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第23回 常に顧客の傍にいる 磨き上げた気配り企業  田中紙業(株) (増田辰弘)

増田辰弘が訪ねる【清話会会員企業インタビュー】第23回

  常に顧客の傍にいる磨き上げた気配り企業  田中紙業(株)

 ~中小企業の長所、持ち味を生かした戦略~

【会社紹介】
田中紙業 株式会社

役   員: 代表取締役  田中真介
                    専務取締役  田中伸尚
       取締役            高橋 豊
設      立: 昭和29 年(1954 年) 2月11日
従業員数 : 65名(2023 年4 月現在)
資  本  金: 4,000万円
本   社: 東京都葛飾区東四つ木
工   場: 埼玉工場・埼玉第二工場(埼
玉県本庄市)、栃木営業所(栃木県下都賀郡壬生町)、厚木工場(神奈川県厚木市)


                   田中真介 社長

柔軟性、機動性、サービス性が最大の持ち味

 営業手当、生産手当、物価手当、家族手当、住宅手当。これはダンボール、プラスチックダンボール(プラダン)を素材とする包装資材全般を製造、販売している田中紙業(株)(本社東京都葛飾区、田中真介社長)が社員に毎月支給している各種手当である。物価手当も今年は多くの企業が昨今の物価高で始めているが同社はとっくの昔から支給している。
 この隠れ給与とも言える各種手当が同社の社員への配慮でもあり、また、社員が絶えず業務に挑戦し続ける源泉となっている。日本企業はこの30年間社員の給料を抑え、各種手当をカットしてきた。なぜなら、給与を抑えれば抑えるほどそう努力をしなくとも会社の決算の数字は良くなるからだ。
 田中社長にこの手当の理由をお聞きすると、「社員は人財です。社員が考え、社員が行動する様にしないと会社は成長いたしませんから」と岸田総理や戸倉経団連会長にも聞かせたいような答えが返ってきた。
 その社員が人財の事例を遺憾なく発揮したのがコロナ対応のダンボール/プラダンパーティションの製造、販売である。日本でコロナが本格的に感染し出したのが2020年2月だが、もう5月には同社はオフィス用のコロナ対応のパーティションの販売をしている。その後、購入先から新しいアイディアや要請を入れて9月には左右前の三方が見渡せる現在の完成版の製品を販売している。
 これは、本社で会議を開いて、今度コロナ対応のパーティションを製造しようではないか、という普通のやり方ではなかなか達成できない。営業部員がユーザーのニーズを嗅ぎ付け、製造現場に落としていないと3ヶ月で製品はできて来ない。
 そして、この年の夏、埼玉工場のある本庄市内の私立高校で、全生徒の机にこのコロナ対応の窓付きダンボールパーティションを設置して欲しいとの要請があり、工場の社員が総出で設置作業を行っている。この柔軟性、機動性、サービス性が同社の最大の持ち味である。この製品は何より現在取引きしているお客さんにも大いに役立った。


     とても軽量かつ取り外しも楽なパーティション

面目躍如の請負事業

 田中紙業(株)の生産拠点であるが、工場は、同社の主たるユーザーである医薬品メーカーの工場の傍にある埼玉県本庄市の埼玉第1工場、第2工場、自動車部品メーカーの工場がある神奈川県厚木市に厚木工場、そして玩具メーカーのある栃木県壬生町に栃木営業所を置いている。これは同社が常にユーザーの傍にあるという発想で事業を組み立てているからである。
 実は同社の創業者の田中節夫氏が現在の本社のある葛飾区で立ち上げたのも、先に主たるユーザーである医薬品メーカーの傍であったからである。常にユーザーの傍にいて綿密に連携をとりダンボールの供給を万全の体制で行う姿勢の表れである。
 その典型が埼玉第2工場で行う主要得意先の請負事業である。これはどんな仕事かといえば、パート社員15人を配置し、ユーザーの付属の加工仕事を中心に各種の雑務を要請に応じて受けているのだ。確かに大手企業が直接やると効率が悪くとも中小企業だと効率的にできる仕事がある。これを依頼されて受けている。
 しかし、それだけで工場が仕事になるのかと考えるが、工業団地のなかにあるのでほかの会社の仕事も受けられる。それで工場を立派に操業させている。これも同社の営業マンがユーザーから依頼されたことがきっかけである。身軽で、気軽で、腕が立つ、お客様から依頼されたことなら製品のダンボールは毎日朝一で配達を行う、仕事はこのように本業にかかわらず引き受ける。徹底して便利屋家業を行っているのだ。
 ダンボールケースの多品種少量生産にも対応しているとのことだが、何ケースから作るのかとお聞きすると、普通は100ケースぐらいだがこれにはこだわらず、1ケースでもやる時があるという。現在ダンボールケースの専業メーカーは全国に2000社ほど存在するが、その中でも1歩も2歩も他のメーカーより進んでいるのはこのサービス精神である。


           【社是・社訓】

個性的な自社製品

 田中紙業(株)の主要な取引先の50社を見ると医薬品メーカー、自動車部品メーカー、食品メーカー、玩具メーカー、電気機器メーカーと実に幅広い業種となっている。まさに提案営業、企画、設計、製造までを一貫して行うかたわら、どこにでも営業に出かけ、その数500社へと取引先の幅を広げたことが窺うかがえる。
 私が、インタビューで田中社長を悩ませたことがある。それは製品の単価をどうやって決めているかと言う話だ。要するに単価の決め方だ。しかしこれだけ多業種だと、まず業種により製品の事情が異なり容易に答えられない。また、製品により注文数も大きく異なるから一口に単価の決め方と言われても困ってしまう。
 ただ言えることは、同社は加工度の高いものを受注し高付加価値で販売しているということだ。ダンボールケースという言わば汎用品にいかに付加価値を付けるのか、同社はこのことに涙ぐましい努力をして来た歴史であると言える。
 このことを端的に示しているのが同社の自社開発製品である。普通のダンボール会社は依頼されたダンボールケースを作るだけで自社の新製品、自社開発製品などはあまり多くはない。それは作るのはともかく販売するのが大変だからだ。ところが同社はどんどん自社開発製品を販売して売っている。顧客に寄り添う経営姿勢のほかにここがもうひとつの特徴である。
 その代表的な商品がダンボール製スツール「SPボックス」とダンボール製「ネコちぐら」である。SPボックスはダンボールの組立て式のイスで、全体にユーザーの広告宣伝が入るようになっている。この製品は極めて特殊なもので実用新案も取っている。
 この製品の最初の購入者が大手飲料メーカーであったことも幸いし、各社がこぞって新製品販売のPRキャンペーンのプレミアムなどにSPボックスが選ばれた。2002年の販売であるが今でも売れている息の長い製品である。 
 ダンボール製「ネコちぐら」も、うならせる商品である。いわゆる猫小屋なのだが軽くてかっこ良いのである。値段も4000円と安い。猫はダンボールで爪を研ぐのが好きなので、ユーザーである猫にとっても大歓迎なのである。この製品は厚木市のふるさと納税の返礼品にも採用されている。


        ダンボール製の椅子


         SP ボックス


            ネコちぐら


            ダンボール製の3 連ゴム鉄砲

顧客と共同作業で創り上げる

 同社の高橋豊取締役は、埼玉工場長と厚木工場長を兼任しており、毎週月、火は埼玉工場、水、木、金は厚木工場とあわただしいスケジュールをこなしている。2つの工場長を兼任しているので、連携はきわめてうまく取れている。
 高橋取締役は、「同業大手は、企画、設計、デザイン、営業と各部門が分かれておりますが、うちは営業が企画もデザインも兼ねておりますので、機動的に製品化が図れます。
 CADシステムが入ってからこの動きが特に機能的で工場で作業をし、すぐにパソコンでお客様に送ることができますから大変貴重です。CADシステム活用により、仕事の仕方が大きく変わったと言って良いと思います。
 CADシステムは営業マンだけでなく工場の製造メンバーも何人かこなせますので、営業マンが出かけている時に作業を進めることも可能です。技術革新が激しくどんどん新しいCADシステムの製品が出てきますが、新製品はなるべく早期に導入してお客様サービスに努めております」と語る。
 常にユーザーに寄り添い、現品から最適な梱包仕様を提供するべく、日々得意先を訪問し、共同作業でダンボールケースを創り上げる。その日頃の努力が結実したような商品がある。とある空調大手企業と共同開発したクリーンルーム用フィルターである。
 完成品を見ると何でもないフィルターのようだが、実は大変であった。あのフィルターの波形、ダンボールだと糊で貼るから安定して波形が整列できるが、こちらは糊が使えない。それでいてきちんと安定して波形が整列したフィルターにせねばならない。
 このフィルターは同社でも思いのほか手間取り何度も根をあげた。「どうしてもできません」と答えると、「いやおたくならできるはずだ」と依頼先企業の中央研究所所長と高橋取締役の前任者とのやりとりは長きに及んだ。そして、ついにその波形をきちんと整える技術を持つ町工場を執念で見つけ出し、現在の商品は完成した。今日ではこの商品は高付加価値製品で同社のドル箱商品の一つになっている。
 このようにダンボール、紙製品と言えば一見すぐにでも作れて簡単そうだが、実際はそうではない多品種少量生産のダンボールというのは1件1件綿密な打合せを行い、顧客と共同作業で創り上げる製品なのである。

日本人と大きく異なる中国人社員の労働者意識

 私が田中社長のインタビュー中に話題として出した某大手ダンボールメーカーL社の中国進出の話をもう少し詳しく述べると、中国山東省の青島市にある国営のダンボールメーカーは地元の青島ビールやハイアールなど顧客には恵まれていたが、国営企業ゆえに近代化に立ち遅れ過剰人員であった。1000人いる社員を8割の800人を削減せねば競争できる体制にはならない。
 地縁血縁社会でもあり、このリストラを国営ダンボールメーカーは嫌がりL社に合弁を持ちかけた。経営の主導権はそちらに渡すから、リストラを行い何とかこの工場を近代化してくれという依頼である。L社に取っては願ってもない話だが、この人員の8割削減が引っかかった。社内で熟慮の結果、何とか乗り越えられるだろうと合弁に踏みきり、労務・人事のベテラン社員を出向させ労働者との交渉に当たった。
 ところがこの早期退職依頼の蓋を開けたら少し多めの退職金を用意していたこともあり、何と9割900人の応募があった。ここでL社はふたたびあわてる。9割も辞められては仕事が回らないのである。今度は退職希望者のなかでどの社員を残って貰うかの選定と交渉になった。
 「中国人は日本人と異なり会社離れができているとつくづく感じた」と当時のL社の総経理から感想を貰った。例え何十年勤めた会社でも、それをお金に置き換えてさっと会社を去る。ある意味では見事である。日本企業が中国撤退の時「雇用を奪うな」と社員のストライキが起きるのは雇用や会社への愛着ではなくもうし少し退職金を出せる筈だとの理由だという。
 日本の経営者は社員の給料のほかに会社への愛着、執着、こだわりを意識し経営せねばならず、中国の経営者は社員の待遇は万全なのかどうかを常に意識して経営に臨まねばならない。L社の中国進出取材は考えさせられた。