小島正憲の「読後雑感」
『その“もの忘れ”はスマホ認知症だった』
奥村 歩著 青春新書 2017年7月15日
副題:「10万人の脳を診断した脳神経外科医が教える」
帯の言葉:「あなたの脳を“考えない脳”に変えてしまう衝撃の事実」
先日、妻に同行して、「おくむらメモリークリニック(もの忘れ外来)」に行ったとき、この本がカウンターの上にたくさん積んであった。
ここの病院の奥村院長は、この本の他にも10冊以上の自著を出版している。それがメディアに注目され、この数年、テレビに出演することが多く、その結果、この病院はいつも高齢者で満杯(?)、大盛況である。ここに(?)と書いたのは、この病院へ来る患者は、常に付き添いがいっしょにきているので、待合室にいる人数は通常の病院の倍以上になるからである。
一人の患者に二人の付添が付いていることも少なくない。それは奥村院長が患者の日常生活の様子を、付き添い人の口から聞き取るため、同行を要請しているからである。
この数年、私たち夫婦は、この「おくむらメモリークリニック」に、毎月1回、認知症予防と脳梗塞の再発防止のために通っている。
先月、この病院に行ったとき、いつも季節の花や食べ物の話をすることが多い奥村院長が、
「人間にはボンヤリする時間も必要ですからね」
と、笑顔で語りかけてきた。それは、私たちにとって初めての言葉だったので、意外に思いながら、二人は病院を出た。
今回、病院の待合室で待っていたときに、この本を手にして読んでみて、奥村院長の前回の言葉の真意がわかった。本書で、奥村院長は、「スマホの使いすぎによる“脳過労”」について指摘し、その対策として、「ボンヤリする時間」も重要であると主張している。以下、奥村院長の言を列記しておく。
・私は脳の処理力が落ちた状態を「脳過労」と呼んでいるのですが、この状態が長く続くと、記憶力、思考力、判断力、集中力、コミュニケーション力などのさまざまな脳の働きが低下してしまうようになります。だからもし30~50代で頻繁にもの忘れを訴えているのならば、認知症ではないにしても、脳のコンディションがかなりマズい方向に傾いていると捉えたほうがいいでしょう。
・スマホを「外部記憶装置」にすると、記憶力はどんどん衰える。脳の機能も、日頃の生活で使われていなければ、着実に衰えていくことになります。
・「スマホ認知症」のもの忘れの人には、過剰な情報インプットにより、脳内の情報をうまく取り出せなくなっているという特徴があるのです。
・あまりラクに情報を得られるようになったために、「脳があまり考えなくなってきた」「脳があまり学ぼうとしなくなってきた」という傾向が見られるようになってきている。
・デフォルトモード・ネットワークは、何もせずにぼんやりしているときに働く機能で、「集中/ぼんやり」「働く/休む」などの切り替えをコントロールしている脳システムです。ところが、普段からスマホにべったり依存していたり、ぼんやりする暇もないくらい忙しい生活を送っていると、このシステムが正常に機能しなくなり、集中したいときに集中できなくなったり、休みたいときに休めなくなくなったりするようになるのです。
・情報生活習慣病・IT生活習慣病は、スマホなどのIT機器から「情報を過剰に入れ続ける生活習慣」によって引き起こされるもの、情報のインプットが処理しきれないほどに多いのにもかかわらず、その情報を活かしたアウトプットをしていないために、脳が「情報メタボ」とでも言うべき状況に陥ってしまっているのです。
・前頭前野内で情報処理する際の役割は大きく次の3つの部分に分担されているのです。①浅く考える部分-ワーキングメモリー、②深く考える部分-前頭前野の熟考機能、③ぼんやり考える部分-デフォルトモード・ネットワーク。
・「ぼんやり機能」を低下させてしまうと、次第に「集中/ぼんやり」「働く/休む」などの切り替えができなくなっていきます。そして、切り替えがうまくいかなくなると、脳がいつも緊張して集中しっぱなしのような状態になり、疲労が蓄積して脳過労へと進んでいくことになります。
・本来の脳のパワーを取り戻すために今日からできること27か条。
① 起きてすぐにスマホをチェックしない
② お風呂、トイレ、寝室にはスマホを持ち込まない
③ 就寝の1時間前から「スマホ断ち」をする
④ 「食事中」「会話中」はスマホを慎む
⑤ ネットで検索する前に、自分の頭で1分考えるクセをつける
⑥ ネットで調べ物したときは、手書きでメモを取る
⑦ 「息抜き」にネットサーフィンするのはやめる
⑧ コピペはせずに、自分の頭で考えた文章を書く
⑨ ネットの「間違った情報」を見極める目を持つ
⑩ 他人を誹謗中傷するようなサイトは見ない
⑪ ゲームをするなら、対人頭脳ゲーム(将棋、囲碁、チェス、オセロなど)をする
⑫ 家族、会社関係以外の「1日3人」と会話する
⑬ レストランや居酒屋は、ネットを使わずに自分の嗅覚で探す
⑭ 本は本屋さんで買う。映画は映画館で観る
⑮ ひとつの仕事の前後に1~2分のぼんやりタイムをつくる
⑯ スマホをオフにして散歩をしてみる
⑰ 無心になれるような単純作業を行う
⑱ 「緑の香り」で脳の疲れを解消させる
⑲ 「大地のリズム」を感じて生きる
⑳ 数日間、山や海でキャンプをする
㉑ 「人間以外のもの」とふれあってみる
㉒ 旅をするなら、手づくりの旅をする
㉓ 「脳を使って相手と駆け引きをするスポーツ(ゴルフ、社交ダンス、テニス、草野球、バレーボール、卓球など)」をする
㉔ 昼寝は積極的にする
㉕ 思いっきり笑い、思いっきり泣く
㉖ 1日の最後に数行の「行動日記」をつける
㉗ 四季折々の行事や旬の食べ物を大切にする
・忙しい日常の中で自分をしっかりみつめ、しっかり自分の頭で考え、しっかり自分の脳を使うようにしていくのです。
すなわち、「いまの自分にとって本当に必要な情報は何か」「いま、自分がいちばんにやるべきことは何か」「いまの自分の人生に足りないものは何なのか」-そういったことを、自分の足元にスポットを当ててみつめ直していくわけです。
なお、その際は、深く考える時間、ぼんやりする時間、リアルの人や自然と接する時間をたっぷりとって、前頭前野やデフォルトモード・ネットワークをしっかり使いながら自分の行動を決めていくようにするといいでしょう。さらに、情報の「イン」と「アウト」のバランスをしっかり考えて、インプットしたことを自分や社会にとって役立つようなアウトプットにつなげていくようにしてください。
——————————————————————–
評者: 小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化 市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を経ながら現職。中国政府 外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。