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「部下力が生きる問題解決集団を育てる」(澤田良雄)

鬚講師の研修日誌(46)
「部下力が生きる問題解決集団を育てる」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役) 

◆煎餅本舗に学ぶ

現状維持は退歩なり。これは現在が他より勝っていても取り巻く変化対応が不足不備ならやがて追い抜かれるとのを意味合いだ。

だからこそ弛まぬ改革が欠かせない。
改革とは変えることであり「改」は改善レベルでの変えであり、社員の改善提案や、小集団活動がその実践主体である。「革」は革新であるから思い切って変えるレベルで、例えば、諸処の戦略、プロジェクト、研究開発等があり、短期のみでなく中長期での取組みもある。
従って、大所での革新を、その具体的実現には社員力による変えるパワーを高め、変えた事実を累積していかねばならない。
一例を紹介しよう。

煎餅の名産地S市は、最盛時には150店がひしめいていた。しかし、現在は50店ほどである。そ内の1社であるY本舗のK会長の対応策をお聴きした。

開口一番に話されたのが、「厳しい環境になり、変えたことは何か、それは、トップ自身が思い切って変えたことがあります」。何かと言えば、「社員からのアイデアを生かすことです」とのことであった。

ここから生まれた新商品は、煎餅に「感謝」「ありがとうございます」「おめでとうございます」と焼き文字を入れたこと。手土産品としてお買い求めいただく目的に合わせて言葉のお品を選んでいただき一箱に何枚かお入れする。煎餅の色も茶色だけではなく白、ピンクの砂糖利用で表皮を施した。

また、若い女性用にと、直径5cmの大きさに焼き上げ、一枚ずつデザインを凝らした袋入れにした。バッグに入れて、小さく口を開けて食べられ、短時間で大好きな煎餅を賞味できる楽しみへの創造である。
更に、破損した商品を粉末にし、ホワイトチョコレートを混合して、チョコレート煎餅として売り出した
。いずれも好評を得て生き残りの原動力になったという。

K会長曰く「それまでは、トップの言うとおりやれ」とのトップダウンの組織活動だった。それをボトムアップ形式に思い切って切り換えたことが良かった。トップにとっては大変な意識改革ですよ」。

その通り、上変わらずして、下変えられず、これが組織活動の大方の実態といえよう。なぜなら部下には提案、意見具申ができても決定権がない。従って、決定する人の価値観、判断の有り様によって、社員力の活用範囲は決められてしまう。「勝手なことばっかり言って」との愚痴りがそもそもその元凶である。

Y本舗を訪問してみると、製造部部門社員の挨拶が良いし、笑顔の対話がいい。販売員の動き、応対も丁寧さと気配りの施しについで買い物を楽しませてくれる。勿論、職人の魅せる手焼きコーナーでの焼きたて煎餅のほおばりも楽しめる。
変化対応に温故創新(重ねて来た強味の活用と、新たな創造)での強味づくりである。

企業はトップの器以上に大きくならない。成功体験による固定観念をいかに壊し、下位者の異見を受容し、生かし得る度量如何が変化に対応していく元である。

◆問題解決集団の足元を固める

とすると、変化のスピードが早い時代に、創造性の乏しい集団では、先への強さ作りと小回りの効く即応はできない。ならばどうする。その対策には、部下力を生かし、常に創造性を高めた問題解決型集団を創り上げていくことである。

ここでは、管理・監督者として自職場の手の打ち方を7ポイントに絞り込んでみる。

①守りの臆病風を取り払う環境作り
創造とは、未知への挑戦である。これには、大なり小なりリスクを伴うこともある。とすると創造を阻むモノは、このリスクを恐れる「臆病風」である。このリスクを極力減らす工夫をしながら、個別・集団の創造性を引き出して行くこと。上長が保守的、単なる守りだけでは、すべてが現状維持になり、新たな変化を好む部下力は生かせない。時には部下の尖った異見をどう生かすかの判断もある。

②切迫感が積極思考を駆り立てる
火事場のばか力といわれることがある。どうしてもやらねばと思う切迫感が積極的思考と一層の結束力を築く。これこそ集団力の凄さである。そのための働きかけは、

・責任感を強める=責任範囲を明確に決め、一切の責任転嫁を防ぐ。これをやらねば他のメンバー・部署・お客様が困る、グループの責任が果たせないとの緊迫感を高める等の働き換えがある。必死なあえぎから創意は生まれる。

・トラブル時を生かす=仕事には失敗もあるし、思わぬトラブルも発生する。この場合、早急に臨機応変に適切な処置が求められる。だからこそ、機に臨めば「危地」から逃れる方法を考えねばならない。この切迫感が、創意を出させる。ならば、本人にあるいはグループに当事者意識を持たせ、このトラブル解決を預けてみよう。

新人の半年後のフローアップ研修で出される喜びの事例に多い事実は、失敗したときの「悔しさ」「先輩、職場に迷惑かけた」、この強い自省が、再び失敗はしまい、そのために「何をどうするか」を考え、新たな努力を課したとの発表だ。

努力とは新たな方法を考え出すことであり、新な苦労を本気で実践することである。その努力の結実が上長のからの褒め、認めとして施されたときに喜びとなり自信を重ねる。この成功体験を紹介する表情は頼もしく美しい。ぜひとも成功体験を累積させる働きかけを成すべきである。失敗は失敗で終わりにするから失敗なのだ。失敗は成功の元。失敗は次なる良き工夫をもたらす宝である。

③情報・データを正しく、報らせ、生かす
「厳しい」「ダメじゃないか」といくらハッパ掛けの言葉を発しても説得力はない。必要な情報・データを部下に進んで知らせ、会社・職場の動きに自分の働きが常に絡んでいる一体感を持たせる。そこから改革・改善を職場・グループぐるみで進める意欲が高まる。

一方部下からも、情報・データ・提案が良し悪しにかかわらずスピ―デイーに集まる仕組みと活用が肝腎である。悪きデータであるならばそのままの報告が絶対条件である。現在は「見える化」により、共有化されることも多い。事実に基づく、上司としての見解、これからの方向性を発信することは言うまでもない。

④実態の把握は生かすこと
現場、現実、現物によるファクト(事実)に基づく解決が絶対条件である。実態はつかむだけでは意味がない。そこから何を引き出し、次に向けてどう生かすかが問われる。その方法はいろいろ考えられるが、次の6点を確認してみよう。

・データは取ることが目的でない。データにできるだけ多く語らせる、読み取る
・職場の伸ばすべき点、改善点を見つけてはっきりさせる
・とかく多い、慣れから意外と見過ごしやすい傾向を実態から戒める
・部下の異見に素直に反応し、改革・改善に組み込む機会とする
・これまでの改革・改善が現状どのように継続され、期待効果に結びついているか検証してみる
・実態に元づくリスクに気づいたならば本気で発信し、本気で解決にあたる

昨今の児童虐待死亡事件、企業、官公庁等の不祥事でも関わる人へのこの切り口からの課題もある

⑤関係職場との融合・協力関係を創る
システムや技術の著しい変化に対応していくためにも、他部門との協力関係・交流は不可欠である。相互に診断し合うことを通して新たな課題を発掘して事前対策的解決もできる。

また、見方を変えた気づき合いは新たな発想を生む。全社最適、全体最適と評する企業もある。最適、最高の人脈によるネットワークはスピードと質の高さを生み出す。

⑥次の7つの要件にはまる思考を排除する。
元気ある職場が変化に対応して、クリエーティブな活性化集団へと発展していくのは部下・メンバーの意識がどれだけ高いかである。

若手・中堅社員研修で説いているのは次の7点の排除である。それは更なる自信と活躍の喜びの享受は、新たな想い、目標を創り、達成に向けた問題解決による成功体験なくして実現しないからだ。また、集団の一員として貢献した所属集団が、企業の歴史に足跡を残すことは互いの人生の素晴らしい財産になることの動機付けである。

・独りよがり……自分のやり方が一番いいと思い込んでいる蛸壺意識
・無感覚・・・馴れてしまって、特に問題感覚がない惰性意識
・無気力……余計なことはやめておこうとの怠惰意識
・諦め……自分がやってもどうにもならないという可能性放棄意識
・能力不足……知識・技術・智恵不足の成長放棄
・利己主義……自分さえ良ければ良いという自己中心意識
・依存心……「自分がやらなくても誰かがやるだろう」と考えている横着意識
である。
ぜひ、指導支援を強化することの必要がある。

⑦問題解決能力の磨き
そして、育成すべき能力向上に着目すると、問題解決ストーリー併せて捉えて観れば次の8点となる。

・感知力=問題に気づく力
・問題の認識力=問題意識の形成力気づいた問題を分析し、自分の問題と認識する力
・情報収集力=関連する情報を集めていく力
・問題の構造化=それらのばらばらの異質な情報を組み立てる力
・核心探求力=問題の真の核心をえぐり出す力
・創造力=その核心にメスを入れ解決の方策を生み出す力
・意思決定力=諸策を評価、選択し、決定していく力
・実践継続力=解決は実践せずして現実にはならない。決定した対策はPDCAサイクルを螺旋上昇型に回して改善を実践する。継続は智(新たな智恵)加(加える)螺(ら=殻が渦巻き状になっている貝)成り(成功)である

部下は上司の器以上に育たない。自らの研鑽による指導力を遺憾なく発揮しての育成を楽しむことである。

◆「新」「初」「独」「珍」のキーワードを実現する問題

「仕事とは新たな価値の創造活動である。そこに自身の真の存在がある」とは研修時に説く言葉である。誰がやっても同じでは、それは機械にすぎない。ましてや前例踏襲では、担当期間の新たな実績の足跡は残せまい。だからこそ、挑戦的目標を決めて、目標と現実のギャップをどう埋めていくかを考える。

それは現状維持をする上でのトラブルをどうするか、というような後追い処理の解決ではなく、例え、現状がベストでもどう変えることによる新たなベストを創造していくかの勢いである。

そこから生み出されるキーワードは「新」=新しい、「初」=初めて、「独」=独自、「珍」=珍しいとの創造である。事例個々のレベルはあろうが関わることでの実績は部下力を高めるキャリアップであり、その評価は正に部下の働く喜びである。

改めて「みる」3つの漢字を当てはめ問題の特性を確認し、取り組むべき問題の示唆とする。

①「見る」発生型の問題
まずいことが発生してから困ったという種類の問題。未熟者が起こしやすいケースでそれは目に見えなければ気がつかない「見える問題」にほかならない。ちなみに発生型問題には次の二通りに分類される。
●未達問題……あらかじめ設定された目標への未達状態
●逸脱問題……基準・予定等からのズレ更にはコンプラインスの不備による不祥事である。

いずれにしての後追いの解決に追われ生産性のない仕事に追われる。正に「忙」=(心)亡(無き)忙しさである。

②「観る」探求型の問題
現在特に問題が発生しているわけではないが、「気になる」段階での先手の対応処理である。現実には、「見えない問題」であり、先を予測する、傾向を捉えてみる、データを分析してみるなどして、問題が発生しないよう先手を打つために掴むだす問題である。そこには危険予知、現状を疑ってみる、何か気になることはないかと探してみる等の活動がある。

加えてもっと良くする方法はないか、もっと数値を挙げることができないかの目線もある。そこには、あえて施す改善、強化のための問題解決が潜んでいる。

③「診る」設定型の問題
単なる一事例だけでなく、総合的に捉えて設定する問題を意味づける。そこには現目標に向けて、予測による条件も含め、現状の診断による新たな状態を創りだすために解決する創る問題である。
幹部・管理者研修の演習で施すSWOT法を活用するのもその一例である。

ちなみにS=当社(職場)の強味,W=弱み、O=予測される脅威、T=機会の4点に着目して、強みを更に強め、弱みをどう改善するかを浮き彫りにする。現在を広く眺め、今からどこをどう、さらに変えなければならないかに取り組む解決活動である。従って「変化を先取りする問題」といえる。「想定外でした」とはこの点での不足を表した言葉である。

「うちの職場は問題がありません」との言葉は①であり、この種の問題があるとすればそれは怠慢に他ならない。なぜなら現状維持には、マニュアル、標準書、決め事で最高安全、最高品質、最高効率を生み出す条件を整えているからである。

◆個性を生かした働く喜びが部下力を高める

意図とした示唆の②③の問題解決に取り組む管理・監督者の部下力を生かす職場作りの意義をここでストーリー化してみると、

① 企業の理念、戦略の共有化による努力の方向性の一致による
② 新たな目標提示と、迅速なる柔軟な動きのある先取りの問題解決は
③ 心の通った上下の信用・信頼感を礎に、部下力を引き出し
④ 当事者意識による専門分野の相互支援を積極的に育成し
⑤ 建設的提案の発信と知恵の結集に生かし
⑥ 他社、他所に先駆けた新、初、独、珍の一歩先んじた強味を創造する。このことは
⑦ 人だからこその「考える凄さ」を最大に生かすことである。その為の環境の整えは
⑧ 部下自身が、持ち味を生かした個性を発揮しての働く喜びの実現がある
ということである。

部下の価値観の多様化とは、それだけ異なった特性を持った個々の力を引き出し、三人寄れば文殊の智恵を生み出す集団力作りを楽しむことである。

元号が変わる新たな時代、働き方改革、新年度の春も近い、新人の入社もある。この時期だからこそ、変える環境作りの足元を固めについて記してきた。そして、「人」だからこそできる強味作りの具体的実現の問題解決に着目してきた。こんな言葉が目についた。

◎できる、できないの決め手は:できない理由を探すと「できない」になる。できる理由を探すと「できる」になる。できない理由は始める前に見つかるもの、できる理由は始めた後で見つけるもの。

◎他人を見る目:自分が楽をしようとすると他人が羨ましく思う。自分が成長しようとすると他人は手本に見える。

「忙」=(心)を亡(なくす)、忙しさは可能な限り減少させ、感じる、想う、知恵を生み出すこの人的パワーをより生かす新たな時代での取組みを全社員で楽しみたいものである。

 

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◇澤田良雄氏

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/