鬚講師の研修日誌(45)
「新たな時代、 正しい判断力に基づく決断力が生きる」
澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)
◆元旦のMS(モーニングセミナー)今年の想いを発信する
元旦 AM6:00、MS(モーニングセミナー)に出席した。35年間毎週必ず開催してきて1,875回を重ねてきたMSである。
会員が経営者クラスであるので地元の年賀祭礼でのお役を担う人多いが、時間調整しての出席である。
恒例の、年初の抱負のプレゼテーションが始まる。色紙に記した言葉を紹介、「なぜ」の理由を説明し、そして実践の決意を表明する。どんな想いが発表されかその一部を紹介してみよう。
●チャレンジする実践(継続実践に加えて、足下に新たな挑戦)=墓石葬祭経営者
●照らしの人(子供たちに光を灯す)=幼稚園理事長
●”新”(新たな元号、防戦経営から新しいことの取り入れ)=ネジ製作業社長・同じ言葉でも(新たな挑戦)と意味づけたのはリスクコンサルタント
●新しい光(新たな元号に即して新規事業に取り組む)=電設業社長
●変化を楽しむ(厳しいときこそトップの笑顔が社員を鼓舞する)=建設機材中堅企業メーカ社長
●考動(88才だからこそ素直に動く)=衣料品卸社長
●変化に柔軟なもう一歩の対応(顧客にために先手の施し)=漬け物製造経営者
●電気工事士資格取得(工場現場管理力向上)=部品メーカ取締役
●笑顔(幸せマンとしての活躍)=茶菓製造販売店主
●直行(直ぐ行動する)=詩吟教室主宰
●念ずれば叶う(信念を貫く)=リフオーム経営・2020東京五輪おもてなし隊長……
以下略。
そして
選挙の年、●心(4期目選挙に感謝の心)=県会議員、●礼智(適正な判断のもと)=市議会議員、●正直に腹を立てずに、たゆまず(市民の真なる要望対応)=市議会議員、が続く。
業種における取り巻く環境条件、規模、歴史は様々だが、元号が変わる亥年(真っ直ぐ進むだからこそ、現状から一段と成長に向けての想いの発信である。そこには、重ねて来た確かな実績と、昨年の想いの未達の反省、そして、新たな時代に向けての先を読んでの判断がある。
プレゼンテーションする姿は、真摯な態度に、秘めたる明朗さが清々しい。
◆「決断する」それは想いを実現するスタートである
小生は「決断する」と発表した。
なぜか?
元号が変わる、それは新時代の到来ともいえる。ならば、変える実践なくして新たな対応を成すことはできない。
変えるとは改革する、即ち、改革の改は改善レベルで部分を変える。
革とは革新であり、発想の転換に基づく大きく変えることである。
いずれにしても変えることは自身との闘いである。それは自信と誇りを持って成してきた方法を否定、あるいは壊して、新たな智恵力を生かした活動に切り換える覚悟であり、そこには程度の差あれリスクが伴う。
だからこそ、躊躇もあるし、不安もある。「ああしてこうして計画満点実行せぬが玉のキズ」という言葉がある。それは、こうしようと決めてもいざ実践する決断ができずの弱さを戒めた言葉である。
よく耳にするような、机上のプランに過ぎない、議して決せず、決して行わずの議事録にすぎない衆議だったり、「やろうと思っていたんですが、つい、つい」と後悔の言い訳ネタだったりする。「別に無理することはない」「まっ、急ぐことない」等は論外だ。
なぜそうなるのだろうか、それは決断することによる新たな実践により、どんなことが起こりうるかと考えたときに襲う反対、失敗への怖さである。たとえ「案ずることより産むが易し」(事前にあれこれ心配するよりも、やってみると案外容易いこと)と分かっていてもである。
要は「きっぱり決める」勇気不足なのだ。時として「背中を押してくれたお陰です」とは不足部分を他力により補い得た結果である。
◆決断の勇気は正しい判断に基づく
そこで、決断に踏み切る勇気は、正しい判断に基づく軸をしっかり持っていることだ。最近の話題から確認してみよう。
その一つは皇居参賀における陛下の裁量である。参賀者数が154,800人。元号が変わる今年、現天皇の最後のお出ましだ。感謝の心を届けたいとの被災地の人も多いことなど例年にない参賀者数となった。従って、予定のお出まし終了時には入場できない人が大勢溢れた。
この状況を知って、すぐさま2回の追加のお出ましを決断、実行されたことだ。まさに「国民に寄り添っての……」象徴としてのお考えに基づく判断での厚慮であろう。
この決断による喜びと、感謝の心が多く寄せられた。実は、小生も154,800人の一人であった。
「1/2は参賀に行く」と35年間継続してきた自分の生き方としての約束ごとの実践だ。
今年は諸条件を検討し、自宅を6:00に出立、前記の学び仲間と落ち合い会場へと向かった。例年よりも相当早い時間対応の決断だ。功を奏して一回目のお出ましに対応でき感動を得た。
もう一つは、「霊長類最強女子」の愛称で活躍してきた吉田沙保里さんの引退だ。
「33年間の選手としてやり抜いてきたことの区切りをつける決断をいたしました」
と真摯な表情での会見だ。
伊調選手が東京五輪の挑戦を明言したときにも「自分は自分と教わってきた。だから心は動かなかった」と述べていた。軸をしっかり持っての判断だからこそ自身の正論としての決断と言える。もちろん、若い選手の成長を見定め、若い選手へのバトンタッチの最適なときとみたこともあろう。
また、TVドラマでも『まんぷく』での萬平氏の厳しい状況におけるときの言葉は「世の中のために何かしたい」。
『下町ロケット』佃社長は無人農機具開発に向けて窮地に陥っても「日本の農業を残したい」と成すべきことの軸のぶれはない。
その結実は試行錯誤の重ねであるがやがては好転して成功を生む。「ドラマだからですよ」–それはそれでよい。大事なことは学びの姿勢如何である。
◆新たな時代その対応の軸は経営理念にあり
企業活動や諸処の組織活動での、判断の軸は何か、それは経営理念(社是、社訓)である。経営者が抱く想い、創業精神、ミッションなど言葉は様々であっても、「なんのために当社は存在するか」「なんのために、何をどうする」の志、覚悟である。
指導陣として関わる創業塾でも塾生に説くのはこのことである。この志を起点に経営計画書で実現の諸事項をまとめ上げる。作成過程の記入事項の善し悪しは「なんのために」の志との整合性がどうかが判断基準となることは言うまでもない。
明日から洋菓子製造販売S社の研修が始まる。今回の研修の軸は経営理念の確認である。
S社は創業70周年、評判の良い商品力と好感度高い販売接客で評価が高い。元号が変わる今年を当社にとっての新しい時代と位置づけ、昨年はその準備の年として取り組んできた。ちなみに平成元年に出された新商品は、現在でも主要商品であり人気商品である。
S社の理念は誓として表現され「私達は、”愛と信頼“を精神とし夢と感動の世界を創造します」とし4項目の具体的誓いの言葉が掲げられている。そして、創業者からの言葉としての「正直に親切に」をキーワードして実践を重ねてきている。「正直に」この言葉に注目してみよう。
昨今の企業の不祥事、官公庁の不祥事はなぜ起こるのだろうか。コンプライアンス、規程、ルール……等徹底していますとの外向け喧伝は多いものの、いざ実践すべき段階では私利私欲、組織常識による判断が優先されている。
また、グローバル化、価値観の多様化、個性を生かすとの言葉も多い。そこから起こりうる状態に、自分ファースト、モラールハザートが横行することがある。とすればそれは混乱を招き、秩序ある組識力にはなるまい。
立ち位置による職責をまっとうする上での正しい判断、それは理念に叶っているか如何である。新しい節目のときだからこそ原点を確認することが重要である。全社一丸となってとはこの点をないがしろにしては成り立つまい。
S社社員の活躍はおもてなしの心で製造ラインでは次工程を想い、管理部門では関わる部署への役立ちを想い、販売では顧客様の言動での感謝心を生かしての活躍を成している。そこには自分、自部署にとらわれることなく担当間の融合であり、全社最適での顧客様への喜びの創造がある。
◆迷いは断捨離の応用がよい
しかしながら判断に迷うこともある。将棋の一手でも、キャリアを積めば積むほど、迷いが起こるともいわれる。それは多くの読み、多くの手の打ち方が考えられる凄さであろう。
判断対象とする思考、提案はそれだけ自分にとってどれも捨てがたい智恵なのだ。それは、ここまでの経験則、蓄積した知識、収集した情報、更に加味する予知・予見による想定事項も駆使して産み出した構想だからである。
もちろん、変化に伴う新たな内容をインプットしての新提案だ。だからこそ自信もあるし、是非成果を鼓舞したい欲求の賜でもある。それが判断の選択肢であり、しかも多数だから迷いが生じるのである。ならばどうする。
それは片付けの極意としての断捨離の考えを応用するのも一案だ。即ち、あれもこれもへの執着心を捨てて、スッキリとしたご機嫌な状態にすることだ。
具体的には「断」は先読みによるいらぬ心配性を断つことであり、「捨」は優先順位(重要性、緊急性)をつけ、低い事項は思い切って捨てることである。そして、「離」は捨てがたい執着から離れることである。
これでスッキリ整理できたならば、軸に準じて善し悪しの判断もスムーズに施せ、成すべき事項の決めにも着手できる。
正しい判断に基づく決定事項は「よし、やるぞ!」との実践決断へ勇気を助長する。それは関わる人に成すべき想いを発信したときの反応に自信が持てるからだ。
なぜなら、目指す方向性の一致だからこそ、共に協力しあう意向での受け止め方が期待できる。たとえ意外性のある提案であってもだ。だからこそ、こちらからの勇気を持っての提案に理解→納得→共感→協力への意思決定を得られる見通しがつくものだ。
変化対応していく組織活動にはこの風土がなくては、出る杭は打たれる、前例踏襲の言葉がはびこり”新”なる発芽はありますまい。
◆新しい時代「人」の力を生かす
新時代の形容の一つにIT、AI分野の進化がある。情報の多様化、スピード化の技術開発が進み、自動化、無人化と人的労働分野を肩代わりしてくる。まさに、情報収集、その範囲での判断、そして動きへのゴーサインを成すことは、人よりも勝ることもあり得るだろう。
しかし、「なんのためにどうする」との開発目的を決め、その機能のシステム化を製作するのは人である。ましてや刻々と変わる現実、先への想定に基づく新たな条件を組み込み、判断し、決断するのは人である。変化対応に即した進化は人の想いと考える力で実現する。さらに、いざというときの活用のOK・NOを決断するのは人である。
「企業は人なり」改めて、人材育成の重要さを説く企業が多い。人を育て、十分に生かす。それは“新”を産み出す想いを、正しい判断に基づき、実践への決断と具体的実現に向けた改革する智恵の活用である。倫理観に基づく人、企業・諸団体の組織活動の原点を確認しての育成は「まさか……」の事態は起こすまい。
5月1日により、現天皇のご決断による退位により、新しい元号となる。新しい時代の幕開けの年と称される今年である。
そこで、年初の事始めから掴み出した新たな時代対応に向けて「変える上での期すべき一端」を記してきた。読者諸氏の新たな想い、決断によるご発展にエールをお送り今稿とする。
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東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/