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『老後の誤算 日本とドイツ』(川口マーン惠美著: 書評 小島正憲)

【小島正憲の「読後雑感」】

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『老後の誤算 日本とドイツ』 
 川口マーン惠美  
 草思社  2018年11月22日
 帯の言葉 : 「じつは格差がひどいドイツ もはや崩壊寸前の日本」

川口氏の本書は、日本とドイツの医療や介護状況の比較である。
本書から、ドイツでも日本でも、高齢者問題は極めて難しく、それを理想的に解決している国はない、つまりお手本はないということが理解できる。

川口氏は「あとがき」で、
「日本の医療の皆保険制度こそ世界に誇れるものだと思っている」
「(日本の)医療保険がここまで焦げ付いている今、医療は、治療の効果の出る人を優先すべきだし、また、高齢者は1割、2割と言わず,支払い能力に応じて、若い人の分まで負担すべきではないか。そして、同時に、不要な医者通いも厳重に制限する。そのためには、無駄な診療や投薬では、医者に儲けが出ないシステムを作ることが必須だろう。超高齢社会の運営には、魔法のような解決策はない。ただ、日本はかつて、貧しい中で平等な医療保険制度を作り上げ、今もなお高い医療水準を保っている。こんな奇跡のような事績を成し遂げたことを思えば,今後、本が編み出す高齢化対策が、世界のお手本になっていく可能性はあるかもしれない」
と書いている。
私も同感である。

さらに川口氏は、
「(私は)万が一、大災害が起こり、陸の孤島に取り残され、順々にヘリコプターで脱出するような事態に遭遇したら、“老人は後回しで結構です”と言いたいと思う。国土の復興に役立つのは,老人ではなく若い人だ」
と毅然として書き、
「今、私たちに必要なのは発想の転換かもしれない」
と書いている。
私も川口氏の考えに大賛成である。

川口氏は、
「一番大事なのは、いかにすれば日本人の気質に合った、持続可能な日本モデルを作れるかということだ。日本人の気質とは何かと言うことが、自ずと問われてくる。それはおそらく個人主義ではないだろう」
「少しずつ譲り合いながら利用する、質素で柔軟な、寄り合い所帯風の介護施設を作ればよいのではないか。そうすれば、誰も寂しくないし、採算も採れる。北欧モデルというのは、極端なモデルだ。遠い外国の極端なモデルを羨ましがる必要は何もない」
と言い、
「ノルウェーとフィンランドでは、一部、医療保険からも支払われているが、やはりほとんどが税金。つまり、医療や介護に関しては私立病院や私企業には任せず、公的機関が手綱を握るというのが、北欧モデルといえそうだ。ただ、当然のことながら、これらの国では税金が非常に高い。デンマークの消費税は25%だし、ある程度の所得があれば、その半分ほどが所得税として徴収される。さらに他の社会保険料もあるので、最終的に収入の7割ぐらいは国に持っていかれる計算だ。つまり、単純に医療費が無料とか安いというわけではない。病気になろうがなるまいが、医療費の原資を税金として予めしっかり納めていると考えるのが正しい」
と書いている。

川口氏は、
「外国にある老人ホームといのは、主にポーランド、チェコにあるドイツ人のための私立のホームで、わりと贅沢なものでもドイツと比べると料金がひどく安い。ドイツとは経済格差があるからだ。これら老人ホームは、たいていドイツ国境からすぐの立地となっている。どのホームもドイツ語が通じるというのが売り物だが、ポーランドやチェコのドイツ国境付近というのは、美しいが本当に何もない。歳をとって、見ず知らずの土地で、外国人に囲まれるのは、いくら自然環境が素晴らしくても、かなり寂しいのではないかと思う」
と書いている。

この個所を読んで私は、
「ドイツではすでに、海外老人ホームが具現化されており、高齢者輸出大作戦が実行されている」
ことを知り、「我が意を得たり」という気持ちになった。近いうちに、ここを見学したいと思っている。

ただし川口氏の
「歳をとって、見ず知らずの土地で、外国人に囲まれるのは、いくら自然環境が素晴らしくても、かなり寂しいのではないかと思う」
という感想については、そこにこそ、「発想の転換が必要だ」と思う。

なお川口氏の、
「ドイツでは、子どもには親の介護費を支払う義務がある、と法律で決められている。たとえ、親と縁が切れていても、その義務は免除されない」
「(ドイツでは)高齢者本人や家族が頑張って、なるべく訪問介護サービスを受けなければ、なにがしかの現金が返ってくる。だから、これが、サービスを受けるのを少なくしようというインセンティブになる」
「(日本では)サービスを受けず、家族が頑張っても、自己負担金が節約できるだけで、たいしたお得感はない。介護保険を払っているのだから、その分、サービスを受けなければ損だという気が働きやすい」
と書いている。

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清話会 評者: 小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )
1947年生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化 市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を経ながら現職。中国政府 外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。