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対面型コミュニケーションが今だから生きる(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(103)
対面型コミュニケーションが今だから生きる

澤田良雄( (株)HOPE代表取締役)

◆新人の描いていた理想と現実? のギャップは…

新人も入社1ヶ月過ぎました。どんな成長状態でしょうか。多分に理想と現実の違いに戸惑いあれこれの拙論にはまり「こんなはずではなかった」などの心境にはなっていないでしょうか。

マスメディアでは「配属後1日で退職」などとの報道もあります。それは、多分に、新人の想いと現実のギャップの違いだからでしょうか。それとも新人自身が勝手に描いている都合の良い条件に合致していないとのジャッジなのでしょうか。

ならば、どうしてそうなるのでしょう。就職活動で、真剣に情報を入手し、併せて、就職担当指導者からの指導も受け、実際に企業説明会で直に企業との接点を持ったうえで判断し、入社を決定したのにです。

このような論は昭和時代の古さの世代ギャップの表れでしょうか。しかし、現トップ・幹部・管理者の40代後半以上はおおよそ昭和世代でしょうから、会社のため、職場のため、上司のために活躍することにより認められ、将来の安定を得てきた人です。

従って、「何で1日でやめるのだ」、ましてや、「本人からでなく、親、または“退社代行業”を通してなのだ」とわかりかねることも実感でしょう。

勿論、企業での活躍に向けた期待条件も、飛び交う働き方改革、人生100年時代、ライフワークバランス、キャリアプラン、転職如何、副業、将来起業、偉くなるより楽しく働く…の諸説から、まさに企業での職業人生の有り様が多様化し、個々に判断し決めていくことの必要性が問われている現在を認識していてもです。

一方、受け入れ企業では、新人の「想い・覚悟・現在の評価・今後への気概」をきちんと確認し、専門力をきちんと身に付け、当社企業人(当社の理念・組織人としての活躍条件…)人間力を素直に磨く事に尽力しているのです。筆者もその一役を担っている昨今です。ここでのキーワードが新人、指導者間の潜在するコミュニケーションギャップを可能な限り埋め合うことに他なりません。

◆世代ギャップは当たり前です。でも…

確認してみましょう、新人の配属職場での第一声の自己紹介で発信したのは「1日も早く仕事を覚え、貢献できるように何事にも全力で取り組み、精一杯頑張ります」「社会人としては、まだまだ未熟でいろいろと至らぬ点もあると思いますが、先輩社員の皆様と共に、精一杯仕事に取り組み、会社に貢献できるように、努力していきます」…との、意気込みがほとばしる言葉であったことでしょう。

昭和時代の入社時の心意気と共通していませんか。その後の先輩社員も同様ではありませんか。ならば、今年の新人はとの思いこみ、あるいは世に流される情報をそのままを前提条件として決めこむ事は如何でしょうか。

例えば、昨今の新人は3年で3割退社、10年で5割退職するとの情報を、自署での新人が退職事態になると、「だから仕方ないよね。最近の新人は…」とのご都合理由にすることはないでしょうか。冷静に確認してみれば、7割はやめないと言うことであり、ましてや、自署への迎え入れには、退職可能性0としているはずです。

迎える時から3割対象の新人としているはずはありません。勿論、相手を理解するうえでの一因として、その世代の特性を理解する事も必要です。要は単に世代ギャップがあるからと、コミュニケーションの希薄さによる互いの思いこみによるコミュニケーションギャップを拡大させないことです。

先般の深掘りポンプメーカーO社でのトップ・幹部の話力スキルアップ研修やT幼稚園職員研修での話し方教室でもこれらの要件を踏まえて学び合いました。そこで、今回は、職位場での活躍場面に目を向けこのギャップの要因を確認し、打つ手に着目してみます。

◆コミュニケーションギャップとは…

言葉の理解では、価値観、年齢、世代差など、食い違う意識のことを言います。それは、お互いの価値観や理解のしかたが異なり、情報の捉え方の食い違いが発生することにもなります。その要因は、過ごしてきた環境、学んできた、体験してきた事が違うのですから、ギャップがあって当たり前なのです。 

しかし、「だからしかたがない」では、不服、不満、不安、不信を高め、業務上でのミスの発生を生み、生産性を低下させ、協力関係の構築も困難になります。それでは、その要因はどんな点があるのでしょうか。

◆コミュニケーションギャップを生む要因

要因は様々あるでしょうが、新人に限らず諸研修現場からの捉えでは、要因は次の5点があります。

①二つの無精、それは双方にある
1)消極的無精=「わかっているでしょう」「わかっているらしい」「わかっているようだ」との無精です。
2)高圧的無精=これは、「わかっているはずだ」「わかっているべきだ」「わかっているもんだ」だとの決めつけによる無精です。当然、今更話さなくてもとの意図から、丁寧さや、確認なしです。しかし現実は、活躍ぶりが不本意の状況が生まれる、不満が爆発する、相手は相手なりに、こうでしょう、こうらしい、との理解で自分なりに精一杯やっている。もし、だめなら「言ってくるはずだ、」「言ってくるべきだ」「言ってくるもんだ」と判断しています。以心伝心はもはや通用しないのでは…。

②立場の違い
1)上司からの一方的押しつけによる伝達
2)親近感の少なさが、気軽に交わすコミュケーションの機会が少ない
3)考え方の違いがあることを踏まえての、わかり合う相互の交換がない

③日頃の対人関係の親密度の希薄
1)上位者の笑顔無し、威張り現象はとっつきにくさを生んでいる
2)言行不一致による不信感
3)若手の対人関係 対人関係が苦手、だからメールその他の方法で済ます

④話力の欠如
1)話す事の苦手意識
2)対面での話す経験不足
3)話し方実践スキルの能力不足

ならば、どのような改善策があるのでしょうか。

◆対面型コミュニケーションによる改善の方法
 
昨今のコミュ二ケーションの実践法は、デジタル機器を巧みな利用、電話の活用、そして、対面型コミュ二ケーション…があります。この対面型コミュニケーションはコロナ禍で改めて重要視され、かつ、最近での若者の苦手とする能力です。特に今年の新人は学生時代でも学友、バイト先でもその体験の少ない現実です。この事は、新人研修の打ち合わせ時にも交わされる課題の一つです。具体的な実践策は、

①あなたと私の関係でのやりとり実践

「彼ら」「我ら」の関係でなく、「あなたと私の1対1の関係」での施しです。なぜなら、人は10人十色であり、皆、ものの見方・考え方は違うのです。

その要素は、三角形で図示すれば 教養・経験→△←環境・職種・立場、そして底辺は、生まれた時の条件です。

*底辺の生を受けた条件とは、宿命的要件、例えば、家系、両親、兄弟の続柄があり、血液型、占いで見いだされる誕生日、星座、手相…があります。

*右辺の一つは環境による影響、例えば、育ちの地方、家庭、学びの学園、クラス、所属クラブ、そして、企業・職場環境です。二つ目は職業・職種・立場による特長です。

*左辺は、教養と経験です。教養とは、本を読む、話を聴く、音楽に親しむ、観劇、それに、茶道、華道…・の修養などがあります。もう一点は、体験、実践してきたキャリアです。

この、この3辺の具体的事実は皆違い、各自のものの見方・考え方が構成され、言動が顕在化されます。この顕在化された言動をみて、他者は「あの人はこういう人だ」と判断します。それは言動そのものだけで無く、人間性をも推測します。人は、十人十色とはこの状況を表します。 

さらに、この3辺の具体的条件は変わります。例えば、体験前まではできないと決めつけていたことを実際にやってみたら楽しいと感じ、「できない考え方」から、「できる、しかも楽しい」との考え方に変わります。同様に一冊の本を読み変わる、映画一本観て変わる、新たな話を聴いて変わる…この事実です。
 
これは一人10色と表されるようにその人も変わっていくのです。従って、「あの人はこういう人だと、以前の相手を決め続ける」事は、成長を認める事のできない人です。

人は変わります。従って、対面型コミュニケーションは、今の素の本人と対面して交わすことです。決して、抽象化して、そこに落とし込むことではありません。案外「やはり、最近の若い人は…」と言う人は、「彼らの」抽象解説になんとか都合良く結びつける事に他なりません。

②訊く→聴く→練り直す→話す→訊かれ、答えるこの繰り返し
 
ギャップの改善には、一方的に関わるのでなく、寄り添う関係が良いからです。話す場面でも、どう聞いて頂くかをまず考え、相手に対応した話し方の工夫が第一です。それは相手の理解レベル・体験・年齢、自分との親疎の程度…の特性に着目し学ぶ事です。もし軽んじれば、らしい、はずだの無精が災いし、「わかりません」「私なりにわかった」「難しい」「興味がないことだから」…などとのコミュニケーションギャップが現実化されます。
 
実は、「わかった」「わからない」の決定は相手にあるからです。従って、こちらが、「あれだけ話したのに」とは自身への慰めに過ぎません。

1)「訊く」とは、相手の三角形を学ぶ楽しみです
例えば「たけとテニスし」の問いかけでも良い。「タ」は旅、たのしみ、「ケ」は健康、研修、「ト」は友達、「テ」は天候、季節、「二」はニュース、最近のでき事、「ス」は好きなこと・住まい・ふるさと・最近の嬉しさ、「シ」は仕事に関しての言葉かけです。和み状況を診て、職場生活での不便、不信、不要、不安…などの問いかけにすすめます。

例えば、「現在気になることはありますか。不便なこととは…」と問いかけ、答えから学ぶ楽しみです。ここから、その解決に向けてのやりとりが進みます。もし、問いかけても相手が、応えてこないときには、「今話したく有りません」「興味がありません」と教えてくれているのです。

2)「聴く」とは(楽しく学ぶ)
「聴く」は漢字を分解すると、十四の心と耳となる。すなわち心を汲み取ることを意味しているように「傾聴は愛なり」との言葉は相手を受け入れて、心と耳、すなわち全身全霊を傾けて聴くことです。それは、相手の心境、相手の考え、要求、を汲み取ってそれに寄り添って応えていくヒントです。それは、寄り添いを施すには、相手が本心を開示し、その気がかり、欲求に応えたコミュニケーションをとることであり、特に留意事項は、
●なぜそのように言っているのは、欲求、要望の心を汲み取りながら聴く。
●その時、場で話の理解だけでなく、以前の話とつなげて聴くことで、さらに理解  が深まります。そのことに気づけば、本心・本意などがつかめます。それに、人は「よく聴いてくれた人の話はよく聴く」のです。

3)練り直すとは
聴いたことから、既に持ちうる考え方に新たな情報を得たことにより、考え方の練り直しが必要です。それは考え方を変えることもあるし、無きもあります。

4)話すとは
話は生き物です。なぜなら練り直しによる考え方を伝えるからです。それは、日々の活躍の中で、自分の持ち味としての才能、知識、技術、人間味を積極的に生かして関わる人にお役に立ての施しをするうえで、その伝える力として話すのです。従って、相手が内容を理解し、納得され、試され、やってみたら「うまくいった」「できた」との喜びを得られるのです。

「あのとき教えて頂いてありがとうございます」「あのときの話が心に残って、自分もやってみました。うまくいきました」…の言葉が寄せられ、「そうですか。それは良かった」との返礼が交わされます。ここに信頼関係も深まりますし、コミュ二ケーションギャップは埋まります。

5)訊かれる→答えるとは
これは、最適なコミュニケーション条件です。訊かれるとは、好かれ、信頼されている証であり、専門力、実績の魅力であり、人間力の豊かさがあるからです。訊かれたことに的を得た回答は、相互に必要なことを正しく共有化できた現実であり、理解のギャップは生まれません。寄ってこられる対面型のコミュ二ケーションの極地はここにあります。

◆新人への引き出すコミュニケーションのすすめ
 
人と人とが直接な意思疎通を生かし得る指導は、それは、直に向き合って成すコミュのケーションだからこそ、機器活用による文字、言葉だけの理解でだけではなく、察する、気づき合う、汲み取り合うこの深みある相互理解が成されます。だからこそ対面型コミュニケーションスキルの磨きが不可欠です。そこで、今年は特に心して欲しいことは本人から声がけするコミュニケーション力を磨く事です。
 
そのための指導は、引き出すコミュニケーションの実践です。その実践は「何か…あるのでしょう」と関心と近づき、目線、問いかけの指導者の察しの配慮により、「あのー?」のこの言葉を新人から 掛けさせる働きかけです。なぜなら、このひと言の発信が「訊きたいが」「話したいが」「意見を言いたいが」の臆病心理を吹っ切ります。そこから、指導者からの「何か」と問いかけがあり、新人からの「実は…・」と話しは進展していくはずだかです。

実は、小生は、新人指導ではこの「あのー」と声がけすることを指導しており、質問の仕方の上手さなどは現実はいらないとしています。それは、指導者の「引き出すコミュニケーション」がなされる前提です。ここに寄り添っての指導が現実化し、コミュニケーションギャップを新人の方から埋め合わせていく手段ともなるのです。

その機会づくりは、適宜にとの気配りもあるし、1対1の週一、あるいは月一、15~30分と定期的に場を設けることが良い。「雑談タイム」「何でも語り合いタイム」…と称したミーテイングとするよい。大事なことは、気に掛けてくれているこの安心感が何よりの居心地の良さになるからです。
 
退職理由に出される「対人関係…」「仕事が合わない…」その真意は案外、孤独感の解決のできない現実への逃げにあるかもしれません。

5月病と取りざたされる時期ですが、「この会社だからひとまず安心。だって、気に掛けてくれている、褒められた、認められた事が嬉しいから」の実感があるなら、このままこの会社で良いのかなどのふらつき感情は起こらない。たとえ、3年でおよそ3割は辞めるとの説が論じられようとも、自社、自職場、ましてや指導する新人は10割定着の新人であると信じ、共に成長する寄り添いの対面型コミュニケーションによる育成実践が成されているのです。

 

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/