[ 特集カテゴリー ] ,

【清話会会員企業インタビュー】大亜ソイル㈱ (増田辰弘)

増田辰弘が訪ねる【清話会会員企業インタビュー】第25回

常に現場での研究開発を怠らない新しいかたちの建築業を確立する
画期的なHND工法でマンションブームの基礎を支える
大亜ソイル株式会社

大亜ソイル株式会社
■代表者: 代表取締役社長 長谷川 実  
■設 立 : 昭和53 年3 月30 日
■資本金 : 5,000 万円
■建設業者許可番号:国土交通大臣許可(特-2)
 第9155 号〔建設業許可証〕
■許可建設業の種類:とび・土工工事業、解体工事業、
 土木工事業、鋼構造物工事業、舗装工事業、水道施設工事業


        長谷川 実社長

■最大の経営課題は人材確保

「ともかく経営課題は一にも、二にも人材の確保です。これまで人が集まったことがない建設業界なのにこの人手不足時代ですから、今ものすごく大変です。せっかく入社した憧れの会社でさえ、時短で見切りを付けて行く現代ですから。

 だから、我々は一般企業のように大学や高校からの新卒採用は諦めて人材の確保はサービス業など異業種からの中途採用がメインです。

 当社の仕事は100年人々の安心と安全を支える杭を地面の固い部分(支持層)に向けて築造しています。地表からは一切見えない地味な仕事です。建築業とは、街創りであり、自治の創生であり、多岐にわたる日本建築技術の集積があって安全と安心が担保されます。
 
 安心100年を叶える杭築造に醍醐味を感じた社員は残り、なじめない社員は辞めて行きます。その判断に1年ぐらいはかかりますかね」と大亜ソイル㈱(本社:東京都中央区)の長谷川実社長は、現在の人材確保への苦境の状況を語る。

 私が、「少し給料を大目に出せば幾らかはしのげるのではないですか」と尋ねると、長谷川社長は首をかしげながら、「今の若者は給料だけでは無理なんですよ。土日が休みで、年休が取りやすい、残業が少ないなど自由時間が確保され、かつ職場にハラハラがない、これが揃わないと無理なのです。これらを揃えてはいるつもりなのですが、それでもなかなか人材の確保は難しいのです」と語る。

 現在までマンション、オフィスビル建築のブームが続いている。同社の持つHND工法「アースドリル式拡底杭工法」は杭施工に大きなインパクトを発揮している。HND工法とは長谷川工コーポレーション(H)、日興基礎(N)、大亜ソイル(D)の略で、3社で共同研究し特許を取得した工法で、( 財) 日本建築センターの評定を取得しているものである。

 この工法は効率かつ、良品質に優れた工法で、多くのマンション施工に採用されている。

■10名にチームをうまくまとめるのが社員の仕事

 同社が手掛けるHND工法「アースドリル式拡底杭工法」+ STBC-SRⅡ場所打ち鋼管コンクリート杭工法は杭の底部を円錐形に拡大拡底して掘削するもので、経済性に優れ、かつ強度が強く耐震性に優れた杭である。

 マンション、オフィスビルの杭打ち作業が同社の主たる業務であるが、正確には以前の建物の杭基礎撤去から始めることが少なくない。

 現場には概ね同社の社員が1名以上常駐し、外注先である会社のクレーンのオペレータ―が1人、掘削機(アースドリル)のオペレーターが1人、バックホーのオペレーターが1人、職方が4―5人、鉄筋カゴ作製溶接技術者が1―2人の配置となる。すなわち、同社の社員は約10名の精鋭をまとめるリーダーで、責任者なのである。

 簡単に言えば、社員は10名一丸とする能力に長けていなければならない。社員全員が企業の管理職並みの能力を発揮している会社である。

 一つの現場の杭施工はだいたい2ヶ月から3ヶ月、この間、同社の社員は編成された10人の精鋭を1
チームとして巧くまとめ上げ、目に見えない地面の下の様々な問題を回避しながら杭の築造を進めていく。

 施工を終えて現場を撤収した後、徐々に形として見えてくる建物の構造を目の当たりにすると、杭施工中の苦労も吹き飛ぶ、そして湧き上がる充実感と達成感が社員の定着率を高めている。同社に定着した社員が厳しい仕事でも辞めないのはこんな理由である。


          HND工法「アースドリル式拡底杭工法」

■社員全員が顔を合わせるのは年4回の勉強会

 同じように見える現場だが、一つとして同じ現場はない。地質が異なる。天候が異なる。周辺環境が異なる。昨日までの施工情報を糧に未来の施工に活かしより良い施工となるように創意工夫やアイデアの創出にも意欲を注げる施工にはやりがいしかない。まさに腕の見せどころとなる。

 同社の社員は自分の担当現場に注力するために日々現場へ赴く。社員一同が顔を合わせることは少ない。

 そこで、年4回会社主催の勉強会を開催し、それぞれが体験した施工の反省と分析を行う。これはそれぞれの社員が担当現場を持っているので日曜日の午前中開催している。密度の濃い勉強会である。

 また、工事部主催でこれも年4回程度、情報交換会をウイークデーに現場終了後に本社へ集合して短時間で開催をしている。

 ここで私は長谷川社長に幾つかのいささか失礼な質問をした。
 問:「社員が現場に行く途中電車が止まったらどうするのですか」。 
 回答:「タクシーに乗り換えて行くのです」。
 問:「社員が体調を崩した場合はどうするのですか」。
 回答:「現場に10人の職人を抱えている責任感からか今までほとんどそんなことはありません」。
 問:「異常な難工事で社員が手に負えなくなったらどうするのですか」。
 回答:「多くの社員が数多くの現場を体験しております。現場同士で密な情報交換をしています。音を上げている暇がありません。やるべきことがどんどん湧いてきます」
 と、まさに環境適応業の回答であった。言えることは社員が常に責任感を持ち仕事に対応していることだ。

 大亜ソイル㈱は1978年、現同社の会長である豊島徹氏による創業である。同業の会社に勤務していたが独立したものである。この時アースドリル工法の営業と施行をスタートさせている。そして、この年に拡底バケットの開発を行い特許も取得している。これが、その後同社の目玉とも言える1989年のHND工法「アースドリル式拡底杭工法」の元となっている。豊島会長は多分この工法を思いついたから創業を決意し、会社が船出をしても会社はうまく運ぶと考えたのかも知れない。

 このアースドリル式拡底杭工法は掘削中の土砂の取込みが容易であり、かつ蓋を閉じた際の密室性に優れ、バケット引き揚げ時の土砂流出を防止できるなどの数々の利点があり、画期的なものである。

■社会に大変貢献したレゾフォンピア工法

 この後同社は多くの工法、製品を開発している。まさに研究開発型の建築業なのである。その最も代表的なものがレゾファンピア工法である。これを長野県の松本市美術館の事例で説明する。

 建設用地は市の中心部、駅前通りに面している。ここには豊かな地下水脈があり、地域の住民が生活用水で使用している。このためこの工事は地下水の汚濁防止と水位の低下防止に細心の注意を払いながら工事を進めなければならかった。

 ここで登場したのが、同社の開発したレゾフォンピア工法である。工事は渇水期を選んで施工した。この工法は鉄筋かごの外側に二重のレゾフォンネット(網)を ストッキングのようにはかせてコンクリート打設することにより、地下水への影響を最小限に抑えるものである。

 松本市役所もこの地下水問題が最大の関心事で、工事敷地内に4ヶ所の自動観測装置を設置し、常時水位測定を実施して臨んだ。この結果、工事中、水位の変動は公示前の日常と変化なく、近隣住民に影響を与えることなく工事を終えた。

 この工法はまさに画期的で、沖縄・九州地方に存在する独特の地層(琉球石灰岩層)は硬質だが間隙が多く、生コンクリートロス率が多い場所に採用され、ロスの軽減に大きく寄与している。

 またレゾフォンネットと孔壁間の周面摩擦特性に関する研究を京都大学と実施し、地盤材料の種類に
よらず、ネットがある場合のコンクリートと地盤材料間の摩擦はネットが無い場合の概ね0・9~1・1倍の摩擦を示し、ネットの有無によらず概ね同等の摩擦力が得られることを確認した。

 さらに成田新高速鉄道工事、北海道新幹線工事、桜島港施設整備工事など全国で200を超える工事に活用されている。もちろん、これらの工事をすべて同社が施工しているわけではなく、同社の開発したレゾフォンネット(網)を活用している訳である。

 この他にも狭い土地でも効率的に工事のできるNSエコパイル工法(回転圧入鋼管杭工法)、これは鋼管先端部に螺旋状に羽を持つ鋼管杭で回転圧により地盤の締め固め効果が得られ、かつ無排土、低振動、低騒音で施工するすぐれものである。

 どの建設会社も難工事に直面すると様々な知恵を出し独自の解決工法を工事ごとに編み出している
はずである。同社の優れたところはそれを特許申請し、日本建築センターから評定を取っていることで
ある。

 これはその後自社のビジネスを生かすことになるが、社会に認知され他の会社の工事に活用されるこ
との意味が図り知れず大きい。

        レゾフォンピア工法

■本社は全現場を動かすコントロールセンター

 大亜ソイル㈱の社員は25名だが、そのうち東京本社に22人、名古屋営業所に3人配置している。各種の機械は千葉県四街道市の資材置き場に配置されているが、現実にはほとんどそこにはいない。社員も機械もほとんど常時、複数個所の現場に出払っている。同社の本社を覗いてもほとんど社員はいない。本社はこれらの全体を動かすコントロールセンターなのである。

 本社では人材と機械の配置計画を定める。こう言うと格好は良いが、人員と機械配置に合わせてうまく仕事は降りてはくれない。社員や職方はいろいろな所に住んでいる。これをうまく調整することも施工を良質で完工させられるか、肝となる。

 しかも、最近は資材費も人件費も異常に高騰している。この価格転嫁もうまく行わねばならない。しかも、工事によっては予定よりもかなり時間も費用も手間取る現場もある。そんな場合どんな対応となるのか心配になる。

 長谷川社長は、「現在の建築事業はひと昔のようなどんぶり勘定ではありません。精度の高い見積り
と工程を最初の段階から提示します。だから工事によって利益が大きかったり、少なかったりはほとんどありません。従って工事が難工事であるとその分は再交渉をして貰えます。その意味では私が建築業界でなく半導体の業界から入ったことがよかったのかも知れません。驚くほど合理的なやり方で仕事を進めております」と語った。

【インタビューを終えて】
日本で最初のインキュベーターKSP建設の教訓

 もう時効であるから話しても良いであろう。かつて私が手掛けた日本で最初のインキュベーター施設「かながわサイエンスパーク(KSP)」は、当初鹿島建設、清水建設、大林組の大手ゼネコン3社と進めていた。ソフトを詰め、目的用地である5ヘクタールの工場跡地の確保に動こうとした瞬間、このうちの1社の決済がもたもたしている間に飛島建設がその土地を確保してしまった。しかも目論んでいた価格を相当上回る額である。

 ここから、我々はなんとか飛島建設にこのKSPプロジェクトに乗っていただくよう説得するのが
仕事になる。もともとある金融機関のデータセンタ―など用途が決まっていただけに、そんな面倒な話
を持って来られても困るのである。

 この時分かったのだが、施工業者のゼネコンは多くが事業主から建設工事を請け負うのでだけはなく、自らがマンション、オフィスビル、ショッピングセンターなどの土地を確保し、事業会社にこんな好物件の土地がありますよ、やりませんかと提案するのが大きな仕事であることが分かった。

 大亜ソイル㈱がそのほとんどの仕事を行う親会社とも言える長谷工コーポレーションが首都圏のマン
ション市場の約半分を請け負うなど施工面で圧倒的な存在感を示すのは、建設後の後処理が巧みであるとともに、好物件の土地を早めに抑えるノウハウが巧みであることもまた見逃せない。二重の強みを持つ会社なのである。