【ニュース・事例から読む給料・人事】
第8回「高度プロフェッショナルは働かせ放題なのか」
神田靖美氏 (リザルト(株) 代表取締役)
「残業代ゼロ法案」あるいは「高度プロフェッショナル制度」と言われる法案を巡って、労働組合の中央組織である「連合」の方針が二転三転しています。連合の執行部はいったん、条件付きで容認する方針を固めましたが、下部組織の了解を取り付けられず、宙に浮いています。
■高プロはなぜ「残業代ゼロ法案」と呼ばれるのか
高度プロフェッショナル(高プロ)とは、高度に専門的な能力を要する仕事に就き、かつ年収1075万円以上である労働者を、労働時間に関する規制の例外とする制度です。
労働基準法は「労働者を1日に8時間、または1週間に40時間以上働かせてはいけない。これ以上働かせる場合は残業手当を払わなければならない」「週に1日は必ず休日を設けなければならない。この休日に働かせた場合には休日勤務手当を払わなければならない」と定めています。これらの規定を年収1075万円以上である高度専門職には適用しないというのが高プロ制度です。これが、高プロが「残業代ゼロ法案」と呼ばれる所以です。
多くの国では、法定労働時間とは「たとえ賃金を払ったとしても、これ以上働かせてはいかない」という時間です。しかし日本の法律ではそのようになっておらず、法定労働時間とは事実上、「これから先は残業手当が払われる」というだけの時間となっています。このため高プロについても、残業代が支給されないという面にだけ強く意識が向くのでしょう。
■高プロは「働かせ放題」ではない。
上記の文だけ読むと、高プロは高賃金とはいえ、働かせ放題の制度であるようにとらえられるかもしれません。しかし法案を見ると、けっしてそうではありません。
まず、この制度を適用するためには、対象とする社員が次の6つの条件を「すべて」満たしていなければなりません。
① 厚生労働省が定める業務についていること(どういう業務なのかは未定)
② 職務内容が明確に定められていること。
③ 年収が一定額(1075万円)以上であること。
④「健康管理時間」(会社と会社外で働いた時間)を会社側が把握すること
⑤ 有給休暇を与えられ、健康診断を実施されていること(有給休暇の日数は未定)
⑥ 苦情処理制度があること
加えて、次の3つの条件のうち「いずれか」を満たしていなければなりません。
① 一定の勤務インターバル(ある日の仕事が終了してから次の日の仕事に就かせるまでの間隔)を設け、かつ深夜勤務の回数を一定以下に抑えること(勤務インターバルの長さや深夜労働の回数は厚生労働省が定めるが、具体的な数字は未定)
②「健康管理時間」を厚生労働省が定める時間(未定)以内に収めること
③ 年間104日以上、かつ4週4日以上の休日を設けること
以上を見ていただくとわかるとおり、高プロはけっして365日24時間働かせ放題の制度ではありません。働かせることができる時間にはおのずと限界があります。また、会社の都合次第でどのような仕事でもさせられるわけではありません。
「いったん導入されると1075万円という年収要件がなし崩し的に引き下げられる恐れがある」というのが高プロ反対論の根拠です。しかしそれを心配するなら、もともと年収要件も何もなく、「働かせ放題」でないのかどうかさえもよくわからない「管理監督者」(管理職)の方を先に心配すべきです。
また、1075万円もの年収でなくても、今と同じ年収であっても、残業代が支給されなくても、いつ、どこで働くかを自由に決められる働き方を歓迎する人も少なからずいるのではないでしょうか。この問題については次回考えます。
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■神田靖美氏(リザルト(株)代表取締役)
1961年生まれ。上智大学経済学部卒業後、賃金管理研究所を経て2006年に独立。
著書に『スリーステップ式だから成果主義賃金を正しく導入する本』(あさ出版)『社長・役員の報酬・賞与・退職金』(共著、日本実業出版社)など。日本賃金学会会員。早稲田大学大学院商学研究科MBAコース修了。
「毎日新聞経済プレミア」にて、連載中。
http://bit.ly/2fHlO42