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書評:「今そこにあるバブル」(滝田洋一著)

小島正憲の「読後雑感」
「今そこにあるバブル」  
滝田洋一著  日経プレミアシリーズ  2017年8月8日
帯の言葉 : 「歴史は繰り返すのか?」

※過去の書評記事は、こちら。

本書で滝田氏は、最初に、
「“バブル”を定義すれば、“ファンダメンタルズ(実体)”に基づく理論価格からかけ離れた資産価格といえるだろう。不動産や株式などの資産価格が投機によって理論価格を大きく上回る水準まで買い上げられる過程で、“経済全体が実力以上に活気づくこと”を“バブル経済”と呼べる」
「バブルは市場経済につきものの現象であり、バブルの存在を全否定するつもりはない。その半面で、バブル崩壊によって経済や生活が修復しがたい傷を負うような事態は避けたい。どうせお金が使われるなら、将来芽の出そうなところに使われた方がよい」
と書いている。

滝田氏は、
「それにしても、バブルはなぜ、これほど多く生じるのか。人間が愚かだと言ってしまえばそれまでだが、ことはそれほど単純ではない。規制やゆがみがあって、市場が円滑に機能していないのか。いや、そうではない。市場が円滑に働いているとしても、発生してしまう“合理的バブル”というものがある」
「“合理的バブル”とは、資産の価値がファンダメンタルな価値(理論価値)を越えていると皆が分かっているが、“必ず誰か他の人に売り抜けて、自分は損をしない”と皆が思っている状態のこと。皆が“自分は売り抜けられる”と思っているので、資産の価格が上昇を続けるバブル状態であっても、市場で売り買いが成立する―」
と書いている。
これはつまり、バブルが発生し継続するのは、人間が愚かであり、欲で理性の目が曇ってしまう結果、起きてくる現象だと言っているに等しい。

滝田氏は、かつての日本のバブル経済について、
「日本企業の持つ含み益の大半は所有土地の評価だった。株主に帰属するはずの含み益が、企業経営者の自由裁量に委ねられた結果、土地を打ち出の小づちにするバブルが拡大した。メインバンクは土地を時価評価した含み益を担保にして企業に融資する。土地の評価額が上昇し続ける限り、企業の収益が市場金利を大幅に下回っても、もっといえば赤字経営が続いたとしても、企業の存続が可能になり、銀行も焦げ付きが生じる心配がない」
と書いている。

また滝田氏は、中国のバブルについて、
「米国の住宅バブルが膨らむ局面では、米国の消費が拡大し輸入が膨らんだ。その米国向けに中国の輸出が飛躍的に伸びた。中国は2001年にWTOに加盟したこともあって、自由貿易の恩恵をフルに享受し、労働コストの低さも相まって“世界の工場”の地位を確立した。
米企業は中国を生産拠点とし、自らのサプライチェーンに組み込んだ。その中国は世界中の資源や食料を爆食し、原材料の輸入を急拡大した。原油などの国際商品は相場の位相が上抜ける“スーパー・サイクル”に入った。
米中は幸せな“合わせ鏡”の関係にあったが、2008年にリーマンショックが世界を襲う。米住宅バブルの崩壊は中国経済の成長モデルを崩すかに思われたが、ここで中国は4兆元の経済対策に踏み切る。この景気対策で中国経済は上向き、世界経済も救われる。
2010年には中国は名目国内総生産で日本を抜き、世界第2位の経済大国に躍り出る。だが好事魔多し。リーマンショック後の経済対策が、過剰投資と過剰債務の問題となって、その後の中国経済の足かせとなっているのである。
2015年6月の中国株バブルの崩壊、2015年の人民元急落、そして海外への資本流出の波などは、中国経済の抱える問題を浮き彫りにしている
と書いている。
これは、私にはきわめて納得の行く解説である。

滝田氏は、
「欧米の碩学の基本的な考え方は、政府と中央銀行を合わせた“統合政府”というもので、政府の借金(国債)を日銀が保有しているのは、家庭内で夫に妻がお金を貸しているのと同じと考える。家庭全体で見れば、貸し借りは相殺されチャラになる。統合政府で見ても、政府と日銀の貸し借りをチャラにすれば、その分は国債の発行額が減るというわけだ」、「妻がヘソクリを夫に貸すなら、確かに家庭全体での借金はない。しかし妻の手元にお金がなく、消費者金融からお金を用立てて、夫に貸したとすれば、家庭全体の借金は残る」、「日銀が保有する国債を“無効”にした場合には、日銀の負債である準備預金をどう扱うかという問題が残る」と書いている。つまり滝下氏は、日銀が民間銀行からの準備預金で国債を大量に購入した後、それをチャラにすれば良いが、民間銀行からの準備預金の返済はどうするのか」と言っているのである。

私は、民間銀行の預金は、一般市民の預金が中心なのだから、後期高齢者が預金を放棄すれば、その問題はただちに解決するのではないかと思う。なにしろ高齢者の預金の総額は1000兆円に迫るほどであり、それはちょうど、日本政府の借金総額と同じだからである。

最後に滝田氏は、
「“団塊の世代”がそろって後期高齢者となる2025年には、日本の財政は完全に行き詰まる」
「高齢化が進み、人口が減り、人手が足りない。日本が直面する最大の壁がそこにあるならばそれを逆手にとって、課題解決型の成長を目指そうじゃないか」
「リアルデータとITを活用した課題解決型の手法がうまくいけば、日本の後を追って急速に高齢化するアジア諸国に対する売り物となる。規制改革を含めて本気度が試されている。潤沢なマネーが課題解決型のビジネスに流れるようにすることを通じてしか、日本の経済と社会は今の袋小路から抜け出せない。その道が発見できないようだと、新たな金融資産バブルが膨らみ、また崩壊するというコースになるだろう」
と結んでいる。
これは貴重な示唆である。

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清話会  評者: 小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化 市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を経ながら現職。中国政府 外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。