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「現代の乾隆帝~資金不足に陥る中国」 (小島正憲)

小島正憲氏のアジア論考

「現代の乾隆帝~資金不足に陥る中国」                                 
小島正憲氏 ((株)小島衣料オーナー )

※いままでの記事は、こちら。 

乾隆帝の率いる清帝国は中国最大の版図を築きあげた。習近平主席が率いる中国は、今、「一帯一路」政策を掲げて、乾隆帝の築いた版図を凌駕しようとしている。

この両者を見ていると、奇妙なことに気が付く。それは、共に自ら財を築いたわけではなく、先代の築いた財産を食いつぶしているという点である。そして共に滅亡のきっかけが外国の蚕食であるという点である。

乾隆帝の率いた清帝国は、乾隆帝没後、次第に弱体化し、やがて諸外国列強に蚕食されて滅んだ。習近平主席の率いる中国は、現在、すでに全土を外資に蚕食され、滅亡への道を歩んでいる。

1.外貨準備は見せ金

中国は外貨準備高が世界一だと豪語している。しかしこれは、借金が世界一だと公言しているようなものである。

そもそも外貨準備とは、他人の金で政府が自由に使える金ではなく、見せ金的な役割を果たすものである。5年以上前に、私は「中国はやがて借金大国となる」と題した小論文を発表し、このことを指摘した。

当時、私の主張は、多くの学者やチャイナ・ウォッチャーから一笑に付された。しかし最近、米国の著名なチャイナ・ウォッチャーである何清漣・程曉農の両氏が、その著書で、私とまったく同じ見解を発表した。私は学者ではないので、確たるエビデンスもなく、自らの思いつくままに主張を展開していただけであり、今回このように、著名な人たちに賛同してもらえると、それは大きな自信となる。まずそれを下記に紹介しておく。

「中国 とっくにクライシス、なのに崩壊しない“紅い帝国のカラクリ”」 
何清漣・程曉農共著 中川友訳 2017年5月25日

平たく言えば、中国の銀行のカウンターに外貨が置かれれば、中央銀行は人民元でそれを購入しなければならないということだ。そして購入した外貨がすなわち中国の外貨準備を構成するというわけである。

言い換えれば、中国の数兆ドルにおよぶ外貨準備の大半は、そもそも外国政府と外国企業の財産であり、中国人のものではないということである。そのなかには外国ビジネスマンによる対中投資の資金や中国が溜め込む対外債務、中国を頻繁に出入りする国際的な短期的流動資金、いわゆる「ホットマネー」、さらにはもちろん貿易黒字も含まれる。

ただし、貿易黒字と言っても、それがすべて中国人のものというわけではない。そのうちの大きな部分は多国籍企業の資産が占めているのである。
 

上記を読めば、外貨準備が他人の金であることが、よくわかる。それでも百歩譲って、外貨準備が政府の自由になる資金だとしても、中国の外貨準備は帳面上だけであり、それはすぐには使えないものであり、役に立たないものである。次に、再び両氏に評価されることを期待して、それを推論してみる。

最近、私の知人の中国の合弁会社が資金繰りに行き詰まった。その合弁会社は、巷では優良会社と評されており、親会社は上場もしていたし、合弁相手も土地やマンションを数多く保有しており、地元では資産家として名が通っていた。

だから私は、その会社が資金繰りに行き詰まったという情報を聞いて、驚いた。知人に、「とにかくいろいろなところから資金を寄せ集めて、当座を乗り切ったら」とアドバイスしたが、その会社は倒産という結果を選んだ。

もちろん、この経過にもウラがあるとは思うが、「その合弁会社には帳面上の資金は潤沢だったが、現金はなかったのだ」という。土地やマンションや株にも資金が流れていたが、大半が高利貸しや理財商品に回っており、焦げ付いたり塩漬けになったりしているものが多く、そうでないものでもすぐには現金回収できなかったというのである。

私はこの話を聞いて、これが多くの中国企業の現状であり、中国政府の外貨準備もまったく同様の状態なのではないかと思った。

本来、資本主義社会の会社経営の鉄則は、会社は公器であり、倒産させてはならないということである。しかし、経営環境は常に激変するので、いかなる場合にも対応できるようにしておかねばならない。つまり無借金経営を心がけ、現金か、すぐに現金化できるものを十分に準備しておくことが必要である。

したがって私は、いつも貸借対照表の流動負債と固定負債の合計が流動資産(主に預金などの現金のみ。貸付け金や在庫は、すぐに回収ないしは現金化できるもののみ計上)の合計を上回らないように、目を配っていた。土地、マンション、株、投資などの固定資産については、私の勘定の中から外していた。それらはすぐに現金化できず、資金繰りに窮したときには投げ売りせねばならず大損するし、場合によっては間に合わないこともあるからである。

なお私は、現役社長であったころ、取引先の信用度をはかるモノサシとして、いつもこの数字、つまり流動優良資産-(流動負債+固定負債)=αをにらんでいた。このαが大きければ、その会社は安定しており、絶対につぶれない。逆にマイナスならば、その会社は資金的に窮屈だということであり、取引には注意を要するということである。

中国政府の持っている外貨準備をこの視点で分析しみると、それはすぐに現金化できないものに、化けてしまっている可能性が大きいということに気付く。たとえば米国債を大量に保有しているが、現金化するために短期間で大量に売りに出そうとしても、それは不可能であろう。

かつて日本の橋本首相が、米国債の大量放出を口にしただけで、米国から恫喝され、すぐに撤回したことがある。もっとも米国債だからといって、大量に売り出した場合、すぐには買い手がつかないこともあるだろう。中国政府の持っている外貨準備が、どのようなものに化けているか、あるいはそれがすぐに現金化可能か、それを解析してみる必要がある。

外貨準備は他人の金であるから、他人が返済を迫ったら、中国政府はそれに応じなければならない。そのとき、返済に応じる外貨が国庫になかったら、国家はデフォルトに陥る。

その代表的な例は、1998年のIMF危機のときの韓国である。あのとき韓国では大量の資金が国外に一斉に逃避し、国庫が空っぽになり、国家が倒産寸前になった。ときの大統領の金大中は、この事実を知らされておらず、周章狼狽し、大慌てでIMFなどに外貨の融通を懇請する始末となった。

今後、中国からも、資金が一斉に逃避するときが、絶対に来ないとは言い切れない。すでにその兆候は現れており、2016年度末には、外貨準備が最高時より約1兆ドル減った。2017年初頭から、政府は大慌てで、なりふり構わず、外貨防衛に走っている。

もし中国政府が外貨防衛策を強行実施しなければ、2017年度中にも外貨準備はさらに減り、2兆ドル(最高時から半減)を割っていただろう。しかも残りの外貨準備は帳面上ではあることになっていても、塩漬け債権などで、現金化できないものが多く、実際には現金がなく、国家破産(デフォルト)に至っていた可能性が大きい。

このような視点で外貨準備高を見てみた場合、それを国力比較のモノサシにすることの愚かさがよくわかるだろう。                                                                 
2,中国は資金不足

中国は、今、資金不足に陥っている。しかもその資金不足状態について、トップの習近平主席は知らない可能性が大きい。つまりそれが自分で稼いだ金ではないが故に、そこに節約志向が働かず、資金を湯水のように使い、大盤振る舞いしがちで、資金の枯渇という事態にまで考えが及ばないからである。

また部下たちも、そのような事態を、トップに隠すからである。乾隆帝もそうであった。それでも習近平主席は、最近になって、強引な外貨防衛に転じている。やっと、資金不足に気が付き始めたようである。

国家の指導者だけでなく、一般の経営者も同様である。中国の経営者たちは、他国に比して、借金をすることが容易であった。なぜなら改革開放当初は、共産党の組織から党員が企業に、経営者として送り込まれてくることが多かった。したがって共産党のお墨付きがある経営者は、同じく共産党員が経営している銀行からの借金がフリーパス状態だった。

借金の苦労を知らない経営者には、当然のことながら、節約志向もなく、ムダ使いが多くなる傾向が強い。日本の経営者たちは、戦後、無一文から立ち上がった。そのとき銀行は彼らに、なかなか金を貸さなかった。仕方がないので,経営者たちはすべての個人資産を担保に入れて、銀行から金を借りた。

もし会社が倒産したら、すべてが銀行に持っていかれ、裸一貫となるので、経営者たちは必死になって働いたし、節約をして借金を返すことに専念した。日本では今でも、借金の際に、個人担保を差し出すというシステムの名残りが幅を利かせており、それが経営者に、極力倒産という事態を回避しようとさせ、ビジネス・モラルを守らせる思想的背景になっている。

この原稿を書いている最中にも、中国不動産業界大手の大連万達集団に関する不可解なニュースが飛び込んできた。万達が銀行からの借入金返済のため、ホテルやテーマパークの大半を約1兆円で売却するというのである。しかも奇怪なことに、その半分に当たる5千億円は、売り先に自ら融資し、それも銀行借り入れでまかなうという。

借り入れ返済を借り入れでまかなうという現実、これこそが借金の苦労を知らない中国の企業経営者たちの実情なのである。外資の導入という形の借金が容易な中国政府も、同様である。工場型外資の撤退を市場型外資の導入で補っているのである。

中国が大国となってから、そのトップに座った習近平主席は、鄧小平のように外国に平身低頭し資金を融通してもらう必要がなかったので、資金を湯水のように使った。そして今、資金不足に直面している。本来ならばこの資金不足を乗り切るために習近平主席は、鄧小平の戦略にみならうか、人民に臥薪嘗胆を訴え、外資導入政策を取らず、毛沢東の自力更生政策を取るべきなのだが。

中国は、今、資金不足に陥っている。この指摘を一笑に付す識者もいる。私は学者ではないので、これを確たる証拠で、論証することはできない。

しかし、最近の中国政府の経済政策は支離滅裂であり、相互に完全に矛盾するものが多い。それらを見るにつけ、それは「資金不足に起因しているからだ」としか、私には考えられない。次に私は、中国の資金不足を、以下のような視点で検討してみる。
①なぜ中国は、いまだに外資の導入を躍起になって進めるのか、
②なぜ中国は、外資導入や人民元国際化、海外進出などの政策に逆行する外貨防衛を強行するのか、
③なぜAIIBは自前資金で運営せず、社債を発行するのか。

①なぜ中国は、いまだに外資導入に躍起となるのか?

中国共産党の習近平主席は、つい最近、経済政策指導チームの会議で、投資と市場環境の改善を進め、対外開放を加速させるよう指示した。具体的には子供や高齢者向けサービス、建築設計、会計監査、物流、電子商取引(EC)などの分野で外資の参入規制や出資制限の緩和を加速させる、また自由貿易試験区(自貿区)を早急に全国で導入すべきとの考えを示した。

中国が真に世界第2の経済大国ならば、これほどまでに対外開放に躍起になる必要はない。また中国が大金持ちなのならば、何もしないでも外資は頭を下げて入り込んでくる。だから関税や進出税を設けて、そこから大金を巻き上げればよいのである。

ところが中国政府は、ことさらに外資に有利な条件を提案し、ぜひ来て欲しいと懇請しているのである。このことは、中国政府が現在、「資金不足であり、中国社会を安定させるためには、外資の資金や技術を導入する以外に方法がない」という紛れもない証拠である。

2008年以降、中国を工場として利用し搾取していた外資企業は、そのうまみがなくなったので、総撤退した。驚いた中国政府は、中国を市場として利用し収奪しようとする外資に、大きく門戸を開放したのである。つまり、中国政府は外資の総入れ替えをして、再び、外資を利用して中国経済を浮揚させようとしたのである。

しかしこれは清帝国末期と同様、外資に中国を思うがままに蚕食させることであり、それは国家衰亡への道につながる。本来ならば、外資導入は禁じ手なのであるが、それ以外に中国の生きる道はないというのが、現実である。

現実に、外資系企業は中国の国内総生産(GDP)の約1/3,雇用の27%を占めているという研究結果も発表されている。さらに産業の近代化、地元の取引先企業や販売業者の育成、先進技術の導入、会計や製造に関する高度なビジネス慣行の推進などは、数値化できる効果を上回る。

また上海市の工業生産の2/3、ハイテク産業の9割は外資系企業によるものであり、中国が当面している産業構造の改革には、外資が不可欠であり、外資を抜きにして中国経済は成り立たないことは明らかである。

②なぜ中国は、外資導入や人民元国際化、海外進出政策などに逆行する外貨防衛を強行するのか?

中国政府は、2016年末以降、企業や銀行に、対外貸し付けの制限、国境をまたぐ人民元取引の制限、対外直接投資500万ドル以上の事前認可制、外貨建て債務の繰り上げ返済の禁止などの厳しい資本規制を課している。個人にも、外貨交換は年間5万ドル以下の厳重実施、現金100ドル以上の海外持ち出し禁止、海外での銀連カードの使用制限、海外の銀行口座などの自主申告要請など、細かい規制を課している。

改革開放当初、多くの企業が、利益の海外送金が難しいという理由で、中国への進出を敬遠していた。しかしこれは次第に緩和されていったので、多くの企業が中国へ雪崩を打って進出することになった。

今回の資本規制は、その送金難を復活するものであり、すでに企業の間ではそれを理由に投資を手控える動きが出てきており、人件費や土地の高騰ともあいまって、対中投資がかなり減ってきている。

わが社でも、今までは、合弁相手に外債登記して貸していた資金を回収するのに、まったく問題がなかった。しかし今年に入って、合弁相手が借金を返済するのに、外貨調達が銀行ではできず、自前で行わなければならなくなったため、返済原資の人民元があっても、外貨での返済が困難になってきた。

他社でも、中国企業に販売したものの代金を、その企業が人民元を持っていても、急に外貨を都合できなくなったという理由で、支払い遅延という事態が起こるようになったという。さらに中国の地場銀行などでは、書類上の不備を指摘して、送金の注文を受け付けない事例も出ているようだ。外国人のマンション売却代金や、外資企業が撤退する際の剰余資金なども、送金が難しい例も出てきている。

今、中国に進出する企業は、中国政府の資本規制を知らないか、甘く見ているかのどちらかである。中国の資本規制は、今後も厳重に実施されると見込まれるので、進出企業は、せっかく苦労して中国で儲けた利益を持ち返ることはできない。あるいは販売しても代金を外貨で本国に回収することができない。

これらのことが世界中に知れ渡れば、今後の中国進出企業は激減するに違いない。中国は外資を導入しなければ存命することができない。しかし資本規制しなければ、デフォルトに陥る。中国政府は難しい選択に迫られた結果、外貨防衛策を取ったのである。

今年から中国人民元が、国際通貨基金(IMF)が通貨危機などに備えて加盟国に配るSDR(特別引き出し権)の5番目の構成国に加わる。長年中国は、人民元を国際通貨にすることを悲願としてきたので、一応、それを達成したかのように見える。しかし、実際に国際通貨としての機能を果たすためには、為替や資本の自由化を推し進めなければならない。つまり上述の資本規制をすべて撤廃しなければならない。

もし今、中国政府が資本規制を撤廃すれば、たちどころに資本は流出、外貨は枯渇、デフォルトに陥る。中国政府は難しい選択に迫られた結果、外貨防衛策を取ったのである。したがって当然の結果として、人民元の海外での利用は急減し、人民元の貿易決済に占める元の利用率はピーク時より半減、人民元を国際通貨にするという中国の悲願は消え去った。

かつて中国には、「走出去」という名の海外進出戦略があり、それは国策とも考えられていた。当時の中国の巨額の外貨準備高が、国際世論から人民元切り上げ圧力にさらされており、海外の優良資産を購入し、また海外の優良企業をM&Aすることによって外貨を使い、その矛先をかわす必要があったのである。

もちろん、購入先の資源や、買収先の先端技術や経営ノウハウを学ぶことも,その目的であったにちがいない。しかし同時に、この方法が、中国の政府関係者や企業経営者たちにとって、合法的に資金を海外に持ち出すもっとも有効かつ簡便な方法であった。結果として、この国策を利用して、中国から多くの資金が逃避した。

今、中国政府は人民元安の流れを警戒し、外貨の海外流出を食い止めようとして必死になっている。そして、かつて国策として推し進めた「走出去」政策をかなぐり捨て、それに乗って急成長してきた大手企業への締め付けを強めている。上述の大連万達集団もそのやり玉に挙げられたのである。もっとも中国企業が海外で買収した産業や企業の9割方が赤字経営であるとの報告もあり、「走出去」政策の見直しも当然とも考えられる。

しかしこのまま、厳しい資本規制が続くと、海外進出した中国企業は資金の枯渇に陥り、大量倒産、大量撤退という結果になりかねない。なぜならそれらの中国企業には、現地で根付き、黒字化しているものが少なく、大陸の本社からの資金援助がなければ成り立たないものが多いからである。

中国は、資本規制を撤廃し海外進出した企業を守るか、資本規制を続け海外進出企業を見捨て、大国としての面子を捨てでも海外インフラ事業などを遅らせるか、厳しい選択を迫られた。その結果、中国政府は外貨防衛策を取ったのである。

③なぜAIIBは自前資金で運営せず、債券を発行するのか?

アジアインフラ投資銀行(AIIB)は、中国の主導で、2015年末に設立された。その後、習近平主席の「一帯一路」のかけ声の下、80か国以上がその恩恵に預かろうとして、そこに群がってきた。

しかしやがて1年半が過ぎようとしているが、具体的なインフラ工事はいっこうに進んでいない。なぜなら、AIIBには資金がないからである。

やっと先日、欧米の格付け機関がトリプルAを出したので、これから債券を発行し、資金を集めるのだという。私は、「中国が国家の面子を賭けて造ったAIIBだから、資金は中国が自腹を切って全額出せばよい。また融資条件などと難しいことを言っていないで、無償援助を行えばよい。

中国には外貨が余っているのだから、なぜ、わざわざ債権発行などに頼らなければならないのか。習近平主席が多額の資金を注ぎ込むと表明しているが、今までに資金を注ぎ込んだ事業は数少ないではないか」と、素朴な疑問を持ち、「やはり中国には資金がないからだ」という結論に行き着いてしまうのである。

私は、「もし、米国がトランプ政権に変わっていなければ、おそらく格付けはかなり厳しい結果となっており、債権の利子が高いものとなり、結果としてAIIBは、群がった諸外国にとって、期待外れのものとなっただろう」と思う。

もともと中国の海外インフラ投資は、花火は華々しく上がるが、実態はお粗末なことが多い。中国が誇る「高速鉄道」も、実際には中止や延期が相次いでいる。代表的な例はインドネシアである。中国は、ジャカルタ~バンドン間の高速鉄道を、日本との競合に勝ち、その建設を請け負ったものの、その後、工事は開店休業状態に陥っている。セルビア・ラオス・ミャンマー・リビア・アメリカ・メキシコ・ベネズエラなどの案件も、宙ぶらりんになっているという。

その他のインフラ工事も中途半端な状態のものが多い。たとえば、バングラデシュ最大のインフラ工事であるパドマ橋建設工事は、中国企業が受注して始まった。もともと完成は来年末とされていたものの、現在に至るも橋桁の姿は全くなく、順調に行っても、5年後にしか完成しないだろう。これは先週、私が現地で確認してきたことであり、間違いない事実である。工事遅延の原因は中国・バングラデシュ双方の資金不足によるものと思われる。

このように、今後、中国政府や中国企業の手がけている海外インフラ事業が、中国政府の資金不足により、ますます手詰まりになる可能性がある。ジャーナリストがすべての現地に足を運び、その進捗状況を詳細に調査し、それを発表すれば、それはすぐに明白となるだろう。
 
たとえば、中国からの投資獲得という点で、マレーシアは東南アジアで最も成功している国の一つであるが、それが
成功しない可能性があると指摘する声もある。採算性や資金確保の疑問を含め、マレーシア経済が思惑通り成長しなかった場合のリスクがあり、すでに港湾投資では実需要を超える過剰設備を生んでいる。中国が投資収益よりも地政学的利益を優先している可能性があるからである。

2017年1~5月にマレーシアの財政赤字が前年同期の260億リンギから305億リンギに拡大した状況の中、マレーシア政府が中国国有銀行の融資でインフラ開発資金を工面し、事業は中国の建設会社が手掛けるという産業輸出構造で、マレーシアの負債がいっそう膨らみ、事業が失敗する懸念がある。 

なお、中国人民銀行の周小川総裁は、「一帯一路」を推し進めるに当たって、AIIB参加各国に、人民元での決済を提唱した。この提唱は、外貨不足を人民元で補おうとしたものと思われる。しかし参加各国はドル決済を望んでおり、この提唱に失望感をあらわにしたという。

それでも参加各国はしたたかで、AIIBにぶら下がり、中国の進出を歓迎する。中国のインフラ工事が中断しても、当該国の政府は国民に夢をばらまくことができ、政権安定にプラスとなるし、また事業家や地主たちに土地投機などで大儲けするチャンスを与えることができるからである。 

3.なぜ、なかなか、中国のバブル経済は崩壊しないのか?

乾隆帝没後、約250年を経て、清帝国は外国列強に蚕食されて滅んだ。しかし習近平主席の率いる中国は、すでに外資に全土を蚕食されている。したがって滅亡の日は近いとも言える。

それでも最近、逆に、多くの学者やチャイナ・ウォッチャーたちが、いろいろな理由をつけ、従前の「中国のバブル崩壊予測日=滅亡の日」を延期し始めている。私も、「バブル崩壊間近」と言い続けてきた一人だが、私は学者でもなく、チャイナ・ウォッチャーでもないので、「あなたの予告に反して、なぜ、バブルは崩壊しないのか?」という問いに、真剣に答える責任はない。

ただし、私は、「中国に多くの工場を持っていた実業家なので、中国経済の未来を的確に予測し、工場とわが社の身の振り方を決定しなければならない」という責任はあった。
 
約10年前、私は、「中国はこれから人件費が高騰し、労働者の権利意識が高揚するので、とても労働集約型工場は操業を続けることはできない。また中国経済はバブルであり、それが弾けると社会が騒乱に巻き込まれる。だから、すみやかに、中国を脱出するべきだ」と、判断した。そしてバングラデシュとミャンマーに工場を造り、今では大半を中国外の工場で生産している。

また土地の使用権を数か所持っていたが、早めに処分し、利益を「走出去」政策を利用し、日本以外の国に送金した。さらに合弁会社を清算し、運良く手に入った剰余金も、いち早く本社に外貨送金した。もし打つ手が半年遅れていたら、中国政府の外貨防衛政策に引っかかって、外貨送金不可となっていただろう。残念ながら、前述したように、外債登記して融資した分についてまでは、手も頭も回らなかった。

それでも、現在、わが社の経営環境は、「中国のバブルが崩壊するかどうか」なんて、まったく関係がない状態となっている。

目下、私は、「中国のバブル」について、高みの見物を決め込んでいるのだが、同時に、「中国のバブルが崩壊したら、どうやって一儲けするか」を考えている。もちろん、「バブル崩壊間近」という自らの考えを訂正するつもりはない。それでも、「なぜ、なかなかバブルは崩壊しないのだろうか?」という疑問も湧いてくる。

私は最近、中国を去って、より深く中国のことが読めるようになってきた」と思っている。まさに岡目八目。以下に、「なぜ、なかなか中国バブルが崩壊しないのか?」を検討してみる。

①中国政府がバブルを引き延ばしている

中国の土地やマンションが異常に高騰し始めてから、すでに20年以上が経過しようとしている。その間、多少のアップダウンはあったが、右肩上がりの上昇が続いた。

それでも2008年のリーマンショックのときは、さすがに崩壊するかと思われたが、胡錦濤政権の4兆元の資金投入によって、逆に再び上昇し続ける結果となった。その後、中国政府は、マンション価格がバブル状態であることを認めつつも、それを潰す政策は取らず、より一層の上昇を避ける程度の政策しか打って来なかった。つまり中国政府は、土地やマンション価格が暴落し、それが社会不安につながることを怖れ、バブル経済の引き延ばしを図っているのである。

「今以上の高騰は避けたい、しかし潰したくはない」、これが中国政府の本音である。もちろん地方政府にとって、土地売却代金は、唯一の財源だから、バブル崩壊は地方政府の崩壊に直結している。したがって、どうしてもバブルは潰せない。

②中国人民もバブルの引き延ばしを歓迎している

巷間、中国人は商業の民だと言われているが、やはり「額に汗して働き、お金を儲ける」ことを美徳としている日本人に比べると、中国人は「肉体労働を避け、商いでお金を儲ける」人に、憧れを抱く傾向が強いように思える。したがって彼らは、熟練技術者よりも、マンション転がしや株の売買などで、大儲けした人を羨望のまなざしで見る。また自らも、その一群に加わりたいと思い、全知全能を絞る。

すでにマンションを持っている人は、その値上がり益に心を躍らせ、それを担保にして、さらに借金をして2軒目、3軒目のマンション購入に走っている。その元手のない人も、親戚中のお金を借り集めたり、ネズミ講まがいのものに参加したり、とにかくお金の算段に頭を使い、マンションの購入に漕ぎ着ける。とにかく手に入れれば、数か月の間に、価格は上昇していき、帳面上の利益は増えていくので、遅れて後から参入した人たちも、嬉しくてしかたがない。

とにかく、額に汗して働いて稼ぐお金よりも、値上がり益の方が数十倍になる中国では、すべての中国人民がバブル狂想曲に酔い、それが終わらないこと願っている。

③中国人経営者もバブルの引き延ばしを願っている

中国人経営者は、総じて、実業よりも投機で儲ける虚業に、憂き身をやつしている。ほとんどの経営者が、土地、マンション、株、理財商品、ネット金融、ネズミ講などなどに、手を出している。実業で稼ぐ何倍ものお金が稼げるのだから、それは経営者にとって無理からぬことではあろう。実業で稼ぐことをあきらめた中国人経営者たちが、有り金のすべてを投じ、マネーゲームに興じているので、バブルはどんどん膨れ上がっている。

ただし中国人経営者たちの手元には現金(特に外貨)があるわけではなく、帳面上の数字が膨らんでいるだけである。だから中国人経営者は、不安を抱えつつ、バブルの引き延ばしを願っている。

④バブルは、三者(中国政府・中国人民・中国人経営者)共通の夢

戦前、日本国民は、神風が吹くと思い、戦争には絶対に負けないと信じていた。今から考えれば馬鹿げた話だが、当時の日本国民は、マスメディアによってそれを信じ込まされ、同時にそれを願っていた。五木氏は戦前・戦中のマスメディアのあり方を体験した一人として、
「“マスメディアが世論をリードする”というのも常識です。しかし、戦時中の経験に照らし合わせて言わせてもらうと、その“常識”は怪しい。マスコミと世論はとは“相補的”な関係にあるのです。“常にメディアがリードする”と考えるのは、私に言わせれば幻想にほかなりません。大衆が喜ぶのは、その時々の“プラス”のニュースです」
と書いている。つまり人民の側も夢に酔うことを願っているというのである。

現在、中国政府・中国人民・中国人経営者の三者がともに、バブルが引き延ばされることを望み、それぞれが夢から覚めないこと願っている。現在は、三者がともに、夢を食って生きている状態なのである。すべての人々が、夢を見続けようと願っている限り、バブルは引き延ばされる。中国政府は、三者の夢に乗っかって、現在の政権を維持することが最優先課題となっており、バブル崩壊後の中国などには、まったく考えが及んでいない。

かつて日本のバブル時代、日本政府は土地やマンション価格などの高騰で、国民の怒りが政府に向かうのを怖れ、バブル潰しの手を打った。また日本人経営者の多くがバブルに興じたが、事態を冷静に見ていた経営者も少なくなかった。私はその一人だった。さらに日本人民も、メディアが大騒ぎした割には、それに便乗して大儲けしたという人は多くなかったと思う。振り返ってみると、バブルを冷ややかに見る健全なモラルを、日本人総体が持ち合わせていたということがよくわかる。

⑤それでもバブルは崩壊する

それでも中国のバブル経済は異常事態であり、いつかは崩壊する。私は早ければ数年で崩壊すると思っている。

まず、海外事情に精通し、バブルが異常事態であるということを認識し、その崩壊をもっとも身近に感じている富裕層が、沈みかかった船からネズミが真っ先に逃げ出すように、中国を脱出するだろう。中国のシンクタンク、胡潤研究院の調査によれば、今、中国の富裕層の46.5%が海外移住を検討しているという。

中国では子どもを欧米に留学させ、移住を見据えて外国に不動産を購入する富裕層が多い。移住希望国のトップは米国で、中でも西海岸のロサンゼルスやシアトルなどの人気が高い。2位以下はカナダ、英国、オーストラリアの順で続いた。調査は今年4~7月に実施、回答した304人の平均資産は約2,000万元(約3億3,000万円)だった。

金融問題で関心を持つ分野(複数回答)を尋ねたところ、84%が人民元の下落問題、46%が国内の不動産バブル問題を挙げた。中国の富裕層の間では最近、資産を守るため資産の一部を海外に移すケースが増えているという。

富裕層は資金(外貨)を持って逃げ出す。この場合、富裕層とは政府関係者や企業経営者を指す。ほとんどの中国人民はその手段を持っていない。その結果、資金(外貨)不足が表面化してくる。人民元安も進行する。そうなれば当然、投機的になだれ込んでいた外資がいっせいに逃避する。

さらに中国市場を狙って進出していた外資が、あっという間にいなくなる。市場販売型外資の引き上げは、中国に固定資産を持っていないので素早い。不動産に投資していた外資も、我先にと売りに出る。すでに賢明な香港資本は、マンションや商業施設を売却し始めている。そしてバブルは弾け、社会が騒乱に巻き込まれる。

次に私が危惧するのは、天変地異である。もしSARSのような事態が、今、中国を襲ったら、確実にバブルは崩壊する。その他、大地震、大洪水、原発事故、環境異変など、その種は無数にある。歴史上、天変地異が政権を転覆させるきっかけとなった例は少なくない。

それらをうまく切り抜けたとしても、中国には人為的に造られた大きな壁が立ちはだかっており、それに中国人民が気付いたとき、夢から覚め、バブルは崩壊する。中国は、一人っ子政策と若年定年制の結果、早ければあと10年で、日本の10倍規模の超高齢社会に突入する。いわゆる「未富先老」時代が眼前に広がる。

1994年にレスター・ブラウンが、「誰が中国を養うのか」という見解を世に問うたが、今度は、「誰が中国の高齢者を養うのか」ということが問われることになる。しかもこれからの中国の高齢者は、かつて紅衛兵として高齢者を迫害した経験を持つ。彼らは世代間闘争の経験者であり、「自分の身にこれから何が起こるか」を熟知しているので、それを未然に防ごうとするであろう。

迎え撃つのは、一人っ子世代の小皇帝であり、わがまま放題で、なおかつ投機に狂奔する親たちの後ろ姿を見て育ち、真面目に働くことを知らない世代である。この世代間闘争の勃発がバブルの夢を吹き飛ばすことは、自明の理である。                                                                  
                                                                           
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清話会  小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年岐阜市生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を歴任。中 国政府外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。