小池浩二氏の [継栄の軸足] シリーズ (27)
【明日の種づくり 全4回」
第2回目「勝てる土俵で勝つことが戦略の原則」
小池浩二氏(マイスター・コンサルタンツ(株)代表取締役)
■勝てる土俵の発見
戦略とは勝てる土俵を見つけ出し、戦う武器・戦い方を決めて、勝つための条件を整えて戦うことにポイントがある。
特に弱者である中小企業は、強者であるトップ企業の真似をしていたずらに戦線を拡げるのではなく、自社の得意分野に特化して戦う弱者の戦略が基本となる。その基本形は以下の通り。
●一点集中……攻撃目標をひとつに絞り、強者の弱点を重点的に攻める
●土俵を変える……強者が手を出せないカテゴリーで戦う
●接近戦……強者に先んじて、顧客ニーズの把握や顧客への接点強化を図る
●局地戦……スキマ・ニッチ市場に競争の場を特化させる
●陽動作戦……従来パターン以外の方法で、強者を出し抜く
●グッピー戦……より弱い者を叩く戦略
戦略は勝つことを前提に戦わないと経営資源の乏しい中小企業では、一敗が経営の命取りになる危険性がある。
中小企業が素晴らしい技術、製品を開発することはよくあるが、いくらいい技術、製品を作っても、自分たちが戦う土俵を間違えるとノウハウだけを盗まれ、弾き飛ばされる。
クジラという大きな生物は太平洋で泳げばよいが、ミズスマシが太平洋に出たら、すぐに波に飲み込まれる。それよりも小さな水たまりで我が物顔で振舞うほうがよい。濁った水たまりでも中に誰もいなければ、その土俵では勝てる。これが弱者の戦い方だ。つまり戦う土俵=勝てる場所を見定めないと負け戦になる。
■そもそもニッチのすき間分野とは何か?
横浜にあるA社は化学薬品・溶剤関連商品の開発・製造会社で従業員数は10名強だが、マーケットシェアNO1の商品を幾つも持っている。
その一つに機能性飼料として養殖真鯛の栄養強化やストレスを解消する液体ビタミンがある。元来、この分野の製品は珍しいので開発が成功すれば、必然的にマーケットシェアを高く獲れるマーケットだ。中小企業が狙うべきマーケットはニッチのすき間分野とよく聞く話だが、そもそもニッチのすき間分野とは何か?
経済産業省が定める業種区分で日本標準産業分類というものがある。A社の事例で考えると、中分類が水産養殖業、小分類は海面養殖業、細分類で真鯛養殖業となり、この細分類カテゴリーがニッチのすき間分野の候補となる。
これを戦略の視点で考えるには、細分類の真鯛養殖業で展開している商品群や困り事をピックアップし、それに特定の機能を付加させて、新しいニッチのすき間分野を見つけていく。
真鯛養殖業の困り事である真鯛のストレス解消のために液体ビタミンを開発・製造するから、ニッチのすき間分野での事業展開となる。
また、マーケットサイズの視点でニッチのすき間分野を考えると、5年前までは100億、現在の市場規模は30億円と変化している。ある超大手企業グループは、新規事業展開で3年間で年商30億に満たないものは、撤退することが新規進出の基準になっており、逆にみると年商30億未満マーケットに大手企業は進出しないことになる。
■他がやらないことを徹底して成長する企業
「他がやらないことを徹底してやる……」
これを口癖にして創業10年・年商30億の企業が型破りの創業10年感謝祭を行った。その場所は後楽園ホールだ。
後楽園ホールはご存じの方もいると思われるが、「格闘技の聖地」と言われる場所。この創業者は創業10周年感謝祭で、本物のプロレスラー(元横綱の曙さんたち)とプロレスの試合を行った(もちろんこれ以外の催物もあった)。
この創業経営者は学生のときからプロレスができるように鍛えているから、このようなことができたわけだ。これも他の企業ができないことをあえて選んで、実行しているそうだ。
この会社の仕事は、自動車関連業種で新車の販売をしている。メーカー系列デイーラーではないので、差別化のために多くのメーカーの新車をユーザーに安く提供する方法を考えている。その一つに、新社会人を対象に購入1年後から支払いをスタートさせる「出世払いプラン」と名付けた商品を作っている。
また、レンタカーを1時間当たり100円で使用できるシステムも開発して、全国に800店の代理店・FC店を有している年商30億・社員50名の成長企業である。
この会社の「他がやらないサービス」の原点は、顧客の声から創り上げている。顧客からこんなことはできないの? と言われれば、できる・できないは別にして、とりあえず検討するそうだ。
他がやらないことをやる重要性は、誰でもわかる。しかし、それを現実に実行することが素晴らしい。
■高付加価値を提供する企業
高付加価値を提供する企業は、顧客に対しての考え方が明確であり、世の中すべての見込み先を顧客として捉えていない。これは、すべての見込み先に対して、「自社の商品・サービスで満足させることはできない」という認識で事業を行っている意味だ。
高付加価値を獲得するためには、顧客を満足させられる商品・サービスの提供が必然で、そのためには、自社の強みをぶつけ、その価値を理解してくれる顧客を選ぶという発想が必要だ。
名古屋にモンキーフリップという眼鏡専門店があり、若い男性を中心に、おしゃれな眼鏡を販売している。自社の付加価値は、眼鏡をかけたお客様に、“かっこいい”という快感を売ることであり、そのターゲット顧客は、ストリート系の若い男性と決めている。
製品も、スーツでもかけられる眼鏡のシリーズ、どのレンズでもオールインワンプライスで販売するシリーズなど、顧客が選びやすいシリーズで展開しており、定期的に新製品を発表してその情報をダイレクト・メールやメールマガジン、ウェブ上のコミュニティで紹介している。
また、定期的に顧客にダイレクト・メールを送付し今後の新しい製品メニューや、限定販売のお知らせ、同社の近況なども掲載し、ウェブサイトにて会員制の掲示板も設置している。
つまり顧客が来店していないときでも、顧客とコミュニケーションを取り続けており、こうした努力の結果、300 本の眼鏡が2週間で売り切れたり、予約で販売量の半分が埋まってしまうようなヒット商品を連発している。
■ターゲットの絞り込み
ターゲットの絞り込みに成功すれば、商品開発の90%は成功したといえます。ターゲットの絞り込みとは、「ある機能・ある顧客・ある使用シーン・ある地域・売り方・ある価格」に特化することだ。
多くの方は、ターゲットを絞ると顧客が減ると考えます。しかし、絞り込みさえ間違えなければ、今までの顧客は減りますが、新しい顧客が増えてきます。
また、自動的に商圏も広がりますし、価格も上げることが可能です。ある自転車店は、ママチャリを扱う店からスポーツ自転車を扱う店に転身し、成功している。ターゲットを的確に絞り込めば、それは強みになる。
QBハウスという髪のカット専門店があります。この店は10分でカットを行い、料金は1,000円(税込)だ。一見安く感じるが、分単位の料金で考えると普通の床屋さんは50分で5000円ぐらいなので単価的には変わらなく、安売りをしているわけではない。
QBハウスの考えは「通常、一般のサロンで行うシャンプーやブロー・シェービング等お客様ご自身でできることはサービスに含まず、お客様ができないカットのみに特化したサービスを提供するヘアカット専門店」とコンセプトが明確だ。
つまり、お客様ができないことのみをお店で取り扱うサービスと定義し、安く早くカットしてもらいたいお客様のみをターゲットに絞り込んだ訳だ。つまり、これは、値下げ戦略ではなく、ターゲットを絞り込んだマーケテイング戦略になる。
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筆者 小池浩二氏が
【中小企業に必要な経営の技術】の概論を
YouTubeで説明しています
是非、ご覧ください
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