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「0.5歳の存在感づくりへの働きかけ」(澤田良雄氏)

髭講師の研修日誌(32)   

「0.5歳の存在感づくりへの働きかけ」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆「気」を感じる0.5歳の活力を浴びる
 
「“気”を感じる。プロらしい顔つきになってきた」
開口一番K専務の言葉だ。

「来春は先輩社員となり指導者の立場にもなる。より存在感を示せる社員に成長する事を期待する。その活躍のキーワードは“考働力”である」と続く。

考働力とは基本ができたら自分の考えを生かし、持ち味を生かした活躍姿勢である。これはN社の新入社員フォローアップ研修の開講挨拶である。

4月に指導した新人である。4月時点では理想の想像の活躍の域だ。だが配属後の活躍は現実での対応。想像と現実にはギャップがつきもの。そのギャップをどうクリアーしてきたかを確認し、来春の憧れの先輩像を見いだし、具体的に何をどうするかをつかむ目的である。活躍部門は製造、管理、開発、デザイン、営業、技術など様々である。

まず、活躍ぶりに着目してみよう。
*機械の調整作業で、一発でその寸法が出たときには喜び、達成感があり、仕事をしているやりがいがある。
*デザインの要望を受けて、あれこれの苦労もあったが何とか対応できた。
*更なる能力を付けるために上司に相談し、業務終了後勉強会を開いていただいた。休日は美術館に行きセンスの啓発に努めてきた。
*任された設計テーマを、模索しながらも取り組み、何とか完遂し認められた。
*時間を無駄にしない。なぜなら段取り時間(準備)を短くすることにより操業時間(付加価値を生む)が長くなるからである。この覚悟で取り組んでいる。
*製品に関する意見を求められたり、試案を頼まれる等開発の仕事をしている実感がある。
*仕事に愛着と誇りを持っている。だから自らの努力で達成感を享受している。
*自分が主体となって取り組む事によって、仕事への責任感、報連相の重要性が実感できた。  

 等の活躍ぶりをイキイキと話す。

そこには基本をしっかり学び取り、ミス無しの仕事ぶりから信用を得て、信頼される成長ぶりが伺える。だからこそ、褒められた、認められた、責任を持った、任されたことの嬉しさと喜びの実感を得ているのだ。

興味を引いたのは、
「先輩から褒められたことは先輩が既にできていることである。決して先輩に勝ることでなく、当然できること。当たり前のことができてない未熟な部分が少し埋まったに過ぎない。だから驕ることはしてはならない」
との戒めの心境を語っている人がいたことだ。
実に賢い。

◆悔しさをバネとする 
良いことだけではない。辛さがあることも事実。

*他社との打合せで、専門的な言葉や人名がわからず全く話し合いについていけない辛さがあった。何よりも悔しかった。
*一度教えられたたことでも、いざやるときにはわからない。どうする。訊けば良い。でもそれで良いのか。
*一生懸命やった。でもミスとなった。悔しい。

困った、辛いではなく「悔しい」との心境を表する人が多い。なぜか。それだけ自意識の強さがあり自分なりの努力はしている。しかし、良き結果を導き出す実力の伴いには至っていない自身への叱咤激励である。だからこそ、未熟さを素直に認めて、本気で新たな自らの啓発に向けているのだ。

その結実が、自ら産み出す褒められた、認められたとの嬉しさとなっている。褒めや、喜びは棚ぼた式ではない。苦あれば楽あり。実践での実感である。一層メモをとり、自宅で整理し、深く理解するために調べる、テキスト風に編集して持ち歩く。こんな取り組みも報告された。実に自発性に富んだ自家発電の充電力だ。

同期の仲間とは半年ぶりの顔合わせである。ほっとした。皆どんな活躍しているのか気になっていた。

自分はこんなに頑張っている、自分はこんなに努力している、訊いて欲しい。こんな意気込みを持って望んだ研修だ。みなそれぞれに頑張り様は違えども、相当の努力を重ねている。そして、結果を出している仲間もいる。

同期は良き友であり、良きライバルである。負けず嫌いの自分は、更に精進せねばと覚悟を固めた。との研修所感を記した人もいた。半年後憧れの先輩に向けて、自分の活躍実態が確認でき、もっともっと製品知識を付けたいとの思いや、先輩のように諸処の対応ができ、細かな気配りができるようになりたい。少し考えるだけでもなりたい自分があふれ出てくる。

こんな意思表示も聴かれる。
ふと思う。

◆最近の若者はと評するが・・実際はどうか
 
最近の若い人はとか、最近の新人はといろいろ評されることも多い。でも、現実は、「こうなりたいとの想い」に向けて、迷いながらも今できることの最高実践で取り組み、わからなかったら訊く、迷ったら相談する、そして何より、自から力を付ける努力を課し、より着実に成長している実態がここにある。
 
確認してみよう。「最近若者観」と評する論評のキーワードがおおよそ次の点である。

・ゆとり世代の真面目な新人。学習能力が高く素直に真面目に取り組む傾向がある。一方挑戦して、失敗したくないとの保身感もある。具体的にはコミュニケーションが苦手
・自己表現しない
・打たれ弱い
・自分が基準
・失敗を極端に恐れる
・根は真面目で素直
・常に与えられたことを待ち、言われたことしかしない
・答えは自分で考えずに人に訊く
・根拠のない自信を持っている・成長意欲は高いが中々行動に結びつかない。
等である。
 
あくまでも括りで有り、個別ではない。各自は十人十色であり、そして止まることでなく指導・経験値により成長があり、一人十色と変わる。決して固形化されることではない。

N社の新人も最近の若者と総括される対象であろう。しかし、察しの如く、全体を評しての活躍ぶりでも、基本を確保し信用を付け、任される信頼感を得て持ち味を生かした活躍だ。その実践の重ねは見事である。決して、困った新人ではない。

そこには受入れ環境ときめ細かな指導があればこそだ。実際にはどうか。指導者、メンターを決め、活躍現場と採用担当との連携もきめ細かなフオロー体制が構成されている。

如何であろうか。最近の若者観にすがるな。惑わされるな。訳知りは各自を正しく理解することを妨げる。指導不足の言い訳は若者観を都合良く引用することになる。小生の受け入れ側への注文である。
 
N社に限ることでない。経済団体での新人・若手社員研修(県内中小企業対象、各社からの受講者。業種、職種、規模、出身地に違い)でもグループワークでは 自社のPRを熱く語り、自身の仕事ぶり、実績(認め、褒め、数字など)を手振りを交えて紹介する姿は晴れやかだ。それだけに、指導者側への解って欲しい、汲んでほしい要望もある。

例えば、
・自分は成長したい気持ちが強い。
・頑張りもある。
・仕事のやり方を覚えればきちんとやる覚悟はある。
・信じて欲しい。
・言葉での表現、自己主張は苦手なほうなので、その点は少し察して欲しい。
・時にはミスがあるが、その原因を探り再発なきよう努力する。
・時々褒めてもらうと自信がつき、やる気は高まる。
・現場を任され、年上の業者さんからも協力いただいている。
・将来独立する積もり。
・お客様に「美味しい」と言われると嬉しい、
・それは創った仲間の誇りである。
・お客様に合ったメガネの相談に的確に提案できるよう勉強している。
・必要資格をきちんと取るよう努力している。
・クライアントから教えていただくことを大事にしている、それは、要望にあったソフトを創作するためだ。
・言葉遣い、服装に注意し、お客様から好感持たれる実践、
等々である。
 
選んだ会社での活躍に覚悟を決めて、一人前、プロとしての実感を楽しめる自分づくりの一端である。実に頼もしい。勿論その温度は十人十色である。

選んだ企業に間違いなし、自信と誇りを持って会社の看板をより高めよ。小生の指導言葉である。定着対策の一環の研修でもあるからだ。

ぜひ存在感を高めて欲しいと願う。居場所のある会社を辞めたいなどとの迷いは起きないからである。

◆でも気になるときに対応する働きかけ
 
そこで、指導現場から察しての若手社員(新人)の生かす楽しみ方として下記に提案する。特性と対応の働きかけ・指導ポイントとして記す。勿論、ここまで記してきた彼らの素晴らしさを生かすことを前提である。

①こちらの願望だけで批判せず、まずは徹底指導する
●「指示待ち人間・マニュアル人間・真面目で言われたことはきちんとやる」

願望のこうすべきだ、このくらいは気がつくはずだ。できるはずだの勝手な思い込みは指導側の経験則での言わずの押しつけである。 願望は、なるべく共通条件として示し、その実現に向けて、計画的共育に変えることだ。

②全体、一体化した指導でなく個別の直接指導をする
●「自意識高い・未熟さ認めない・他責型・自分が敢えてやることない」

言っていることはわかる、でも私なりにはやった。だから、それは私の責任ではないとのとらえ方もある。立場での是々非々を明確にし、直接対決から逃げないことだ。

③なぜ、どうしての理由、根拠を論理的に話す
●「知的レベルが高い・自意識過剰・未納得=低意欲・未熟組織人」

なぜ、これが十分な理解がないと納得しない。面倒がらず、指示、忠告時でも丁寧に根拠づける。そのネタは現場、現実の事例、データー、設定のプロセス、言葉の意味・企業理念、部門目標などとの関連がある。

④個性を発揮せよ。その前に基本徹底の指導
●「努力軽視・自己中・耐性不足・受けねらい・企業人認識不足がある」

仕事の成長は守・破・離のステップが原則。個性、個性と便宜的に言葉を使って言い訳させることは禁物。地味な枠にはまる仕事の第一段階を大切にさせる。

⑤指導の受け方を指導する
●「言われないとわからない・その場が良ければ良い・被指導嫌い・リセット傾向」

まじめに聞く、だが、表情は能面、反応示さず、メモとらず、その場の対応だけで、次へのつなげや、積み重ねが乏しい。早く終わることだけ願っている者もいる。
「わかりました」 のあと「ポイント言いなさい」の問いかけをする。記憶は消えるが記録は消えない。わかり ましたは「正しく事を行うこと」、この習慣づけを徹底する。

⑥学ぶ楽しみの快話で親和感を高める
●「対人関係が苦手・自分から話さない・上の人は解ってくれてない等の自閉型もある」

心情的距離の薄さは、訊きに来る、報告、相談をしづらくする。会話を通じてその距離を縮めること。それには聴き上手が前提。いそがしい中できちんと聴いていく。これこそ価値がある。
そして、聴くことにより本人からの学びに感謝の言葉を贈ることだ。

◆実りある存在感づくりを支援する        
 
目の前では年少組園児としての0.5才だ。親子でのダンスが楽しそうだ。先生に教えられたことを親の支援を得て踊る。親子のほほえましい光景だ。

年中組となると園児皆で踊る。グループでパートを受け持つ、そして神輿を担ぐ組と、はやし立てるグループが入れ替わる。多才な踊りの組み合わせを見事にこなす。

曲目は祭り囃子(美空ひばり)祭り(北島三郎)だ。思わず観客席から手拍子が加わる。最後は年長組(5~6才)だ、全員でのミュージカルまがいの演技は海賊船、海賊、波、戦いシーン、それぞれパート受け持ち見事に演じる。後半はグループで造作する組み体操。「扇です」「滑り台です」そしてピラミッド。
おおっ!!と観客席から驚きと大丈夫かなとの心配の目が注ぐ。そして大きな拍手が沸き起こる。

年長組の成すことはそればかりではない。年少組のお世話、進行でのゴールのテープ、開会、閉会の一言司会、そして団体競技の表彰式の助手も勤める。100人の園児が一人一役を担当しているとのことだ。

それぞれの競技では各自が必死で走る。真顔でテープを切る。早い、遅い、泣き出す、止まってしまう。こんな光景もあるが先生がサポートする。観客席の保護者からは声をからして声援もある。ここにも十人十色、一人十色の光景がある。

年長組最終プログラムはクラス対抗リレー。真剣にバトンを受け渡し繋ぎ、走る。終えれば仲間を応援する。年少、年中、年長の園児達、どこまで理解し、楽しんでいるかは定かでないが、皆で事を成すこと、そして、競い合うことの大事さを運動会の実践を通じて学ぶ意義もあるとは理事長の解説だ。

年少組は新人の入社当初、そして半年後は年中組、そして来春は憧れの年長組となる。そんな情景を重ねて幼稚園の運動会会場を後にした。

半年、基本はできた。ならば自身の考えを加えて個性を生かす。そこに考働力が生きる。期待されて入社し、育てられた成長力でその返しは考働力の累積により「君がこの仕事を担当してくれたお陰だ」との貢献力だ。

それは「いなくて困る社員」としての確固たる職場での存在感を示すことになる。そこには、考えを引き出す働きかけ、出された考えを生かす働きかけ、指導的立場の考働力が不可欠だ。

その考働力の実りが、やがては社内の存在感と成り、業界での存在感となる。更には世界で通用する存在感を確保する。人生100年「あの人に聴いてみよう」「あの人の協力を頂こう」生涯に渡って寄ってきてくれる人がいる。まさに職業人生に定年はない。生涯現役での活躍する存在感ある人になろう。小生の願いだ。
 
種を蒔き、芽を出し、茎、幹、枝をそして花を咲かし実を提供できる0.5歳の可能性にエールを送り、その「存在感」の実態形成への支援指導の実践を祈念する。


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◇澤田良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
  http://www.hope-s.com/
 


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