「高田拓の中国内部レポート」第4回
「中国は徹底的に仕組みを変えて、今の発展を築いた」
—-WTO加入を前に抜本的に仕組みを変えた「朱鎔基の改革」
高田 拓 (山東外国語職業学院終身名誉教授)
※今回は、前回の記事の続きの内容となります。
1998年3月、朱鎔基首相は就任記者会見で今政府としてやらなければならないことを具体的に説明した。
まさにそれは改革のオンパレードであった。彼の頭の中には今後の中国の発展にとって世界との交易、WTO加盟が絶対条件であり、今のままでは中国は世界に対抗できないという危機意識が根底にあったに違いない。そうした将来に対する危機感が彼をして強烈な改革を実行させ、今日の繁栄の礎を築いたのである。
特に、国有企業の改革、金融システムの改革、政府機構の統合再編はいままでの特権階級にとって機構削減、人員整理といった非常に大きな痛みが伴う。大きな抵抗の中で彼はこうした改革を遂行したのである。
それでは朱鎔基首相は国の仕組みをどのように変えていったのであろう。主なポイントを以下述べていきたい。
1、国有企業赤字経営者は首だ
1999年人民代表者会議での政府活動報告「国有企業の改革を大いに進める」のなかで明確にされた。「大きな赤字を出している国有企業のトップは一年目にはイエローカード、二年目にはレッドカードで首にする」ということである。WTO加盟を前に企業トップに対し、年度ごとの利潤、納税額、資産増加額を基準に考課を強化して企業経営の近代化を図ったのである。
この政策の下、国営企業の経営合理化は急速に進展していった。経営者は自分の首がかかっているのである。すさまじい勢いで不採算部門の切り捨て、統合再編、毎年5、6百万人もの、大規模な余剰人員整理(下崗)が始まった。さらに従来のような国営企業が社員の住宅、医療などを含め個人生活のすべてにわたって面倒を見て行く時代は終わったのである。このようにして経営近代化を進め2001年12月中国はWTOに加盟した。
世界では中国がWTOに加入すれば、多くの国営企業が倒産するとみていたが、朱鎔基は、ものの見事に乗り切ったのである。
2、銀行で垂れ流し融資をし、不良債権を出していく支店長は首だ
朱鎔基が就任当時、銀行の不良債権比率は30%を超えると予測されていた。国営企業は赤字で資金が不足すると政府の関係者に泣き付き、銀行に融資させていた。政府が国営企業のトップ、銀行の人事権を持っていたので銀行も政府の言うことを聞かなければ首になってしまう。こうした不良債権発生の構造に彼はメスを入れた。銀行を人民銀行の統括とし、不良債権を出した支店長は首にするとし、新たな不良融資が発生しない仕組みを作り上げた。
日本の事例を学び96年以前の不良債権を不良債権処理機構にすべてを移管し、処理を始めた。その結果、急速に不良債権比率は低下し、2016年末、商業銀行の不良債権比率は1.74%に収まっている。日本は大手銀行0.87%、地銀1.9%である。中国は大胆に仕組みを変え、日本に学ぶことで実現できたのである。
■日本にはそんな馬鹿な仕組みがあるのか
~海外にいると見える日本の馬鹿な仕組み
1、議員たちが、定数と報酬を勝手に決める仕組み
現在の日本では、政治家が自分の歳費を決め、議員定数まで自分で決める。こんな馬鹿げた仕組みが許されるのか?そもそも国民は政治家にこんなことまで付託していない。
(1)議員定数は有権者数をもとに合理的基準で決める仕組みにする
今までにも何度も一票の格差が問題になり、2009年総選挙の時点ですでに、もはや合理性を有しておらず違憲状態の判断が最高裁で下されている。削減に当たっても政党間で馬鹿げた政争を繰り返し、時間を浪費している。
「もっと合理的に決めるやり方があるだろう」、「そもそもこんなに多くの議員はいらない。」これが国民の正直な気持ちだ。衆議院定数480名、参議院定数242名、合計722名、これは本当に必要な数なのか?
五年おきの国勢調査か、前年末の地域別有権者数を基準に合理的に決めればいいことである。有権者20万人に1名とすれば506名の国会議員になる。25万人に1名とすれば405名の国会議員になる。
政党、政治家の思惑を排除し合理的に決めることがそんなに難しい事とは思わない。こうした有権者数を基準に自動的に決めれば一票の格差問題など起こるはずがないのである。広域単位で決めたらいいことだ。
(2)議員報酬は国民の年間収入を基準に決めるべきだ
国会議員の議員報酬は年間1561万円、歳費手当(ボーナス)635万円、合計約2200万円、この他、文書交通滞在費は年間1200万円。これに加え総額320億円の政党助成金が国民の税金から支払われている。アメリカの国会議員は年収1357万円、ドイツの国会議員は947万円だ。
議員たちが自分たちで勝手にお手盛りできる仕組みが悪いのである。
国会議員はもとより市会議員でものその報酬の高さが目に余る。
名古屋市議会議員の年額報酬はなんと年額1455万円、さらに議員報酬の他に最大月額50万円の政務調査費が支給されている。
河村市長はこうした高すぎる議員報酬を大幅に引き下げ800万円とし、議員定数を引下げる議会改革案を提出したが、議会にあっさり否決されている。
国際比較でみても、アメリカのニューヨーク市会議員は1200万円、フランスのパリ市会議員で640万円である。日本の地方都市の報酬の高さは世界的に見ても異常である。
国税庁が発表した平成27年分民間給与実態統計調査結果から見ると民間平均給与は420万円(賞与を含む)であり、議員報酬800万円でも市民から見たら相当に高いのである。
地方議員報酬はその地域の民間給与の1.5倍を上限とする仕組みの構築が必要だ。国会議員は東京と地方の民間給与の平均額の3倍を上限とする仕組みではどうだろうか。
「国民に寄り添う政治」であれば、自分たちで勝手なお手盛りができる現在の仕組みは絶対に止めていかなければならない。
本当の意味でシビリアンコントロールを機能させる仕組みづくりが必要だ。
2、誰も財政赤字に責任を取らない馬鹿な仕組み
今、日本政府の抱える国地方の債務残高は1146兆円を超えている。国民一人当たり約9百万円の債務を抱えていることになる。さらに、ばらまき政策の本質は今のお父さん、お母さんに小遣いを上げて、赤ちゃん、子供に借金を負わせているのである。こうした巨額の赤字に政治家も行政も責任を取る仕組みが全くできていないことが大問題である。このような赤字を作ったのは我々世代である、我々世代で解決しなければならない。後の世代に負の遺産を相続させるわけにはいかない。
(1)赤字を出したら給与・賞与をカット、できないなら人員をカットせよ
政治家も行政に携わる者も、赤字に対する連帯責任を取る仕組みの導入をしなければ赤字の垂れ流しは絶対に止まらない。
単年度赤字を出した政府・地方自治体の給与は一律15%カット。累積赤字のある政府・地方自治体の職員給与は累積赤字の消えるまでさらに一律5%カットすればいい。できなければ人員カットをすべきである。このカットした分は当然、すべて債務返済に充てる。
一般の会社では赤字であれば経営者の報酬カット、給与のカット、賞与のカット、人員整理、場合によっては倒産失業である。
また2年連続、単年度赤字を出した政府・地方自治体のトップ三役は首にしたらいい。このようにしたら政治家は国家財政・地方財政の税金の配分がおかしいと言い出すに決まっているが、もともと不足しているものはどう分割しようが不足しているのである。
今の政治・行政は予算をぶんどり、それを100%使い切ることに注力していて、効率よく使う点が欠落している。赤字を出したら自分の身に跳ね返ってくるならば、職員のすべてが無駄を省き徹底した行政の合理化を図っていくだろう。
(2)補助金、交付金等の不正受給者には倍返しを
国家の政策には様々な助成金がついてまわる。企業や法人・協会・団体に対する補助金があり、不正受給が絶えない。こうした不正行為は国民全体に対する詐欺行為であり、単なる受給資格停止、不正請求の返還、不正受給者の公表にとどまらず、悪質受給者には「不正受給額の倍返し」処分にすべきである。またこうした不正受給の時効は5年であり、国民は釈然としない思いがある。
参考:松下幸之助の提言「無税国家論」
1978年、大平内閣が赤字国債発行100兆円になり、財政破綻で一般消費税の導入案が浮上し、総選挙の結果で撤回した。間接税を中心に増税論が登場しているこうした時期に1979年、松下幸之助は「無税国家論」を唱えた。この内容は「政府は無駄遣いをしているのではないか? 単年度財政のため本当は黒字が残るはずなのに無駄に使って予算を使い切っているのではないか?」
このように考え「余った黒字は残しておくやり方をした方が良い」と主張したのである。
「毎年予算の一割を節約して積み立てておくそうすれば百年もたてば積立金の利息だけで国家財政が成り立つのではないか」このように提案したのである。これは単年度ではなく長期的な発想であり、また企業経営から出てきたものである。
実際に台湾では毎年の予算を厳格に運営し、剰余金としてその当時すでに約半年分の金をリザーブしていたのである。日本のように一度予算化したものはとことん自分のところで使い切ってしまう悪習がない。国家経営も財政面で考えれば基本は同じである。
現在はグローバル化による外的条件があり、必ずしもこのようにはいかないが、少なくても無駄に使い切ることは避けなければならない。この提言を真摯に受けて政治・行政が運営されていれば少なくとも今日の1000兆円を超える債務残高は避けることができただろう。残念で仕方がない。
「政治、行政の中枢に企業経営者を送り込みたい」と願うのは私一人ではないだろう。
3、最低生活保障費が最低賃金を上回る馬鹿馬鹿しさ
こんな馬鹿な話はない。常識で考えてもこの政策は明らかに間違っている。社会保障政策の見直し、バランスを欠いた政策は即刻見直すべきである。この政策の害毒は「働かなくても最低生活保障で十分生活ができる」また「将来の年金をあてに納付をしなくても老後、最低生活保障費で暮らしていける」と考える人間が増えてくることである。
ちなみに中国で見てみると最低生活保障費は最低賃金の約40%である。また地域別にその生活水準に合わせて最低賃金と最低生活保障費は格差を設けて設定されているがこの約40%というバランスは保持されている。最低生活保障額で餓死した中国人はいない。この考え方、バランス感覚が政策的に正しいのである。日本の政治家のレベルは中国に負けているのである。
4、大型家電商品、大型家具にはリサイクル費用を先に徴収する仕組みを
リサイクル費用の後出しは不法投棄の温床であり、自治体は多くの費用をかけ、不法投棄の後始末をしている。こんな馬鹿な仕組みは無い。先に徴収しておけばこうした問題は発生しない。こんな簡単なこともできない政治になっている。
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■高田 拓氏(曲阜師範大学、斉魯工業大学客員教授、山東外国語職業学院終身名誉教授)
1967年福島大学経済学部卒業、同年4月松下電器産業(株)入社。1997年松下電器(中国)有限公司に北方地区総代表として北京勤務、
2001年華東華中地区総代表として上海勤務。2002年松下電器産業(株)退社、同年、リロ・パナソニック エクセルインターナショナル(株)顧問
2009年中国各地の大学で教鞭、2012年山東省政府より外国人専門家に対する「斉魯友誼奨」受賞。
曲阜師範大学、斉魯工業大学の客員教授、山東外国語職業学院終身名誉教授。
現在、現場での実例を中心に各団体、大学、企業のセミナー講師を務める。