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現場力を高める凡事徹底(澤田良雄)

髭講師の研修日誌 (第128回)

現場力を高める凡事徹底
澤田良雄((株)HOPE代表取締役)

◆現場力、それは熟練社員が育むABC

 先日、大手製鉄会社のエバースマイル研修に出講しました。製造現場で38年間活躍し、役職定年で今後さらなる貢献を成す55歳社員の研修です。

エバースマイルとは、いつまでも笑顔で活躍する心豊かな人生づくりです。それは、世界一の製鉄メーカー社員として職業人生を送る誉生(よせい=名誉ある一生との意味)創りへのお役立てです。

まずは、現在の活躍ぶりを事前レポートで確認し、今後の活躍を「おかげさま作り」と称して、重ねる貢献を楽しむ術の確認です。ちなみに、さすがの熟練パワーでの活躍ぶりの一端を紹介すると、

  • 専門力・安全第一への貢献では、

〇過去の経験や知識を現在の仕事に反映させ、業務効率、システム改善、コスト削減に貢献

〇現場設備のいつもの違い、問題点ないかの取り組みで、業務・設備改善を継続

〇いつまでも現場主義で絶対にトラブル発生を起こさない

〇経験値や異常時などの段取りから、けがしない、させないの安全ポイントの伝授

〇ルール・法規を逸脱することなく工事開始から終了検定迄、安全・品質・工期を厳守

〇声がけによる状況把握で変化点の察知、作業中断、危険作業しない、させない徹底

〇若者の意見に傾聴

  • 後任上司への支援 では

〇上司の要求は何かを考え、報連相は早く、愚策でも発展的な意見の進言

〇職場雰囲気の醸成

〇橋渡し役=若手が上司に言いにくいこと、上司から若手への依頼事項のアドバイス

  • 技能伝承・支援 では、

〇安全に厳しく対応・身をもって体現する

〇必要なメンテナンス等は現場・現物で実演、分解、組み立てを一人で出来得るレベルに育成

〇経験年数、理解レベルに応じた個々の指導

…であり、さすがの功績と現在での存在感を持ち得ています。

 ここで確認し合ったキーワードが「現場主義」です。それは、絶対安全トラブルを発生させない「ABC」の徹底です。

ABCとはA=当たり前のことを、B=馬鹿にしないで、C=ちゃんとやるとの意味です。周知の通り、それは決め事、標準作業、基本の徹底遵守です。それは、99.9の実施であっても0.1の一瞬が事故発生になるからです。特に業種の特性ゆえ、大けが、死亡…の現実を作ることにもなります。

従って、「私の誇りは、若手部下に絶対にけがさせないことです。それは、親から頂いた肉体に多少でも、傷を負わせたらご両親に申し訳ない、この一心です」と話してくれた受講者もいました。

 実はこのABC論は、筆者の他の研修現場では、業種、職種、立ち位置にかかわらず訴求の一つです。なぜなら、選び抜かれる持続的勝ち組企業の不可欠条件だからです。それは、安全に特化することなく、品質、納期、接客、サービスでのトラブル発生防止の共通条件だからです。

◆森保監督から学ぶ凡事徹底

 さて、今話題の2026 FIFA WORLD CUP。森保一監督のW杯の目標はズバリ「優勝」。その実現に向けて掲げる言葉は「凡事徹底」です。それはささいなことでも、誰にも負けないほど徹底すればいつか大きな成果に繋がるとの考え方として紹介しています。

メンバー構成には、国内外で名のある選手も多数いますが、派手さよりも地道に今できることをしっかりと準備をし、全力を出し切ることと説いています。その全力の出し切りはチームワンであり、チームが勝つための活躍ぶりを凡事徹底として意味づけているようです。

その実践例として、国歌を歌うことがあります。「みんなしっかりと歌って、みんな国の代表として戦う」と話します。ご本人は歌いつつ涙を流すことは知られた現実です。

 確認してみます。凡事徹底の基本的な意味合いは、凡事=特別ではない、誰にでも出来る当たり前のこと、徹底=抜かりなく妥協せずにやりきることです。

サッカーに限らず、各種の団体競技のスポーツでも同様です。さらにあらゆる企業・組織活動にも通ずることです。

読者諸氏は、昨今この凡事徹底の文字を目にしませんか。筆者は先日、弊社近隣のマンション建設現場で「凡事徹底」と大きく書かれた横幕を目にしました、付記として、当たり前のことを当たり前にする。準備こそ決め手と記されていました。しばし、現場に目をやり、社員の活躍ぶりを観察しました。それは、知人の建物ゆえ安心感を抱いてその場を後にしました。

 まさに、スポーツ競技でも、ビジネス結果を成すのは現場、それは一期一会であり、再びこない現実です。「あのときにきちんとしておけば良かった」との悔いは禁物です。

筆者の訴求は「今できることの最高実践」この最高実践は、常に進化します。そこには個人の「こうなる」との想い、目標の実現に向けて不断の成長欲による鍛える体得です。そして、個々の凄さが集団の総力パワーアップに集約されるのです。それは現場力の最高の強みです。

◆職場でのセブンアクトの実践

 さて、身近な組織での凡事徹底の活動例に倫理法人会の会員企業でのセブンアクトがあります。それは、次の7つの実践です。

①あいさつが示す人柄躊躇せず、先手で明るくはっきりと。(積極的人の関わり)

②返事は好意のバロメーター、打てば響く「ハイ」の一言。(素直な心での協力)

③気づいたことは即行即止、間髪入れずに実行を(実践・実践)

④先手は勝つ手5分前、心を整え完全燃焼。(先手の準備)

⑤背筋を伸ばしてあごを引く、姿勢は気力の第一歩。(気構え)

⑥友情はルールを守る心から、連帯感を育てよう。(約束厳守)

③物の整理は心の整理、感謝を込めて後始末。(次の準備を整える)

  いかがでしょうか。企業の行動指針に掲げている例もありますし、朝礼で唱和する企業もあります。ともに活躍の心・行動の基本を共有化した企業風土は大切なことです。

知行合一。わかっている、しかし、実践なくして実はありません。

◆凡事の一つ掃除の実践

 実は、「凡事徹底」の言葉を広めたのは「イエローハット」の創業者の鍵山秀三郎氏だと言われています。周知の通り掃除の神様と称される人であり、掃除を説き、実践し、企業発展を実現してきた人です。

著書に『凡事徹底平凡を非凡に努める』(致知出版社刊)があります。その一説に、トップ自ら社内のトイレ掃除、社屋周辺の掃除を徹底してきたが、トイレを清潔に保つことで心の安らぎが生まれ、凡事を徹底することは、単に環境を整えるだけでなくひとの心と組織の文化を変える力があると説いています。

 この掃除の実践者は、筆者の倫理法人会の学び仲間にも多く、鍵山氏の説きの実証の紹介もあります。ご存じの通り掃除に関する話題は、ディズニーランドの名前をつけてのトイレ掃除の話題もありますし、製紙メーカー社員が設備機械に名をつけて朝の掃除する、運送会社の社員が利用するトラックに「今日もお願いします」「今日一日ありがとう」。

一言掛けて愛おしく洗車する事例も知りうる現実です。

 実は、筆者は倫理法人会活動として、毎月休日早朝の駅前クリーン活動を20余年ほど継続してきました。吸い殻、飲料ボトル、紙くずなどなどを拾い上げ、処理後参加者と撮る写真はなぜか笑顔です。ちなみに、参加者は親子家族もあります。

また、企業の実践話題の一例を紹介しますと、「掃除はきれいな自分で、仕事に取り組む自分磨きなりと説く、それは、ビル清掃事業を主とする都下のO社です。

O社長の紹介する「いつもピカピカ」の実践は凄い。その実践は、毎日男性社員は1時間前に出社、社外の清掃、女子社員は30分前に出社、社内の清掃を行う。「えっ、苦情はないの」思わず声が出る。この意義を「掃除は、自分をきれいにして仕事に向かう,自分磨きにも通じる。この価値の認識が大事」と説く。従って、皆感謝の心で掃除を楽しんでいるそうです。

O社長が付け加えて「採用面接の最後の質問はこの実践を紹介し,よろしいでしょうかとお聞きする。了承した人を採用しています」とユーモアを交えて話す。人手が欲しいから採用募集することがあっても、社の考え方の実現を徹底していく姿勢に揺るぎはありません。

◆凡事徹底の不始末をみせる「コンプライアンス…」は

ふと、過ぎる現実は、積み上げてきた“信用、安心”のキーワードが吹き飛ぶ不祥事です。現在もなぜか企業、官公庁、組織の不祥事が殊の外多い。そのたびに、報道陣の前で頭を下げる経営者幹部の姿があり、お詫びの末には「今後は組織内のコンプライアンスの徹底を図り…」と結ばれるのが通例です。

この現実は、積み重ねてきた信用が吹っ飛び、今後は厳しく、倒産、縮小やむ無しの現実となります。「何で…」その発生点は、いずれにしても、「決め事を厳守する」(法令遵守)に対する自律の徹底不足です。

それは、凡事徹底、ABCに反した犯行です。発生源は個人であり、組織ぐるみ、企業ぐるみと様々ですがこの自利の欲に駆られた不祥事は何と言っても起こしてはなりません。ならば、どうする、その取り組み姿勢6条件を記してみると、

①自分が働く企業は、誇りある企業であり、もっと良くなって欲しい、だから、自らその一役を担う覚悟(忠誠心)で、決して、自己にだけ都合の良い行動はしない。

②そのために「何を、どうする」「何をどうしてはいけない」の決め事を熟知し、決め事は完全に守る。

③自らの仕事で「まずい」「気になる」と感じたときには隠蔽することなくただちに直属上司に報告、相談のアクションを起こし、予防、未然対策、事によっては早急な事後対策を仰ぐ。

④「このくらいは許されるよ」の「このくらいがくせ者」これが段々ゆるみを生じさせる。自己に都合の良い論法で守る厳しさから逃げない。

⑤周囲にアンフェア(正しさがない)さを感じたら、直属の上司にただちに知らせる。社内にコンプライアンスの通報部署(窓口)が制定されているなら場合は、この仕組みを利用する。特に上司や、組織ぐるみの時にはこの仕組みを活用が得策である。

⑥経験値を積んでいくと経験知が高まる。そこにキャリアが生きてくる。良き方法を提案し、変えられる決め事であれば、発展的改正に寄与する。   

 ということになります。

個人を前提としつつも、未然防止には、他の人のその察しを生かした対応も肝心です。起きる芽を摘む。正しい見識に裏付けされた厳しい感性がそこにいきます。それは、当たり前のことを当たり前に100点満点でするABC・凡事徹底の仕合いなのです。

 凡事徹底この実践文化は企業・チームの歴史による強みです。それは、継承されていく素晴らしさであり、より高めていく社員・メンバー力です。その、一役を担うのが熟練パワーです。森保ジャパンにもその現実があります。確認してみます。

 環境を巡る変化は,常に進化する活動を求めます。今後に向けての発展は,豊富な実績と能力を有するベテラン層社員パワーの現場力を強める貢献が不可欠です。それは、本人にとっても,今日まで積み上げてきた実績は誇りであり,今後に向けた組織のさらなる強みづくりに貢献できる楽しみなのです。

そこには、熟練者本人の生涯お役立てできる存在感得る笑顔の人生づくりに繋がるのです。もちろん学び力の継続が肝心です。

今研修での今後の自己研鑽を

〇これまでの経験に加えた新たな技術を習得、さらなる高みを目指す
〇継続的学習を重ね、他者に教えられる力をつける
〇専門・専門外の資格の取得をする

ことをも確認しました。

研修後、笑顔で交わした挨拶は、それは、ABCの具体的事項をより高度化され、世界一の現場力を確保していく活躍のそのスタートの証でした。

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/