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戦略物資(リチウム)をめぐる動き(真田幸光)

【真田幸光の経済、東アジア情報】
戦略物資(リチウム)をめぐる動き

真田幸光(愛知淑徳大学教授)

世界では、
「覇権争い」
が一層厳しくなる中、
「人々が生きていく為に必要なものやサービス、即ち、水、食糧、原材料、エネルギー、そして物流を戦略的視点から押さえる」
ということに躍起となる傾向が強まっていると思われます。
 
そして、そうした人々が今後生きていく為に必要なものについては、
「戦略物資」
などと言う言い方をしながら、その生産と流通の権限などをしっかりと押さえて、相対的な優位性を確保、覇権国家としての威厳を強めていく為に利用されているものと見られます。
 
例えば、最近の、
「半導体を巡る米中覇権争い」
が勃発している中、その半導体生産に必ず必要な工業用ガスの生産で世界に対する影響力が強いロシアは、ウクライナ紛争ぼっ発以降の対立が進み、
「その工業用ガス」
を戦略物資として利用しようとする動きが出てきています。
 
そしてまた、世界の自動車産業の中で、電気自動車化も進展する中、
「電池の生産」
に必要な、
「リチウム」
も今、戦略物資として注目されていることはご高尚の通りです。
 
このリチウムの世界生産を見ると、オーストラリア、チリ、中国本土が圧倒的なトップ3となっています。
 
しかし、ウユニ塩湖近くから産出されるリチウムの利権をボリビアが保有していることも知らており、ここに、ドイツはしっかりと目をつけて動きました。
即ちドイツは、ボリビアでの大規模リチウム鉱山開発を支援する協定を締結し、2国間の経済関係を深化させる事業としてこれを歓迎したのであります。

これによりドイツは、バッテリーの素材となるこの希少金属を巡って中国本土などの大国が世界中で繰り広げている新たな、
「グレートゲーム(大競争)」
への参戦を果たした、とも理解されています。

中国本土はアジアやチリ、アルゼンチンなどで協定を結ぶことにより、グローバルなリチウム市場の囲い込みを静かに進め、次世代エネルギー革命の鍵となるかもしれない戦略的物資の確保を狙っていました。

ドイツ当局者は、ボリビア入札を支援した理由として、アジアのバッテリー製造企業に対するドイツの依存度を高めるチャンスであり、ドイツ自動車メーカーが電気自動車(EV)の生産競争で中国本土や米国の競合他社に追いつく為の支援になると考え、ボリビアのリチウム生産へのコミットを高めようとしたのであります。

ボリビア当局者側も、ドイツのバッテリー製造工場の誘致や環境問題に熱心なモラレス大統領の方針に合う、ドイツの環境保護能力に魅力を感じているとのことであります。

戦略物資を巡る動きは、今後も様々な形で拡大していきそうであります。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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