はアラビア半島南端のイエメンまで。
 中東とは、中ぐらいの東という意味です。誰から見た東か。イギリスです。イギリスから見た東はインドです。昔、東インド会社というものがありました。もっと東、ファーイースト(極東)、極端な東が日本です。
 今、実際に起こっていることは何か。大きく言えるのは、パワーバランスがものすごく大きく変わってきています。まずアメリカの存在感が一気になくなってきています。
 これまでアメリカは中東に対してずいぶんと介入していました。アメリカで石油が採れなかった時代、この地域の石油を安く買えたので、石油を調達する代わりに武器を支援していたのが、アメリカとサウジアラビアの元々の関係です。
 サウジアラビアの石油によってアメリカの自動車産業も発展し、アメリカの自動車産業によってサウジの石油も発展してきました。互いに支え合う関係だったのが、バイデン政権になってガラッと変わって、アラブ諸国とアメリカとの関係は今、積み木崩しのように崩れています。
 そこにすかさず入ってきたのが中国です。去年の12月、中国の習近平総書記が、アメリカのバイデン政権とサウジアラビアが今ギクシャクしているところにうまく入り込んで、この地域の軍事支援と経済的な協力でサウジアラビアのムハンマド皇太子とがっちり握手をして、どんどんアメリカ離れが始まって中国寄りになっています。それが湾岸協力会議と言われる地域協力会議で起こっています。

 ウクライナ戦争、新型コロナもあって、世界中でものすごくお金を使っています。補助金や国民の手当を出したり、ウクライナに武器支援したり、電気代・ガス代も上がって、特にヨーロッパとアメリカはインフレが激しいので、政府がお金をどんどんばらまいて、お金がない。
 では、どこの国の政府にお金があるのかという一つの指標を出しているのがSWFI(SovereignWealth Fund Institute : 政府系基金協会)です。その国が儲けたお金を将来のためにどんどん増やしているファンド、それが政府系ファンド、国家ファンドと言われるものです。その政府系ファンドを調査している機関がSWFIです。
 日本で一番近いのは国民年金基金です。しかし日本の年金はSWFIのランキングには一切出てきません。政府系ファンドは、国がビジネスをやったり、国が投資をしたりして儲けたお金をどんどん増やしているファンドです。

 日本の年金は、国が儲けたお金ではありません。国民から預かっているお金を運用しているのが年金です。
 政府系ファンドは国民から預かっている金ではなくて、政府がその国の将来のためにビジネスや投資をやっています。アブダビ投資庁第3位のアブダビ・インベストメント・オーソリティという機関があるのですが、僕はここのCIOと仲が良くて、一緒に共著で本を出したことがあります。彼からアブダビ投資庁の投資理念を聞かされたことがあります。いずれ石油はピークアウトする、だから今、国が石油で儲かっているお金を100年後の国民のために運用していくのだ、と。
 SWFIの政府系ファンドの総資産額ランキングですが、

 第1位がチャイナ・インベストメント・コーポレーション、中国の政府系ファンドです。
 第2位がノルウェー・ペンション・ファンド・グローバル。油田があるノルウェーは、国が石油で儲けたお金をファンドとして運用しています。
 第3位がアブダビ投資庁です。
 第4位がクウェート・インベストメント・オーソリティ:クウェート投資庁。
 第5位がGICプライベート・リミテッド(シンガポール)。
 第6位にパブリック・インベストメント・ファンド(サウジアラビア)。
 第7位が香港のマネタリー・オーソリティ・インベストメント・ポートフォリオ。
 第8位がテマセク・ホールディングス(シンガポール)。
 第9位がカタール・インベストメント。
 第10位がナショナル・カウンシル・フォー・セキュリティ・ファンド(中国)。

 トップ10だけを眺めたときに、シンガポール、香港も含めて中華圏として捉えるならば、中華圏と湾岸諸国です。今ここにたくさんのお金が積み重なってきていて、そのお金を持っている中国と湾岸諸国が手を組んだということです。
 アメリカはどんどん存在感を失って、世界で一番お金を持っている政府が握手をして、これから中国と中東湾岸諸国の経済協力が本格的に始まっていくという時代に突入しました。
 湾岸協力会議はサウジ、UAE、クウェート、カタール、バーレーンの6ヶ国です。この6ヶ国から日本は原油の90%を依存しています。だからこの地域ともっと日本は繋がらなければいけないし、かつ皆、親日家です。
 ところが日本人は中東が怖い。そういう日本人を尻目に、今、中国がどんどん中東に接近をしている状況です。

今日の中東を決定づけたイギリスの「三枚舌外交」
 中東和平とは、ずばりパレスチナ問題です。パレスチナという土地を巡って、ユダヤ人とアラブ人が昔から喧嘩をしている領土紛争、それがパレスチナ問題で、ずっと解決しないで今に至っています。
 これは第一次世界大戦から始まったと言われています。当時、今のトルコはオスマン帝国でした。オスマン帝国はずっとアラビア半島のほうまで領土を広げていました。そのオスマン帝国とイギリスが戦っていました。
 第一次世界大戦でイギリスはオスマン帝国を打ち負かすために、色々な人と色々な条約を結びました。「イギリスの三枚舌外交」と言われており、世界史の教科書にも出てきますが、これがパレスチナ問題を生み出したのです。
 まず1915年にフサイン=マクマホン協定を結びます。イギリスとアラブ人で、イギリスがもしも戦争に勝ったら、オスマン帝国支配下におけるアラブ人居住地の独立支持を約束するから、イギリスに協力してくれと言って、アラブ人と協力します。

 続いて翌年、1916年にサイクス・ピコ協定をフランス、ロシアとイギリスが結びます。イギリスはもしこの戦争に勝ったら、フランスとイギリスとロシア、三つの国で仲良くこの地域を分割していこう、と取り決めた協定で、それでヨルダン、レバノン、シリア、イラクとか、あの辺の地域では国境線が全部まっすぐなのです。
 サイクス・ピコ協定によってとても被害を受けているのが、その国境を線引されたちょうど真ん中に住んでいたクルド人です。
 問題が今も根深く残っていて、クルド人は世界最大の国を持たない民族です。トルコ、シリア、イラク、イランといった地域に大勢住んでいます。国境を分割されてしまったので、どこの国に行っても少数民族であり、迫害されるし虐待を受ける、それがクルド人問題です。
 サイクス・ピコ協定は、民族も宗教も関係なくヨーロッパの列強によって国境線を分断されて国ができてしまったものですから、この国境線をもう1回引き直す必要があるということで立ち上がったのか、IS(イスラム国)です。

 三枚舌外交の三つ目が、バルフォア宣言という協定です。1917年、オスマン帝国を打ち負かすためにイギリスはお金が必要だった。そこで、ユダヤ人に相談します。ロスチャイルド卿です。戦費を出してくれ、その代わりもしもこの戦争に勝ったらここにユダヤ人の国をつくるぞ、と言って協定を結びました。
 このイギリスの三枚舌外交のせいで、パレスチナの地がすごくもめることになります。戦争が終わったらイスラエルにユダヤ人も戻ってきた、アラブ人も戻ってきた、ロシアとフランスの分割も始まり、大混乱に陥ります。そして、この狭いエリアに押し込められたユダヤ人とアラブ人の喧嘩が始まります。
 元々はこの地域は、大体80%がアラブ人、20%がユダヤ人なのです。ユダヤ人が少ないはずなのに、人口の50%以上がユダヤ人のイスラエルという国がつくられるのはおかしいということで、第一次世界大戦の直後、イスラエルの建国をアラブ人は最後まで認めないのです。

 で、周りのレバノン、シリア、ヨルダン、エジプト、イラクといった国々が攻め込んだのが第一次中東戦争です。この戦争で、イスラエルは独りで、5ヶ国のアラブ諸国を相手にするわけですが、イスラエルが勝つのです。
 イスラエルは、アメリカとかイギリスからお金や武器がたくさん入ってくる国です。イスラエルは第一次世界大戦の前から、そのユダヤ人とユダヤ民族は、世界最大のディアスポラ(国外離散している人)と呼ばれ、世界中にユダヤ人が散らばっています。
 ヨーロッパにもたくさん散らばっていたユダヤ人は一つの国を出て、また次の国に移動して生き残っていかなければいけないという危機感をいつでも背負っています。ですから、いつでもどこに行っても換金できる貴金属業や金融業のようなビジネスしか彼らはできなかった。そして、それで儲けたユダヤ人がたくさんいます。

 そういうユダヤ人が世界中にいて、その国を動かすぐらいの力を持っている人も大勢います。ですので、イスラエルは5、6ヶ国を相手にしたところで返り討ちにしてしまう。中東戦争は第4次まで続きますが、4回とも全てイスラエルが勝つわけです。
 この中東和平を解決しようという動きが1970年代後半から始まります。中東戦争で負けたエジプトは、イスラエルと喧嘩しても勝てない、ここはイスラエルと仲良くしたほうが得策だということで、他のアラブ諸国を裏切って国交樹立します。この時、アメリカは中東をまとめる存在感を持っていました。エジプト―イスラエルの国交樹立は、1979年当時のカーター米大統領が仲介をして成立しました。
 さらに中東和平の機運が高まって、続くのがヨルダンです。エジプトに続く二つ目の中東和平ということで、イスラエルと国交樹立を進めます。この2ヶ国は、イスラエルとパレスチナの対立問題に対してとても融和的で、話合いをして解決していこうという姿勢です。
 ヨルダンとイスラエルの国交樹立を実現させたのはアメリカのビル・クリントン大統領、1994年です。ここから先、なかなか中東和平が進まなかったのですが、先ほど述べた、日本が原油の輸入をしている湾岸協力会議は、UAE、カタール、オマーン、サウジ、バーレーン、クウェートの6ヶ国です。英語ではGulf CooperationCouncil、頭文字を取ってGCCと言われています。湾岸協力会議はとても親米でした。トランプさんが大統領に就いたとき、1回目の外遊先はサウジアラビアです。サウジアラビアは湾岸協力会議のリーダーです。

 さらに複雑なのが、パレスチナにはハマスとファタハという二つのグループが対立しています。ハマスは、いわゆるテロリストで、日本がテロ組織認定しているグループです。
 パレスチナは、国なのか、国じゃないのか。世界の130ヶ国はパレスチナを国として認定しています。でも日本はパレスチナを国として認めていない。ですから、日本の新聞には、パレスチナ自治区と表記されます。また、アッバス議長、大統領ではなくて議長です。日本以外のパレスチナを国として認めている国の新聞では、パレスチナ国のアッバス大統領と出てきます。
 アッバス議長がいるのがファタハ、パレスチナ解放機構(PalestineLiberation Organization、PLO)の中の政党で、イスラエルに対して穏健派です。話合いで領土問題を解決していこうと言っている人です。それに対してハマスは過激派で、戦ってイスラエルを打ち負かして領土を取るんだと言っている人たちです。
 ヨルダンはファタハを支援している。そしてヨルダンに続くほとんどのアラブ諸国がファタハを支援していて、徐々にイスラエルと仲良くなりつつあり、ユダヤとアラブの対立は解消されつつあります。

 

中東諸国の対立と融和の構造
 他方で、今の中東問題を引き起こしている国々があります。まずイスラエルとレバノン、ここは対立をしています。特にヒズボラというレバノンの政党は強い力を持っていて、今は全部で128議席ある国会の議席の半分弱ぐらいがヒズボラとその仲間たちです。
 このヒズボラは政党ですが、軍隊を持っています。レバノン国軍ではないです。それとは別にヒズボラ軍があるのです。このヒズボラが支援しているのがパレスチナのハマスです。なぜこの2つが仲間なのか。

 まずレバノンの北にあるシリアとイスラエルは対立しています。シリアのアサド政権はヒズボラを支援しています。さらにイランは、過去にイラン・イラク戦争でイラクと対立していました。イラクと湾岸協力会議も過去に対立していました。湾岸戦争でクウェート侵攻したときに周りの国がクウェートを助けよう、と言ってこの国を助けたのがアメリカで、一瞬にしてサダム・フセインがやられてしまいます。
 そのイランが支援しているのがシリア。アサド政権を支援している。さらにヒズボラも支援している。ハマスも支援しています。ちょっと不思議なのが、一時期カタールがシリアを支援していました。カタールはカメレオン外交とよく言われる国ですが、金持ちなのです。が、ついこの間まで貧しかった。
 ところが天然ガス戦略で大成功して、一気に金持ちになった。液化天然ガスです。普通は、天然ガスはパイプラインで気体で運びます。それが一番効率的だからです。でもカタールで天然ガスが発見されたとき、周辺国ではなくてアジア向けの輸出を考えたのです。アジアはこれから経済成長する、人口も多い。ガスの消費量も増える。アジアにガスを輸出できればカタールは金を稼げると考えたわけです。

 当時、液化技術がまだなかったので、カタールは液化技術に全力投資をして、石油も採れるのですがやめて、OPECも脱退して、天然ガス1本にシフトしたのです。それでカタールは一気に金持ちになりました。日本は大のお得意さんです。相当LNGを買っています。
 ここ近年、一気に金持ちになった国で、その金にものを言わせて、色々な勢力を支援したりしてきました。ここに出てくるのがハマス。パレスチナのハマスという過激派に対してカタールは資金支援をしているという疑いがかけられました。
 なおかつ、エジプトに同じようなムスリム同胞団というテロリストがいますが、そこにも資金支援してるだろうと疑われて、カタールは「していない」と隠し通してきたのですが、隠し切れない事実が発覚して、サウジ、バーレーン、UAE、エジプトといった国々から国交断絶を食らうのです。

 ところが、カタールはお金を持っているから、モノをどこから輸入するかと考え、トルコとイランと協力関係を結ぶわけです。これはある意味、禁断の協力関係です。湾岸協力会議のリーダーはサウジアラビアです。サウジアラビアはイラン、トルコとも敵対しています。つまりカタールは、サウジアラビアが敵対する相手にいきなり寝返ったのです(※3月10日に、サウジアラビアとイランは中国の仲介で国交正常化に合意。またサウジとシリアの国交正常化も合意されました)。
 結局、国交断絶もなんのその、カタール経済にはほぼ影響がなかったと言われています。でもその後、仲直りをして、サッカーのワールドカップも無事開催できて、湾岸協力会議も元の形に戻りました。
 さらにイエメンという国があります。イエメンも湾岸協力会議と同じアラビア半島の国ですが、このイエメンで、内戦が2015年からずっと続いています。今、メディアはウクライナ戦争一色ですけれども、イエメン内戦も継続中なのです。ほとんどニュースに出てきません。このイエメン内戦は「忘れられた内戦」と言われています。世界から忘れられてしまっているのです。

 例えばシリアとかウクライナ、イラクとかで戦争が起きたら、国外避難民が国境を越えて別の国に行って、そこでインターネット、SNSで戦争の状況をつぶやいたり、情報発信できます。ところが、イエメンは情報発信ができないのです。
 イエメンは、サウジアラビアとオマーンという2つの国に挟まれており、いずれも国境封鎖されています。アラビア半島の先端に位置する国でその先は海なので、シリアとかイラクみたいに国境を越えて第三国に逃げていくことができないのです。
 だいたい難民と言うと、普通は海外避難民のことを指します。他国に逃げて、第三国で難民として生活する。でもイエメンの場合は、国内避難民と言われる。国内で逃げ回っているのです。なぜかと言うと、フーシ派と暫定政権がずっと戦争をやっているからです。ここに南部暫定評議会、アラビア半島のアルカイダ(AQAP)という勢力があり、フーシ派とハディ暫定政権と併せ、4つのグループが戦っているから誰が敵か分からない状態でずっと戦争をやっています。

 でもAQAPは弱くなってほぼ消滅。南部暫定評議会とハディ暫定政権は対立をしていましたが、それを仲直りさせたのがサウジアラビアで、一つにまとまった暫定政権になりました。そこで今はフーシ派と暫定政権の対立になっていて、フーシ派を支援しているのがイランです。暫定政権を支援しているのがサウジアラビア。つまり、今行われているイエメン内戦は、イランとサウジアラビアの代理戦争の形で継続中なのです。
 このイエメンのフーシ派、パレスチナのハマス、レバノンのヒズボラ、イラクにもいくつかあるのですが、この人たちはイスラム教シーア派民兵組織と言われています。国家ではないけども、イスラム教シーア派の軍隊、これがフーシ派、ハマス、ヒズボラです。そのイスラム教シーア派民兵組織が今、すごく力をつけてきています。

イランのイスラム教の他国と違う教義
 イスラム教シーア派とは何か、どこなのかというとイランです。それ以外は皆スンニ派です。イスラム教徒はスンニ派とシーア派に大きく分かれますが、スンニとは「慣習」という意味です。イスラム教の指導者は、地域とか国によって、一生懸命コーランを勉強している人をその地域の慣習によって選んでいきましょう、ということです。
 いや慣習ではダメだ、ムハンマドの血筋を引いたものが指導者になるべきだ、と言うのがシーア派。この二つに大きく分かれます。

 イスラム教ができたのは西暦610年、創始者はムハンマド。ムハンマドが亡くなった後も、ムハンマドの友達とか親戚がその指導者の地位を継いでいきます。ムハンマド、その次に来るのが、アブー・バクル、ウマル、ウスマーン、
 アリーときて、このアリーから先が問題なわけです。アリーの後の後継者をどうするか、という時に、スンニ:慣習によって選んでいくという考え方と、血筋で選んでいく:アリーの息子
がリーダーになるべきだというふうに分かれます。
 この、シーア派という血筋を尊重するほうは、当時はとても小さくて、力がなかったのですが、だんだん後になって力をつけていって今の国になったのがイランです。イランは、イスラム教シーア派の中でも、十二イマーム派という宗派を重んじて国教にしています。
 1979年から、そういう国家体制にガラッと変わりました。それまでは、イランはとても親米だったし、イスラエルと仲が良かったし、世俗社会だったのです。パフラヴィー朝の王様がその当時、イランを司っていたのですが、そのパフラヴィー朝が進めるアメリカの傀儡政権みたいな考え方、西洋の文化がイスラム教をダメにする、とホメイニさんという人が考えたわけです。

 ホメイニさんは、十二イマーム派の先生です。彼が仲間を集めて、今のイランはおかしくなってしまう、アメリカの傀儡政権になってしまう、と革命を起こしたのが1979年のイラン・イスラム革命です。その革命が起きて、国家体制もガラッと変わって、十二イマーム派の教えを国民に押し付けるような国として成り立ったのが、今のイラン・イスラム共和国です。
 十二イマームというのは、イスラム教の指導者は最終的に12 人に絞り込まれる、そのうちの一人がイランの国家指導者であるという考えです。イランは「神権政治」と言われます。今は、アリー・ハーメネイーという人が最高指導者ですが、イランという国の中では、神です。アリー・ハーメネイーが言ったものは、イエスと言ったらイエス、ノーと言ったらノー。大統領も関係ないのです。
 イラン・イスラム共和国なので、選挙があって国民が大統領に投票するという制度はあります。今は、ライースィーという方がイランの大統領です。普通はどこの国も、国家元首は大統領です。王様がいる国は王様が国家元首、大統領がいる国は大統領が国家元首であるはずなのですが、イランの場合は大統領よりも全然上の位置に国家指導者がいます。それが現在アリー・ハーメネイーです。

 十二イマームの教えを国家理念としたイランは、パレスチナという場所、今で言うエルサレムですが、ユダヤ教の聖地でもありますが、イスラム教の聖地でもあるのです。
 イスラム教にとっても、聖地のエルサレムを奪い取ったイスラエルはこの地球上から排除するべきであるというのが、イランの国家理念です。国の理念としてイスラエルを叩き潰すことが、この国の理念です。それがずっと対立関係にある。でも幸い、イスラエルとイランは距離が離れているから、そう簡単には戦争になりにくいわけです。ウクライナとロシアみたいな戦争にならない。
 でも、このイランとイスラエルの間にある国はとばっちりを受けています。イラクとかヨルダン、シリア、レバノンとかで、イランとイスラエルの代理戦争みたいなものが頻発しています。

 そこで戦っているのがイスラエル国防軍とハマスだったり、イスラエル国防軍とヒズボラだったり、要はヒズボラ、ハマス、フーシ派というのは、イランの蛸の触手です。イランの頭があって頭脳があって蛸の8本の足があって、その足たちがイスラエルを攻撃しているというのが、これまでのイラン・イスラエルの対立の構図だったのです。
 でも、これが今年大きく変わると言われています。ひょっとしたら核戦争になるかも知れないという懸念です。

イランとイスラエルの対立の行方
 イスラエルの首相ベンジャミン・ネタニヤフが今進めているのが「オクトパスドクトリン」という軍事戦略です。日本のメディアは全く報道しません。2015年にこの計画が発表されたらしいのですが、先ほど言いました蛸の触手、イランと対立しているハマス、ヒズボラ、フーシ派とか、イスラエルを攻撃してくる蛸の触手がある。でも、イスラエルとしてはその蛸の触手を攻撃しても埒が明かない。だから蛸の頭を狙うべきであるという、これが「オクトパスドクトリン」というイスラエルの新しい軍事戦略です。

 この、頭を狙うというのは、イランのド真ん中を狙う、ということです。そういう作戦が既に始まっているので、先日、イランのイスファハンの軍事施設のドローン工場とか、核開発施設とかが何者かによって攻撃され、イランのドローン部隊が数百機も全部壊滅状態になったと言われています。
 そんな状況の中でイラン国内経済は大混乱です。昨年の9月に、女性がヒジャブの付け方が間違ってるからと宗教警察に捕まって刑務所に入れられて、中でリンチか何かされて殺されてしまったらしいです。それが、ヒジャブの付け方が間違っていたぐらいで何で死ななきゃならないんだみたいな怒りが、イランですごいわけです。
 今イラン国民の中で反政府デモになって、イランのある程度お金を持っている人たちは、イラン国外へ脱出をしていたり、デモに参加した人は片っ端からイスラム革命防衛隊に拘束されて刑務所にぶち込まれて、何十人も死刑判決が出ているという悲惨な状況になっています。

 崖っぷちに立たされているイランが次に起こしてくるのは、イスラエルに対する軍事行為ではないかと言われています。またそうして暴発する前のイランに先制攻撃をイスラエルが仕掛けるべきだと考えている論調も強くて、そうなると、このイランとイスラエルとの、距離が離れている国の戦争が始まるわけです。
 あともう一つ、隣にアフガニスタンがあります。今、タリバン政権で、確実に今のイランを支援すると言われています。あとISも今、イランの政府と競合しているという話もあります。
 イランは1ヶ国ですが、イランの味方をするシーア派民兵組織は星の数ほどあり、力をつけています。アメリカの存在感がなくなっているからです。トランプ政権の頃は、イランに対しての抑止力が効いていました。トランプ政権の時、イスラエルはUAE、バーレーン、スーダンそしてモロッコと国交樹立しました。

 トランプさんがやりたかったのは、イラン包囲網をつくること。神権政治であるイランという国の弱体化を図ったのです。ということで、トランプ大統領は任期中にエジプト、ヨルダンに続いて長年ずっと暗礁に乗り上げていた中東和平を4つも実現させたのです。
 最近の世界情勢で、2023年にイランとイスラエルが何らかの形で大きな戦争に突入する可能性は日に日に高くなっているというニュースが、中東のニュース記事で毎日のように見受けられます。

 日本に入ってくる原油の90%はサウジ、UAE、カタール、バーレーン等湾岸協力会議諸国からアジアに向けて輸出されます。その石油の積み出し港の100%がペルシャ湾岸です。そして狭い海峡(ホルムズ海峡)を通って来ます。
 日本のエネルギーにとって、このホルムズ海峡はとても重要で、イランがもしも戦争を起こすようなことがあると、あるいはその一歩手前の軍事演習を起こすとなったら、ホルムズ海峡は封鎖されます。
 そうなると日本に石油は一滴も入ってこなくなるということが現実的に考えられます。中東情勢は極めて重要ですし、日本人ももっとこの地域に注目して。アラブとか中東の地域の人たちとももっと関係を深めて、この地域のことをもっと知って欲しいと思います。