髭講師の研修日誌(102)
できる人の取り組み姿勢に学ぶ活躍力
澤田良雄( (株)HOPE代表取締役)
出講企業には「あの人、やるね、」「たいした人ですね」「やはりできる人ですね」と評される人がいる。勿論 評価要素は、成果による貢献力であり、その成果を生み出す取り組み姿勢、その実施に向けて必要に応じた協力関係、そのためのコミュニケーションの駆使、そして、人となりに関心を示しての表現である。その評価の具体的条件は、立ち位置、業種、職種、キャリア歴などによって様々であろうが、活躍に向けての考え方や取り組み姿勢には、ひとかたならぬすごさがある。
今回は、筆者の関わる企業の3者に着目し「できる人」と称してのお役立てとする。それは、前回の憧れられる人を目指す人にとっては、マネぶ機会であり、近づきへの実践ヒントでもあり、上位者にとっての育みの一助としてのお役立てである。
- 「やっぱりこの仕事が好きなんです」この職業観を本心から持っている人
Sさんは、私立保育園の保育士。園児が常につきまとい、指導に素直に従う絶対的人気の先生であり、保護者との親疎関係も良く、相談事も多い。時には、卒園児保護者から特別に花束を贈られるほどの信頼される人でもある。一方、同僚保育士からは、いざというときには支援を求められ、上司からの相談も寄せられる。正に「困ったときにはSさんがいるから安心」と関わる人からの信頼が高い。
それはなぜか、それはSさんのキャリアが生きている。というのは、Sさんは、資格を得て内定も得ていた園が経営状況の厳しさから、突如、内定取り消しとなり、おおきなショックを受けた。他園での活躍機会は既に無く、やむなく、生保で活躍を始めた。10年間活躍し、存在感も得た。しかし、「保育士の仕事を、どうしてもしたいとの本心」が沸きあふれ、その舞台を必死に求めた。そして、現在の園で晴れて好きな仕事に就けた。新天地での活躍舞台での同僚、いや、社会経験に乏しく多様なる対人関係の対応が不得手である人も多い。その点では、Sさんの生保でのキャリアの10年間では、多種多様な対人関係で得た人の心を汲み取り、そして判断し、何をどうして上げるかのこの経験が多かった。従って この体験は、好きな活躍現場では実に生かされた。例えば、保護者との交流での対話、アドバイスであり、園児への直感による意思疎通にも生きている。従って、いつしか「頼られる職員」としての存在を得た。
そこには、「本当にしたい仕事だから、敏感に心、欲求を汲み取り、楽しみを作り出すよう尽力することが楽しい」のだと笑顔で応えるSさんである。勿論、そのためには、保育関連の学び直しに取り組み、新たな学習機会にも自ら飛び込み、園児への指導スキルを向上させた。そして、園での運動会、園児の発表会等々の催しには、当然上司から任されての取り組みである。例えば、運動会でのダンスはどうする、演目を決め、振り付けを考案し、練習方法、さらには、衣装、道具は・・可能な限り自作し、同僚の協力を得て実施に移す。・・・。園児が楽しく練習に取り組み、その実りに、当日、保護者が我が子の成長ぶりに感動の拍手を贈る。この瞬間に力が抜け、園児への育みの喜びを実感するとのことである。当然関わる人からの「Sさん有り難う」の評価は嬉しい。・・・。と再び笑顔。語るSさんの弾む語調は「認められ、たよられている」その喜びを彷彿させる。
さて、Sさんからの「できる人」としての学びは、どんなことだろう。それは、
◎「仕事ができる人の原点は、その仕事が好きだから、努力は惜しまない」こんな取り組み姿勢にある。
◎工夫を凝らしたさすがの仕事ぶりの遂行には、学ぶ、情報を得る、スキルアップ策のヒントを日頃からキャッチする。
◎さすがの抜きん出る要素には、前職のキャリアが生かされる。特に対人関係力は貴重である
ということである。
②構想を実現する協力体制をつくり、書く、撮る、話す・・多才の結集ができる人
Tさんは106年の歴史を重ねる特殊ポンプメーカーO社の社内誌を毎月10ページ編集・制作し、発行業務を担う。勿論広報誌発行のみでなく、事務関連部署を幅広く担当するプレイングマネジャーとして多忙な日々の活躍である。O社は60人規模の製造企業であり、この規模での毎月の社内報の継続発行企業例は多くはないが、Tさんの社内誌発行業務は毎月の企画・各ページ構成・原稿依頼・添削、現地訪問・現物撮影・解説記事の執筆等々多岐にわたる。筆者は毎号拝読するが多才なる能力が見事に結集されている。
構成内容の概略を紹介すれば、表紙の絵は、動物の豊かな表情、仕草をクローズアップしたカラー写真で提供し、読者のほっこり感により自然と本ページに誘う。そして、●お取引企業のインタービュー記事(関係内容・O社の印象(信頼・企業風土、社員、今後への期待など)●企業活動の情報(顧客工事現場の紹介と担当者の手記、アフリカ・中国工場の動向、研修・社内行事・来客(外国技術者・社員家族・・)●地域貢献活動情報(CSR活動)(近隣学校生徒の学習見学、福祉施設との連携、おすすめ店、近隣神社仏閣、名所の紹介・・)●社員のエピソード(ペット紹介、旅行記・・・)●企業活動常識用語の解説●主軸製品の利用場所の紹介●編集後記・・など多様である。
このさすがの業務成果は、社員には、社内活動情報や業務常識に対する理解を共有化する人材育成に貢献され、さらに、取引様・企業活動情報の顧客現場、海外進出の記事は社外からの、信用を高め、興味を高揚させる広報力としての価値も高い。従って、その一例としては新たな戦力の加わり(当社で活躍したい中途入社)もある。このように、O社のイメージアップとなり企業活動への貢献度が高いのである。
それは、Tさんの構想を描き、各論を構成、自他の力を見事に集結して実現する人であるから、「Tさんに任せれば良い、必ず良い結果を生み出してくれる。」とできる人としての期待に応えた評価の結実である。勿論 広報誌の発行以外に担当業務は多岐に渡り、多忙であるが、これらの業務も見事に成果を生み出す活躍ぶりである。
如何であろうか。Tさんからの学びは、次の点が浮き彫りできる
◎論理的思考による全体構想と、何のために、何をいつまでに、何を誰にどのように頼むかのキーワードを活用しての各論構成による活躍
◎仕事ができる人ほどマルチタスクになりがち。ならば、業務ごとの優先順位を明確にし、どの順番が最適かを検討することにより全体が滞りなく推進できる。
特に納期が明確な場合は逆算しての優先順となる。思いつき、行き当たりばったりでは納期がきちんと決まった業務は無理との証。
◎自身の持ちうる能力を最大に駆使すべきことと、他の人の協力を得ること、依頼先に対応いただくことを最適にくみ上げる手腕
◎依頼事項は、その実践経過を適切に管理する
◎企業動向、街情報、社員の話題、など敏感なるキャッチ力を生かして、新鮮なる情報を確保する
③こだわりと柔軟の融合で評判を勝ち得る人
「焙煎を極めた日本一の焙煎男」「ここでしか味わえない本物の旨さ」を提供します」「海苔屋の海苔より旨いお茶屋の海苔」「一度食べたら止まらない薫りと薫の落花生」とキャッチコピーが華やかなのは。茶店を営む2代目社長のY氏である。Y氏は先代のお茶の販売店から、自社製品の開発、製造、そして、ネット活用による販売網を早くから取り入れ、国内顧客の獲得に発展させた「すごいね」「よくやるね」と評される偉才商人の人である。
その極は何か、それは、「小さな街中のお茶屋です。自分のお店だけの味にコダワルあまり、お茶、コーヒー・落花生・アイスクリームを自家焙煎・手作りで提供しています」「製造も人任せには決してしません! 少量ずつを自分一人でつくります」「煎ったり冷やしたり、どの商品の味作りのコンセプトは「薫りと香る」とHPで強く発信している。そのこだわりは、製品開発。製造では、材料からであり、茶は原産地静岡県の生産者、落花生は本場千葉八街からの生産者から直接購入、そして、焙煎は、専用機械を整え、旨みの最高条件を設定し、自ら手を掛ける。味付けの塩は、深海からくみ上げた海水による製品使用とこだわりもすごい。勿論、現地を尋ねて生産者との意見交換を重ねての購入である。アイスクリームへのこだわりは、ピーナツアイス、ほうれん草アイス、びわアイス、県内名酒アイスなど、無添加素材を生かした大手メーカーに無い種類を開発している。
如何であろうか。こだわりも半端ではない。従って、店売り顧客も安定し、ネットによる新たな顧客も増加している。この評判の元を問うと、それは、子供の頃からの手作り体験(ラジコン飛行機やお菓子作り)が得意であり、仕事も同様であると話す。ちなみに、手作りの作品は商品以外にもある。それは、お子様がまたいで乗れる汽車(3両連結)を制作、市内イベント会場で自ら運転し、奉仕活動を楽しんでいるY氏でもある。
Y氏とは地元会議所での活躍を共にし、また、経営者の学び合いの会でも、商いの道理を確認する長年の交友である。その場では、時折商品を提供されるが、それは、Y氏にとっての生情報を得る機会であり、人脈を広げる機会でもある。先般も「これ食べてみて・・ 」と新製品を差し出す笑顔に「すごいな、この人は」と評しつつ、「よーし、いただくよ!」と声がけすることは楽しい一瞬である。また商いの道理を確認する学びの場でもある。
如何であろうが、T氏からの「できる人の気概は何か」その学びは、
◎子供の特技のこだわりが、追求する気概と手作りの手間掛けを支えている
◎現地、現場、に足を運んでの本物の確認と最高に生かす条件作りを惜しまない
◎変化の大きいとき、本当に顧客は満足しているか、新たな欲求は発生していな いかを常に自ら確かめ、正しい判断に基づく次の手の編み出しを楽しむ。
◎どこにもない、独自、初もの、一番のキーワードを常に気概の糧とする
◎協力関係は、その道での高い評価を得ている人との連携とする
◎IT活用を最適に生かした業務展開をする
◆できる人の活躍力
三氏の事例を元に「あの人は素晴らしいと評される活躍ぶりを確認してきた。その学び事項から、できる人の成果を生み出す活躍力を次の五本柱でストリー化してまとめとする。
1)専門・基本能力を磨く=これはインプット能力で、専門的知識、技術力、組織機能 の理解、経験値、お客様の理解、共に社内外の動向をキャッチする情報力、関わる人の 理解、教養、計数センスなどの基礎能力の磨きを常に加え、蓄える。ここから、
2)構想・企画能力を豊かにする=専門・基礎能力から生み出すアウトプットとして、 斬新、こだわりの独自、初を創造する力。それは、先見力、多面的思考力、こだわりの追 求を楽しむ。そして、実現に向けての、理論構築力、実施方法発見、その方法の担い手は 自他の力の最適融合の考案である。そして、実現の第一歩は発信し、協働体制を固める ことになる。それには、
3)コミュニュケーション能力を高める=これは、意思伝達手段としての話力、文章力、聴解力生かすことであり、協力を得る事柄の折衝・調整により協働関係を構築する。そこで肝心なのは、
4)人間的魅力が信頼を決める=専門力が高く、弁が立っても日頃の人物的影響が協力温度を決める。やはり、「この人だから」と寄せる人間味は、笑顔での明るさ、共感性、誠 実、信念、熱意、倫理理観、そして、巾のある遊び心を持ちうる人である。
さあ、実践。「できた、やった。さすが」とは結実がなければ評されず、単なる忙しさに追われたに過ぎないばかりか「この人はできない人」と落胆させることがあれば、次の機会は難しい。ならば、どうする。それには、
5)実績達成力が何よりも肝心=努力の実りづくりには、自らの先手の実践であり、こだわりの継続力である。勿論、協力者への経過の気配りの無精は御法度である。それに、「まさかの事態発生時」のスピード感ある問題解決力を駆使する。勿論、経過を観る管理力は納期を確保する力である。そして、心身の健康管理力が功を奏し、めでたく成就。
ということとなる。この5本柱はどれがかけても、成果を産む活躍とはならない。しかも、この条件の個々の活躍力の内容は変化する。だからこそ、広さ、深さ、新鮮さをどう増幅していくか不断の自己啓発が欠かせない。それは、三氏の顕在、潜在している力の活用が見事であると共に、常に「学び力」が貪欲であることも特筆できる。
先日、印刷関連事業を手広く経営するB社のリーダー研修でも、開口一番「お忙しいことは嬉しいですか」と受講者に問いかけた。反応は(?!)。「忙しい人だからこの機会を得ましたね」「それは、仕事ができる人だからです(?)「それは、できる人に仕事が集まってくるからです」(うなづき)「なぜなら、あなたが「頼れる人として評価されている事実」です。暇な人に頼みますか」・・・。 今研修も「できる人としての磨き合いを楽しんで参りましょう」と語り掛けると、受講者の表情になぜか学ぶ気概の高まりを観る。実に嬉しいことである。
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◇澤田 良雄
東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
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